十 軍、風紀所見(その三)
[前略]
(二)慰安婦問題を考える。昔の戦役時代には慰安婦などは無かったものである。斯く申す私は恥かしながら慰安婦案の創始者である。昭和七年の上海事変のとき二、三の強姦罪が発生したので、派遣軍参謀副長であった私は、同地海軍に倣い、長崎県知事に要請して慰安婦団を招き、その後全く強姦罪が止んだので喜んだものである。
現在の各兵団は、殆んどみな慰安婦団を随行し、兵站の一分隊となっている有様である。第六師団の如きは慰安婦団を同行しながら、強姦罪は跡を絶たない有様である。
嘗て聞いたところによれば、北京附近の中国古老は、団匪事件のとき、欧米各国が掠奪強姦の限りを尽したのに、ただ独り日本兵のみが、軍、風紀森厳にして寸毫も冒すことなかったことを回想し、どうして今の日本兵がかくも変わったのかと痛嘆したという。
全く昔と今とどうしてかくも変わったのか。
稲葉正夫編『岡村寧次大将資料(上)戦場回想篇』1970年、原書房、p.302~p.303