Ob-La-Di Oblako 文庫

帝国日本の侵掠戦争と植民地支配、人権蹂躙を記憶し、再現を許さないために、ひたすら文書資料を書き取る。姉妹ブログ「歴史を忘れる民族に未来はない!」https://obladioblako.hateblo.jp/ のデータ·ベースを兼ねる。

【工事中】朴烈・金子文子 大審院第1回公判調書 ② 1926.2.26

裁判長ハ被告人朴準植ニ

問 検事ノ述ヘラレタル事項ハ判リタルカ

答 聞イタ

問 其ノ事実ニ付 被告ヨリ陳述スルコトアリヤ

答 其ノ前ニ俺ノ出シタ書類ヲ出シテ貰ヒタイ

問 之レテアルカ

此時 押収ノ㐧十七号 乃至 㐧二十号ヲ示ス

答 之レテアル 俺ハ俺ノ立場ヲ宣言シテカラ答ヘル

此時 被告人ハ押収ノ㐧十八号 俺ノ宣言 ト題スル書面ヲ朗讀シタリ

     俺の宣言

       ✕

 人類は生まれながらにして唯 如何にしても死なざらんとする生命欲の塊であると同時に 最も醜惡にして愚劣なる優越欲の塊である。從って又 最も強烈にして無反省なる征服欲、支配欲の塊である。從って又 極めて排他的で嫉妬の塊である。

 さうして節操なく我利我利亡者で 常に己の利益の爲には他を欺き 或は友を裏切り 昨日までは口を極めて罵り排斥していた事も 自ら之を平然として行い 頻りに正義人道を口にしながら 自ら反正義反人道を爲して顧みず 自由平等を口にしながら 敢て壓制差別を爲し 平和々々を叫びながら 自ら率先して平和の攪乱者となり 口には神の愛 佛の慈悲を頻りに説きながら 残忍なる虐殺を行い 公明正大を聲言しながら 権謀術策を事としている。さうして此の醜惡にして愚劣なる混戰に於ては弱者は──無権者、貧者、所謂少数黨、無智者等を總べて包含する──常に弱者の──権力者、富者、所謂多数黨、智者等を總べて包含する──為めに犠牲にされ、痛ましく且つ浅間しい、弱肉強食の大罪惡は人類社會の至る處に行はれて現実の人類社會の上には正義は絶無である──俺の所謂正義とは言ふまでもなく人類相互の生存権の尊重、共存共榮である──『昔から弱いものゝ肉は強いものゝ食物と極まつて居る 弱い肉になつているのが惡いのである』とまで或る歴史家は放言して居る位である

 斯く人類は常に欺し合ひ啀み合ひ、殺し合ひを續けながら 或る不可避の運命の為に朝露の如く次から次と滅ぼされて行くのである

 然も人類の大多數は其の強烈なる欲念には到底釣り合はない程 極めて無智にして唯空虚なる誇りか又は卑屈なる諦らめを以って 自分達の生血を吸ひ取る吸血鬼である所の一部少数の強者達を仰いで此れを神聖なる主権者と爲し 日 一日と悲惨なる状態へ自分達自身を導いて居る

 實に此れ等の偉大な馬鹿共は、カルタゴの町を焼野原と化し 巴里に大虐殺を行ひ 埃及に大軍を抛棄し モスクワの遠征に五十萬の大兵を犬死させ、満州の野原に屍の山を築いた大惡人共を、却ってより偉大なる主権者として、此れを壯麗なる記念碑や、神社にまで納めて以って、崇拝して喜んで居るのである

 嗚呼、最も醜惡にして愚劣なる、總べての人類よ! 汝等程譯の分からない動物が 又と在るだろうか? 汝等は有ゆる罪悪の源泉である。さうして如何なる美しい理想、又 如何に功慧なる政策を以ってしても、到底永遠に救ふべからざる、最も憐れな存在である。ホメーロね句を思へ!

『誠に々々、人類は有ゆる衆生の中の最も悲惨なるもの 地上に呼吸し 又 這へる有ゆるものの中の』

       ✕

 世の楽天主義の偽善家共は、放言する。『相愛互助、共存共榮、此れが人類の本性であり、又 萬人の等しく従ふべき正義であり、自然の大法則であり 神の意志である』と。

 偖て 成る程 人類の相愛互助、共存共榮、此れは如何にも正義だ 少なくとも其の概念に於ては 立派に正義だ 然し其れは決して、人類の本性ではない。従って又 自然の大法則でもなければ 神の意志でもないのだ。

 見よ! 現實の人間社會に於て、其の何處に、眞に美しい『相愛互助、共存共榮』の事實を、見出し得るだらう? 最も醜悪にして愚劣なる欺し合ひ、啀み合ひ、殺し合ひ、此れのみが眞に現實の人類社會に於ける偽らざる事實ではないか?

 さうして如何なる場合に於ても、暴力は常に神聖であり、痛ましく 且 浅間しい弱肉強食は、人類社會の到る處に行はれて居る。畢竟 現實の人類社會は、暴力を以って其の根本基礎となし、征服搾取を以って、其の目的として居る。

 先づ國家と民衆との関係に於て此れを観れば、民衆の命を食って居る、人食罪共の寄合ひ世帶なる國家は 法律てふ手械足枷を、造って置いて、民衆にして苟も其の支配、搾取を拒絕する者は、最も組織的に、容赦なく此れを嚴罰して居る、又 强制的徴兵制度なるものを布いて、多數の軍隊を收容し 以て 常に民衆を威壓して居る。又 其の一面に於ては 道德、宗教を始めとし、其の他 有ゆる社會的傳習を以って、民衆を繫縛すると同時に、所謂國民劃一敎育てふ、組織的瞞着怯を以て所謂國家有用の人物の養成に、腐心して居る。

 其の所謂國家有用の人物とは、要するに國家 即ち人食鬼共の幸福の爲めに 其の犬馬となって、忠實に立働くに足る、聡明にして従順なる小動物 又は其の支配、搾取に能く堪へ得る、强健にして善良なる小動物の事である。さうして所謂國家にとって有用なものでなければ 學術でも學術ではなく、技術でも技術ではないとして 此れを蛇蝎の如く擯斥し、或は堅く此れを禁止する。國家は尚ほ、此れでも足りるとしないで、其の他 種々様々なる政策を建てゝ、民衆の瞞着手段を講じて居る。