Ob-La-Di Oblako 文庫

帝国日本の侵掠戦争と植民地支配、人権蹂躙を記憶し、再現を許さないために、ひたすら文書資料を書き取る。姉妹ブログ「歴史を忘れる民族に未来はない!」https://obladioblako.hateblo.jp/ のデータ·ベースを兼ねる。

信夫淳平『戦時国際法講義』第2巻より第992節 1941.11.23

 

  第三目 乞降兵の殺傷及び不助命の宣言

窮鳥懐に入らば猟夫も之を助く

 九九二 ハ号の禁止は『兵器ヲ捨テ又ハ自衛ノ手段尽キテ降ヲ乞ヘル敵ヲ殺傷スルコト』で、これは人道上当然の要求であり、又武士の屑しとせざる所である。窮鳥懐に入らば猟夫も之を助ける。況して力尽きた敵兵に対しては尚さらである。

 乞降の敵を殺傷すべからざることは、必ずも仁慈主義からのみではなく、法理も亦爾[しか]く之を命ずる。抑も人が権利として他人を殺すを得るのは、兵が戦場に於いて敵に対抗する場合と、獄吏が法に従ひ死刑を執行する場合とのみである。自衛行為にて加害者を殺すことも法は之を認むるが、これは殺人の権利といふよりも、ただ法律が之を寛恕する迄のものと見るを当れりとする。兎に角兵が戦場に於いて敵を殺害するのは何故に適法であるかと云へば、我方の国家意思の遂行に対し彼れ兵器を手にして抵抗するの意思あるものと推定するからである。故に敵兵とても既に兵器を棄て、抵抗の意思を抛つた以上は、我れ彼を殺すの権利も茲に終絶したものと謂ふべく、随つて乞降の敵兵は我れ啻[ただ]に之を殺傷すべからざるのみならず、之を殺傷するを得ざるものとの法理も立つ訳である。

https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1060837/199


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