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支那渡航婦女の取締に関する件 在山海関副領事 佐々木高義 発 外務大臣 宇垣一成 宛 1938. 6. 1, 20

       [「在山海関日本領事館」 事務用箋]

亜米利加局 第三課長【隈種】 

条約局 条約局第三課長【西村】 昭和十三年六月拾日 接受 【条三/13. 6. 10/受付】

機密第二三六号
  昭和十三年六月一日

    在山海関
     副領事 佐々木高義【在天津大日本
               帝国総領事館
               山海関分館之印】

 外務大臣 宇垣一成 殿

   支那渡航婦女の取締りに関する件

 本件に関し五月一日付、条三機密合第七二三号貴信御来訓の趣、敬承。

 当地における実情、左記の通り報告す。

     記

一、醜業の目的をもって支那渡航せんとする邦人婦女中、年齢制限その他の関係より内地にて身分証明書の下付を受くる望み薄きものは、まづ証明書を要せざる朝鮮または満洲国に渡り、北支居住の知己または同業関係者等に呼寄せ方を依頼し、北寧線により北支へ向ふもの少なからず。よって内地より鮮満に向ふ婦女に対し、支那に赴くものと同様の取扱ひをなすか、あるいは鮮満の官庁において北支行き婦女に対しその身元、職業等を取調べ、醜業に従事する疑ひあるものは、出国を阻止するにあらざれば今後この経路によるもの漸次増加するに至るべし。

二、醜業を目的とし内地より当地経由北支に向ふものは、年齢二十一歳以上の者は所轄官庁の身分証明書を携帯するも、規定年齢に達せざるものは女中または女給の身分証明書を持参するを常とせり。

 しかれどもその行先地または同行者の業態より見、到達地において醜業に従事するものなること疑ひなく、現に四月二十四日、厚和西馬道巷十二号、料理店業尾籠浅治郎 (当三十三年) なる者、婦女十一名を同伴、当地経由厚和に赴けるが、うち五名は二十一歳以上にして芸妓または酌婦たることを明瞭にしをるも、二十一歳未満の六名はいづれも女中と称しをりたるが、尾籠の業態よりすればこれらは醜業に従事せしむること疑ひなしと認められたるにつき、念のため厚和憲兵隊に同人等到着後の状況を問合せしところ、いずれも酌婦として稼業しをるむね回答ありたり。

 右は、彼らは内地官庁が北支方面の状況に疎きを利用し、職業を詐称し巧みに取締りの網を潜り、身分証明書を取り付けたるものと認定し得べく、かくては警保局長の訓令の履行不徹底となる嫌ひもあるをもって、内地における身分証明書発給は厳選主義を執り、渡支後の職業に付ても充分確かめ、抱主の業態または契約の内容等よりして醜業に従事するがごとき疑ひあるものには発給せざる様、特に取締りを励行する方しかるべしと存ず。

 なほ本項につきては五月十二日付、機密第二一三号拙信御参照ありたし。

三、支那において所謂酌婦と称するは、単に酒間を斡旋する婦女を指すにあらずして、内地の娼妓と同様の稼業に従事するものなるが、内地婦女子中には往々にして文字通り解釈し、漫然渡来し、到着地に於て醜業を強ひられ、その瞞されたるを知りたる際は時すでに遅く、後悔するも及ばず不貞腐れとなり、淪落の女と化し、果ては支那人の玩弄物となり邦人の体面を汚すに至るもの少なからざるやに仄聞しをり、また芸妓においても酌婦同様、醜業を強要せられ、かつ検黴せらるるものにして、内地におけるものと全然趣を異にしをるをもって、証明書下付の際、この辺の事情、篤と申聞け置くこと肝要と思考せらる。

四、抱主と婦女との契約に関しては、婦女の稼業地方は天津、北京等の都会以外は奥地なる関係上、土地柄、慰安なく保健上にも種々支障多きにつき、この点を考慮し、内地に比し婦女に有利なる条件の下に契約せしむることを要す。

五、当地経由、北支に赴く婦女中、醜業を目的とするものの内には朝鮮人相当多く、その数漸次増加の傾向あるところ、彼らは前線に活動するは勿論、都会地にても稼業しをる関係に鑑み、醜業のため渡来する内地婦女をある程度まで制限するも、さまで需要に影響することなかるべし。

六、北支においてはカフェー女給、ダンサーのごときもすでに飽和状態に達し、この上の増加は弊害多きにつき、醜業目的の婦女同様に取り締まる必要あり、かつ前記第二項の予防上にも効果ありと思料せらる。

本信写送付先 天津 北京総領事館 在満大使

 

       [「在山海関日本領事館」 事務用箋]

条約局 条約局第三課長【西村】 昭和十三年六月廿八日接受 【条三/13. 6. 28/受付】

機密第二六三号
  昭和十三年六月二十日

    在山海関
     副領事 佐々木高義【在天津大日本
               帝国総領事館
               山海関分館之印】

 外務大臣 宇垣一成 殿

   支那渡航婦女の取締に関する件

本月一日付拙信機密公第二三六号の (二) に関し、厚和西馬道巷十二号尾籠浅治郎の同伴せるものは左記十一名にして福岡県吉井警察署発給の身分証明書を携帯、四月二十四日、当地通過せる者なるが、その後、厚和憲兵隊よりの通報によれば、満二十一歳未満の婦女左記六名は、いづれも同地西馬道巷十二号、料理店星月楼において酌婦稼業に従事しをる趣なり。これらは渡航後の職業を詐り所轄警察署より身分証明書を得たるものなること推定し得らるるところ、その通過地たる当地においては、内地官庁の身分証明書を携行せるものを、行先地において醜業に従事する疑ひありとて入国を拒否すること困難につき、内地官庁において証明書発給の際、特に行先地における稼業をも考慮し下付する様いたしたく、右、前信補足かたがた申進す。

     記

 本籍 福岡県浮羽郡千年村大字橘田
 住所 福岡県浮羽郡吉井町
      ■■■■■(当二十一年)
    同 ■■■■■(当十八年)
    同 ■■■■■(当二十一年)
    同 ■■■■■(当十九年)
    同 ■■■■■(当十九年)
    同 ■■■■■(当十八年)

 

 

https://www.jacar.archives.go.jp/das/image-j/B06050090800 92/133 右

       [「在山海關日本領事館」 事務用箋]

亞米利加局 第三課長【隈種】

條約局 條約局第三課長【西村】 昭和十三年六月拾日 接受 【條三/13. 6. 10/受付】

機密第二三六號
  昭和十三年六月一日
    在山海關
     副領事 佐々木高義【在天津大日本
               帝國總領事館
               山海關分館之印】

 外務大臣 宇垣一成 殿

   支那渡航婦女ノ取締ニ關スル件
本件ニ關シ五月一日附條三機密合第七二三號貴信御來訓ノ趣敬承
當地ニ於ケル實情左記ノ通リ報吿ス
     記
一、醜業ノ目的ヲ以テ支那渡航セントスル邦人婦女中年齡制限其ノ他ノ關係ヨリ內地ニテ身分證明書ノ下付ヲ受クル望ミ薄キモノハ先ヅ證明書ヲ要セザル朝鮮又ハ滿洲國ニ渡リ北支居住ノ知己又

 

https://www.jacar.archives.go.jp/das/image-j/B06050090800 92/133 左

ハ同業關係者等ニ呼寄方ヲ依賴シ北寧線ニヨリ北支ヘ向フモノ少ナカラズ仍テ內地ヨリ鮮滿ニ向フ婦女ニ對シ支那ニ赴クモノト同樣ノ取扱ヲ爲スカ或ハ鮮滿ノ官廳ニ於テ北支行キ婦女ニ對シ其ノ身元、職業等ヲ取調ベ醜業ニ從事スル疑アルモノハ出國ヲ阻止スルニアラザレバ今後此ノ經路ニ由ルモノ漸次增加スルニ至ルベシ
二、醜業ヲ目的トシ內地ヨリ當地經由北支ニ向フモノハ年齡二十一歲以上ノ者ハ所轄官廳ノ身分證明書ヲ携帶スルモ規定年齡ニ達セザルモノハ女中又ハ女給ノ身分證明書ヲ持參スルヲ常トセリ
然レドモ其ノ行先地又ハ同行者ノ業態ヨリ見到達地ニ於テ醜業ニ從事スルモノナルコト疑ナク現ニ四月二十四日厚和西馬道巷十二號料理店業尾籠淺治郞(當三十三年)ナル者婦女十一名ヲ同伴當地經由厚和ニ赴ケルガ內五名ハ二十一歲以上ニシテ藝妓又ハ酌婦タルコトヲ明瞭ニシ居ルモ二十一歲未滿ノ六名ハ何レモ女

 

https://www.jacar.archives.go.jp/das/image-j/B06050090800 93/133 右

中ト稱シ居リタルガ尾籠ノ業態ヨリスレバ此等ハ醜業ニ從事セシムルコト疑ナシト認メラレタルニ付爲念厚和憲兵隊ニ同人等到着後ノ狀況ヲ問合セシ處何レモ酌婦トシテ稼業シ居ル旨回答アリタリ
右ハ彼等ハ內地官廳ガ北支方面ノ狀況ニ疎キヲ利用シ職業ヲ詐稱シ巧ミニ取締ノ網ヲ潛リ身分證明書ヲ取付ケタルモノト認定シ得ベク斯クテハ警保局長ノ訓令ノ履行不徹底トナル嫌モアルヲ以テ內地ニ於ケル身分證明書發給ハ [×最×] <嚴> 選主義ヲ執リ渡支後ノ職業ニ付テモ充分確カメ抱主ノ業態又ハ契約ノ內容等ヨリシテ醜業ニ從事スルガ如キ疑アルモノニハ發給セザル樣特ニ取締ヲ勵行スル方然ルベシト存ズ
尙ホ本項ニツキテハ五月十二日附機密第二一三號拙信御參照アリタシ
三、支那ニ於テ所謂酌婦ト稱スルハ單ニ酒閒ヲ斡旋スル婦女ヲ指ス

 

https://www.jacar.archives.go.jp/das/image-j/B06050090800 93/133 左

ニアラズシテ內地ノ娼妓ト同樣ノ稼業ニ從事スルモノナルガ內地婦女子中ニハ往々ニシテ文字通リ解釋シ漫然渡來シ到着地ニ於テ醜業ヲ强ヒラレ其ノ瞞サレタルヲ知リタル際ハ時既ニ遲ク後悔スルモ及バズ不貞腐トナリ[×論×]<倫>[→淪]落ノ女ト化シ果テハ支那人ノ玩弄物トナリ邦人ノ體面ヲ汚スニ至ルモノ少ナカラザルヤニ仄聞シ居リ又藝妓ニ於テモ酌婦同樣醜業ヲ强要セラレ且ツ檢黴セラルルモノニシテ內地ニ於ケルモノト全然趣ヲ異ニシ居ルヲ以テ證明書下付ノ際此ノ邊ノ事情篤ト申聞ケ置クコト肝要ト思考セラル
四、抱主ト婦女トノ契約ニ關シテハ婦女ノ稼業地方ハ天津、北京等ノ都會以外ハ奧地ナル關係上土地柄慰安ナク保健上ニモ種々支障多キニ付此ノ點ヲ考慮シ內地ニ比シ婦女ニ有利ナル條件ノ下ニ契約セシムルコトヲ要ス
五、當地經由北支ニ赴ク婦女中醜業ヲ目的トスルモノノ內ニハ朝鮮

 

https://www.jacar.archives.go.jp/das/image-j/B06050090800 94/133 右

人相當多ク其ノ數漸次增加ノ傾向アル處彼等ハ前線ニ活動スルハ勿論都會地ニテモ稼業シ居ル關係ニ鑑ミ醜業ノ爲渡來スル內地婦女ヲ或程度迄制限スルモ左迄需要ニ影響スルコトナカルベシ
六、北支ニ於テハカフェー女給、ダンサーノ如キモ既ニ飽和狀態ニ達シ此ノ上ノ增加ハ弊害多キニ付醜業目的ノ婦女同樣ニ取締ル必要アリ且前記第二項ノ豫防上ニモ效果アリト思料セラル

本信寫送付先 天津 北京總領事館 在滿大使

 

https://www.jacar.archives.go.jp/das/image-j/B06050090800 86/133 右

       [「在山海關日本領事館」 事務用箋]

條約局 條約局第三課長【西村】 昭和十三年六月廿八日接受 【條三/13. 6. 28/受付】

機密第二六三號
  昭和十三年六月二十日
    在山海關
     副領事 佐々木高義【在天津大日本
               帝國總領事館
               山海關分館之印】

 外務大臣 宇垣一成 殿

   支那渡航婦女ノ取締ニ關スル件
本月一日附拙信機密公第二三六號ノ (二) ニ關シ厚和西馬道巷十二號尾籠淺治郞ノ同伴セルモノハ左記十一名ニシテ福岡縣吉井警察署發給ノ身分證明書ヲ携帶四月廿四日當地通過セル者ナルガ其ノ後厚和憲兵隊ヨリノ通報ニヨレバ滿二十一歲未滿ノ婦女左記六名ハ何レモ同地西馬道巷十二號料理店星月樓ニ於テ酌婦稼業ニ從事シ居ル趣ナリ、此等ハ渡航後ノ職業ヲ詐リ所轄警察署ヨリ身分證明

 

https://www.jacar.archives.go.jp/das/image-j/B06050090800 86/133 左

書ヲ得タルモノナルコト推定シ得ラルル處其ノ通過地タル當地ニ於テハ內地官廳ノ身分證明書ヲ携行セルモノヲ行先地ニ於テ醜業ニ從事スル疑アリトテ入國ヲ拒否スルコト困難ニツキ內地官廳ニ於テ證明書發給ノ際特ニ行先地ニ於ケル稼業ヲモ考慮シ下付スル樣致度右前信補足旁申進ス

     記
 本籍 福岡縣浮羽郡千年村大字橘田
 住所 福岡縣浮羽郡吉井町
      ■■■■■(當二十一年)
    同 ■■■■■(當十八年)
    同 ■■■■■(當二十一年)
    同 ■■■■■(當十九年)
    同 ■■■■■(當十九年)
    同 ■■■■■(當十八年)

↑社会問題諮問委員会関係一件 第二巻/分割3 https://www.jacar.archives.go.jp/das/meta/B06050090800 JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.B06050090800、社会問題諮問委員会関係一件 第二巻 (外務省外交史料館 B504)