Ob-La-Di Oblako 文庫

帝国日本の侵掠戦争と植民地支配、人権蹂躙を記憶し、再現を許さないために、ひたすら文書資料を書き取る。姉妹ブログ「歴史を忘れる民族に未来はない!」https://obladioblako.hateblo.jp/ のデータ·ベースを兼ねる。

宮澤内閣総理大臣の大韓民国訪問における政策演説(於ソウル)より 1992. 1. 17

宮澤内閣総理大臣大韓民国訪問における政策演説(於ソウル)

     (アジアのなか,世界のなかの日韓関係)

                (92年1月17日)

 

(はじめに)

 尊敬する朴浚圭[バクチュンギュ]国会議長,そして御列席の大韓民国国会議員の皆様,

 私は,本日,大韓民国を代表する皆様に,そして皆様を通じて韓国国民の方々に,こうしてお話をする機会を得たことを,大変うれしく存じます。国会閉会中にもかかわらず,私にこのような機会を与えて下さった議長閣下,各党の指導者と議員の皆様に,心から感謝の意を表したいと思います。

 [中略]

(日韓関係)

 御列席の皆様,

 日本国民は,貴国が世界の平和と自由と繁栄のため,努力してこられたことを知っています。1988年のオリンピックも,湾岸危機における多国籍軍への協力も,先般のアジア・太平洋経済協力閣僚会議の開催も,その一例だったと思います。日本国民は,貴国のそのような努力を高く評価し,その成功を心から喜んでいます。

 貴国は今や世界の有力な国家であります。世界が貴国に期待する国際的役割もますます大きなものとなるでしょう。新しい世界への困難な航海をするに当たって,我が国が,そのような貴国を,歴史的,文化的な共通点の多い隣国として持っていることを,私は実に心強く感じます。このような貴国と我が国との間のゆるぎのない関係は,両国はもとより,アジア,ひいては世界を大きく稗益するでありましょう。そして,そのようなパートナーシップを,私は,「アジアのなか,世界のなかの日韓関係」としてとらえたいと思います。

 このように重要なパートナーシップの基礎として,私たちは,何よりも両国間の信頼関係を確固たるものとしなければなりません。我が国と貴国との関係で忘れてはならないのは,数千年にわたる交流のなかで,歴史上の一時期に,我が国が加害者であり,貴国がその被害者だったという事実であります。私は,この間,朝鮮半島の方々が我が国の行為により耐え難い苦しみと悲しみを体験されたことについて,ここに改めて,心からの反省の意とお詫びの気持ちを表明いたします。最近,いわゆる従軍慰安婦の問題が取り上げられていますが,私は,このようなことは実に心の痛むことであり,誠に申し訳なく思っております。

 さらに私は,先の大戦時に生きた人間の一人として,21世紀を担う次の世代に,私たちの世代の過ちを過ちとして伝え,これを二度と繰り返すことのないよう,歴史を正しく伝えていかなければならないと感じています。それは,私を含めて,私たちの世代の責任です。我が国はこれまでも日韓関係の正しい理解の普及に努めてまいりましたが,今後ともこのような努力を重ねてまいりたいと考えております。私は,過去の事実を直視する勇気,被害を受けられたひとびとの感情への理解,そして,二度とこうした過ちを繰り返さないという戒めの心を,国民のあいだ,とりわけ青少年たちのあいだにさらに培ってまいる決意です。

 今日,日韓両国の交流・相互依存関係は,飛躍的に高まっています。それに伴って,新たな摩擦や問題が生じてきていることも否定できません。しかし,これらの問題は,率直な話合いによって,理解や協調という解決を求めることができるでしょう。貿易不均衡についても,両国の協力により,貿易の拡大均衡の方向で解決されていくものと信じています。そのため,私は,泰愚大ノテウ統領閣下に両国経済人を中心としたフォーラムを設置することを提案いたしました。私は,このフォーラムを,自らの直接の関心の下におき,そこで,貿易不均衡の原因と対策を忌憚なく議論して頂きたいと思います。フォーラムの提言については政府としても前向きに取り組んでまいります。

 私たちは,常に明日の世界を見つめつつ,二国間の調和と協力に全力を尽くさなければなりません。それが,未来志向的な日韓関係を深め強化して,新しい世界をつくっていくための重要な道程です。

 二国間の相互協力の土台は相互理解です。相互理解を推し進めていくには,双方が相手の歴史,文化,社会等をよく知らなければなりません。一昨年の虜泰愚ノテウ大統領閣下の御訪日以来,我が国では,両国間の古くからの交流について,また,貴国の歴史,文化等について,新たな関心が高まりを見せています。

 私は,こうした関心の高まりを活かすため,新たに次のような措置をとっていきたいと考えます。一つは,我が国の大学等における朝鮮半島の文化,言語等に関する教育研究と日韓両国の大学等の共同研究の一層の推進です。これを通じて両国の学術的,知的な交流が発展することが期待されます。もう一つは,貴国の歴史,文化,思想,伝記等の優れた書物を日韓共同で日本語に翻訳した上,我が国で出版し,我が国国民の幅広い層に貴国に対する理解を深めることです。また,これまでもいろいろな施策を講じてきた青少年交流については,明年度から5年間にわたり,さらに500名の貴国の青年を我が国に招聘したいと思います。これに加えまして,私は,単に二国間だけでなく,近隣国を含めた幅広い交流を進めていくため,日本,韓国,中国,旧ソ連邦等の青年を対象とする多角的な青年交流計画を検討しているところです。

 他方,貴国におかれても,我が国の歴史,文化,社会等に対し理解を深めていただくことを希望いたします。このような双方の努力が進むならば,人的,文化的な交流はさらに進み,両国の友好協力の関係は,ますますゆるぎないものとなるにちがいありません。

 御列席の皆様,

 「漢江の奇跡」と呼ばれる貴国の経済成長は,すでに世界の知るところとなりました。日本がアジアで唯一の先進工業国であった時代は既に過去のものになりつつあります。両国が手を携えて,アジアで,また国際社会で行っていくべきことは,多くの分野に広がっています。

 私はまず,我が国は,いまや援助供与国となった貴国と協調しながら,経済的貢献を進めていきたいと考えています。双方の豊かな経験を生かして,開発途上国への経済協力を推進していけるとは,実にすばらしいことではありませんか。

 また,私は,自由貿易体制の恩恵を受けてきた日韓両国は,その体制の維持と強化に共に努力していくことが必要であり,ウルグァイ・ラウンドの成功のため協力していきたいと思います。

 さらに私は,新しい協力分野として,日韓間の環境協力を挙げたいと思います。明るい21世紀をつくり,次の世代の子供たちに美しい自然の遺産を残していくため,共に国境を越えた課題としてこれに取り組んでゆこうではありませんか。

(むすび)

 [略]

https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/bluebook/1992/h04-shiryou-2.htm#b2