◯四月十五日、朝鮮国の我が理事官を待つ、反復、前に論にずるが如し。故に後来の進止を仰がんため副官広津弘信および奥義制（時為三䓁書記生）一時帰朝、その情状を具上し、併せて建議する所あり。
軍艦を発遣し対州近海を測量せしめ、
もつて朝鮮国の内訌に乗し、もつて
我が応接の声援をせんことを請ふの議朝鮮国使事森山茂および弘信、二月二十五日より本月一日に至り現に弁理するの状、および彼国内相訌し、昨年九月我と相約する所の条件、未だ速やかに履行するに至らず、彼の訓噵玄昔運が上京往返間の日期を延るを告る事、および後来彼れ或は常に変に出づべき愚案、ならびにこれに処するの指令仰ぐ等、頃ろ数通の書をもつて献呈し業すでに清鑑を経、一に高裁を奉待す。ここに茂がかつて上請する所ろ声援の事、今その好機会にして間髪を容れさるの時なるをもつて、更に一議を連てその然らさるべからざる事由を具陳する、左の如し。
弘信、今也彼の国の景況を探知するに、彼民宰相横死し、大院君入城し、両党やや相軋るの勢ありて、一は漸く再煽を望み、一は頗る掣肘の累[わず]らひを生するに似たりといへども、従来、彼国人概ね大院の苛暴を怨むるをもつて、未だ俄に旧に復するに至らず。故に我の挙動、能く暗に開和の気勢を助け得べきなり。万一他日大院の党志を得て前約を履まさるに至らば、我もまた大いに力を用ひざるを得ざるべし。如かじ、今彼の内訌して攘鎖党未だその勢を成さざるの際に乗じ、力を用るの軽くして而して事を為すの易からんには。
即ち今我が軍艦一、二隻を発遣し、対州と彼国との間に往還隠見して海路を測量し、彼をして我が意の所在を測り得ざらしめ、また朝廷時に我が理事の遷延を督責するの状を示し、もつて彼に逼[せま]るの辞あらしめば、内外の声援に因つて理事の順成を促がし、また結交上に於ても幾分の権利を進むるを得べきは必然の勢なり。況や予め彼の海を測量するは、後来、事あると事なきとを問はず我に必要なるに於ておや。
我の力を彼の国に為す、只此時を好機会とす。而して今日、一二隻の小発遣は他日或は大に発遣せさるを得ざるの憂ひなからんを願ふの意にして、敢て軽々凶器を隣国に弄舞せんを欲するに非るなり。謹んで此に上申す。速に英断を賜へ。切願の至に堪へす。
明治八年四月
外務省六等出仕 広津弘信 頓首再拜
◯四月十五日朝鮮國ノ我理事官ヲ待ツ反復前ニ論スルカ如シ故ニ後来ノ進止ヲ仰カン為メ副官廣津弘信及ヒ奥義制 時為三䓁書記生 一時帰国朝其情状ヲ具上シ併テ建議スル所アリ
軍艦ヲ發遣シ對州近海ヲ測量セシメ
以テ朝鮮國ノ内訌ニ乗シ以テ我應接
ノ聲援ヲ為ンコトヲ請フノ議朝鮮國使事森山茂及ヒ 弘信 二月二十五日ヨリ本月一日ニ至リ現ニ辨理スルノ状及彼國内相訌シ昨年九月我ト相約スル所ノ條件未タ速ニ履行スルニ至ラス彼訓噵玄
昔運カ上京往返間ノ日期ヲ延ルヲ告ル事及ヒ後来彼レ或ハ常ニ変ニ出ツヘキ愚案并ニ之ニ處スルノ指令仰ク䓁頃ロ數通ノ書ヲ以テ獻呈シ業已ニ清鑑ヲ經一ニ高裁ヲ奉待ス爰ニ茂カ曽テ上請スル所ロ声援ノ事今其好機會ニシテ間髪ヲ容レサルノ時ナルヲ以テ更ニ一議ヲ連テ其然ラサル可カラサル事由ヲ具陳スル左ノ如シ
弘信 今也彼國ノ景况ヲ探知スルニ彼民宰相横死シ大院君入城シ両党稍相軋ルノ𫝑アリテ一ハ漸ク再煽ヲ望ミ一ハ頗ル掣肘ノ累ラヒヲ生スルニ似タリト雖モ従来彼國人概ネ大院ノ苛暴ヲ怨ムルヲ以テ未タ
俄ニ旧ニ復スルニ至ラス故ニ我ノ舉動能ク暗ニ開和ノ氣㔟ヲ助ケ得ヘキナリ萬一他日大院ノ党志ヲ得テ前約ヲ履マサルニ至ラハ我モ亦大ニ力ヲ用ヒサルヲ得サル可シ如カジ今彼ノ内訌シテ攘鎖党未タ其㔟ヲ成サヽルノ際ニ乗シ力ヲ用ルノ輕クシテ而シテ事ヲ為スノ易カランニハ
即今我軍艦一二隻ヲ発遣シ對州ト彼國トノ間ニ往還隠見シテ海路ヲ測量シ彼ヲシテ我意ノ所在ヲ測リ得サラシメ又朝廷時ニ我理事ノ遷延ヲ督責スルノ状ヲ示シ以テ彼ニ逼ルノ辞アラシメハ内外ノ聲援ニ因テ理事ノ順成ヲ促カシ又結交上ニ於テ
モ幾分ノ権利ヲ進ルヲ得ヘキハ必然ノ𫝑ナリ况ヤ豫メ彼海ヲ測量スルハ後来事アルト事ナキトヲ問ハス我ニ必要ナルニ於テオヤ
我ノ力ヲ彼國ニ為ス只此時ヲ好機會トス而シテ今日一二隻ノ小発遣ハ他日或ハ大ニ発遣セサルヲ得サルノ憂ヒナカランヲ願フノ意ニシテ敢テ輕々凶器ヲ隣國ニ弄舞センヲ欲スルニ非ルナリ謹テ此ニ上申ス速ニ英断ヲ賜ヘ切願ノ至ニ堪ヘ
明治八年四月
外務省六䓁出仕廣津弘信頓首再拜
↑対韓政策関係雑纂／朝鮮交際始末 ３．第三巻 自 明治七年 至 明治九年／２ 同八年乙亥 １
https://www.jacar.archives.go.jp/das/meta/B03030192800
JACAR（アジア歴史資料センター）Ref.B03030192800
（1-1-2-3_22_001）（外務省外交史料館）
二九 四月二十三日(假) 廣津副官ヨリノ建議書
朝鮮國内訌ニ際シ交涉促進ノ爲
軍艦派遣アリ度旨具申ノ件
軍艦ヲ發遣シ對州近海ヲ測量セシメ以テ朝鮮國ノ内訌ニ乘シ以テ我應接ノ聲援ヲ爲ン事ヲ請フノ議
朝鮮國使事森山茂及ヒ 弘信 二月二十五日ヨリ本月一日ニ至リ現ニ辨理スルノ狀及彼國内相訌シ昨年九月我ト相約スル所ノ條件未タ速ニ履行スルニ至ラス彼訓噵玄昔運カ上京往返間ノ日期ヲ延ルヲ告ル事及ヒ後来彼レ或ハ常ニ變ニ出ツヘキ愚案幷ニ之ニ處スルノ指令仰ク等頃ロ數通ノ書ヲ以テ獻呈シ業已ニ淸鑑ヲ經一ニ高裁ヲ奉待ス爰ニ茂カ曾テ上請スル所ロ聲援ノ事今其好機會ニシテ間髪ヲ容レサルノ時ナル
ヲ以テ更ニ一議ヲ連テ其然ラサル可カラサル事由ヲ具陳スル左ノ如シ
弘信 今也彼國ノ景況ヲ探知スルニ彼民宰相横死シ大院君入場シ兩黨稍相軋ルノ勢アリテ一ハ漸ク再煽ヲ望ミ一ハ頗ル掣肘ノ累ラヒヲ生スルニ似タリト雖モ從來彼國人槪ネ大院ノ苛暴ヲ怨ムルヲ以テ未タ俄ニ舊ニ復スルニ至ラス故ニ我ノ擧動能ク暗ニ開和ノ氣勢ヲ助ケ得ヘキナリ萬一他日大院ノ黨志ヲ得テ前約ヲ履マサルニ至ラハ我モ亦大ニ力ヲ用ヒサルヲ得サル可シ如カジ今彼ノ内訌シテ攘鎖黨未タ其勢ヲ成サヽルノ際ニ乘シ力ヲ用ルノ輕クシテ而シテ事ヲ爲スノ易カランニハ
卽今我軍艦一二隻ヲ發遣シ對州ト彼國トノ間ニ往還隱見シテ海路ヲ測量シ彼ヲシテ我意ノ所在ヲ測リ得サラシメ又朝廷時ニ我理事ノ遷延ヲ督責スルノ狀ヲ示シ以テ彼ニ逼ルノ辭アラシメハ内外ノ聲援ニ因テ理事ノ順成ヲ促カシ又結交上ニ於テモ幾分ノ權利ヲ進ルヲ得ヘキハ必然ノ勢ナリ況ヤ豫メ彼海ヲ測量スルハ從來事アルト事ナキトヲ問ハス我ニ必要ナルニ於テオヤ
我ノ力ヲ彼國ニ爲ス只此時ヲ好機會トス而シテ今日一二隻
ノ小發遣ハ他日或ハ大ニ發遣セサルヲ得サルノ憂ヒナカランヲ願フノ意ニシテ敢テ輕々凶器ヲ隣國ニ弄舞センヲ欲スルニ非ルナリ謹テ此ニ上申ス速ニ英斷ヲ賜ヘ切願ノ至ニ堪ヘス
明治八年四月
外務省六等出仕 廣津弘信 頓首再拜
（朝鮮交際始末）
註 右建議書日附ヲ缺クモ「朝鮮理事誌」四月二十三日ノ項ニ「副官正院ヘ出頭シ軍艦發遣ノ議ヲ献ス」トアリ
↑日本外交文書デジタルアーカイブ
第8巻(明治8年／1875年)
4 朝鮮国トノ通交ニ関スル件
https://t.co/Vb3BBy6DNp https://t.co/iM8A5pN6tu
