Ob-La-Di Oblako 文庫

帝国日本の侵掠戦争と植民地支配、人権蹂躙を記憶し、再現を許さないために、ひたすら文書資料を書き取る。姉妹ブログ「歴史を忘れる民族に未来はない!」https://obladioblako.hateblo.jp/ のデータ·ベースを兼ねる。

これだけ読めば戦は勝てる 1941 より

部外秘

これだけ読めば
    戦は勝てる

 

一、本冊は作戦軍将兵全員に南方作戦の目的、特質等を徹底させる目的で作ったものであって、特に着意した点は次の通りである。

1.  武力戦、思想戦、経済戦の内容を一まとめにしたこと

2.  作戦要務令にある原則は省略し、熱地作戦の特質のみを摘記したこと

3.「熱地作戦の参考」中、兵に直接必要な事項を抽出したこと

4.  暑くて狭苦しい船の中で肩が凝らずに短時間に読めること

5.  下士官・兵にでも十分理解出来るように平易に書いたこと

二、本冊は既往の諸資料を綜合し、各方面の意見を徴し、また研究・演習の成果を取り入れた結論である。 乗船直後、将兵全員に配付する目的をもって起案したものである。

               大本営陸軍部

https://www.jacar.archives.go.jp/das/image/C14110549200

 

   一、南方作戦地方とはどんな所か

 1. 英、米、仏、蘭等の白人が侵略した東洋の宝庫である

 山田長政が暹羅(今の泰国)に渡って大いに活躍したのは、今から三百年前であったが、その後、徳川幕府鎖国政策を取って、明治に至るまで日本人の海外発展を阻止した間に、英吉利、仏蘭西、米国、和蘭ポルトガル等がわが物顔に東洋に乗り出して、文化の遅れた土人を脅迫·駆逐して、東洋諸国を植民地にしたのである。印度や馬来半島が英国に、安南が仏国に、ジャバ、スマトラ等が和蘭に、比律賓が米国に取られて、東洋で最も物資の豊富なこれらの国々がわずかばかりの白色人種に侵略せられ、数億の東洋民族が数百年の永い間、搾り取られ、虐め抜かれて今日に至ったのである。
 われわれ日本人が有難い国に生まれ合わせて、 天皇陛下の御稜威の御蔭で今日まで一度も外国の侵略を受けずに来たことに対し、東洋の他の民族は非常に日本を羨しがり、日本人を信頼し、尊敬し、日本人によって独立と幸福を受けられることを心から望んでいるのである。

 2. 一億の東洋民族が三十万の白人に虐げられている

 三億三千万の印度人がわずかに五十万の英国人に支配せられ、六千万の蘭印は二十万の和蘭人に、二千三百万の仏印は二万余りの仏人に、六百万の英領馬来は数万の英人に、一千三百万の比律賓は数万の米人に支配せられている。これらを総計すると、約四億五千万の東洋民族がわずかに八十万足らずの白人に支配せられて居る。今、印度を除き、仏印、馬来、蘭印、比律賓だけについて見ると、約一億の東洋民族が三十万足らずの白人に虐げられているのである。一歩敵地に上陸してみると、白人がいかに土民を圧迫しているかが明瞭であろう。堂々たる立派な建物が山の上や丘の上から小さな草葺きの土民の家を見下ろしている。東洋民族の膏血を搾った金はこれら少数の白人どもの贅沢な生活に費され、またその本国に持ち去られている。
 これらの白人は母親から産れ出ると同時に数十人の東洋民族を奴隷に持つ勘定になる。これは果して神様の御心であろうか。
 絶対多数の東洋民族が少数の白人共にこんなにまで征服された原因は、同族相互の争いによつて力を消耗したことと、東洋人の東洋たる自覚を欠いたことが根本原因である。

 3. 石油、ゴム、錫などの世界的産地である

 石油がなくては飛行機も軍艦も自動車も動くことができない。英・米は世界石油の大半を占領し、消費に困っていながら、最も足らない日本に輸出するを禁じたばかりでなく、南洋から日本が買うことさえも妨害している。
 ゴムや錫もまた軍事上なくてはならぬものであるが、これらの貴重な物資は東洋では南洋諸島が一番豊富である。わが国が常に正常な方法でこれらの物資を買おうとしても、これさえも邪魔してきた英・米の悪意が、今度の作戦を起こさなければならなくなった一つの原因でもある。蘭印や仏印は単独では日本に反抗できないことは明瞭であるが、英・米の支援と脅迫で日本に敵意を示しているのである。石油と鉄の足りないことは日本の弱点であるが、ゴム、錫、タングステンの足りないのは米国の最大弱点であって、これらは大部分 南洋および南支から米国に供給されている。これを押さえたならば、日本は足りない石油や鉄を得ることができるのみでなく、米国の一番痛い所を突くことになる。米国が日本の南方進出を極端に厭い、かつ妨害してきた魂胆はここにも在るのである。

 4. 常夏の国である

 作戦地方は四季の区別なく一年中、日本の真夏の暑さが続くものと考えたらよい。であるから常夏の国という。朝、太陽が出ると間もなく暑くなり、正午前後に一番暑くなって、夕方まで暑さが続く。季節風は所によって異なるが、五月から九月までは西南の風で、十一月から三月までは東北の風が多く、午後から夜にかけて雷鳴、豪雨が来る。日本の夕立とは段が違ふほどの強烈な雨で、スコールと呼ばれている。このスコールは暑さを洗い流してくれる有難い雨であるが、道を壊し橋を流し軍隊の行動を妨害することもすくなくはない。
 又、湿気が多いから火薬が湿り、銃や弾薬は錆び、眼鏡は曇り、電池はぢきに放電する。
 年中、バナナやパイナップル等の果物はあるが、厄介なマラリヤ到る所に敵意を持って居る。ジャバ、シンガポールあたりでは開けて居るから自動車道が四通発達して居るが、未開の土地も多く、人も馬も通れぬ密林や湿地も尠くない。
 右の如く湿度は高いが住み心地は決して悪くない。海に近く風があるからである。だからこそ多くの白人が移住したのである。

https://www.jacar.archives.go.jp/das/image/C14110549400

二、なぜ戦わねばならぬか、またいかに戦うべきか

1. 東洋平和の大御心を体して

 明治維新廃藩置県で日本を天皇陛下御親政の昔に還し、浦賀や長崎に来た黒船があわよくば日本を併呑しようとした危うい国難を切り抜けたのであったが、昭和維新は東洋平和の大御心を体し、亜細亜を白人の侵略から救い亜細亜人の亜細亜に還し、先ず亜細亜の平和を次いで世界の平和を確立せねばならぬ。
 蒋介石を助けて日本と戦わせて来た黒幕は英・米である。彼らは日本の興隆を目の上の瘤として、あらゆる手段で日本の発展を妨害し、重慶支援や仏印・蘭印等をそそのかして日本に敵対させようとしている。彼らの希望するところは亜細亜民族の相克消耗であり、彼らの恐れるところは亜細亜民族が日本の力で独立を図ることである。世界人口の大半を占める亜細亜民族が団結して立つことは、数百年間亜まわまて細亜人の血を吸って肥ってきた英・米・仏・蘭人どもにとっては何よりの痛手である。
 日本は東洋の先覚として満洲ソ連の野望より救い出し、支那英米の搾取より解放し、次いで泰国[タイ]や安南[ベトナム]人、比律賓[フィリピン]人らの独立を助け、南洋土人や印度人の幸福をもたらしてやる大使命を与えられている。八紘一宇の精神はすなわちこれである。
 今度の戦争の目的とするところは、世界の各民族をして各々その所を得しめることを理想とし給う陛下の大御心を先ず東洋において実現するため、東洋の各国が軍事的に同盟し、経済的には共存・互恵の原則で有無相通じ、相互に他の政治的独立を尊重しつつ東亜の大同団結を図り、その総合力によって東亜を白人の圧迫支配から解放するに在るのである。
 今次事変の意義が上述のように極めて大きいのであるから、その中心としし指導者として立つ日本の受ける国難は肇国以来のものである。南洋の諸民族はみな我々日本人を心から尊敬しまた期待しているのであるから、我々はこの尊敬とこの期待を裏切らないようにすることが何より大切である。
 これがため特に注意しなければならないことは次の通りである。

2. 土人を可愛がれ しかし過大な期待はかけられぬ

 わずかに三十万足らずの白人に奴隷扱いされてきた一億の土人は、目玉の色も肌の色も我々によく似ている。世界の宝庫である土地を故郷として神様から貰って生まれたはずの土人が何の因果で白人どもに圧迫せられているのかと考えると、誰しも可愛くなってくることだろう。
 地理的に見ても歴史的に見ても土人にとっては英・米・仏・蘭人らは強盗であり、我らは兄弟である。すくなくも親類には違いない。ただ土人の中にも白人の手先になりスパイになって同胞を売り亜細亜を裏切るものもすくなくない。特に高級官吏や軍人の中に多いことを考えて、我に害を及ぼすものは止むなく除かねばならぬが、降参してきたら気持ちよく許してやる雅量がなければならぬ。
 しかし裸で暮らして働かなくても食べられる自然の恩に恵まれた土人はなまけものが多く、また三百年の久しい間 西洋人から抑えられ支那人から搾られてきて、全く去勢された状態にあるから、これをすぐにものにしようとしても余り大きな期待はかけられぬ事を心しなければならぬ。

3. 土人の風俗·習慣を尊重せよ

 土民の大部分は回教を信仰してゐる。仏教徒が仏様を拝み、耶蘇教徒がキリストを拝むやうに、回教徒はメッカ(マホメットの生れた中央亜細亜の古都)の方を伏し拝むのが強い習慣である。又、回教信者は絶対に豚を喰はない。豚は穢れたものとして非常に厭ふ。頭に白い縁のない帽子を被ってゐるものはメッカに参詣した回教信者で、土人の中では尊ばれてゐる人たちである。町や村には礼拝堂があって、どんなに身分の高い人でも必ず靴を脱いで上る習慣があるから、泥靴の侭入っては土人に非常な反感を惹起する原因になる。宗教上の休日は日曜ではなくて金曜である。又、一日の中でも数回メッカの方を拝む為、数十分仕事を休む習慣があり、年の暮には一月の断食をする。(昼は食事を取らず、夜、少量を喰ふ。)
 室内に入ったら帽子を取るのが我々の礼儀であるが、土人は帽子を被るのが礼儀である。又、左手を不浄なものとして非常に嫌う癖がある。用足しでも紙は使はない。左手で局部を拭い水で洗ふから、人に物をやったり人の身体に触れる時に左手を使うことは絶対にしてはならぬ。又、土人は目前の小利を喜ぶが将来の大利は判らない。物を買う時には直ちに支払ひ、無理な事をしないやうに注意しなければならぬ。
 一般に土人土人特有の風俗なり習慣なりを最上のものと思ってゐるのであるから、日本人の親切心で色々オセッカイしても有難がらないのみか、反って反感を抱かせる事になる。親切の押売せず、土人の伝統と習慣とを尊重し、無用の刺激を起さない事が何より大切である。

4. 仇なす仇は挫くとも罪なきものは慈しめ

 英語ができないと上の学校へ入れない、一流のホテルや汽車、汽船では何でも英語を使っている日本の現況は、知らず知らずのうちに西洋人がえらいように考え、支那人や南洋人を軽蔑するようになってきたのである。
 これは天に向かって唾を吐くと同様である。我々日本人が東洋民族として支那人・印度人と同様、長い間 劣等民族の扱いを受けてきたことを記憶し、すくなくも東洋では彼らの傲慢・無礼な態度をたたき直してやらねばならない。
 今度の戦争は、少しも仮借することなく我が正当な要求を貫徹することが必要である。ただ、掠奪したり婦人に戯れたり無抵抗なものを故意に殺傷したりすることは、道義日本の名誉にかけて絶無ならしめることを上下一体の強き戒めとし、陛下の軍人、陛下の軍隊たる矜持を傷つけないようにしなければならない。特に老人や子供や女に対しては寛大に取り扱ってやらねばならぬ。

5. 華僑とは何か

 今から六百五十年ほど前、日本に攻めてきて博多の沖で神風に遭ってほとんど全滅になった蒙古の葱比烈は、その後、今の瓜哇[ジャワ]に遠征したことがある。三万の軍隊を一千艘の船に乗せて瓜哇の東北海岸に上陸し、南洋の珍宝を取るために遠征したのであるが、敵の詭計のため大きな獲物もなく引上げたことがある。この頃から支那人が南洋に渡って丁稚、小僧、苦力からたたきあげて段々金持ちになり、なまけものの土人をごまかし英・米・仏・蘭人らと結託して経済上の力を増し、今では南洋全部で五百万近くまで殖えている。重慶に軍資金を貢いでいるが、大部分は重慶側の宣伝に迷わされ、あるいはテロに脅かされて止むを得ず貢いでいる者が多い。これらに対しては反省の機会を与えて我が方に靡かせるように指導しなければならぬ。ただ注意しなければならないのは、彼らは西洋人の政治家と結んで上手な方法で土人を搾っているから、土人の恨みは大部分華僑が引受けて西洋人は涼しい顔をしていることと、彼らの大部分は民族意識も国家観念もなくただ儲ける以外に道楽はない状態になっていることである。したがって東洋民族としての観念的な自覚を促したり、利益の伴わないことに彼らの協力を期待するのは難しいことと予期しなければならぬ。

6. 強く、正しく、我慢せよ

 従来の戦場の状態から見ても、真に強い軍隊は掠奪したり女をからかったり酔っぱらって喧嘩したりはしない。弾丸の中で逃げ隠れるものに限って大法螺を吹き、弱いものをいじめるものである。一人の不心得は全軍の名誉を傷つけることを考えて身を律しなければならない。掠奪や強姦したため、あたら歴戦の勇士が軍法会議に付せられるような結果になっては何とも申し訳がない。万歳の声に送られて故郷を出発した日の感激を思い浮かべ、朝夕、神詣でし陰膳を据えて祈っていられる親兄弟に、戦場で悪いことをして刑に処せられたということでは、どの面下げて凱旋が出来るか。弾丸に死んだ戦友に対し何として申し訳が出来やう。激戦がすんで滞陣になったり、あるいは弾丸の飛ばない後方勤務に服するものは、特に注意しなければ一生取り返しのつかない失敗を招くことがある。
 すべての武勲もあらゆる苦労も酒色の失敗から消されてしまうようなことにならないやう、戦さに強いものほど身を正しく律し、また不自由や苦しい仕事に対しては、死んだ戦友の心になって我慢し自制しなければならなぬ。

7. 資源と施設とを愛惜確保せよ

 日本が国家の存立に必要な石油は、英・米の悪意で世界のどこからも買えなくなった。南洋の石油を得ることは国家の生存上絶対的必要であるが、敵は易々と我に渡すことはなかろう。必ず各種の破壊手段を講ずることは予期しなければならぬ。飛行機で爆撃したりダイナマイトで爆破したりすることに対しては、敵の破壊に先立ちてこれを占領し厳重に警戒援護するは勿論、石油以外の物資でも出来るだけ多く押さえてこれを現地で利用し、または内地に送ることが必要である。石油抗でも工場でも鉄道でも通信施設でも、一度壊すと元のように直すのは容易でないことを十分考えねばならぬ。また分捕った自動車や兵器を取扱いの知らぬものがいじって壊すことが多い。従来の戦争では敵のものは何でも破壊するか、または焼けばよいように考え、あるいは兵力が足りないのを口実にして焼棄した例が少なくない。敵の資源を壊さずに取り、これを最大限に利用することを徹底的に考えるとともに、一発の弾丸、一滴のガソリンといえども節用して、国力の消耗を少なくすることを終始念頭に置くことが、今度の戦争では特に大切である。

8. 敵は支那軍より強いか

 今度の敵を支那人に比べると、将校は西洋人で、下士官·兵は大部分土人であるから、軍隊の上下の精神的団結は全く零だ。唯、飛行機や戦車や自動車や大砲の数は支那軍より遥かに多いから注意しなければならぬが、旧式のものが多いのみならず、折角の武器を使ふものが弱兵だから役には立たぬ。従って夜襲は彼等の一番恐れる所である。

9. 弾丸に死んでも病に死ぬな

 地上には戦車があり、空中には飛行機、海上には軍艦が活躍し、水中には潜水艦が横行するのは勿論であるが、今度の戦争の特色として更に注意を要することは、目に見えぬ各種の悪病やマラリヤ蚊の大敵が潜伏してゐることである。古来、熱帯地方の戦闘では弾丸で死ぬより病で斃れるものが遥かに多いのは事実である。病気の大半は口より入ることは日本でも熱帯でも同じであるが、南洋ではその上、蚊と蛇とを用心しなければならぬ。弾丸に死ぬのは覚悟の上だが、不摂生·不注意の為、病気や事故で死ぬ事は決して名誉ではない。尚附け加へる事は、土人の女は殆ど全部、花柳病を持ってをり、又、土人の女に戯れる事は土人全部を敵にする結果になる事は十分考へて置かねばならぬ。

https://www.jacar.archives.go.jp/das/image/C14110549500

三、戦争はどういふ経過を辿るか
 
1. 遠洋航海から上陸戦闘へ

 作戦地は何れも台湾から千数百浬離れた南洋にある。汽船に乗って一週間以上、十日も近くかかるところもある。此の遠い海上を数百艘の軍艦や船で渡るのであるが、考へて見れば我等の祖先は既に三百年の昔、御朱印船といふ木造の帆船で此の荒波を征服して貿易し、或は八幡船と称して武力を以て縦横に活躍したのである。連続数日の窮屈な船舶輸送が終ったら、抵抗する敵を海岸で撃破して上陸を強行しなければならぬ。上陸作戦は昔から難しいものと考へられたのであるが、精鋭無比の、日本軍は未だ曾つて上陸作戦の成功しなかった例はない。十分自信を持ち、十分準備を整へて、世界を驚かすやうな戦果を挙げねばならぬ。

2. 陣地や要塞を攻略す

 南洋各地の敵は少数の白人軍隊を中堅とし、土民を強制徴集して急造した粗製濫造の軍隊であって、支那兵より弱いが、戦車や飛行機を相当に持って居る事を考へて、弱敵と雖も侮ってはならぬ。之等は大抵、要点に陣地を占領し、或は要塞に拠って抵抗するであらうから、上陸海岸で敵をたたき潰し、休む暇もなく熱地を行軍し、或は自動車で急進して敵陣地を攻撃しなければならぬ。
 又、敵の準備した火力を避けて不意に乗ずる為には密林地帯(ジャングル地帯)を突破したり、水田、湿地を跋渉する事も屡々起るであらう。

3. 資源を確保し要地を守る

 敵の抵抗を除いた後には石油資源を確保したり、重要工場や港湾や鉄道を警備して、地上、空中、海上の敵に乗ずる隙を与へない様に万全を期さねばならぬ。此の際は少数の兵力で広地域を守備するのが普通であるから、障碍物を造ったり、陣地を築いたり、土民を懐柔·利用したり種々工夫を回らさねばならぬ。

4. 長期の駐留、治安の粛正に任ず

 戦争は恐らく長引く事を覚悟し、長期対陣の諸準備を進め、現地の物資を出来るだけ利用する事を図ると共に、暑さに負けない様、特に病気に罹らぬ注意が何より必要である。

https://www.jacar.archives.go.jp/das/image/C14110549600

九、戦闘

1. 長い船旅も暑い行軍もこの一戦のため

 上陸して敵にぶつかったら親の仇にめぐり合ったと思え。暑い苦しい船の旅や、暑い劇しい行軍も、ただこの敵を破るための道草であった。鬱憤を晴らすのはこの敵だ。徹底的に殲滅しなければ腹の虫が納まらぬ。特に緒戦が大切だ。

2. スコール(猛夕立)と霧と夜とは我らの味方

 西洋人はハイカラで柔弱で臆病であるから、雨と霧と夜の戦さは大嫌いである。特に夜はダンスをするが戦さをするものとは考えておらぬ。我らの乗ずるべき機会はこれだ。

3. 酷熱下の戦闘動作

(イ)汗が目に入る

 射撃の際、照準が難しくなるから、鉄帽の下に鉢巻をして、汗が眼に入らない様、吸ひ取る事が必要である。

(ロ)太陽を背にして

 太陽に向って戦さをすると照準が難しいばかりでなく、敵は我をよく見る事が出来るが、我はよく敵を発見する事が出来ない。昔から名将は太陽を背に負って敵を攻めたものである。攻撃の時期と方向とはよく考えねばならぬ。

(ハ)弾丸は遠く伸び、目標は近く見ゆ

 暑い時は寒い時より空気が希薄であるから、弾丸が遠くに伸びる。太陽の光が強く、物の色がはっきりするから、目標は近くに見誤りや易い。射撃の際、特に注意しなければならぬ。

(ニ)兵器をいたはれ

 火砲も内と外からの熱で砲腔の膨張、駐退及復坐機能の変化を起し易い。発射速度、射撃時間を適当に制限し、点検、手入れを十分にし、又、休む時には成るべく日蔭に入れて可愛がってやらねばならぬ。

4. 逃げる敵の止めを刺すには

 退却する敵を捕捉する際には、敵に先回りして水源地、井戸、泉を押さえることは着眼すべき一つである。

5. 守る時には

 資源を護り鉄道や港を守備するときは、少ない兵力で広い地域を持たねばならぬから、色々工夫して障害物を造ったり、土人を懐柔使用したり、崖や密林や湿地などの地障を利用したりして、我は労せず敵を疲れさすことを考えねばならぬ。また水の準備を十分にするとともに、敵に水を得させないように工夫し、夜間、霧、雨などを特に注意警戒し、敵をして成るべく炎天下・遠距離より我を攻撃させるように着意することが重要である。

https://www.jacar.archives.go.jp/das/image/C14110550200

一〇、ガス防護

1. 防毒面を勝手に離すな

 今度の敵は支那兵と異なってガスを使うかもしれぬ。苦しいからと言って勝手に面を捨てると、まさかの時に間に合わぬ。

2. 装面の行動時間

 炎天下・静止時における装面は連続一時間内外は容易であるが、装面のままの行動または戦闘は一時間以上は無理である。
 完全防護の運動および作業は連続約十五分を限度としなければならぬ。これを超えると著しく体力を消耗するから、回復には特別の注意を払わねばならぬ。装面して行う馬の運動は連続駈歩概ね十五分が限度である。

3. 装面するには

 面をつけるとき汗のため滑ってなかなか難しいから、顎を十分防毒面のなかに挿入し、これを支えとして両手で大きく締め紐を引っ張りながら確実に被る注意が必要である。

4. 防毒面の手入れ

 使った後では乾いた布で十分汗を拭き取って乾かすことが大切である。

5. 吸収缶は湿らぬように

 熱帯地方は湿気が多いから、防毒面の吸収缶は底の栓を十分にし、油紙を確実に付けて湿気を防がねばならぬ。また上陸や渡河の際には水が入らぬように連結管を挟み、特に底の栓を忘れぬな。

6. 防毒被服は裸で着るな

 ゴム製の防気被服を暑いからといって直接裸で着ることは、かえって直射日光の影響を受けるのみならず、ガスの危害を受けやすいから、必ず下着類を着た上で防毒衣を着けなければならぬ。完防の際、暑さを少しでも緩和するには、出来たら防毒衣の上から時々水をかけると良い。

https://www.jacar.archives.go.jp/das/image/C14110550300

一八、結び

 今度の戦は真に皇国の盛衰を賭けた戦である。米国がじわりじわりと真綿で首を締めるように石油や鉄を少しずつ輸出禁止してきたのはどういう腹か。一度に全部止めると日本はやけ糞になって南方へ飛び出すかも知れない。日本に南方のゴムや錫を押さえられては、米国自身が石油や鉄で苦しんでいる日本以上に苦しみに遭わねばならぬ。日本を弱らせながらひどく怒らさないようにしてきたのは今日までの米国であった。
 もう既に時機は遅すぎるくらいで、これ以上我慢していたら日本の飛行機も軍艦も自動車も動かなくなる。支那事変以来もう五年経った。十万人以上の戦友が大陸に骨を曝したが、その戦友を殺した蔣介石の武器は大部分 英・米から売られたものだ。英米は東洋を永久に植民地にするために東洋民族の団結を嫌い、日本と支那を戦わせることにすべての政策を集中しつつある。盟邦独・伊は欧州で英米ソを相手に死闘を続けている。米国は既に英国に加担して実質的に参戦しつつある。日本自身の存立のためにも、三国同盟の義理からでも、最早一刻も隠忍することはできない。我々は今や東洋民族を代表し敢然として彼ら数百年の侵略に最後の止めを刺すべき大使命に直面したのである。我が無敵海軍は満を持し万全を尽くしている。五・五・三とは数字の上の比例であるが、中身を加えると五・五・七になる。しかも英国の海軍は半分はドイツに潰されてしまった。海軍としては今が一番よい潮時だ。重慶政権の臍の紐は英・米に通じている。早くこれを切らねば日支事変は永久に納まらない。聖戦の総決算は今度の戦いである。十数万の英霊は我らを見護っている。亡き戦友への供養はこの戦いに勝つことである。万里の波濤を征服し、敵の所有妨害を排除しつつ不眠不休で我らを護ってくれる海軍に心からの感謝を表しつつ、十分な戦果をもってこの労に対えねばならぬ。我らは今や光輝ある重任を拝したのである。将兵一心、世界環視の晴れの舞台に大和男子の真価を発揮しなければならぬ。東洋平和の大御心を体して亜細亜を解放すべき昭和維新の完成は我らの双肩に架かっている。

  海行かば水づく屍山行かば草蒸す屍
  大君の邊にこそ死なめかへりみはせじ

https://www.jacar.archives.go.jp/das/image/C14110551100

 

https://www.jacar.archives.go.jp/das/image-j/C14110549200 1/2

部外秘

これだけ讀めば
    戰は勝てる

 

https://www.jacar.archives.go.jp/das/image-j/C14110549200 2/2

 

一、本册は作戰軍將兵全員に南方作戰の目的、特質等を徹底させる目的で作つたものであつて特に著意した點は次の通りである。

1.  武力戰、思想戰、經濟戰の內容を一纏めにした事

2.  作戰要務令に在る原則は省略し、熱地作戰の特質のみを摘記した事

3.  「熱地作戰の參考」 中、兵に直接必要な事項を抽出した事

4.  暑くて狹苦しい船の中で肩が凝らずに短時間に讀める事

5.  下士官、兵にでも十分理解出來るように平易に書いた事

二、本册は旣往の諸資料を綜合し各方面の意見を徵し又硏究演習の成果を取り入れた結論である。 乘船直後將兵全員に配付する目的を以て起案したものである。

               大本營陸軍部

 

https://www.jacar.archives.go.jp/das/image-j/C14110549400 1/5

   一、南方作戰地方とはどんな所か

 1. 英、米、佛、蘭等の白人が侵略した東洋の寶庫である

 山田長政が暹羅(今の泰國)に渡つて大いに活躍したのは、今から三百年前であつたが、其の後德川幕府が鎖國政策を取つて明治に至るまで日本人の海外發展を阻止した間に英吉利、佛蘭西、米國和蘭ポルトガル等が我が物顏に東洋に乘り出して文化の遲れた土人を脅迫驅逐してななにきなな東洋諸國を植民地にしたのである。印度や馬來半島が英國に、安南が佛國に、ジャバ、スマトラ等が和蘭に、比律賓が米國に取られて東洋で最も物資の豐富な之等の國々が僅かばかりの白色人種に侵略せられ、數億の東洋民族が數百年の永い間搾り取られ虐め拔かれて今日に至つたのである。
 我々日本人が有難い國に生まれ合わせて 天皇陛下の御稜威の御蔭で今日まで一度も外國の侵略を受けずに來た事に對し、東洋の他の民族は非常日本を羨

  

https://www.jacar.archives.go.jp/das/image-j/C14110549400 2/5

しがり、日本人を信賴し、尊敬し、日本人に依つて獨立と幸福を受けられる事を心から望んで居るのである。

 2.  一億の東洋民族が三十萬の白人に虐げられて居る

 三億三千萬の印度人が僅かに五十萬の英國人に支配せられ、六千萬の蘭印は二十萬の和蘭人に、二千三百萬の佛印は二萬餘りの佛人に、六百萬の英領馬來は數萬の英人に、一千三百萬の比律賓は數萬の米人に支配せられて居る。之等を總計すると、約四億五千萬の東洋民族が僅かに八十萬足らずの白人に支配せられて居る。今印度を除き、佛印、馬來、蘭印、比律賓だけについて見ると約一億の東洋民族が三十萬足らずの白人に虐げられて居るのである。一步敵地に上陸してみると白人が如何に土民を壓迫しているかが明瞭であらう。堂々たる立派な建物が山の上や丘の上から小さな草葺きの土民の家を見下ろして居る。東洋民族の膏血を搾った金は之等少數の白人共の贅澤な生活に費され、又其の本國に持ち去られて居る。

 

https://www.jacar.archives.go.jp/das/image-j/C14110549400 3/5

 

 之等の白人は母親から產れ出ると同時に數十人の東洋民族を奴隸に持つ勘定になる。之れは果して神樣の御心であらうか。
 絕對多數の東洋民族が少數の白人共にこんなに迄征服された原因は同族相互の爭ひに依つて力を消耗した事と、東洋人の東洋たる自覺を缺いた事が根本原因である。

 3.  石油、ゴム、錫などの世界的產地である

 石油がなくては飛行機も軍艦も自動車も動くことが出來ない。英、米は世界石油の大半を占領し消費に困って居ながら最も足らない日本に輸出するを禁じたばかりでなく、南洋から日本が買ふことさへも妨害している。
 ゴムや錫もまた軍事上無くてはならぬものであるが、之等の貴重な物資は東洋では南洋諸島が一番豐富である。我が國が常に正常な方法でこれらの物資を買はうとしても、之さえも邪魔してきた英、米の惡意が今度の作戰を起こさなければならなくなつた一つの原因でもある。蘭印や佛印は單獨では日本に反抗出來な

 

https://www.jacar.archives.go.jp/das/image-j/C14110549400 4/5

い事は明瞭であるが、英、米の支援と脅迫で日本に敵意を示して居るのである。石油と鐵の足りない事は日本の弱點であるが、ゴム、錫、タングステンの足りないのは米國の最大弱點であって之等は大部分南洋および南支から米國に供給されている。これを押へたたならば日本は足りない石油や鐵を得ることが出來るのみでなく、米國の一番痛い所を突くことになる。米國が日本の南方進出を極端に厭ひ且妨害してきた魂膽はここにも在るのである。

 4. 常夏の國である

 作戰地方は四季の區別なく一年中日本の眞夏の暑さが續くものと考へたらよい。であるから常夏の國といふ。朝太陽が出ると閒もなく暑くなり正午前後に一番暑くなって夕方まで暑さが續く。季節風は所に依って異なるが五月から九月までは西南の風で十一月から三月までは東北の風が多く午後から夜にかけて雷鳴、豪雨が來る、日本の夕立とは段が違ふ程の强烈な雨でスコールと呼ばれて居る。此のスコールは暑さを洗い流して吳れる有難い雨である

 

 

が、道を壊し橋を流し軍隊の行動を妨害する事も尠くはない。
 又、湿気が多いから火薬が湿り、銃や弾薬は錆び、眼鏡は曇り、電池はぢきに放電する。
 年中、バナナやパイナップル等の果物はあるが、厄介なマラリヤ到る所に敵意を持って居る。ジャバ、シンガポールあたりでは開けて居るから自動車道が四通発達して居るが、未開の土地も多く、人も馬も通れぬ密林や湿地も尠くない。
 右の如く湿度は高いが住み心地は決して悪くない。海に近く風があるからである。だからこそ多くの白人が移住したのである。

https://www.jacar.archives.go.jp/das/image-j/C14110549400