Ob-La-Di Oblako 文庫

帝国日本の侵掠戦争と植民地支配、人権蹂躙を記憶し、再現を許さないために、ひたすら文書資料を書き取る。姉妹ブログ「歴史を忘れる民族に未来はない!」https://obladioblako.hateblo.jp/ のデータ·ベースを兼ねる。

「軍紀·風紀においても忌々しき事態の発生、近時漸く繁を見、これを信ぜざらんと欲するも、なほ疑はざるベからざるものあり」「断じて事変の完美なる成果を期せんがため、ここに改めて軍紀·風紀の振作に関して切に要望す。本職の真意を諒せよ」 参謀総長、載仁親王より中支那方面軍司令官、松井石根へ 1938.1.4 

【極秘】陸軍省受領 陸支密受第二五〇号

      陸軍省 大臣官房 昭和13.1.11 午後

      陸軍省 軍事課 13.1.12 27

      陸軍省 兵務課 13.1.13 受9号

閲 次官【梅津】 軍事【高瀬】 兵務【飯?田】

 

中方参第十九号

  軍紀·風紀に関する件 通牒

昭和十三年一月九日

     中支那方面軍参謀長 塚田攻【官印】

両軍参謀長

直轄部隊長

中支監[各]宛

一、首題の件に関しては、各級団隊長の適切なる統率·指導のもとにこれが振粛に邁往せられあるを信ずるも、今回、参謀総長宮殿下より別紙写のごとき要望を賜りたるについては、この際、軍紀·風紀の維持·振作に関し最大の努力を払はれたし。

 なほ、軍紀·風紀並び国際問題に関しては今後、陸軍報告規定に準じ、その緩急に従ひ電話、電信または文書をもって迅速にその概要を報告し、さらに詳細なる報告を呈出せられたし。

 右、依命通牒す。

 

【極秘】

 顧みれば皇軍の奮闘は半歳に邇[ちか]し。その行く所、常に必ず赫々たる戦果を収め、我が将兵の忠誠勇武は中外斉しくこれを絶賛して止まず、皇軍の真価いよいよ加ふるを知る。しかれども、一度深く軍内部の実相に及べば、未だ瑕瑾の少からざるものあるを認む。

 就中、軍紀·風紀において忌々しき事態の発生、近時漸く繁を見、これを信ぜざらんと欲するも、なほ疑はざるベからざるものあり。

 惟ふに、一人の失態も全隊の真価を左右し、一隊の過誤もつひに全軍の聖業を傷つくるに至らん。

 須く各級指揮官は統率の本義に透徹し、率先垂範、信賞必罰、もって軍紀を厳正にし、戦友相戒めて克く越䡄·粗暴を防ぎ、各人自ら矯て全隊放縦を戒むべし。特に向後、戦局の推移とともに敵火を遠ざかりて警備·駐留等の任に着くの団隊漸増するの情勢に処しては、いよいよ心境の緊張と自省克己とを欠きやすき人情を抑制し、もって上下一貫、左右密実、いささかも皇軍の真価を害せざらんことを期すべし。

 かくのごときはただに皇軍の名誉と品位とを保続するに止まらずして、実に敵軍および第三国を威服するとともに、敵地民衆の信望·敬仰を繋持して、もって出師の真目的を貫徹し、聖明に対へ奉る所以なり。

 さかのぼって一般の情勢、特に迅速なる作戦の推移、あるいは部隊の実情等に考へ及ぶ時は、森厳なる軍紀、節制ある風紀の維持を困難ならしむる幾多の素因を認め得べし。したがって露見する主要の犯則·不軌等を挙げて直ちにこれを外征部隊の責に帰一すべからざるは、よくこれを知る。

 しかれども、実際の不利·不便いよいよ大なるにしたがって、ますますもってこれが克服の努力を望まざるを得ず。あるいは沍寒に苦しみ、あるいは櫛風沐雨の天苦を嘗めて、日夜健闘しある外征将士の心労を深く偲びつつも、断じて事変の完美なる成果を期せんがため、ここに改めて軍紀·風紀の振作に関して切に要望す。

 本職の真意を諒せよ。

 昭和十三年一月四日
        大本営陸軍部幕僚長 載仁親王
支那方面軍司令官宛

 


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【極秘】陸軍省受領 陸支密受第二五〇號

      陸軍省 大臣官房 昭和13.1.11 午後

      陸軍省 軍事課 13.1.12 27

      陸軍省 兵務課 13.1.13 受9号

閲 次官【梅津】 軍事【高瀨】 兵務【飯?田】 

 

中方參第十九號

  軍紀風紀ニ關スル件 通牒

昭和十三年一月九日

     中支那方面軍参謀長 塚田攻【官印】

両軍参謀長

直轄部隊長

中支監 宛

一、首題ノ件ニ關シテハ 各級團隊長ノ適切ナル統率指導ノ下ニ之カ振粛ニ邁往セラレアルヲ信スルモ 今回  参謀總長宮殿下ヨリ別紙寫ノ如キ要望ヲ賜リタルニ就テハ 此際 軍紀風紀ノ維持振作ニ關シ最大ノ努力ヲ拂ハレ度

軍紀風紀 竝 国際問題ニ關シテハ今後 陸軍報告規定ニ準シ 其ノ緩急ニ從ヒ電話、電信 又ハ文書ヲ以テ迅速ニ其槪要ヲ報告シ 更二詳細ナル報告ヲ呈出セラレ度

右 依命通牒 ス

 


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【極秘】

顧ミレハ皇軍ノ奮鬪ハ半歳ニ邇シ 其行ク所 常ニ必ス赫々タル戰果ヲ收メ 我將兵ノ忠誠勇武ハ 中外齊シク之ヲ絶讃シテ止マス  皇軍ノ眞價 愈々加フルヲ知ル 然レ共 一度深ク軍内部ノ實相ニ及ヘハ 未タ瑕瑾ノ尠カラサルモノアルヲ認ム

就中 軍紀風紀ニ於テ忌々シキ事態ノ發生 近時 漸ク繁ヲ見 之ヲ信セサラント欲スルモ 尚 疑ハサルヘカラサルモノアリ

惟フニ 一人ノ失態モ全隊ノ眞價ヲ左右シ 一隊ノ過誤モ遂ニ全軍ノ聖業ヲ傷ツクルニ至ラン

須ク各級指揮官ハ統率ノ本義ニ透徹シ 率先垂範 信賞必罰 以テ軍紀ヲ嚴正ニシ 戰友相戒メテ克ク越䡄粗暴ヲ防キ 各人自ラ矯テ全隊放縱ヲ戒ムへシ 特ニ向後 戰局ノ推移ト共ニ敵火ヲ遠サカリテ警備駐留等の任ニ著クノ團隊漸増スルノ情勢ニ處シテハ 愈々 心境ノ緊張ト自省克己トヲ欠キ易キ人情ヲ抑制シ 以テ上下一貫 左右密實 聊モ皇軍ノ眞價ヲ害セサランコトヲ期スヘシ

斯ノ如キハ啻ニ皇軍ノ名譽ト品位トヲ保續スルニ止マラスシテ 實二敵軍 及ヒ第三國ヲ威服スルト共ニ 敵地民衆ノ信望敬仰ヲ繫持シテ 以テ出師ノ眞目的ヲ貫徹シ 聖明ニ對ヘ奉ル所以ナリ

遡テ一般ノ情勢 特ニ迅速ナル作戰ノ推移 或ハ部隊ノ實情等ニ考ヘ及フ時ハ 森嚴ナル軍紀 節制アル風紀ノ維持ヲ困難ナラシムル幾多ノ素因ヲ認メ得ヘシ 從テ露見スル主要ノ犯則不軌等ヲ擧ケテ直ニ之ヲ外征部隊ノ責ニ歸一スヘカラサルハ 克ク之ヲ知ル

然レ共 實際ノ不利不便 愈々大ナルニ從テ 益々以テ之カ克服ノ努力ヲ望マサルヲ得ス 或ハ沍寒ニ苦シミ 或ハ櫛風沐雨ノ天苦ヲ嘗メテ日夜健鬪シアル外征將士ノ心勞ヲ深ク偲ヒツツモ 断シテ事變ノ完美ナル成果ヲ期センカ爲 茲ニ改メテ軍紀風紀ノ振作ニ關シテ切ニ要望ス

本職ノ眞意ヲ諒セヨ

 昭和十三年一月四日
        大本營陸軍部幕僚長 載仁親王
支那方面軍司令官宛

 

↑陸支密大日記 昭和13年 支受大日記(密)其2

昭和13年自1月14日至1月26日

軍紀風紀に関する件
https://www.jacar.archives.go.jp/das/image/C04120161000