Ob-La-Di Oblako 文庫

帝国日本の侵掠戦争と植民地支配、人権蹂躙を記憶し、再現を許さないために、ひたすら文書資料を書き取る。姉妹ブログ「歴史を忘れる民族に未来はない!」https://obladioblako.hateblo.jp/ のデータ·ベースを兼ねる。

松井石根弁護側証拠提出却下 1947.5.5

MR. ROBERTS: I now present Mr. ITO, who will present further proof on this subdivision 4.

○ロバーツ辯護人 第四部の證據提出をいたしまする伊藤辯護人を紹介いたします。

THE PRESIDENT: Mr. ITO.

○裁判長 伊藤弁護人。

○伊藤辯護人 ここに辯護側文書第一〇七七號を識別のために提出し、同文書よりの拔萃 第一〇七七號のAを證據として提出いたします。本拔萃は、上海派遣軍司令官 松井石根の聲明でありまして、これによつて上海事變に對する軍の意思を立證いたします。

MR. ITO: We herewith present defense document No. 1077 for identification and will introduce the excerpt thereof, No. 1077-A, as evidence. This excerpt is a declaration of MATSUI, Iwane, Commander of the Shanghai Expeditionary Army. By this document we will prove the intention of the army in the Shanghai affair.

THE PRESIDENT: Brigadier Nolan.

○裁判長 ノーラン代將。

BRIGADIER NOLAN: May it please the Tribunal, I am not sure, sir, whether document No. 1077 has yet marked for identification.

○ノーラン檢察官 辯護側文書一〇七七號が、識別のために法廷によつて記錄されておつたかどうか確かではありません。

THE PRESIDENT: It should be marked.

○裁判長 記錄すべきであります。

CLERK OF THE COURT: Defense document 1077 will be given exhibit No. 2536 for identification only.

〔書記 辯護側文書一〇七七號は識別番號二五三六號といたします。〕

(Whereupon, the document above referred to was marked defence document No. 2536 for identification only.)

BRIGADIER NOLAN: Learned counsel for the defence has tendered in evidence, sir, document 1077-A, being General MATSUI's statement. This statement is an excerpt from a biography of General MATSUI and in our submission is inadmissible and not proper method of proof of an announcement of this kind.

○ノーラン檢察官 辯護人は辯護側文書一〇七七のA號は、松井の聲明として證據として提出いたしました。これは松井の傳記の拔萃でありまして、受理されるべきものではなく、證據をかかる方法において立證すべきものではないと主張いたします。

○伊藤辯護人 此の事実を立證するために、かかる文書が通例保存されているはずである第一復員局に問い合せてまいつたところが、紛失しておつて、現在ないということであります、やむを得ずこの方法によつたのであります。

MR. ITO: Yes, it is necessary to tender the facts in order to prove the matters contained in the matter I am now presenting to this Tribunal but upon inquiry of the First Demobillization Bureau we have found that such documents had been lost and therefore as the only alternative open to us we have chosen this method to present the proof.

THE PRESIDENT: Lost or destroyed, which?

○裁判長 紛失したのですか、それとも捨てられてしまつたのですかどちらですか、どちらですか。

○伊藤辯護人 捨てられたのか紛失したのか、燒却されたのか、とにかく現在 第一復員局にこの文書がないということの證明を得ました。

MR. ITO: I do not know whether they were lost or they were burned or they were thrown away; however, I have received confirmation from the First Demobillization Board that it does not exist in their files at present.

THE PRESIDENT: By a majority the Tribunal upholds the objection and rejects the document.

○裁判長 多数決により法廷は異議を容認し、文書を却下いたします。

EXH 2536 for ident. A,B 5/5 Rejected Def. Doc. #1077-A

松井將軍の聲明

此際、十月八日、午後五時、松井最高指揮官は、日本軍の大義を明かにする聲明を發表した。

「本職 大命を拜して、閫外征虜の重責を負ひ、曩に江南の地に上陸せり。爾來、軍の勢力充實し、降魔の利劍は、今や鞘を放れてその神威を發揮せんとす。 軍の使命は、日本政府聲明の趣旨に基き、我權益並に居留民の保護を全うすると共に、南京政府暴戻支那を膺懲し、その赤色勢力と苟合せる排外抗日政策を一擲せしめ、以て明朗なる東亞平和の基礎を確立するにあり。作戰地方の無辜の民衆に對しては、憐愍切なるものあり、卽ち軍は素より一般民衆を敵とせずと雖、苟くも我に抵抗加害するものは、その軍民の何たるを問はず、寸毫も假借することなかるべし。旣に兵亂の災禍に遇ひ、或は生命財產の脅威を受けつつある諸外國官民に對しては、同情 眞に禁ずる能はざるものあり。列國權益に對しては、最善の努力を以て、これを尊重保護し、秋毫も冒すところなし。日本軍は克く仁、克く威、海陸一致し、誓つて江南の妖雲を拂掃すべく、和平の曉天を望むの日方に近きにあるは、本職の確信するところなり。

 昭和十二年十月八日
        上海方面陸軍最高司令官 陸軍大將 松井石根

Def. Doc. #1077 A-B
文書ノ出所ニ關スル證明書

本書ニ添付セル 日本語ニテ書カレタル 二〇四頁ヨリ成ル 横山健堂著 松井大將傳ト称スル書籍ハ 一九三九年 東京ニ於テ著者ヨリ贈與ヲ受ケ 爾來 自分(本館)ニ於テ藏置セル書籍ナルコトヲ證明ス

昭和二十二年四月三日 於
松井石根

右 署名捺印ハ自分ノ面前ニ於テ爲サレタルモノナルコトヲ證明ス

同日 於同所
立會人 伊藤淸

○伊藤辯護人 次に辯護側文書第一〇七七號よりの拔萃 同号のBを證據として提出いたします。

MR. ITO: We will next produce in evidence excerpt of defence document No. 1077 as "B" of the same number.

THE PRESIDENT: Brigadier Nolan.

○裁判長 ノーラン代將。

BRIGADIER NOLAN: May it please the Tribunal, this excerpt 1077-B is open to exactly the same objection that was made in respect to 1077-A.

○ノーラン檢察官 この一〇七七B號は検察側が一〇七七A號に対して申し立てたのと同じ異議の範疇に屬するものであります。異議を申し立てます。

THE PRESIDENT: The accused MATSUI can give this evidence himself later. The objection is upheld and the document rejected.

○裁判長 松井被告は、後ほど自分自身でこの證據を提出することができます。異議を容認し、文書を却下いたします。

Def. Doc. #1077-B

「中華民國人士に告ぐ」

と題して、左の談話を發表して、以て支那民族が東亞の道義に還り 三省すべきことを戒告した。

一、最近 北支事變の勃發と共に、日支間の感情、頓に激發し、勢の赴くところ、遂に戰線を擴大して、正に東亭百年の危局を招來せんとしつつあるは、兩國の爲に寔に遺憾に堪へない。この時に當り、予は中國官民が夙に内外の情勢を靜視大觀し、東亞の道義に還り、再省三省せんことを廣く朝野の人士に望む次第である。獨善 自己に陶醉して、日本の實力を輕視し、或は赤化勢力と苟合して、其の存在を危うし更に又、民族復興運動のため、排日、抗日を力説して、國論統一、政權强化の具に供する等の如きは、正に國際道德の破壞であり、東洋平和の攪亂である。諸子が口を開けば、言はんとする「打倒日本」が假に實現し得たりとして、それが中國五民族が幸福に生存し得ると思はるゝか、こんな見易い道理をさへ認識し得ない筈はないのであるが、之を口にするを得ない狀態に置かれてあるのは、實に嘆はしく思ふ。予が諸子の反省を望むのは、實に此の點である。曾て民國創立の先哲、孫中山氏が 中國の復興と共に 常に東洋の平和を念願 努力した事實を想起する必要がある。

二、日本が眞に庶幾しある所は日支の提携であつて、之が眞に東洋平和を招來する大道なりと確信する。然しながら中國朝野の思想、乃至 對日感情が現在の如くならんか、遺憾ながらその排日抗日運動を根絶し、今次事變の如き不祥事發生の根因を芟除するの要がある。軍の目的は茲に在るに外ならぬ。皇軍は容易く動くべきではないが、然しその一度起たんか、徹底的に敵を擊滅し、出師の目的を達成せんとするのが吾人の信條である。軍の目標とするところは、南京政府と抗日軍隊であつて、一般民衆を作戰の對象とする考は毛頭 無い。卽ち從來 南京軍閥政權の扶植に狂奔し來つた支那官民が、旣往の迷夢から覺醒して正常に還るべき機は來たのだ。卽ち眞に東洋平和の爲、我に伍せんとする者に對しては、軍は相携へて、喜んで興亞の大業に從ふに吝かでない。然し乍ら若しそれ未だ惡夢に迷ひて我に抵抗し、或は我行動を妨害する者あらば、何等の假借なく、斷乎 之を膺懲するは、已むを得ないところである。

無辜の一般大衆中、直接 戰火に遇ひ、或は生命財產の危機に曝されある者に對しては、予は深く同情を表すると共に、諸子が此際、何等 流言に惑はさるゝことなく、須らく帝國軍隊に信頼して、暫らく戦塵の圏外に在らんことを希望する。

三、作戰地方の農民諸衆は、恰も五穀成就の収穫期に際會し乍ら、自己安住の地を離れて、生業を休止するが如きは、正に天地の惠澤に應へざるものであつて、予は深く遺憾に思ふところである。又 軍は曩に農家に殘れる穀類を一部徴用したるところもあるが、當時、住民不在の爲、直接交渉する相手無く、已むなく今日に及んでゐる。之等 徴用品に對する代償は、欣然 軍に於て支拂ふべきことを欲し、その機會の來るを待つてゐる次第である。敵意なき民衆に對しては、軍は何等 含むところ無きは、前縷述の通りであつて、寧ろ進んでその安全を保障し 生業を保護すべきは夙夜 予の顧念するところである。戰場後方、我軍守備地域の良民は須らく日本軍に信倚し、父祖英靈の眠る鄕邑を思慕して、速に農に歸り、安んじてその業に復すべきことを勸告する次第である。

○伊藤辯護人 次に辯護側文書一〇七五號を證據として提出いたします。本書は一九三七年十二月九日 支那側南京守備軍に對して、松井司令官の名において撒布されたる投降勸告文でありまして、これによつて南京を戰火より免れしめんとした日本軍の措置を立證いたします。

MR. ITO: Next we will produce defence document No. 1075 in evidence. This document is the text of the surrender recommendation distributed in the name of the Commander, MATSUI, among the Chinese garrison troops in Nanking on December 9, 1937. This testifies to the measures taken by the Japanese forces to save Nanking from war disaster.

THE PRESIDENT: Brigadier Nolan.

○裁判長 ノーラン代將

BRIGADIER NOLAN: May it please the Tribunal, this is an attempt to prove an advice to surrender through the medium of the newspaper dispatch. It is submitted that it should be proved by production of the statement.

○ノーラン檢察官 これは降伏勸告を新聞の電報によつて立證しようとする試みであります。これはその文献を提出し、そうして立證すべきであります。

○伊藤辯護人 辯護側はこの原文を求めるために第一復員局に問い合わせたのでありますが、第一復員局においては現在この文書がないということを證明してまいりました。

MR. ITO: In an effort to find this original the defence inquired the First Demobillization Bureau and received from the said Bureau that it at present does not have such a document.

THE PRESIDENT: The Tribunal by a majority upholds the objection and rejects the document.

○裁判長 多数決により法廷は異議を容認し、文書を却下いたします。

[EXH×] 5/5 Rejected Def. Doc. #1075

   南京最期の日 來る
    けふ正午の期限!
     敵軍に投降を勸告す
      囘答なければ斷乎進擊

「上海本社特電」(九日發)
上海軍 九日午後七時發表 松井最高指揮官は本日正午 飛行機により南京防衞司令官に對し投降勸告文を投下し 十日正午までに囘答を要求せり

「投稿勸告全文」

   城は正に我包圍下
    今後の戰 一利なし

「上海本社特電」(九日發)
南京總攻擊を前に九日正午 松井司令官は南京防衞司令官 康生智に對し 廿四時間の期限を付け 十日正午迄に降伏する樣 飛行機より勸告文を投下せしめた その全文 左の如し

        △△△△△△△△△△△△△△△△

日軍百萬 旣に江南を席巻せり、南京は正に包圍の中に在り、戰局の大勢よりみれば今後の交戰はたゞ百害あつて一利なし、惟ふに江寧の地は中央の舊都にして民國の首都なり、明の孝陵、中山陵等 古蹟名所 蝟集し 宛然 東亞文化の精髄の觀あり、日軍は抵抗者に對しては極めて峻烈にして寛怒[恕]せざるも 無辜の民衆 及び敵意なき中國軍隊に對しては寛大を以てし 之を犯さず、東亞文化に至りては之を保護保存するの熱意あり、而して貴軍 交戰を繼續せんとするならば 南京は勢ひ必ずや戰禍を免れ難し、而して千載の文化を灰燼に歸し 十年の經營は全く泡沫とならん、仍つて本司令官は日本軍を代表し貴軍に勸告す、卽ち南京城を平和裡に開放し 而して左記の處置に出でよ

              大日本陸軍總司令官 松井石根

本勸告に對する囘答は、十二月十日正午、中山路、句容道上の歩 線に於て受領すべし、若しも貴軍が司令官を代表する責任者を派遣する時は 該處に於て本司令官代表者との間に南京城接収に關する必要の協定を遂行するの準備あり、若しも該指定時間内に何等の囘答に接し得ざれば 日本軍は已むを得ず南京城攻略を開始せん

Def. Doc. #1075

     文書成立ニ關スル證明書

私ハ帝國圖書館長ノ職ニ在ルモノナルコ處 茲ニ添付セル日本語ニテ書カレタル「南京最期の日 來る」ト題スル新聞記事ハ 本館ノ保管ニ係ル昭和十二年十二月十日附 國民新聞ニ揭載セラレアリ 同紙ノ正確ナル拔萃ナルコトヲ證明ス

於 東京  帝國圖書館長 岡田溫
第二六號 昭和二十二年四月四日

右署名捺印ハ私ノ面前ニ於テナサレタルモノナルコトヲ證明ス
同日於同所  立會人 上代琢禪

○伊藤辯護人 次に辯護側文書 一一九八號を證據として提出いたします。本書は一九三七年十二月一日 情報部長のなしたる談話でありまして、ジヤパンアドバータイザー紙の記事により、南京周邊における中國兵の破懷行爲と松井司令官の文化保護の措置とを明らかにするものであります。

MR. ITO: We will next offer in evidence defence document No. 1198, a talk made by the Chief of the Information Section on December 1, 1937, to show the destractive actions committed by Chinese soldiers in the environs of Nanking and cultural protection measures taken by Commander MATSUI by an article of the "Japan Advertiser."

THE PRESIDENT: Brigadier Nolan.

○裁判長 ノーラン代將

BRIGADIER NOLAN: May it please the Tribunal, defence document 1198 purports to be dated the first of December 1937, but in the statement itself appear to be incidents whitch occurred on the 10th of December of that year. It is only another press release and subject to the objection that we have made to other documents of a like nature.

○ノーラン檢察官 辯護側文書 一一九八號は一九三七年 すなわち昭和十二年十二月一日の日付になつておると稱しておりますが、その内容をてみますと、十二月十日の事件まで取扱つております。これもまた新聞發表にすぎないものでありまして、われ〱が前からたび〱申し立てた異議が、これにもあてはまるものであると思います。

THE PRESIDENT: Documents of this kind are being repeatedly rejected. Time is wasted. I suggest you list them all, tender them in a bunch, have them objected to and rejected for record purposes.

The objection is upheld and the document rejected.

○裁判長 この種の文書は何度も〱提出され、何度も〱却下されております。そうしてこれは時間の浪費でありまするがゆえに、裁判所といたしましては、あなたがこの種類の文書を、全部一緒にして表をつくつて正式に提出し、そのナンバーを入れ、そうしてそれについて異議があればこれを却下することにしたいと思います。異議を容認し、文書を却下いたします。

22 5/5 Rejected
Def Doc 1198

  情報部長談話
     一九三七年十二月一日

十二月十日附 ジヤパン・アドバタイザー紙揭載の二つの記事は、期せずして、人類に取つて貴重である物に對して、日支両軍が採つたものであつてよい對照を成す態度を、甚だ鮮明に表はしてゐる。その一つの記事はニューヨーク・タイムス南京特派員の報道であつて、中國軍自身でこの中國の首都を徹底的に破壞した事を記述してゐる。

其は該特派員が戰鬪區域を数日間、視察した、中立國觀戰武官から聞いて書いたものであるが、中國兵は、南京の周囲の都市村落を破壞し、彼等の祖先が、又 彼等自身 汗を流して働いて、蓄積した幾十億元の象徴たる文化施設を破壞した計りでなく、自國人の蠻行に唯まどうてゐる無辜の住民を假借なく殺戮してゐるのである。

他の一つの記事は、上海方面日本軍司令官 松井石根大將が南京防衞中國軍司令官に致した勸告の報道である。

右によると、松井司令官は、東洋文明の奌から、この𦾔い城廓都市内の文化的史的施設を毀損する事なく其儘 保存し度き由を述べ、且 無用なる人命の犠牲を無くし中國人が平和裡に降伏する事を促してゐる。

前線からの最近の報道によると、中国側は日本側の勸告を拒否した相である。この拒否が何を意味するかは戰場からの續報を俟つて明瞭になるであらう。

然し中國軍が攻圍軍の猛襲に頑强ではあるが無益の抵抗を試みる爲に、旣に自國兵に住む可き家 及び資財を奪はれたその地域の幾萬無辜の民が、冬の嚴寒が近づいてゐる時、自然の儘に放置されねばならぬとは憐れな事である。であるから日本軍はかゝる强情我慢の中國軍を、徹底的に膺懲せねばなるまい。

 

極東國際軍事裁判速記録. 第210號 (昭和22年5月5日)
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/10269466/8

A級極東国際軍事裁判速記録(英文)
昭和22.4.30~昭和22.5.5
(第21096~21499頁)
https://www.digital.archives.go.jp/das/image/F0000000000000340314
p.357-p.361

A級極東国際軍事裁判記録(和文)(NO.84)
https://www.digital.archives.go.jp/das/image/F0000000000000340150 p.2~p.20