Ob-La-Di Oblako 文庫

帝国日本の侵掠戦争と植民地支配、人権蹂躙を記憶し、再現を許さないために、ひたすら文書資料を書き取る。姉妹ブログ「歴史を忘れる民族に未来はない!」https://obladioblako.hateblo.jp/ のデータ·ベースを兼ねる。

特命全権公使 大鳥圭介 外務大臣 陸奥宗光宛 七月二十三日事変前後に執りし方針の大略ならびに将来に向けての鄙見内申 1894.8.4

機密 受第1241号 大臣【陸奥】 次官 花押
二十七年八月十三日接受 稟義
機密第146号 本68 中□□□私信に□て一応の返事済

  七月二十三日事変前後に執りし方針の大略

  ならびに将来に向けての鄙見内申

 内政改革の勧告朝鮮政府より拒絶せられたるとき我が取るべき手段につき、去る七月十日附機密第122号信をもつて伺ひ出で候ふところ、同十六日に至り朝鮮政府より我が勧告に対し不満足なる回答来られ候ふにつき、余儀なく前記機密信にて伺ひ出でたる乙案の手段を執ることに相決し、その第一着手として一片の通知をもつて釜京電線の架設に着手し、第二、兵営の設置を督促し、第三、清兵の撤回、第四、清韓条約の廃棄を請求し、しかして第三の請求に対しては同月二十二日に決答を為すべき旨、見張りを立てて厳促に及び候ふところ、同夜十一時まで外務督弁より我が請求に適当せざる曖昧なる返答これあり候ふにつき直ちにこれを反駁し、時宜によつては我が権利を伸長せんがため兵力に依頼せざるを得ざる不幸に立ち至るべき旨申送り、遂に二十三日朝の事変を促致したる次第にこれあり候ふ。

 さて本官は前述の手段を執りし決心は、第一、当国執政者の更迭を促して内政改革の端緒を開かしめ、第二、日清開戦に先だち韓廷を改革派の手に属せしめ、もつて我が運動に利益せんとの考案に外ならず候ふ。しかして第一の希望を達せんがため、閔泳駿を始め諸閔氏の有力者を除き、国王の城外に移御せられんことを予防し、大院君を推して政府に立たしめ、これと同時に改革派の人々を挙げて政務に参与せしめ、もつて内政改革の実効を奏せしめんと計画したるものにこれあり候ふところ、諸事我が計画のごとく都合能く行はれ、今日まで差したる遺算これなく候ふ。

 目下、韓廷の官民は猶ほ日清両国の勝敗につき、窃かに両端を観望する者これあり候へども、牙山大捷後、大勢は既に定まり、且つ改革事業日々進歩するにつき、昨今に至り人心漸く静謐に趣き、避難の市民ら日々帰城し、市中の賑はひ半ば旧に復し申し候ふ。

 また韓廷近日の模様は大院君改革の局面に当たると雖ども、凡百の政務は領議政金宏集に委任せられ、しかして領議政は一面、軍国□務処会議の議長なれば、諸事会議の輿論を集め上奏、 裁可を得てこれを施行する手続を執り、毎日の議案は孰れも重大事件にて、既に新官制を議定し、且つ重なる旧弊は大抵排除することに決定相成り候ふ。委細は追々の報告にて御承知相成りたく候ふ。

 よつてこの度は実務を挙ぐべき政府組織せられ、我より各部門に従ひ顧問官相雇はせ候□、内政改革の実効疑ひなく相上り□□存じ候ふ。目下、朝鮮の形勢前陳のごとく相傾き候ふ上は、今後、我が執るべき政策はいかに相定まるべきや、鄙考に拠るときは、

 第一、外国に対し飽くまで朝鮮の独立を保護する事。今日の場合は朝鮮を隠然我が保護の下に置き、我よりこれを扶掀して独立の基礎を固めしむるは、騎虎の勢、やむべからざる次第なれば、この際、我が目的を達せんがために両国間に秘密軍事条約を訂結し、朝鮮の陸海軍は必要に従ひいつにても我が使用に供する約束をなすべし。

 第二、務めて朝鮮官吏の心を懐柔し、彼らをして万一にも他の外国に傾意する掛念なからしむる事。朝鮮政府は既に改革派の手に帰し、諸事我が勧告を容るる傾向ある以上は、我より強行主義をもつてこれに対するは不得策なり。要するに我が朝鮮を取り扱ふ寛厳の度合は、従前清国が朝鮮を取り扱ひたる度合に比較して、一層朝鮮を利益することを考へざるべからず。しからざれば朝鮮の君臣はその苦悶に堪へずして終に第三者に依頼するに至るべし。

 第三、朝鮮の外交事務に向けて特に注意を与へ、将来各国と面倒を生ぜざる様予防すること。外債償却等のため金員を要するときは、一時これが繰替をなすべき必要あるべしと存じ候ふ。

 已上陳述したる前半段は、本官がこれまで執りし方針の大略にこれあり、後半段は将来我が対韓政略を定むるにつき鄙見を陳述したるものにこれあり候ふ。併せて御参覧相成りたく候ふ。尤も将来朝鮮をいかなる地位に置き、我はいかなる地位に立つべきや、素より一定の御廟算これある義とは存じ候へども、鄙考には朝鮮を独立国と推し立て、少くも彼が独歩の実力を得んまでは我が保護の下に置き、万事扶持するの外これあるまじと愚考候ふにつき、取り敢へず前陳の鄙見を御参考に供し候ふ。廟議確定の上、何分の御訓示相成りたし。

 右、内申に及び候ふなり。

  明治二十七年八月四日

        特命全権公使 大鳥圭介

        【在朝鮮日本帝国特命全権公使

   外務大臣 陸奥宗光 殿
 

    編者附言

 大鳥公使八月四日付機密第146号に対する一応の回答は、同月十三日付陸奥大臣より同公使宛て私信にあり。

 右は課長直轄にて「日清韓交渉事件中大鳥駐韓公使往私信」中にあり。

 

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機密 受第一二四一號 大臣【陸奥】 次官 花押

廿七年八月十三日接受   稟義

機密第一四六號 本八六 中□□□私信ニ□テ一應ノ返事済

 七月廿三日事変前後ニ執リシ方針ノ大略

 幷 將来ニ向テノ鄙見 内申

内政改革ノ勧告 朝鮮政府ヨリ拒絶セラレタル時 我カ取ルベキ手段ニ付 去七月十日附 機密苐一二二號信ヲ以テ伺出候處 同十六日ニ至リ朝鮮政府ヨリ我勧告ニ對シ不満足ナル囬答被来候ニ付 余儀ナク前記機密信ニテ伺出タル乙案ノ手段ヲ執ルコトニ相決シ 其苐一 着手トシテ一片ノ通知ヲ以テ釜京電線ノ架設ニ着手シ 苐二 兵営ノ設置ヲ督促シ 苐三 清兵ノ撤囬 第四 清韓條約ノ廃棄ヲ請求シ 而シテ第三ノ請求ニ對シテハ同月二十二日ニ決答ヲ為ス可キ旨 見張ヲ立テヽ及厳促候處 同夜十一時迠 外務督辨ヨリ我請求ニ適当セサル曖昧ナル返答 有之候ニ付 直チニ之ヲ反駁シ 時宜ニ因テハ我権利ヲ伸長センガ為メ兵力ニ依頼セサルヲ得サル不幸ニ立至ルベキ旨 申送リ 遂ニ二十三日朝ノ事変ヲ促致シタル次苐ニ有之候 扠 本官ハ前述ノ手段ヲ執リシ決心ハ 苐一 當国執政者ノ更迭ヲ促シテ内政改革ノ端緒ヲ開カシメ 苐二 日清開戦ニ先チ韓廷ヲ改革派ノ手ニ属セシメ 以テ我運動ニ利益セントノ考案ニ外ナラス候 而シテ苐一ノ希望ヲ達センカ為メ 閔泳駿ヲ始メ諸閔氏ノ有力者ヲ除キ 国王ノ城外ニ移御セラレンコトヲ豫防シ 大院君ヲ推シテ政府ニ立タシメ 之ト同時ニ改革派ノ人〻ヲ擧ケテ政務ニ参與セシメ 以テ内政改革ノ実効ヲ奏セシメント計画シタルモノニ有之候處 諸事 我計画之如ク都合能ク行ハレ 今日迠 差シタル遺算無之候 目下 韓廷ノ官民ハ猶ホ日清両國ノ勝敗ニ付 窃ニ両端ヲ観望スル者 有之候得共 牙山大捷後 大勢ハ既ニ定リ 且ツ改革事業 日〻進歩スルニ付 昨今ニ至リ人心 漸ク静謐ニ趣キ 避難ノ市民等 日々帰城シ 市中ノ賑ヒ半バ旧ニ復シ申候 又 韓廷 近日ノ模様ハ大院君 改革ノ局面ニ當ルト雖トモ 凡百ノ政務ハ領議政 金宏集ニ委任セラレ 而シテ領議政ハ一面 軍國機務處會議ノ議長ナレハ諸事會議ノ輿論ヲ集メ上奏 裁可ヲ得テ之ヲ施行スル手續ヲ執リ毎日之議案ハ孰レモ重大事件ニテ既ニ新官制ヲ議定シ 且ツ重ナル旧弊ハ大抵排除スルコトニ決定相成候 委細ハ追〻ノ報告ニテ御承知相成度候 依テ此度ハ実務ヲ擧ク可キ政府 組織セラレ 我ヨリ各部門ニ従ヒ顧問官 相雇ハセ候ハヽ内政改革ノ実効 疑ナク相上リ□□存候 目下 朝鮮ノ形勢 前陳ノ如ク相傾キ候上ハ今後 我カ執ルヘキ政策ハ如何ニ相定ム可キヤ 鄙考ニ據ルトキハ

第一 外国ニ對シ飽迠 朝鮮ノ獨立ヲ保護スル事
今日ノ塲合ハ朝鮮ヲ隱然 我保護ノ下ニ置キ 我ヨリ之ヲ扶掀シテ獨立ノ基礎ヲ固メシムルハ 騎乕ノ勢 不可已次苐ナレバ此際 我目的ヲ達センガ為ニ両國間ニ秘密軍事條約ヲ訂結シ朝鮮ノ陸海軍ハ必要ニ従ヒ何時ニテモ我使用ニ供スル約束ヲ為ス可シ

第二 務メテ朝鮮官吏ノ心ヲ懐柔シ彼等ヲシテ萬一ニモ他ノ外国ニ傾意スル掛念ナカラシムル事
朝鮮政府ハ既ニ改革派ノ手ニ歸シ 諸事 我勧告ヲ容ルヽ傾向アル以上ハ 我ヨリ強行主義ヲ以テ之ニ對スルハ不得策ナリ 要スルニ我カ朝鮮ヲ取扱フ寛厳ノ度合ハ 従前 清国ガ朝鮮ヲ取扱ヒタル度合ニ比較シテ一層 朝鮮ヲ利益スルコトヲ考ヘザル可カラス 然ラザレバ朝鮮ノ君臣ハ其苦悶ニ堪ヘズシテ終ニ苐三者ニ依頼スルニ至ルヘシ

第三 朝鮮ノ外交事務ニ向テ特ニ注意ヲ與ヘ 將來 各國ト面倒ヲ生ゼサル様豫防スルコト 外債償却等ノ為メ金員ヲ要スルトキハ 一時 之ガ繰替ヲ為ス可キ必要可有シト存候

已上陳述シタル前半段ハ本官ガ是迠執リシ方針ノ大略ニ有之 後半段ハ將來 我對韓政略ヲ定ムルニ付 鄙見ヲ陳述シタル者ニ有之候 併セテ御参覽 相成度候 尤モ將來 朝鮮ヲ如何ナル地位ニ置キ 我ハ如何ナル地位ニ立ツベキヤ 素ヨリ一定ノ御廟算 有之義トハ存候得共 鄙考ニハ 朝鮮ヲ獨立国ト推立テ 少クモ彼ガ獨歩ノ実力ヲ得ンマテハ我保護ノ下ニ置キ 萬事扶持スルノ外 無之間敷ト被愚行候ニ付 不敢取 前陳ノ鄙見ヲ御参考ニ供シ候 廟議確定ノ上何分ノ御訓示相成度

右 及内申候也

 明治二十七年八月四日      

        特命全権公使 大鳥圭介

        【在朝鮮日本帝國特命全權公使】

  外務大臣 陸奥宗光 殿

 

   編者附言

大鳥公使 八月四日付 機密㐧一四六号ニ對スル一應ノ囬答ハ 仝月十三日付 陸奥大臣ヨリ同公使宛私信ニアリ

右ハ課長直轄ニテ「日清韓交渉事件中大鳥駐韓公使徃私信」中ニアリ

 

↑韓国内政改革ニ関スル交渉雑件 第一巻
6 明治27年8月1日から明治27年8月31日
https://www.jacar.archives.go.jp/das/image/B03050308600 p.18~p.21