Ob-La-Di Oblako 文庫

帝国日本の侵掠戦争と植民地支配、人権蹂躙を記憶し、再現を許さないために、ひたすら文書資料を書き取る。姉妹ブログ「歴史を忘れる民族に未来はない!」https://obladioblako.hateblo.jp/ のデータ·ベースを兼ねる。

「徴兵の発令に逢はば、必ず欣然之れに応ずべく、決して逃竄して、公事に赴くことを避くべきにあらず、如何なる人も、我邦の男子としては、進んで身を犠牲に供し、以て国家の福祉を図るの念慮なかるべからず、蓋し世に愉快なること多きも、真正の男子にありては、国家の為めに死するより愉快なることなかるべきなり」 井上哲二郎『勅語衍義』下

一旦緩急アレハ義勇 公二奉シ

 人の徳義は、徒に能く一身を修め、他人に害を加へざるに止まらず、又 進んで衆人の為に有益なる事業を為すを要す、即ち消極の徳義は、未だ尽さざる所あるものにして、加ふるに積極の徳義を以てせざるべからず、殊に国の安危休戚に関することあらば、欣然一命を擲ちて、公衆の為めに図るところなかるべからず。是れを真正の義勇とす、

 人は如何なる勇気あるも、如何なる腕力あるも、少しも貴しとするに足らず、然れども若し之れを用いて有益の業を成すときは、初めて貴しとするに足る、若し又 之れを用いて国家の危難を救ふときは、大に貴しとするに足るなり、

 此の如く一己の自利心を捨てて、国家の為めに務むるは、即ち愛国の心にして、人の当に養成すべき所なり、国の強きは、主として愛国者の多きに因る、愛国の心は、実に国の元気と謂ふべし、然れば苟も愛国の心ある者は、特に賞讃嘆美せざるべからず、若し愛国の心ある者を笑罵するが如き風俗を生ぜば、其国は已に崩壊せるものなり、然れども愛国の心ある者は、往々過激に失するの弊を生ずるものなれば、反対の極端に走らざらんことを戒むるを要す、然りと雖も、如何なる人も、国家の事に就きて、冷淡ならざらんことを期せざるべからず、

 夫れ国家は有機物と同じく、生命ありて生長し、発達し、老衰するものなり、常に国家の元気を培養せざるべからざることは、之れを譬へば猶ほ灯火の光明を保つが為、油の断つベからざるがごとく、時々刻々、継続せんことを要するものなれば、代々の民人 此意を体し、暫くも国の元気を殺ぐべきにあらず、

 蓋し一国の中に住するものは、皆 互に関係を有するものなり、何となれば一人の生ずる利害は、国家の利害となり、其影響は国民一般に及べばなり、故に国民を組織するものは、啻に相互に法律上の権利義務を有するのみならず、又 道徳上の権利義務を有するものなり、然れば愛国の心なきものは仮令ひ国法を犯さゞるも、道義上に於て義務を欠くを以て、他人の指摘を免るゝを得ざるなり、抑 吾人の安全に衣食し、生長し、学問し、遂に一個の人となりて業務をなすに至るは、国の制度、其宜しきを得て、吾人の身体 生命 財産等の安全なるに因る、然れば吾人の国家に報ずべき恩義は、広大深厚なること疑なかるべし、且つ夫れ国の先祖より受け得たる土地を維持し、之れを子孫に遺すは、吾人の義務の極めて大なるものなれば、其安全を妨ぐるものあるときは、力を極めて之れを除き去ることを務めざるベからざるなり、是故に国家の緩急あるときに臨んでは、之が為めに一身を擲ちて他事を顧みるべきにあらざるなり、必ずや自己の自由を求め、国家の独立を図り、而して他国の羈絆を受け、以て他国の隷属となるの恥辱は、百方 之れを避けざるべからず、然るに此の如き大恥辱を己れの恥辱とせざるものは、気力も精神もなきものにて、無用の懦夫のみ、国家の蟊賊のみ、

 仮令ひ官位あるも、又 学識あるも、国家の急に赴くに当りて、逡巡狐疑するものは、必ず世の笑罵を免るること能はず、半生の栄名も一朝にして汚名と変じ、一切の願望は泡の如くに消滅し、始めて一死の百生に勝ることを知るに至らん、

 夫れ人 誰れか一たび死せざらん、その死すべきときに死せざれば、却りて其生あるを憂ふることあり、

 然れば国家の急に赴くとときに当りては、直前奮進、以て難に殉ずるの勇気なかるべからず、文室善友が新羅の賊に当り、撃ちて之れを退けしが如き、大蔵種材が七十以上の高齢を以て、女真の賊を追撃せしがごとき、北条時宗が元兵を鏖殺して、外寇の患を絶ちしが如き、実に後人の模範とすべき所なり、然れども若し今日 外寇あらば、臣民たるものは、一個の私を以て、妄に事を挙ぐべきにあらず、唯々徴兵の発令に従ひて、己れの義務を尽すを要す、

 徴兵の発令に逢はば、必ず欣然 之れに応ずべく、決して逃竄して、公事に赴くことを避くべきにあらず、如何なる人も、我邦の男子としては、進んで身を犠牲に供し、以て国家の福祉を図るの念慮なかるべからず、蓋し世に愉快なること多きも、真正の男子にありては、国家の為めに死するより愉快なることなかるべきなり

f:id:ObladiOblako:20210209043121j:image

↑井上哲二郎『勅語衍義』下
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/759404/35