[南京中立地帯案]
避難地区設定準備
上海【12.4】さきに在南京外国人によって設置された南京避難民地区設定委員会では、我が軍の南京攻略間近きを知って避難民地区設定を急ぎ、最近該委員長ジョン・レイブ氏より電報をもって我が上海外務当局あて、日本側の態度に関しこれが回答かた催促をなすとともに、上海南市避難民地区委員長、教父ジャキノー師に対しても、川越大使および日高参事官を訪問して、右回答を督促されたき旨、要請するところあった。しかるにジャキノー師の南京への返電は著しく悲観的であったため、委員会当局者は我が正式回答に一縷の望みをかけているものの、その実現がほとんど望みなきことが明らかとなった。なお支那側では、事態全く切迫し来たれるため我が回答を待たずして避難民地区の準備を急ぎ、すでに十万円の資金と三万俵の白米を用意しているとのことである。
中立地帯受諾困難
上海【12.5】南京における中立地帯設置問題につき、国際委員会は過般来、米国出先き当局を通じて我が方に提案し来たったが、大体左の理由により該案の受諾はすこぶる困難なる模様である。
1.南京自体が純然たる一つの要塞で、中立地帯として提案されている地域は何ら自然の障害物なく、境界を判然とし難い。
2.委員会自体が何ら実力を有せず、支那兵の潜入を防ぐこと、すこぶる困難と見られる。なお我方においては、中立地帯と予想される地域内には外人ならびに無辜の民が避難し居るものと認め、可能の範囲において、軍事設備なき限り、該区の安全を尊重するものと見らる。
南京在留外人撤退勧告
上海【12.8】南京の情勢刻々切迫し来たり、市内外はすでに戦場化するに至ったので、我が外務当局は在上海領事団主席、ノールウェー領事オール氏を通じ、南京在留一般外人の撤退勧告をなすとともに、軍当局は外国人所有に係る船舶車両等を、支那軍が駐屯し、また通過する場所ならびに軍事施設の付近より立ち退くよう勧告。もしこれを無視した場合の責任は遺憾ながら我が方に負わざる趣旨を通告した。
帝国大使館声明
上海【12.8】帝国大使館発言人は南京におけるいわゆる中立地帯ないし安全地帯の問題に関し、8日、左のごとく声明した。
昨今の南京発の外国通信はいわゆる南京中立地帯の委員なるものの活動状況ならびに避難民流入の状況を伝えているが、日本当局としては実に異常の困難に鑑み、遺憾ながら、いわゆる安全地帯の設置につき何等の保障を与えること能わざりしことは、周知のごとくである。
事実南京の地勢および防備状況等よりして、南京はそれ全体として言わば一大要塞を構成するものと言うべく、かかる地域のうちにいわゆる安全地帯なるものの存在することは寧ろ観念上の矛盾と言わざるを得ず。
素より帝国軍隊としては、屡次声明の通り、外国人の生命財産に就いては勿論、一般支那人民に対しても故意に戦争の惨禍を蒙らしむる意思は豪もない次第であるが、南京のいわゆる安全地帯なるものについては、叙上の理由に基づき、何等の保障を与うること能わず、これに避難する者はすべて自己の危険においてなすものと了解せられたく、万一戦闘の影響が右地帯に波及するとも責任を問わるべき地位になき事を、この際、特に闡明ならしめておきたい次第である。
[南京中立地帶案]
避難地區設定準備
上海【一二·四】曩に在南京外國人によつ
て設置された南京避難民地區設定委員會
では我軍の南京攻略間近きを知つて避難
民地區設定を急ぎ最近該委員長ジョン・
レイブ氏より電報を以て我が上海外務當
局宛日本側の態度に關し之が回答方催促
をなすと共に上海南市避難民地區委員長
敎父ジヤキノー師に對しても川越大使及
び日高參事官を訪問して右回答を督促さ
れたき旨要請する處あつた、然るにジヤ
キノー師の南京への返電は著しく悲觀的
であつたゝめ委員會當局者は我が正式回
答に一縷の望みをかけて居るものの其實
現が殆んど望みなき事が明かとなつた、
尚支那側では事態全く切迫し來れるため
我が回答を待たずして避難民地區の準備
を急ぎ旣に十萬圓の資金と三萬俵の白米
を用意してゐるとのことである
中立地帶受諾困難
上海【一二·五】南京に於ける中立地帶設置
問題に就き國際委員会は過般來米国出先
き當局を通じて我が方に提案し來つたが
大体左の理由により該案の受諾は頗る困
難なる模樣である
一 南京自體が純然たる一つの要塞で中
立地帶として提案されている地域は何
等自然の障害物無く境界を判然とし難
い
二 委員會自体が何等實力を有せず支那
兵の潜入を防ぐ事頗る困難と見られる
尚我方に於ては中立地帶と豫想される地
域内には外人並びに無辜の民が避難し居
るものと認め可能の範圍に於て軍事設備
なき限り該區の安全を尊重するものと見
らる
南京在留外人撤退勸告
上海【一二·八】南京の情勢刻々切迫し來り
市内外は旣に戰場化するに至つたので我
が外務當局は在上海領事團主席ノールウ
エー領事オール氏を通じ南京在留一般外
人の撤退勸告を爲すと共に軍當局は外國
人所有に係る船舶車輛等を支那軍が駐屯
し又通過する場所並に軍事施設の附近よ
り立退くやう勸告若し之を無視した場合
の責任は遺憾乍ら我方に於て負はざる趣
旨を通告した。
帝國大使館聲明
上海【一二·八】帝國大使館發言人は南京
に於ける所謂中立地帶乃至安全地帶の
問題に關し八日左の如く聲明した
昨今の南京発の外國通信は所謂南京中立
地帶の委員なるものゝ活動狀況並に避難
民流入の狀況を傳へてゐるが日本當局と
しては實に異常の困難に鑑み遺憾ながら
所謂安全地帶の設置につき何等の保障を
與へること能はざりしことは周知の如く
である、事實南京の地勢及防備狀況等よ
りして南京はそれ全體として言はゞ一大
要塞を構成するものと言ふべく斯かる地
域のうちに所謂安全地帶なるものゝ存在
する事は寧ろ觀念上の矛盾と言はざるを
得ず、素より帝國軍隊としては屢次聲明
の通り外國人の生命財產に就いては勿論
一般支那人民に對しても故意に戰爭の慘
禍を蒙らしむる意思は豪もない次第であ
るが南京の所謂安全地帶なるものに就い
ては叙上の理由に基き何等の保障を與ふ
る事能わず、之に避難する者は總て自己
の危險に於て爲すものと諒解せられ度く
万一戰鬪の影響が右地帶に波及するとも
責任を問はるべき地位になき事を此の際
特に闡明ならしめておき度い次第である
↑同盟旬報 第1巻 第17号(通号017号)
1439(37) 支那事変国際動向
https://www2.i-repository.net/il/meta_pub/G0000002chosakai_A03_0117_017(037)1439