昭和 19 年 6 月 10 日 土曜
機密戦争日誌
一、ソ軍カレリヤ地峡に大攻勢を開始す。
一、班長、橋本、伊豆山において毛利氏より戦争指導に関する意見を聴取す。
昭和 19 年 6 月 11 日 日曜
機密戦争日誌
一、サイパン大規模の空襲あり。
敵機動部隊出撃せるがごとし。細部は不明なり。
尚、パラオ、グワムも空襲の算あり。
昭和 19 年 6 月 12 日 月曜
機密戦争日誌
一、サイパン空襲敵機は約二〇〇機にして、敵機動部隊主力出擊しあらば更に同数機程度の空襲を実施し得べし。
小笠原方面来襲の算あり。
サイパンの戦果·損害不明なり。
一、六月上旬における船舶損耗状況、左のごとし。
沈没 11 隻 5.6 万屯、損傷 6 隻 4.1 万屯。
一、カレリヤ地峡 40 km 突破さる。
一、朝鮮鉄道複線化に関しては近く第三部長渡満し、左記要領に依り関東軍と交渉する予定なり (一八五粁複線)。
1. 少量にても朝鮮内鉄道の撤収により捻出。
2. 関東軍作戦集積を使用 (一七七粁)。
3. 線路撤去の場合は、金城線、葉赤線の順序とす。
4. 機関車三〇〇輛の製作を追加するごのく陸軍省に要求。
昭和 19 年 6 月 13 日 火曜
機密戦争日誌
一、昨十二日 再びサイパンに対し六次に亘り四〇〇機の来襲あり。撃墜三〇機。
二、渾作戦再興のため武蔵、扶桑および潜水戦隊を使用し十四日、ソロン出港の予定なり。
三、島村参謀の印象に依れば GF [連合艦隊司令長官] は ア号作戦遂行の自信なきがごとく、比島周辺の作戦に専念せんとする傾向にあり。
四、北東方面より戦斗、軽爆、襲撃各一戦隊をビルマへ転用することとなれり､
尚 49 D も取り敢へずビルマへ投入す。
五、ソロン、 ハルマヘラ、アンポン、セラム地区に対し混成一旅団を投入す。
六、開戦以来の日本軍海没状況左のごとし。
昭和十七年 二､四六〇
十八年 九､九三九 } 計三〇､三七四名
十九年 一七､七七五
七、中日ソ大使近く帰国の予定 (大なる意義なし、日本滞在五年)。
1. 余漢謀工作は余の性格より判断し灰色化程度なるべし。
2. 李済工作は良好なる場合は西南蒋領の反蒋運動に非ず。寧ろ新占拠地域の民衆獲得、蒋領の切り崩し、軍隊の灰色化に謀略重点を指向するを可とす。
九、ウオーレス赴支の目的は左のごとく観察せらる。
1. 米の対支協力の確言
2. ソを介して対支援助の強化
昭和 19 年 6 月 14 日 水曜
機密戦争日誌
一、松輪島に本朝、敵駆逐艦五~六隻出現し、約一時間に亘り砲撃す。
中部太平洋方面の敵企図に対する陽動と判断せらる。
二、マリアナに来攻しある敵機動部隊は、電波を発信しありて従来と異なる行動を採りあり。注意を要す。
三、アドミラルテイには依然艦艇集中しあり、状況左のごもし。
A−6 B−10 C−25 D−10 T−90
四、全軍の補給状況左のごとし。
1. ビルマ
月間一万四千屯 (一万屯は鉄道および陸路､四千屯は海路) にして要補給量の半量なり。
弓兵団および山本支隊方面
各日量二屯にして常続補給は可。弾薬 1/20 会戦程度。
祭および烈兵団方面
日量五〜一〇屯。糧食は常続補給不能なり。弾薬は四〜八屯にて可なり。
尚、ビルモ全域の自動車数は一万輌なるも、使用可能は 60 ％程度なり。
2. 18A 方面の状況､
兵額七万、弾薬は 0.5 師団会戦分なるも現兵力に対しては一会戦分。但し大部は ウェクワ｣に集積しあり。
尚猛方面に対しては潜水輸送一〜二隻実施の予定。
3. 濠北地区
兵額 15 万、弾薬二師団会戦分、糧秣四ヶ月分、航空 1.5 FD 分。
4. 中部太平洋方面
兵額 11 万、弾薬二師団、常続四〜五ヶ月分､但 ｢パラオ｣ 八ヶ月分。
5. 北東方面
兵力展開完了せり。兵額 6 万強、弾薬一、二会戦分、防空弾薬二会戦分、糧秣半年、薪炭一〜二ヶ月分。
五、GF は再び渾作戦を中止し、艦隊に対し原所属復帰を命じたり､朝三暮四､兵の運用を知らず。
六、本朝サイパンに対し戦艦以下二十数隻にて砲撃中なり。本夕若くは明朝上陸の気配濃厚なり。
傍若無人の敵の振舞に対し、帝国海軍何れにありや。
陸軍部隊は志気旺盛、満を持して撃滅を期しあり。
七、夜、秦次長帰任せらる。
昭和 19 年 6 月 15 日 木曜
機密戦争日誌
一、本朝四:五〇、敵遂にサイパンに上陸を開始せり。
輸送船四〇〜五〇隻、一師団と判断せらる。
我が在サイパン兵力は一二大隊、海軍一大体隊、第三十一軍司令官。
将に太平洋方面戦斗の天王山なり。
この一大決戦に現地軍の勇戦奮斗を祈るや切なり。
二、海軍本朝 ｢あ号｣ 作戦を決意す。
三、宮中 [×連絡×] <大本> 営に両作戦課勤務の件は良好なり。
昭和 19 年 6 月 16 日 金曜
機密戦争日誌
一、サイパン来攻の敵は二ヶ師団と判断せらる。
二、本早朝、敵北九州を空襲す。
支那本土 (成都ならん) を発し二十数機 (B-24 を主体 B-29 を含厶) 来襲。済州島警戒機 之を補捉す。
損害は軽微なるがごとく、七機 (B-29 一を含む) 撃墜す。
三、次長支那出張報告、要旨。
1. 総長の意図
(ｲ) と号作戦の目的は重慶に非ず。米空軍の覆滅にあり。
(ﾛ) 遂川､南雄の覆滅作戦をやる必要あり。
(ﾊ) 作戦終末、蒋の航空基礎態勢を考慮するを要す。
(ﾆ) 挺進団を使用する場合の用法を研究し置くを要す。
(ﾎ) 後方占拠地域処理の要綱を十分研究するを要す。
(ﾍ) 捕獲兵器の実況と之が活用を把握すること。
(ﾄ) 占拠地域治安維持の為、中国軍隊の活用をいかにするや。
(ﾁ) 作戦の成果を政戦両略に活用し得るや見透しいかん。
2. 支那における彼我航空戦力比は一：三 (時に一：四)
3. 米支空軍は燃料少し。
4. 第十一軍の兵額は人 22 万、俘虜 5 万、馬 5.6 万頭。
5. 今回の作戦は桂林進出の前後に最も注意を要す。
雲南よりの転用部隊は九〜十月頃到着す。
6. こ号作戦の成果は一 [ｲﾂ] に訓練の賜物なり。
敵に与へたる打撃は人 50 ％、火砲は大部、重火器は 30 ％なり。
従って当面の敵は年末頃迄は戦力回復困難なるべし。
7. こ号作戦における戦車師団の損害大なり (30 ％) 整備不十分。
8. と号作戦は目下の所我兵力絶対優勢にして成功の確算あるも爾後の補給か問題なり。
9. 要安作戦は万難を排して実行するの要あり。
10. 粤漢線は現地自活のため建設の要あり。
四、畑司令官より衡陽奪取時機に重慶に対する政治攻勢を実施してはいかんとの意見あり。総長は不可。
五、支那作戦に基づく帝国の宣伝要領ならびに大本営発表の帝国政府声明 (案) を次長より意見具申､早速実施するを目途に研究を進めらる。
事務手続の問題に依り第一部長、第二部長憤然たるものあり。
現下の戦局重点は太平洋に存す。国民の視聴も亦、遺憾ながら支那を問題としあらず。総長の乗気稍〻いかがかと思考せらるるも、太平洋の戦局推移と関連するの措置として実施するを可とす。
六、六月十六日迄の船舶の損害左のこのし。
沈没８万屯、損傷７万屯。
昭和 19 年 6 月 17 日 土曜
機密戦争日誌
一、外務大臣より九州空襲状況を上奏す。
防空対策の徹底ならびに死傷者の救恤を十分にせよとの有難き御詞を拝す。
二、第一四半期生産実績 (鉄類) 左のごとし
計画 実績
鋼材 一一五. 五万屯 一〇七. 二万屯
昭和 19 年 6 月 18 日 日曜
機密戦争日誌
一、ヤツプ基地航空を以て敵機動部隊を攻撃し、左のごとき戦果を挙ぐ。
Ａ―４~５ Ａ特―３ Ｐ―３ Ｔ―３
撃沈、炎上
二、この日サイパン守備部隊は敵の圧迫に依り苦戦中なり。師団長および幕僚戦死の報あり (真偽不明)。
右に依り、サイパン絶対確保のため新たに二ヶ師団を増加し、且つあ号の実行を命令せらる。
三、独の新兵器出現す (十五日より連続使用)。
無人飛行機なりや大ロケット砲なりや不明なるも、効果甚大なるがごとく、英国は著しく混乱しあり。
昭和 19 年 6 月 19 日 月曜
機密戦争日誌
一、本日午前、彼我機動部隊主力接触、交戦しあるがごときも、夕刻に至るも状況判明せず。
帝国海軍の運命を決すべき大海空戦なり。
最悪の場合においてもせめて相打ち程度ならんことを祈る。
昭和 19 年 6 月 20 日 火曜
機密戦争日誌
一、昨日の海空戦において我が艦載機主力 (三〇〇機) を喪失。
我が艦隊は退避しあるがごときも、状況不明なり。
本日、大本営の空気は暗澹たり。
二、支那派遣軍より軍司令官、大使、二位一体の意見具申来たる。かくのごとき事態においては現地の意見然るべし。このほかに打開の道なし。
ただし陸軍大臣は不同意ならん。
三、夜市ヶ谷別館において将来の戦争指導に関し研究す。
昭和 19 年 6 月 21 日 水曜
機密戦争日誌
一、一昨夜の我が艦隊退避作戦は敵に追躡せられ、相当の損害を出したるがごとし。
一、本夜、昨日に引続き今後の戦争指導を研究す。
昭和 19 年 6 月 22 日 木曜
機密戦争日誌
一、本日独ソ開戦三周年記念日なり。
三年前独軍の勢を想起し転 [うた] た今昔の感に堪へず。
二、カレリヤ戦線、ソ軍突破に成功し、ヴィボルグを占領す。
芬が依然現態勢をもって戦争を継続し得るや否やは疑問なり。
昭和 19 年 6 月 23 日 金曜
機密戦争日誌
一、海軍はサイパンの重要性に鑑み、残存空母を主体とし有らゆる飛行機を動員集中し、あ号作戦の再興を決意するがごとし。兵力消耗を恐れ敵機動隊の跳梁を黙認せんか、旬日を出でずしてサイパンの惨害は本土、南西、台湾、至る所に惹起すべし。
海軍の決意は帝国として最良の策にあらざるもまた、現情勢に対処するやむを得ざるの方途なり。
陸軍も中部太平洋国防の本質的性格を把握し、観念に陥ることなく、十全支援を惜しまざるを要す。
ここに今般、中部太平洋方面戦局に対処するための大本営首脳の空気を述べ、後世史家の参考に資す。
●去る二月、トラック来攻により我が統帥部は愕然とせり。
第二十班はこの前後、亜欧全般の情勢を洞察し、昨年九月御決定の戦争指導大綱に根本的検討を加へ、昭和十九年末を目途とする戦争指導方策案を策定中の処、三月十五日第三案を得、本案をもって上司に意見を具申すべく、まづ松谷大佐より第一部長、第二課長、橋本少佐より第二課瀬島少佐の意見をそれぞれ求む。大体異存なし。
ただし第一部長は趣旨同意なるも、これを印刷に附して残すは不可なりとの意見なり。
次長は内容の重大性に鑑み、今本案を高級次長、総長に提出するも、その飛躍の困難性を見透し、しばらく時機を待つべく、絶対に外部に出さざるごとく命ぜり。
かくして陸海軍首脳の中部太平洋方面の重要性に関する根本的施策の思想統一は不十分なるままにて両作戦間にあ号作戦計画を樹立せられたり。
あ号失敗の原因はここに存す、即ち皇国の浮沈を決すべき重大作戦を何ら戦争指導的に検討せられざりし点に存す。
結果的に見て、陸軍のあ号作戦に関する援助は、既に実施せる以上には困難なりしならんも、その思想において協力一致の真情を得たらんには、かくのごとき悲惨なる結果に陥らざるべし。
海軍の軽卒なる作戦、劣拙なる統帥は今更論ずるの要なきも、対米戦争に関する限り国防の本質が海軍に存する点に関する陸軍の認識不足もまた重大なる責任なり。
更にここに大書して戦史研究家の批評に俟つべき点は、中部太平洋方面島嶼防衛戦斗に関する陸軍作戦責任者の戦略･戦術思想なり。即ちサイパンに敵来攻するや、真田第一部長、服部第二部長は、｢此の堅固なる正面に猪突し来たれるは敵の過失にして、必ず確保し得べし｣ と断言せることなり。
制海空権薄弱ないしはなき場合、絶対優勢なる海空軍支援下に上陸し来たれる敵に対する孤島防衛思想は、陸上における持久戦斗と本質的差違を有しある点を全く忘却せる言なり。
ここに御仁は所謂作戦家の、日進月歩せる卓抜なる科学力を基礎とする戦略思想の飛躍に対し旧態依然として牙城を固守、何人の忠言をも拒否し来たれる自慰的自負心の罪に帰せざるを得ず。かくのごとき過失は昨年六月敵のレンドバ上陸以来連続し来たりたるものなり。
かく反省し来たれば、本作戦の成果は今にして周章するの必要なく、当然の帰結と称すべきなり。
しかしてさらに、この間における総長の大本営統帥は小刻みにして、決心処置の変更は数回に及びたるところあり、かつ今日のごとき最悪事態の惹起を予期し、これが対処方策の研究準備に関し一案を意見具申したるも採用せられず。是と信じたる事を飽くまで上司に貫徹せんとする下僚の熱意不足もさることながら、かくのごとき複雑なる諸元を一人にて処理せざればもって満足 し得ざる総長の性格もまた重大なる影響を与へある点、看過し得ざるものとす。将帥の性格と作戦の帰趨は実に致命的関係を有する点を再確認せざるを得ず。
昭和 19 年 6 月 24 日 土曜
機密戦争日誌
一、ソ軍は一昨日の記念日を期し独ソ戦線に於てモギーレフ、ヴィテブスク方面より夏期攻勢を開始せり。その規模、強大なり。
二、海軍のあ号作戦に関し陸軍と協議の上、中止するに決す。則ち帝国はサイパン島を放棄することとなれり。来月上旬中にはサイパン守備隊は玉砕すべし。
最早、希望ある戦争指導は遂行し得ず、残るは一億玉砕による敵の戦意放棄を俟つあるのみ。
昭和 19 年 6 月 25 日 日曜
機密戦争日誌
一、昨二十四日朝来、硫黄島に対し敵機動艦隊来襲中なり。その兵力、左のごとし。
Ａ大✕２ Ａ✕２ Ｂ✕３ Ｃ大✕４
Ｄ✕８
我が海軍航空はこれを攻撃中にして、判明せる戦果、
撃墜 37 機 艦型未詳 二 大型空母二、
我が方未帰還、二十数機。
昭和 19 年 6 月 26 日 月曜
一、北仏作戦シェールブール要塞、米軍占領。
米英軍の北仏橋頭堡確立は一応成功と観るを至当とすべし。
二、橋本少佐、本日より、新情勢に基づき昭和二十年春頃を目途とする戦争指導に関し、研究を始む。
昭和 19 年 6 月 10 日 土曜
機密戰爭日誌
一､｢ソ｣ 軍 ｢カレリヤ｣ 地峡ニ大攻勢ヲ開始ス
一､班長､橋本 伊豆山ニ於テ毛利氏ヨ戰爭争指導ニ
関スル意見ヲ聽取ス
昭和 19 年 6 月 11 日 日曜
機密戰爭日誌
一､｢サイパン｣ 大規模ノ空襲アリ､
敵機動部隊出撃セルカ如シ､細部ハ不明ナリ､
尚 ｢パラオ｣ ｢グワム｣ モ空襲ノ算アリ､
昭和 19 年 6 月 12 日 月曜
機密戰爭日誌
一､｢サイパン｣ 空襲敵機ハ約二〇〇機ニシテ敵機動部隊主力
出擊シアラバ更ニ同数機程度ノ空襲ヲ実施シ得ヘシ､
小笠原方面來襲ノ算アリ､
｢サイパン｣ ノ戰果､損害不明ナリ､
一､六月上旬ニ於ケル船舶損耗狀況左ノ如シ､
沈没 11 隻 5.6 万屯､損傷 6 隻 4.1 万屯､
一､｢カレリヤ｣ 地峡 40 km 突破サル､
一､朝鮮鉄道複線化ニ関シテハ近ク第三部長渡満シ､
左記要領ニ依リ関東軍ト交渉スル予定ナリ (一八五粁複線)
1. 少量ニテモ朝鮮内鉄道ノ撤収ニ依リ捻出
2. 関東軍作戰集積を使用､(一七七粁)
3. 線路撤去ノ場合ハ､金城線 葉赤線ノ順序トス
4. 機関車三〇〇輌ノ製作ヲ追加スル如ク
陸軍省ニ要求
昭和 19 年 6 月 13 日 火曜
機密戰爭日誌
一､昨十二日 再ヒ ｢サイパン｣ ニ対シ六次ニ亘リ四〇〇機ノ來襲
アリ､擊墜三〇機､
二､渾作戰再興ノ為､武蔵 扶桑 及 潜水戰隊ヲ使用シ
十四日 ｢ソロン｣ 出港ノ予定ナリ､
三､島村参謀ノ印象ニ依レハ GF ハ ｢ア号｣ 作戰遂行ノ自信
無キカ如ク比島周辺ノ作戰ニ專念セントスル傾向ニアリ､
四､北東方面ヨリ戰斗､軽爆､襲擊各一戰隊ヲ ｢ビルマ｣ ヘ
轉用スルコトゝナレリ
尚 49 D モ取リ敢ヘス ｢ビルマ｣ ヘ投入ス､
五､｢ソロン｣ ｢ハルマヘラ｣ ｢アンポン｣ ｢セラム｣ 地区ニ対シ混成一旅団ヲ投入ス
六､開戰以來ノ日本軍海沒狀況左ノ如シ､
昭和十七年 二､四六〇
十八年 九､九三九 }計三〇､三七四名
十九年 一七､七七五
七､中日 ｢ソ｣ 大使近ク歸國ノ予定 (大ナル意義ナシ、日本滯在五年)
八､永井大佐支那出張報吿要旨､
1. 余漢謀工作ハ余ノ性格ヨリ判断シ灰色化程度ナルヘシ､
2. 李済工作ハ良好ナル場合ハ西南將領ノ反將運動ニ
非ス､寧ロ新占據地域ノ民衆獲得､將領ノ切リ崩シ
軍隊ノ灰色化ニ謀畧重点ヲ指向スルヲ可トス
九､｢ウオーレス｣ 赴支ノ目的ハ左ノ如ク観察セラル
1. 米ノ対支協力ノ確言
2. ｢ソ｣ ヲ介シテ対支援助ノ強化
昭和 19 年 6 月 14 日 水曜
機密戰爭日誌
一､松輪島ニ本朝 敵駆逐艦五−六隻出現シ約一時間ニ亘リ砲擊ス､
中部太平洋戦争方面ノ敵企圖ニ対スル陽動ト判断セラル､
二､｢マリアナ｣ ニ來攻シアル敵機動部隊ハ電波ヲ發信シアリテ從来ト異ナル行動ヲ採リアリ 注意ヲ要ス
三､｢アドミラルテイ｣ ニハ依然 艦艇集中シアリ 狀況 左ノ如シ
A−6 B−10 C−25 D−10 T−90
四､全軍ノ補給狀況左ノ如シ
1. ビルマ
月間一万四千屯 (一万屯ハ鉄道及陸路､四千屯ハ海路) ニ
シテ要補給量ノ半量ナリ､
弓兵團及山本支隊方面
各日量二屯ニシテ常續補給ハ可､彈薬 1/20 會戰程度
祭及烈兵團方面
日量五〜一〇屯､糧食ハ常續補給不能ナリ､彈薬ハ四〜八屯ニテ可ナリ
尚 ｢ビルモ｣ 全域ノ自動車數ハ一万輌ナルモ使用可能ハ 60 ％程度ナリ､
2. 18A 方面の狀況､
兵額七万、彈薬ハ 0.5 師団会戰分ナルモ現兵力ニ対
シテハ一会戰分､但大部ハ ｢ウェクワ｣ ニ集積シアリ､
尚猛方面ニ対シテハ潛水輸送一〜二隻実施ノ予定､
3. 濠北地区､
兵額 15 万 彈薬二師団会戰分､糧秣四ヶ月分､航空 1.5 FD 分､
4. 中部太平洋方面
兵額 11 万 彈薬二師団 常續四〜五ヶ月分､但 ｢パラオ｣ 八ヶ月分､
5. 北東方面
兵力展開完了セリ､兵額 6 万強､彈薬一､二会戰分､防空彈薬二会戰分､糧秣半年､薪炭一〜二ヶ月分､
五､GF ハ再ヒ渾作戰ヲ中止シ 艦隊ニ対シ､原所屬復歸ヲ命シタリ､朝三暮四､兵ノ運用ヲ知ラス
六､本朝 ｢サイパン｣ ニ対シ戰艦以下二十数隻ニテ砲擊中ナリ､本夕 若クハ明朝 上陸ノ氣配濃厚ナリ､
傍若無人ノ敵ノ振舞ニ対シ帝國海軍何レニアリヤ､
陸軍部隊ハ志氣旺盛､満ヲ持シテ擊滅ヲ期シアリ､
あり。
七、夜 秦次長歸任セラル､
昭和 19 年 6 月 15 日 木曜
機密戰爭日誌
一､本朝四､五〇 敵遂ニ ｢サイパン｣ ニ上陸ヲ開始セリ､
輸送船四〇〜五〇隻､一師團ト判断セラル､
我在 ｢サイパン｣ 兵力ハ一二大隊 海軍一大体隊､
第三十一軍司令官
將ニ太平洋方面戰斗ノ天王山ナリ､
此ノ一大決戰ニ現地軍ノ勇戰奮斗ヲ祈ルヤ切ナリ､
二､海軍本朝 ｢あ号｣ 作戰ヲ決意ス三､宮中 [×連絡×] <大本> 営ニ両作戰課勤務ノ件ハ良好ナリ､
機密戰爭日誌
昭和 19 年 6 月 16 日 金曜
一､｢サイパン｣ 來攻ノ敵ハ二ヶ師團ト判断セラル
二､本早朝 敵 北九州ヲ空襲ス､
支那本土 (成都ナラン) ヲ發シ二十数機 (B-24 ヲ主体 B-29 ヲ含厶)
來襲､済州島警戒機 之ヲ補捉ス
損害ハ軽微ナルカ如ク､七機 (B-29 一ヲ含ム) 撃墜ス
三､次長以下支那出張報告 要旨､
1. 總長ノ意圖
(ｲ) ト號作戰ノ目的ハ重慶ニ非ス､米空軍ノ覆滅ニアリ､
(ﾛ) 遂川､南雄ノ覆滅作戰ヲヤル必要アリ､
(ﾊ) 作戰終末將ノ航空基礎態勢ヲ考慮スルヲ要ス
(ﾆ) 挺進團ヲ使用スル場合ノ用法ヲ研究シ置クヲ要ス
(ﾎ) 後方占據地域處理ノ要綱ヲ十分研究スルヲ要ス
(ﾍ) 捕獲兵器ノ実况ト之カ活用ヲ把握スルコト
(ﾄ) 占據地域治安維持ノ為､中國軍隊ノ活用ヲ如何ニスルヤ､
(ﾁ) 作戰ノ成果ヲ政戰両略ニ活用シ得ルヤ見透如何､
2. 支那ニ於ケル彼我航空戰力比ハ一：三 (時ニ一：四)
3. 米支空軍ハ燃料彈薬少シ､
4. 第十一軍ノ兵額ハ人 22 萬 俘虜 5 萬 馬 5.6 萬頭
5. 今囘ノ作戰ハ桂林進出ノ前後ニ最モ注意ヲ要ス
雲南ヨリノ轉用部隊ハ九〜十月頃到着ス
6. コ号作戰ノ成果ハ一ツニ訓練ノ賜物ナリ､
敵ニ與ヘタル打擊ハ人 50 ％ 火砲ハ大部､重火器ハ 30 ％ナリ､
從ツテ當面ノ敵ハ年末頃迄ハ戰力恢復困難ナルヘシ､
7. コ号作戰ニ於ケル戰車師団ノ損害大ナリ (30 ％) 整備不十分､
8. ト号作戰ハ目下ノ所我兵力絶対優勢ニシテ成功ノ確算
アルモ爾後ノ補給カ問題ナリ､
9. 要安作戦ハ万難ヲ排シテ実行スルノ要アリ､
10. 奥漢線ハ現地自活ノ為建設ノ要アリ､
四､畑司令官ヨリ衡陽奪取時機ニ重慶ニ対スル政治攻勢
ヲ実施シテ如何トノ意見アリ､總長ハ不可､
五､支那作戰ニ基ツク帝国ノ宣傳要領並ニ大本營發表ノ
帝國政府聲明 (案) ヲ次長ヨリ意見､具申､早速
実施スルヲ目途ニ研究ヲ進メラル､
亊務手續ノ問題ニ依リ第一部長､第二部長憤然タルモノアリ､
現下ノ戰局重點ハ太平洋ニ存ス､國民ノ視聽モ亦
乍遺憾支那ヲ問題トシアラス､總長ノ乘氣稍〻如何
カト思考セラルルモ、太平洋ノ戰局推移ト關連スルノ
措置トシテ實施スルヲ可トス､
六､六月十六日迄ノ船舶ノ損害左ノ如シ､
沈沒８萬屯､損傷７萬屯､
昭和 19 年 6 月 17 日 土曜
機密戰爭日誌
一､外務大臣ヨリ九州空襲狀況ヲ上奏ス
防空対策ノ徹底並ニ死傷者ノ救恤ヲ十分ニセヨトノ有難キ
御詞ヲ拜ス
二､第一四半期生産実績 (鉄類) 左ノ如シ
計画 実績
鋼材 一一五. 五万屯 一〇七. 二万屯
鍛鋼 五. 七〃 五. 七〃
鋳鋼 八. 一〃 七. 七〃
特殊鋼 二八. 〇〃 二六. 〇〃
現状ヲ以テ推移セハ第二四半期ハ一一五万屯ノ計画ニ対シ
95 万屯程度トナルヘシ 然ル場合 BX ハ一四万屯減トナル
三、本日西部軍ノ防空戦斗ニ対シ御嘉賞ノ御詞ヲ賜フ
昭和 19 年 6 月 18 日 日曜
機密戰爭日誌
一､｢ヤツプ｣ 基地航空ヲ以テ敵機動部隊ヲ攻擊シ､左ノ
如キ戰果ヲ擧グ
Ａ―４~５ Ａ特―３ Ｐ―３ Ｔ―３
擊沈、炎上
二､此ノ日 ｢サイパン｣ 守備部隊ハ敵ノ压迫ニ依リ苦戰中ナリ
師團長及幕僚戰死ノ報アリ (眞偽不明)
右ニ依リ ｢サイパン｣ 絶対確保ノ為 新ニ二ヶ師團ヲ増加シ
且ア号ノ実行ヲ命令セラル
三､独ノ新兵器出現ス (十五日ヨリ連續使用)
無人飛行機ナリヤ､大ロケット砲ナリヤ不明ナルモ
効果甚大ナルカ如ク､英國ハ著シク混乱シアリ
昭和 19 年 6 月 19 日 月曜
機密戦争日誌
一､本日午前彼我機動部隊主力接觸交戰シアル
カ如キモ夕刻ニ至ルモ狀況判明セス､
帝國海軍ノ運命ヲ決スベキ大海空戦ナリ､
最悪ノ場合ニ於テモセメテ相打程度ナランコトヲ祈ル､
昭和 19 年 6 月 20 日 火曜
機密戰爭日誌
一､昨日ノ海空戰ニ於テ我カ艦載機主力 (三〇〇機) ヲ喪失
我カ艦隊ハ退避シアルカ如キモ狀況不明ナリ
本日大本營ノ空氣ハ暗澹タリ､
二､支那派遣軍ヨリ軍司令官､大使二位一体ノ意見
具申來ル､斯クノ如キ亊態ニ於テハ現地ノ意
見可然 此外ニ打開ノ道ナシ
但シ陸軍大臣ハ不同意ナラン
三､夜市ヶ谷別館ニ於テ將來ノ戰爭指導ニ關シ研究ス
昭和 19 年 6 月 21 日 水曜
機密戰爭日誌
一､一昨夜ノ我艦隊退避作戰ハ敵ニ追躡セラレ
相當ノ損害ヲ出シタルガ如シ､
一､本夜昨日ニ引續キ今後ノ戰争指導ヲ研究ス
昭和 19 年 6 月 22 日 木曜
機密戰爭日誌
一､本日獨 ｢ソ｣ 開戰三周年記念日ナリ､
三年前独軍ノ勢ヲ想起シ轉タ今昔ノ感ニ堪ヘス､
二､ ｢カレリヤ｣ 戰線 ｢ソ｣ 軍突破ニ成功シ ｢ヴィボルグ｣ ヲ占領ス
芬カ依然現態勢ヲ以テ戰爭ヲ継續シ得ルヤ
否ヤハ疑問ナリ､
昭和 19 年 6 月 23 日 金曜
機密戰爭日誌
一､海軍ハ ｢サイパン｣ ノ重要性ニ鑑ミ残存空母ヲ主体ト
シ凡有飛行機ヲ動員集中シ ア號作戰ノ再興ヲ
決意スルガ如シ、兵力消耗ヲ恐レ敵機動隊ノ
跳梁ヲ默認センカ旬日ヲ出デズシテ ｢サイパン｣ ノ慘害
ハ本土、南西、臺灣至ル所ニ惹起スベシ、
海軍ノ決意ハ帝國トシテ最良ノ策ニ非サルモ亦
現情勢ニ對處スル已ムヲ得サルノ方途ナリ
陸軍モ中部太平洋國防ノ本質的性格ヲ把握シ
觀念ニ陷ルコトナク、十全支援ヲ惜シマサルヲ
要ス、
茲ニ今般中部太平洋方面戰局ニ対處スル為ノ
大本營首腦ノ空氣ヲ述ベ後世史家ノ參考ニ資ス
●去ル二月 ｢トラック｣ 來攻ニ依リ我ガ統帥部ハ
愕然トセリ、
第二十班ハ此ノ前後亜欧全般ノ情勢ヲ洞察シ昨年
九月御決定ノ戰爭指導大綱ニ根本的檢討ヲ加ヘ
昭和十九年末ヲ目途トスル戰爭指導方策案ヲ
策定中ノ處 三月十五日第三案ヲ得､本案ヲ
以テ上司ニ意見ヲ具申スベク､先ツ松谷大佐ヨリ
第一部長､第二課長､橋本少佐ヨリ第二課瀨嶋
少佐ノ意見ヲ夫々求ム､大体異存ナシ､
但シ第一部長ハ趣旨同意ナルモ､之ヲ印刷ニ附シテ
残スハ不可ナリトノ意見ナリ
次長ハ内容ノ重大性ニ鑑ミ､今本案ヲ髙級次長､
總長ニ提出スルモ其ノ飛躍ノ困難性ヲ見透シ
暫ク時機ヲ待ツヘク､絶対ニ外部ニ出ササル如ク
命セリ､
斯クシテ陸海軍首腦ノ中部太平洋方面ノ重要性ニ
関スル根本的施策ノ思想統一ハ不十分ナル侭ニ
テ両作戰間ニあ号作戰計画ヲ樹立セラレタリ､
あ号失敗ノ原因ハ此處ニ存ス､即チ皇國ノ浮沈ヲ
決スベキ重大作戰ヲ何等戰爭指導的ニ検討セ
ラレサリシ点ニ存ス
結果的ニ見テ陸軍ノあ号作戰ニ関スル援助ハ既ニ
実施セル以上ニハ困難ナリシナランモ、其ノ思想ニ於テ
協力一致ノ眞情ヲ得タランニハ斯クノ如キ悲惨ナル
結果ニ陷ラザルベシ、
海軍ノ軽卒ナル作戰、劣拙ナル統帥ハ今更論スルノ
要ナキモ対米戰爭ニ関スル限リ國防ノ本質ガ海軍
ニ存スル点ニ関スル陸軍ノ認識不足モ亦重大ナル責任
ナリ
更ニ此處ニ大書シテ戰史硏究家ノ批評ニ俟ツヘキ
点ハ中部太平洋方面嶋嶼防衛戰斗ニ関スル陸軍
作戰責任者ノ戰略､戰術思想ナリ､即チ ｢サイパン｣ ニ
敵來攻スルヤ､眞田第一部長､第二部長ハ､
｢此ノ堅固ナル正面ニ猪突シ來レルハ敵ノ過失ニシテ
必ズ確保シ得ヘシ｣ ト断言セルコトナリ､
制海空權薄弱乃至ハ無キ場合､絶対優勢ナル
海空軍支援下ニ上陸シ來レル敵ニ対スル孤嶋防
衛思想ハ陸上ニ於ケル持久戰斗ト本質的差違ヲ
有シアル点ヲ全ク忘却セル言ナリ､
茲ニ御仁ハ所謂作戰家ノ日進月歩セル卓拔ナル
科學力ヲ基礎トスル戰略思想ノ飛躍ニ対シ舊態
依然トシテ牙城ヲ固守､何人ノ忠言ヲモ拒否シ來 レル
自慰的自負心ノ罪ニ歸セザルヲ得ズ､斯クノ如キ
過失ハ昨年六月敵ノ ｢レンドバ｣ 上陸以来連續シ
來リタルモノナリ､
斯ク反省シ來レバ本作戰ノ成果ハ今ニシテ周章ス
ルノ必要ナク､當然ノ歸結ト稱スヘキナリ､
而シテ更ニ此ノ間ニ於ケル總長ノ大本營統帥ハ
小刻ミニシテ決心處置ノ変更ハ数囘ニ及ヒタルトコロアリ
且今日ノ如キ最悪事態ノ惹起ヲ予期シ､之ガ対處
方策ノ研究準備ニ関シ一案ヲ意見具申シタルモ採用セラレス
是ト信シタル事ヲ飽迄上司ニ貫徹セントスル下僚ノ
熱意不足モサルコトナカラ、斯クノ如キ複雜ナル諸元ヲ
一人ニテ處理セザレハ以テ満足 シ得ザル總長ノ性格
モ亦重大ナル影響ヲ與ヘアル点看過シ得サルモノトス
將帥ノ性格ト作戰ノ歸趨ハ実ニ致命的関係ヲ
有スル点ヲ再確認セサルヲ得ス
昭和 19 年 6 月 24 日
一､｢ソ｣ 軍ハ一昨日ノ記念日ヲ期シ独 ｢ソ｣ 戰線ニ於テ
｢モギーレフ｣ ｢ヴィテブスク｣ 方面ヨリ夏期攻勢ヲ開始
セリ､其ノ規模 強大ナリ､
二､海軍ノあ号作戰ニ関シ 陸軍ト協議ノ上 中止スルニ決ス
則チ帝國ハ ｢サイパン｣ 島ヲ放棄スルコトヽナレリ
來月上旬中ニハ ｢サイパン｣ 守備隊ハ玉碎スヘシ、
最早 希望アル戰爭指導ハ遂行シ得ス 残ルハ一億玉碎ニ依ル敵ノ戰意放棄ヲ俟ツアルノミ
昭和 19 年 6 月 25 日 日曜
機密戰爭日誌
一､昨二十四日朝來硫黄島ニ対シ敵機動艦隊來襲
中ナリ､其ノ兵力 左ノ如シ､
Ａ大✕２ Ａ✕２ Ｂ✕３ Ｃ大✕４ Ｄ✕８
我ガ海軍航空ハ之ヲ攻擊中ニシテ判明セル戰果
擊墜 37 機 艦型未詳 二 大型空母 二､
我ガ方未歸還 二十数機
昭和 19 年 6 月 26 日 月曜
一､北佛作戰 ｢シェールブール｣ 要塞､米軍占領､
米英軍ノ北佛橋頭堡確立ハ一應成功ト観ルヲ
至當トスベシ、
二､橋本少佐 本日ヨリ 新情勢ニ基ツキ昭和二十年
春頃ヲ目途トスル戰爭指導ニ関シ研究ヲ
始ム
昭和 19 年 6 月 27 日 火曜
機密戰爭争日誌
一､橋本 終日作業
