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考証資料第八号 対作戦用兵に関する内示(差当り統帥部腹案として内示せらるべきもの) 1937.7.12


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考証資料第八号
対作戦用兵に関する内示(差当り統帥部腹案として内示せらるべきもの)
(対支海軍作戦計画内案、七月十二日、軍令部策定)

  一、作戦指導方針

(一)自衛権の発動を名分として、宣戦布告は行はず。ただし彼より宣戦する場合、または戦勢推移によりては宣戦を布告し、正規戦となす。

(二)支那第二十九軍の膺懲を目的とし、なし得る限り戦局を平津地域に局限し、状況により局地戦、航空戦、封鎖戦をもって居留民保護および支那膺懲の目的を至短期間に達成するを本旨とす。

(三)海陸軍協同作戦とす。

  二、用兵方針

(一)時局局限の方針に則り、差し当たり平津地域に陸軍兵力を進出、迅速に第二十九軍の膺懲の目的を達す。

 海軍は陸軍輸送護衛、ならびに天津方面に於て陸軍と協力するほか、対支全力作戦に備ふ。(第一段作戦)

(二)戦局拡大の場合、概ね左記方針により作戦す。(第二段作戦)

(イ)上海および青島はこれを確保し作戦基地たらしむるとともに、居留民を現地保護す。爾他の居留民はこれを引き揚げしむ。

(ロ)中支作戦は上海確保に必要なる海陸軍を派兵し、かつ主として海軍航空兵力をもって中支方面の敵航空勢力を掃蕩す。

(ハ)北支作戦は、青島は海陸協同してこれを確保し、爾他の地域は陸軍これを制圧す。

(ニ)陸軍出兵は、平津方面に対する関東軍·朝鮮軍より応援するもの、ならびに内地より出兵する三箇師団のほか、上海および青島方面に二箇師団の予定にして、その配分は情況による。

 ただし海軍としてはこれを三箇師団必要と認め、陸軍側に申し入れ中。

(ホ)封鎖戦は揚子江下流および浙江沿岸その他、わが兵力所在地付近において局地的平時封鎖を行ひ、支那船舶を対象とし、第三国との紛争を醸さざるを旨とす。ただし戦勢の推移いかんによりては地域的にも内容的にもこれを拡大す。

(ヘ)支那海軍に対しては一応、厳正中立の態度および現在地不動を警告し、違背せば猶予なくこれを攻擊す。

(ト)当面、第三艦隊は全支作戦に、第二艦隊は専ら陸軍の輸送護衞に任ず。青島方面に出兵するに至らば、北支作戦は第二艦隊これに当たり、中南支作戦は第三艦隊これに任ず。
 作戦境界を海州湾、隴海様の線(北支那作戦に含む)とす。

(チ)南支作戦は充分有力なる指揮官ならびに部隊をもってこれに充て、第三艦隊指令部は中支作戦に専念し得るごとく編成を予定す。

(リ)馬鞍群島には水上機基地、艦船燃料補給等のため前進根拠地を必要とし、これが所要兵力を第三艦隊に編入せらるるごとく編成を予定す。

(ヌ)輸送護衛は第二艦隊これに任じ、青島方面出兵後、上海方面に出兵の場合、その輸送護衛は第三艦隊主としてこれに当り、第二艦隊これに協力す。

(ル)上海陸戦隊は現在派遣のもののほか、さらに二箇大隊を増派し、青島には特別陸戦隊二箇大隊を派遣す。いづれもそれ以上に陸戦隊を必要とする場合は、一時艦船より揚陸せしむ。

(ヲ)作戦行動開始は空襲部隊の概ね一斉なる急襲を以てす。
 第一(第二)航空戦隊をもって杭州を、第一連合航空隊をもって南昌、南京を空襲す。爾他の部隊は右空襲とともに機を失せず作戦配備を完了す。第二連合航空隊は当初、北支方面に使用す。空中攻撃は敵航空勢力の覆滅を目途とす。

(ワ)右空襲に先ち、揚子江上流ならびに広東警備艦隊は所要の地点に引揚げあるを要す。

(三)上海および青島方面に派遣せらるる陸軍との作戦協定は未済なるも、等部協定案の大要、左のごとし。

(イ)上海および青島方面派兵を必要とする場合とならば、上海方面は混成一箇旅団、青島方面は一箇連隊程度の先遣部隊を急派す。

(ロ)海軍艦船をもってなし得る限り陸兵輸送を援助す。

三、作戦部隊編成(内案)《掲記省略》

四、作戦部隊軍隊区分(参考案)《掲記省略》

 

《原文》

考證資料第八號
對支作戰 用兵に關する内示事項(差當り統帥部腹案として内示せらるべきもの)
(對支海軍作戰計畫内案、七月十二日 軍令部策定)

一、作戰指導方針

(一)自衞權の發動を名分とし 宣戰布告は行はず、但し彼より宣戦する場合 又は戰勢の推移に依りては 宣戰を布告し正規戰となす。

(二)支那第二十九軍の膺懲を目的とし 爲し得る限り戰局を平津地域に局限し 情況に依り局地戰、航空戰、封鎖戰を以て居留民保護 及 支那膺懲の目的を至短期間に達成するを本旨とす。

(三)海陸軍協同作戰とす。

二、用兵方針

(一)時局々限の方針に則り 差當り平津地域に陸軍兵力を進出 迅速に第二十九軍の膺懲の目的を達す。
海軍は陸軍輸送護衞 竝に 天津方面に於て陸軍と協力する外 對支全作戰に備ふ(第一段作戰)

(二)戰局擴大の場合 槪ね左記方針に依り作戰す。(第二段作戰)

(イ) 上海 及 靑島は之を確保し作戰基地たらしむると共に 居留民を現地保護す。爾他の居留民は之を引揚げしむ。

(ロ) 中支作戰は上海確保に必要なる海陸軍を派兵し 且 主として海軍航空兵力を以て中支方面の敵航空勢力を掃蕩す。

(ハ) 北支作戰は 靑島は海陸軍 協同して之を確保し 爾他の地域は陸軍 之を制壓す。

(ニ) 陸軍出兵は平津方面に對する關東軍、朝鮮軍より應援するもの 竝に内地より出兵する三箇師團の外 上海 及 靑島方面に二箇師團の豫定にして其の配分は情況に依る。
但し海軍としては之を三箇師団が團必要と認め 陸軍に申入れ中。

(ホ) 封鎖戰は 揚子江下流 及 浙江沿岸 其の他 我兵力所在地附近に於て局地的平時封鎖を行ひ 支那船舶を對象とし 第三國との紛争を醸さざるを旨とす。但し戰勢の推移 如何に依りては 地域的にも内容的にも之を擴大す。

(ヘ) 支那海軍に對しては一應 嚴正中立の態度 及 現在地不動を警告し 違反せば猶豫なく之を攻撃す。

(ト) 當初 第三艦隊は全支作戰に、第二艦隊は專ら陸軍の輸送護衞に任ず。
靑島方面に出兵するに至らば 北支作戰は第二艦隊 之に當り、中南支作戰は第三艦隊 之に任ず。
作戰境界を海州灣、隴海樣の線(北支作戰に含む)とす。

(チ) 南支作戰は充分有力なる指揮官 竝に部隊を以て之に充て 第三艦隊司令部は中支作戰に專念し得る如く編成を豫定す。

(リ) 馬鞍群島には水上機基地 艦船燃料等の爲 前進根據地を必要とし 之が所要兵力を第三艦隊に編入せらるる如く編成を豫定す。

(ヌ) 輸送護衞は第二艦隊 之に任じ 靑島方面出兵后 上海方面に出張の場合 其の輸送護衞は第三艦隊 主として之に當り 第二艦隊 之に協力す。

(ル) 上海陸戰隊は現在派遣のものの外 更に二個大隊を增派し、靑島には特別陸戰隊二箇大隊を派遣す。何れも其れ以上に陸戰隊を必要とする場合は一時 艦船より揚陸せしむ。

(ヲ) 作戰行動開始は空襲部隊の槪ね一齊なる急襲を以てす。
第一(第二)航空戰隊を以て杭州を 第一聯合航空隊を以て南昌、南京を空襲す。爾他の部隊は右空襲と共に機を失せず作戰配備を完了す。第二聯合航空隊は當初 北支那方面にに使用す 空中攻擊は敵航空勢力の覆滅を目途とす。

(ワ) 右空襲に先ち 揚子江上流 竝に廣東警備艦隊は所要の地點に引揚げあるを要す。

(三)上海 及 靑島方面に派遣せらるる陸軍との作戰協定は未濟なるも 當部協定案の大要 左の如し。

(イ) 上海 及 靑島方面 派兵を必要とする場合とならば 上海方面は混成一箇旅團、靑島方面は一箇聯隊程度の先遣部隊を急派す。

(ロ) 海軍艦船を以て爲し得る限り陸兵輸送を援助す。

三、作戰部隊編成(内案)《揭記省略》

四、作戰部隊軍隊區分(參考案)《揭記省略》

 

↑第二復員局残務処理部 開戦迄の政略戦略 其の1(1950年3月)より
考証資料第8号 対支作戦用兵に関する内示事項(差当り統帥部腹案として内示せらるべきもの)(対支海軍作戦計画内案、7月12日軍令部策定)
1937年7月12日
https://www.jacar.archives.go.jp/das/image/C16120625300