公娼制度ニ関スル件
警保局
一､廃娼論者ノ主張 及 之ニ対スル意見
二､娼妓取締規則
三､大阪府令 貸座敷取締規則
四､太政官布告 第ニ百九十五号
司法省布達 第二十ニ号
太政官布告 第百二十八号
民法（第九十条）
刑法（第二百二十四条､第二百二十五条､〃二百二十七条､二百二十八条）
五､大正十二年徴兵花柳病患者千分比順位表
廃娼論者ノ主張及之ニ対スル意見
一､娼妓ハ人身賣買ニ依ル奴隷制度ニシテ人道ニ反ス
（イ）人身賣買ハ夙ニ明治五年ノ布告以来 嚴禁セラルル所ニシテ 現在ニ於テモ刑法第二百二十四条､第二百二十五条､第二百二十七条､第二百二十八条ニ依リ處罰セラルル行爲ニ属シ 其ノ事實アルニ於テハ事ノ娼妓ニ関スルト否トヲ問ハス刑罰ニ處セラル
（ロ）若シ娼妓稼業ノ際ニ於ケル貸座敷業者トノ契約内容ガ人身賣買タリ 又ハ自由拘束ヲ爲スモノナルニ於テハ 民法第九十条ノ規定ニ依リ其ノ契約ハ無效タルへシ
（ハ）娼妓ハ内務省令 娼妓取締規則ニ依リ警察官署ニ登録セラレ 其ノ監督ヲ受クル自由稼業ニシテ 貸座敷業者トノ関係ハ主従ノ関係ニ立ツモノニアラス、貸座敷業者ハ單ニ娼妓ニ対シ稼業ノ爲ニ塲屋ヲ供給スルモノニシテ 娼妓ハ其ノ塲所ニ於テ自己ノ意思ニ依リ稼業ヲ爲スモノナリ、此ノ関係ハ京都ノ如ク貸座敷内ニ娼妓ノ居住セザル塲合ニ於テ最モ明瞭ナリ
（ニ）娼妓カ貸座敷内ニ居住スル塲合ニ於テ娼妓ノ自由ヲ拘束スルカ如キ事態ナカラシムルハ警察上 常ニ注意スルトコロニシテ 現行娼妓取締規則ニ於テ（一）娼妓ノ登録ニハ必ス自身 出頭シテ之ヲ爲スヘク 樓主 其ノ他 他人カ代リテ之ヲ爲シ得サル規定（第三条）（二）娼妓廃業ノ妨害ヲ爲スヘカラサル規定（第六条）（三）通信､面接､文章ノ閲覧等ヲ妨害スヘカラサル規定（第十二条）ヲ設ケ 之カ違反ニ対シ嚴重ナル刑罰（三ヶ月以下ノ懲役）ヲ科シタル所以ノモノ 亦 之カ爲ニ外ナラス
二､公娼ハ花柳病豫防上 有効ナラス 却テ危険ナリ
（イ）公娼存置理由ノ一カ花柳病防止ニアルコトハ事實ナリ 而シテ今日迠ノ検診ノ実際二徴スレハ私娼花柳病患者ハ公娼二比シテ甚タ多シ
（ロ）公娼ノ検査 不充分ナリトハ常〻唱道セラルル處ナルモ 専門ノ醫師ハ容易ニ之ヲ発見スルヲ得ヘク 一々顕微鏡的検査ヲ必要トスルモノニアラズ 仮リニ多少ノ見落シアリトスルモ 全然無検査ニ放置スル私娼ト比較シテ豫防上 公娼ノ優レルコトハ疑ナシ
（ハ）最近警視廳 及 大阪府統計書ノ示ス實例 左ノ如シ
大正十一年中警視廳 及 大阪府統計
健康診断数/有毒者数/千分比
警視庁
娼妓 257,815/9,394/36
密賣淫者 1,565/365/233
大阪府
娼妓 446,184/12,319/28
密賣淫者 163/36/221
（ニ）群馬縣ニ於ケル壮丁 花柳病者率 低シトハ廃娼論者ノ唱道スル處ナルモ 事實ハ必スシモ然ラス 同縣ハ大正十二年ニ於テ全國誅 十二番目ノ多キニアリ
三､公娼ノ存在ハ却テ私娼ヲ多カラシム
（イ）公娼アルカ爲ニ私娼ヲ多カラシムルト謂フカ如キ事實ナシ
（ロ）公娼､私娼ヲ共ニ絶滅セシムルコトヲ得ハ何ヨリナルモ 事實ハ然ラス 公娼ヲ廢止スルニ於テハ當然ニ 之ニ代ルヘキ私娼窟ヲ生スルコト群馬縣ニ於ケルカ如クナルヘシ 然ラハ公娼ヲ廢止シテ却テ風俗 竝 衞生上 取締上困難ナル私娼ニ代フルコトトナルヘシ
四､公娼ハ遊客ヲ誘引シ 風俗上 不都合ナル結果ヲ生ス
（イ）公娼ハ已ムヲ得サル必要上 認ムル所ナルヲ以テ 貸座敷ノ建築､位置等ニモ十分注意シ 張店ノ如キハ之ヲ禁止シ居ル所ニシテ 私娼ニ比シテ風俗上 更ニ有害アリトハ認メラレス
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