大臣 花押〈光〉 次官 花押〈董〉
機密受第八五〇號
廿七年六月廿六日接受
主管 政務局 印【栗野愼一郎】 通商局長 印【原敬】
廿七年六月廿五日接
機密第九六號
清兵ヲ撤囬セシム可キ最後ノ處置ニ付 伺
本日 八重山艦ニ附托シテ發送取計候電稟之趣意ハ既ニ同文面ニ於テ御承知相成候通リ 當地ノ形㔟ハ本官 东京發ノ際 想像シタルトハ大ニ事情ヲ異ニシ 全羅道ニ於ケル乱民モ最初 全州ヲ陥レタル侭 十餘日間 同城ニ據守シタル處 其後 前後ノ京軍 之ヲ攻撃シテ去十一日 遂ニ之ヲ恢復シ 而シテ乱民ハ金堤 古阜等地ニ退走シ 其㔟 復タ前日ノ如ク猖獗ナラザル由 及傳聞 且又 清兵ハ前後凡ソ二千人程ハ既ニ牙山ニ附着シタリト雖トモ 適〻全州ノ恢復ト乱民ノ㔟力頓減シタルガ為メ 朝鮮政府ノ請求モ有之旁〻 其兵ヲ南方ニ進メズ後命ヲ待テ進退セントスル姿ニ有之候 之ガ為メ事情 我兵ヲ貸シテ乱民ヲ鎮撫ス可キ形㔟ニ無之 且又 京城近傍ハ目下 全ク静隱ノ姿ナレバ 事実 多数ノ護衞兵ヲ要セサル義ニ付 旁 以テ先般 後發兵ノ出帆差止方ヲ電稟及ヒ候次苐ニ有之候 然ルニ此間中ヨリ清使 袁世凱氏ハ我两国兵ノ衝突ヲ避ケ东洋ノ大局ヲ保全セントノ口實ニテ退兵ノ相談有之 現ニ再昨日モ来舘シテ 目下 牙山ニ在ル清兵ヲ撤囘セシム可キニ付 我国ノ軍隊モ同時ニ撤囬セシメ候事ヲ希望スル旨 協議有之候 依テ彼ノ意中ヲ推察スルニ 一ハ在牙山ノ清兵ハ長日ノ滞陣ニ困難ヲ感ジ 他ノ一ハ在天津 李鴻章氏ヨリ頻二日清两兵ノ衝突ヲ恐レ撤囬ノ訓令ヲ下シタルニ因ルモノヽ如シト（天津来報ニ詳ナリ）雖トモ 猶ホ探偵ニ據レハ彼カ朝鮮政府ニ對スル威信 及ヒ義務トシテ我兵ノ撤囬ヲ周旋スルコトハ重ナル原因ニアラサルカト被推察候 探偵者ノ屢〻報スル所ニ據レハ袁氏ハ韓廷ニ向ヒ 我計略ヲ以テ日兵ヲ撤囬セシム可シト 常ニ大言ヲ吐キ居ヤニ及傳聞候 依テ本官ハ「我两兵ノ衝突ヲ避ケンガ為メ之ヲ撤囬シ 以テ東洋ノ大局ヲ保全スルコトハ 至極御同意ニ有之候得共 本使ハ未タ本國政府ヨリ何タル訓令ヲ奉有セサレハ 電信ノ接續ヲ待テ先ツ政府ノ訓令ヲ請ヒ 然ル後 何分ノ協議ニ及フ可シ」ト返答致置候 隨而 愚考スルニ今囬ノ事件ハ本ト袁世凱カ朝鮮政府ニ勧メテ援兵ヲ出シタルハ其起因ニテ 我政府ハ事実 之ニ促サレテ出兵シタルコトナレハ 若シ撤兵ノ際ニ日時約束於?双方相均キ引揚方ヲ為ストキハ 局外者ヨリ之ヲ観ルモ甚タ不出来ニシテ 之カ為メニ袁氏ニ日兵ヲ撤囬セシメタリトノ名譽ヲ與フルハ勿論 其結果ハ我大兵ヲ入韓セシメナガラ却テ清韓两國ノ輕侮ヲ受ケ他ノ外国人ノ嗤笑ヲ招クニ至ルモ難計ト只管掛慮スル所ニ有之候 殊ニ我兵ハ最初到着ノ一大隊ノミナレバ我政府ノ處置ハ單ニ護衞ノ一点ニ止マルコトナラントハ内外人共ニ之ヲ認ム可シト雖トモ 既ニ四千人ニ垂ントスル大兵ヲ派遣シタル上ハ 輙ク清使ノ相談ニ應シ同時ニ之ヲ引揚ル如キハ甚タ政策ノ得タルモノニ有之間敷ト致確信候 故ニ此際 我国ノ威厳ヲ保チ將来ノ利益ヲ考フルトキハ 徹頭徹尾 四分六分ノ権衡ヲ執リ 清國ヲシテ先ツ其援兵ヲ撤囬セシメ 以テ民乱鎮定ノ実証ヲ擧ケシメ 然ル後 我兵ヲ撤囬スルコトハ當然ノ順序ト存候 就テハ本官 始終 此主意ヲ確執シ 朝鮮政府ニ向テハ飽迄 清兵ヲ撤退セシメンコトヲ督促シ 清使ニ向テモ同様 民乱 既ニ鎮定ニ帰シタル後ハ一日モ猶豫セス其援兵ヲ撤囬シテ来援ノ本義ヲ全フセンコトヲ請求シ 可及𠀋 平和手段ニ依リ其目的ヲ達スル様 百方盡力可致ト存候得共 萬一 不幸ニモ清使 我意ヲ募リ當方ノ請求ニ應セス依然 其兵ヲ牙山 若クハ其他ノ地方ニ駐紮セシムルカ 或ハ之ヲ京城ニ繰入テ我兵ト對峙セント企ツル如キコト有之候ハヽ 我国ハ如何ナル方針ヲ執ルヘキヤ 此際 急ニ帝国政府ハ斯ル場合ニ處スル廟議ヲ確定セラレンコト 希望スル所ニ有之候 鄙案ニハ 日清两国ノ兵 永ク朝鮮ニ對峙スル場合ニハ早晩 必ス衝突ヲ免レサル可ク 加之 我ニ於テハ四千ニ近キ大兵ヲ永ク滞陳セシムルコトハ不得策ナル可キニ付 縦令 兵力ヲ借リテモ我ヨリ彼兵ヲ退去セシメ 依テ我威厳ト利益トヲ保全スルハ 今更 辞ス可カラサル政策ト御確信候 右ニ付 我カ執ヲ以テ各國ニ宣言スル名義ハ 我国ハ従来 朝鮮ノ獨立ヲ認定シ 且ツ其獨立権ヲ保護センコトヲ企畫スルモノナルニ 清國ハ故ナク其兵ヲ朝鮮国内ニ駐在セシムルコトハ 彼ガ常ニ主張スル如ク事実上 朝鮮国ヲ属邦トシ 其主権ヲ施行スルモノナレバ 取モ直サズ我認定ヲ抹殺シ其企畫ヲ妨碍スルモノナリ 加之 朝鮮国内ニ外兵ノ屯在スルハ我国ニ取リテハ甚タ危险ヲ感スルニ付 我企畫ヲ遂行シ我利益ヲ保護センカ為メ外兵ヲ朝鮮ヨリ逐出ス可シト云ハヽ 我方ニ於テ其道理ナキニ苦ム事ナカル外シト思考致候間 何卒 此一點ニ付 廟議 御決定相成候様致度ト存候 右ハ大略 既ニ電信ニテ陳述致候得共 猶ホ其意義ノ充分ナラサル所アルヲ致掛念致候ニ付 茲ニ致詳陳候 至急何分ノ御訓示相成候様致度候 敬具
明治廿七年六月十七日
特命全権公使 大鳥圭介
【在朝鮮日本國特命全權公使】
外務大臣 陸奥宗光殿
追テ過日来 支那電線 断絶致候ニ付 今囬 急ニ八重山艦差立 電稟取計候 之カ為メ外ニ上申 及 稟義許□有之候得共 急速 相纏メ難ク 乍遺憾 後便ニ相譲リ申候
↑東学党変乱ノ際韓国保護ニ関スル日清交渉関係一件 第一巻
７ 明治２７年６月１３日から１８９４〔明治２７〕年６月３０日
https://www.jacar.archives.go.jp/das/image/B03030205300 p.12-p.15
