Ob-La-Di Oblako 文庫

帝国日本の侵掠戦争と植民地支配、人権蹂躙を記憶し、再現を許さないために、ひたすら文書資料を書き取る。姉妹ブログ「歴史を忘れる民族に未来はない!」https://obladioblako.hateblo.jp/ のデータ·ベースを兼ねる。

【工事中】「人民=大御宝」 論 本居宣長『古事記伝』、平田篤胤『玉襷』等より

大江匡房『江家次第』十八より

 《三》改元の事

大臣、陣に参り仰せを奉る (或は里第においてこれを奉る実資が例)。式部の大輔、文章博士等に仰せて年号の字を勘申せしむ (陣に召して仰すべきなり。近例、或は外記をして伝へ仰せしむ)。改元せらるべき日は大臣、陣に参りて定め申す。先、外記に仰せて諸卿を催さしむ。外座に着して膝突きを置かしむ。外記、勘文を進る。先、陣の座に居ながら蔵人をして勘文等を奏せしむ。定め申すべきの仰せを蒙り諸卿共に定め申す。次いで大弁をしてこれを読ましむ。両三を定めてこれを奏す (蔵人に付して奏せしむ)。重ねてこの中いづれの年号を用ゐるべきやの由を仰せらる。勘文は御所に留む。

上余白:【天暦記。御筆を以て註せらる云々】

また一定を奏せしむ (或は諸儒の進る所扶けざるに依り、御所より給はる延長、天暦、康保等の例なり)。次いで詔書を作らしむべき由を仰せらる (仰詞の中、其の例に依る由を仰せらる。代初には赦なし。自余は多く赦の例あり。代々同じからず。大臣、内記を召してその由を仰す (もし内記なきには儒者の弁をして之を作らしめ、先にその由を奏するの弁、笏に副へてこれを進る。上卿、外記の筥に入れ奏す)。次いで草を奏す (外記の筥に入れ殿上の弁作る時は外記をして内覧せしむ)。次いで清書を奏す (黄紙)。奏下の後、御畫日の有無を披見すべし。次いで外記をして召中務輔もしくは丞を召せしめ、これを給ふ (筥に入れながらこれを給ふか。もし丞候はずば、外記をして録に伝へ給ふ希有の例なり)。次いで吉書を下さる (先、官方。次いで蔵人方)。

詔書覆奏以前に京官は新年号を用ゐ、諸国は官府の後、これを用ゐる。その施行の官府、京官に給ふ。二通は詔書に騰げず諸国に給ふ。八枚は詔書に騰ぐ。

年号の勘申の事
 々々
 その書曰く々々
 々々
 その書曰く々々
右、宣旨に依り勘申、件の如し。
         官兼官姓朝臣

菅家には年月日、位等を註す。
余人は江家の儀の如し。

もし赦有る時

非常赦は大臣、検非違使の佐以下一人を召して、詔書

上余白:【佐、緒を平らぎ笏を取る】

施行以前に見徒を免ずべき由を仰す。佐、検非違使等を召し相分ちて左右の  獄に向はしむ。佐、或は胡籙を帯び馬に乗りて獄門に立ち、囚等を召し出で

上余白:【佐、仰せ云ひ囚ら承る】

これを看督の長に仰す。作法、佐、仰せ云ひ、その事 (もしくはその変) に依り殊に以て免じ給ふ。「おのおの本貫に罷り還り、重犯つかふまうらず、公の為めに御財、御調物備へ進れ。」 看督長 [カトノオサ] 曰く 「乎吉し」と。囚ら称唯す。佐、仰せて曰く 「早く□ [金+𠀋] 取れ。」 常赦者には別当これを奉り、道志をして、赦に会ふべき輩を勘申せしめ、後にこれを免ず。

詔に云ふ。

それ々々何の年を改めて々々元年と為す。宣政 (宇丈巳日)、廣運 (軍走)、隆化 (降死)、大象 (大人象)、大業 (大苦末)、元亨 (二月七日)、天正 (天一止)、元始 (不吉)、天漢 (漢字冝水)、治暦、また固件の例。

 

https://dl.ndl.go.jp/pid/12865906/1/6

《三》改元
大臣叅陣奉仰 或於里第奉之實資例式部大輔文章愽士|等令勘申年号字 召陣可仰也近例|或令外記傳仰 可被改元日大|臣叅陣定申 先仰外記令催諸卿 着外座令置膝突外記進勘|文先乍居陣座令蔵人奏勘文等次蒙可定申之仰|諸卿共定申次令大弁讀之定兩三奏之 付|蔵|人令| 重被仰此中可用何年号哉由勘文留

《三》改元ノ事
大臣陣ニ参ジ仰ヲ奉ル 或ハ里第ニ於テ之ヲ奉ル実資ガ例 式部ノ大輔文章博士等ニ仰セ年号ノ字ヲ勘申セ令厶 陣ニ召シ仰ス可キ也或ハ外記ヲシテ伝ヘ仰セ令ム 改元セ被ル可キ日大臣陣ニ参ジテ定メ申ス 先外記ニ仰セ諸卿ヲ催サ令厶 外座ニ着シ膝突ヲ置ク外記堪文ヲ進リ先陣ノ座ニ居乍ラ蔵人ヲシテ堪文等ヲ奏セ令厶次定メ申ス可キ之仰セヲ蒙リ諸卿共ニ定メ申ス次大弁ヲシテ之ヲ読マ令メ両三ヲ定テ之ヲ奏ス 蔵人ニ付シテ奏セ令厶 重テ此ノ中何ノ年号ヲ用ル可キ哉ノ由ヲ仰セ被ル勘文

https://dl.ndl.go.jp/pid/12865906/1/7

上余白:【天暦記以御|筆被註云云】

御所ニ又令奏一定 或依諸儒所進不扶自御所|被給延長天暦康保等例也 次被|仰可令作詔書仰詞中被仰依其例由代初無|赦自餘多有赦之例代々不同 大|臣召内記仰其由 若無内記者令儒者弁作之先奏|其由弁副笏進之上卿入外記筥| 次奏草 入外記筥殿上弁|作時令外記内覧 次奏清書 黄| 奏下後可|披見御畫日有無次令外記召中務輔若丞給之 乍|入|筥給之欤若丞不候者|令外記傳給録希有例也 次被下吉書 先官方次|蔵人方|

詔書覆奏以前京官用新年号諸国者官府後用|之其施行官府給京官二通者不騰詔書給諸國|八枚者騰詔書

勘申年号事

上余白:【天暦記、御筆ヲ以テ註セラル云云】

御所ニ留ム又令奏一定 或ハ諸儒進ム所扶ケザルニ依リ御所ヨリ給ハル  次テ可詔書ヲ作ラシムベキ由ヲ仰セラル 仰詞ノ中其ノ例ニ依ル由ヲ仰セラル代初ニハ赦無ク自餘ハ多ク赦之例有リ代々同ジカラズ赦自餘多ル依リ御所ヨリ給ハル 大臣内記ヲ召シ其ノ由ヲ仰ス 若シ内記無キニハ儒者ノ弁ヲシテ作ラシム之先ニ其ノ由ヲ奏シ弁笏ニ副ヘ之ヲ進リ上卿外記ノ筥ニ入レ奏ス 次テ草ヲ奏ス 外記ノ筥ニ入レ殿上ノ弁作ル時ハ外記ヲシテ内覧セシム 次テ清書ヲ奏ス 黄紙 奏下ノ後御畫日ノ有無ヲ披見スベシ次テ外記ヲシテ中務ノ輔若ハ丞ヲ召サシメ之ヲ給フ 筥ニ入レ乍ラ之ヲ給フ欤若シ丞不候ハズバ外記ヲシテ録ニ傳ヘ給ハシム希有ノ例ナリ 次テ吉書ヲ下サル 先ニ官方次ニ蔵人方

詔書覆奏以前ニ京官ハ新年号ヲ用ヰル諸国ハ官府ノ後之ヲ用ヰル其ノ施行ノ官府京官ニ給フ二通ハ詔書ニ騰ゲズ諸國ニ給ヒ八枚ハ詔書ニ騰グ

勘申年号ノ事

 

々々
其書曰々々
々々
其書曰々々

右依宣旨勘申如件

        官兼官姓朝臣
菅家者註年月日位等
餘人者如江家儀

若有赦之時

非常赦者大臣召撿非違使佐以下一人仰詔書

々々
其ノ書ニ曰ク々々
々々
其ノ書ニ曰ク々々

右宣旨ニ依リ勘申スルコト件ノ如シ

         官兼官姓朝臣
菅家ニハ年月日位等ヲ註ス
餘人ハ江家ノ儀ノ如シ

若シ赦有ル時

非常ノ赦ハ大臣撿非違使ノ佐以下一人ヲ召シ詔書

 

https://dl.ndl.go.jp/pid/12865906/1/8

上余白:【佐平緒取笏】

施行以前可免見徒由佐召撿非違使等相分向|左右獄佐或帶胡籙乗馬立扵獄門召出囚等仰

上余白:【佐仰云㘝等𣴎】

之看督長作法佐仰云其事 若其變 殊以免給各|罷還本貫重犯不奉仕爲公御財御調物備進礼|看督長曰乎吉囚等稱唯佐仰曰早□ [金𠀋] 取常|赦者別當奉之令道志勘申可會赦之輩後免之

詔云

其改々々何年爲々々元年宣政 宇丈|巳日 廣運 軍|走 隆|化 降|死 大象 大人|象 大業 大苦|末 元亨 二月|七日 天正 天一|止 元始|不|吉 天漢 漢字|冝水 治暦又固件例

上余白:【佐平緒取笏】

施行以前ニ見徒ヲ免ズベキ由ヲ仰ス佐撿非違使等ヲ召シ相分テ左右ノ獄ニ向シム佐或ハ胡籙ヲ帶ビ馬ニ乗リ獄門ニ立チ囚等ヲ召出テ

上余白:【佐仰云㘝等𣴎】

之ヲ看督ノ長ニ仰ス作法佐仰云其ノ事 若ハ其ノ變 ニ依リ殊ニ以テ免ジ給フ各|本貫ニ罷還リ重犯奉仕 [ツカフマツラ] ズ公ノ爲メニ御財御調物備進レ看督長 [カトノヲサ] 曰ク乎吉ト囚等稱唯ス佐仰テ曰ク早ク□ [金𠀋] 取レ常赦ニハ別當之ヲ奉リ道志ヲシテ赦ニ會スベキ輩ヲ勘申シ後ニ之ヲ免ズ

詔ニ云

其々々何ノ年ヲ改テ々々元年ト爲ス宣政 宇丈|巳日 廣運 軍|走 隆|化 降|死 大象 大人|象 大業 大苦|末 元亨 二月|七日 天正 天一|止 元始|不|吉 天漢 漢字|冝水 治暦又固ヨリ件ノ例

大江匡房『江家次第』十八,刊,承応2 [1653] 跋. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/12865906 (参照 2024-06-07)

 

本居宣長古事記伝』より

天皇之御世 コノスメラミコトノミヨニ。役病多起 エヤミサハニオコリ。人民死 オホミタカラウセテ。爲盡 ツキナムトス。爾天皇愁嘆而 ココニスメラミコトウレヒタマヒテ。坐神牀之夜 カムトコニマシマセルヨ。大物主大神 オオモノヌシノオオカミ。顯於御夢曰 ミイメニアラハレテノリタマハク。

於是天皇大歡以 ココニスメラミコトイタクヨロコビタマヒテ。詔之天下平人民榮 アメノシタタヒラギオホミタカラサカエナムトノリタマヒテ。即以意富多多泥古命 スナハチコノオホタタネコノミコトヲ。爲神主而 カムヌシトシテ。於御諸山 ミモロヤマニ。拜祭意富美和之大神前 オホミワノオホカミノミマヘヲイツキマツリタマヒキ。又仰伊迦賀色許男命 マタイカガシコヲノミコトニオホセテ。作天下之八十毘羅訶 (此三字以音也) アメノヤソビラカヲツクリ。

◯人民は意富美多訶羅 [オホミタカラ] と訓むべし。書紀に、民、人民、万民、兆民、黎民、民庶、衆庶、黎庶、億兆、人物、人夫、庶人、居人、戸口、百姓、元々、蒼生、業々、黔首など、みなしか訓めり。(ただし美 [ミ] はみな牟 [ム] と訓めり。そはやや後の音便なり。古言ハ正しく美 [ミ] と読むべし。)   しかれば意富美多訶羅 [オホミタカラ] とは、もと良人に限れる称にて、奴婢までにはわたらざるか、はた、本より良賤をえらばず云ふ称か、このけぢめは定かならず。そはいかにまれ、常に云ふは、ただ諸もろの民と云ふことにて、ここもしかなり。(古書どもの趣を考ふるに、正しく奴婢に対はて.良人を公民と云へる処も、意富美多訶羅 [オホミタカラ] と訓むほか無きを思はば、意富美ゆ 多訶羅とは、本は良人に限れりし称のごと聞こえたり。さてまた良賤のさだにはあらで、ただ広く民を云へる処にも、天の下の公民と云へること多し。これは賤に対はる良を云ふ意富美多訶羅を、常に公民と書きならはるから、その字を借りて、良賤のさだにわたらざるにも通はし書けるものなるべし。なほ公民の事は、玉垣の宮の段、伝二十四の■■■■に委しく云ふべし。)   江家次第、非常に、検非違使の佐の仰する詞に、「依其事 ソノコトニヨツテ 殊以免給 コトニモツテメンジタマフ 各罷還本貫 オノオノヒトツサトニマカリカヘリ 重犯不奉仕 ヂユウハンツカフマウラズ爲公御財 オホミタカラトナリテ 御調物備進礼 ミツギモノソナヘタテマツレ」 とある、これ意冨美多訶羅と云ふ言の、正しく見えたるなり。(公の字は.つねに公民と書くにならはる、公の字を取れるのみなり。オホヤケとは訓べからず。さてここの人民を、師はアラヒトクサと訓まれき。こはしか訓まむも宜し。されど記中に人民とある中に、しか訓みてはわろき処もあり。なほオホミタカラと訓むぞ、何処にもわたりてよろしき。)

https://dl.ndl.go.jp/pid/2556383/1/22

天皇之御世 [コノスメラミコトノミヨニ]。役病多起 [エヤミサハニオコリ]。人民死 [オホミタカラウセテ]。爲盡 [ツキナムトス]。爾天皇愁嘆而 [ココニスメラミコトウレヒタマヒテ]。坐神牀之夜 [カムトコニマシマセルヨ]。大物主大神 [オオモノヌシノオオカミ]。顯於御夢曰 [ミイメニアラハレテノリタマハク]。

https://dl.ndl.go.jp/pid/2556383/1/23

是者我之御心 [コハアガミココロゾ]。故以意富多多泥古而 [カレオホタタネコヲモテ]。令祭我御前者 [アガミマエヲマツラシメタマハバ]。神氣不起 [カミノケオコラズ]。國安平 [クニタヒラギナムトノリタマヒキ]。是以驛使班于四方 [ココヲモテハユマヅカヒヲヨモニアカチテ]。求謂意富多多泥古人之時 [オホタタネコトイフヒトヲモトムルトキニ]。河内美努村見得其人 [カフチノミヌノムラニソノヒトヲミエテ]。貢進 [タテマツリキ]。

天皇 [ココニスメラミコト]。問賜之汝者誰子也 [イマシハタガコゾトトイタマヒキ]。答曰僕者大物主大神 [アハオホモノヌシオオカミ]。娶陶津耳命女 [スエツミミノミコトノムスメ]。活玉依毘賣 [イクタマヨリビメニミアヒテ]。生子 [ウミマセルコ]。名櫛御方命之子 [ナハクシミガタノミコトノコ]。建甕槌命之子 [タテミカヅチノミコトノコ]。僕意富多多泥古白 [オノレオオタタネコトマヲシキ]。

https://dl.ndl.go.jp/pid/2556383/1/24

於是天皇大歡 [ココニスメラミコトイタクヨロコビタマヒテ]。詔之天下平人民榮 [アメノシタタヒラギオホミタカラサカエナムトノリタマヒテ]。即以意富多多泥古命 [スナハチコノオホタタネコノミコトヲ]。爲神主而 [カムヌシトシテ]。於御諸山 [ミモロヤマニ]。拜祭意富美和之大神前 [オホミワノオホカミノミマヘヲイツキマツリタマヒキ]。又仰伊迦賀色許男命 [マタイカガシコヲノミコトニオホセテ]。作天下之八十毘羅訶 (此三字以音也) [アメノヤソビラカヲツクリ]。

奉天神地祇之社 [アマツカミクニツカミノヤシロヲサダメマツリタマヒキ]。又於宇 陀墨坂神 [マタウダノスミサカノカミニ]。祭赤色楯矛 [アカイロノタテホコヲマツリ]。又於大阪神 [マタオホサカノカミニ]。祭黒色楯矛 [クロイロノタテホコヲマツリ]。又於坂御尾神 [マタサカノミオノカミ]。及河瀬神 [カハセノカミマデ]。悉無遺忘 [コトゴトニオツルコトナク]。以奉幣帛也 [ミテグラタテマツリタマヒキ]。因此而役氣 [コレニヨリテカミノケコトゴトニ]

https://dl.ndl.go.jp/pid/2556383/1/25

息國家安平也 [ヤミテアメノシタタヒラギキ]。

役病.役字.舊印本登延佳本登尓ハ.疫登作 [カケ] 里.其 [ソレ] 正字奈|里.され登"真福寺本及其餘の本登"も尓も.皆役登作 [ア] 里.|下文奈る役氣も同じ.凢て此記乃書佐"ま.可ゝ流例多|希れバ.今ハ其 [ソレ] 尓依リ起. 疫登作る本ハ後尓さ可し良|尓改免都る毛乃那る倍"し. 和|名抄尓.疫衣夜美 [ハエヤミ] .一曰度岐乃介 [トキノケ].説文ニ曰.民皆病ム登阿|里. ま多ま多□ハ俗云衣 [エ] 夜 [ヤ] 美 [ミ].一云和 [ワ] 良 [ラ] 波 [ハ] 夜 [ヤ] 美 [ミ] 登阿利.|曽のかみ□をも衣夜美登も云し那る倍"し. 書紀尓|も疫-病 疫-疾 疾-疫 疫-氣奈登".みな延 [エ] 夜 [ヤ] 美 [ミ] 登訓里. 又延 [エ] 能 [ノ]|夜 [ヤ] 麻 [マ] 比 [ヒ]|登訓る處あ利.大鏡尓.延 [エ] 登のみ云流|處もあり.和名抄尓.龍膽ハ衣 [エ] 夜 [ヤ] 美 [ミ] 久 [グ] 佐 [サ]. 佐て然名 [ナヅ] 久る意

 

ハ.ま都"役を延 [エ] 登も延陀知 [エダチ] 登も云を.延陀知 [エダチ] はハ役 [エ] 立 [ダチ] な|里. 那本役の事ハ.|輕嶋ノ宮ノ段|尓云倍"し.疫病も.漢籍 [カラブミ] 尓民皆病ム也登云る如く.人毎尓|病 [ヤム] 可".彼ノ役 [エ] 尓.差されて立 [タツ] 尓似多る故奈る倍"し. 師ハ.疫|を延登|云ハ.も登字音なり.次の文尓.神氣登ある. 即是レなれバ.|此 [ココ] の疫病をも.カミノイブキ登訓倍"し登.云連き.|己も初メ尓思 芳りしハ.役をも疫越も.共尓延 [エ] 登云を思|芳バ毛登字音を取連流那り.若シ毛登よりの古言なら| む尓ハ.かく同音の字尓て.同言奈る倍"き尓非須"登思|芳りし を.後尓な本よく

 

https://dl.ndl.go.jp/pid/2556383/1/26

◯人民ハ.意冨美多|訶羅 [オホミタカラ] 登訓倍"し.書紀尓.民 人-民 萬-民 兆-民 黎-民 民-庶 衆-庶|黎-庶 億-兆 人-物 人-夫 庶-人 居-人 戸-口 百-姓 元-々 蒼-生 業-々|黔-首 奈登".皆然訓里. 但し美 [ミ] ハみな牟 [ム] 登訓里.其 [ソ] ハやゝ|後の音便那里.古言ハ正しく美 [ミ] 登|讀倍"|し. 大御寳登云義 [ココロ] 奈り.又 王-民 公-民 良-人 な登"越も然|訓ムこ登那り.是䒭 [コレラ] ハ賤奴 [ヤツコ] 尓對芳て云フ称なり.然連バ意

◯人民は.意冨美多|訶羅 [オホミタカラ] と訓べし.書紀に.民 人-民 萬-民 兆-民 黎-民 民-庶 衆-庶|黎-庶 億-兆 人-物 人-夫 庶-人 居-人 戸-口 百-姓 元-々 蒼-生 業-々|黔-首 奈登".皆然訓里. 但し美 [ミ] ハみな牟 [ム] と訓り.其 [ソ] はやゝ|後の音便なり.古言は正しく美 [ミ] と|讀べ|し. 大御寳登云義 [ココロ] なり.又 王-民 公-民 良-人 などをも然|訓ムことなり.是䒭 [コレラ] ハ賤奴 [ヤツコ] に對はて云フ称なり.然れば意


富美多訶羅 [オホミタカラ] 登ハ.も登良人尓限連流称尓て.奴婢まで|尓は王多ら佐"る可は多本より良賤をえらバ須"云フ称|可.此ノ遣ぢ免ハ定 [サダカ] 奈ら須".其 [ソ] ハい可尓まれ.常尓云フハ.多|多"諸 [モロモロ] の民登云こ登尓天.此 [ココ] も然なり. 古書登"もの趣を|考累尓.正しく奴|婢に對芳て.良人を公民と云流處も.意富美多訶羅 [オホミタカラ] 登|訓ム本可無き越思芳バ意冨美多訶羅登ハ.本ハ良人尓|限連里し称の如聞え多り.佐て又良賤乃佐多"尓ハあ|らで.多ゞ廣く民を云累處尓も.天ノ下ノ公民登云流こ登|多し.此レハ賤尓對芳流良を云フ意富美多訶羅を.常尓公|民登書キ奈ら芳流可ら.其字を借リて.良賤の佐多"尓王多|らざ流尓も通ハし書累も能な流倍"し.奈本公民|乃事ハ.玉垣ノ宮ノ段.傳廿四の■■■■尓委ク云倍"し. 江家|次第.非常赦尓.撿非違使ノ佐乃仰須累詞尓.依テ其ノ事ニ殊ニ以テ|免給フ.各罷リ--還リ本貫 [モトツサト] ニ重犯不 [ズ] 奉仕ラ為リテ公 [オホ] 御 [ミ] 財 [タカラ] ト御 [ミ] 調 [ツギ] 物 [モノ] 備ヘ進 [タテマツ] 礼 [レ]

富美多訶羅 [オホミタカラ] とは.もと良人に限れる称にて.奴婢まで|にはわたらざるかはた本より良賤をえらばず云フ称|か.此ノけぢめは定 [サダカ] ならず.其 [ソ] はいかにまれ.常に云フは.た|だ諸 [モロモロ] の民と云ことにて.此 [ココ] も然なり. 古書どもの趣を|考るに.正しく奴|婢に對はて.良人を公民と云る處も.意富美多訶羅 [オホミタカラ] と|訓ムほか無きを思はば意冨美多訶羅とは.本は良人に|限れりし称の如聞えたり.さて又良賤のさだにはあ|らで.ただ廣く民を云る處にも.天ノ下ノ公民と云ること|多し.此レは賤に對はる良を云フ意富美多訶羅を.常に公|民と書キ奈らはるから.其字を借リて.良賤のさだにわた|らざるにも通はし書るものなるべし.なほ公民|の事ハ.玉垣ノ宮ノ段.傳廿四の■■■■に委ク云べし. 江家|次第.非常赦に.撿非違使ノ佐乃仰須累詞尓.依テ其ノ事ニ殊ニ以テ|免給フ.各罷リ--還リ本貫 [モトツサト] ニ重犯不 [ズ] 奉仕ラ為リテ公 [オホ] 御 [ミ] 財 [タカラ] ト御 [ミ] 調 [ツギ] 物 [モノ] 備ヘ進 [タテマツ] 礼 [レ]

 

https://dl.ndl.go.jp/pid/2556383/1/27

 

登阿る.是レ意冨美多訶羅登云言の.正しく見え多累な|里. 公ノ字ハ.都ね尓公民登書キ奈ら芳流.公ノ字を取連流乃|みなり.オホヤケ登ハ訓倍"可ら須".さて此 [ココ] の人民を.|師はアラヒトクサ登訓連き.此ハ然訓マむも冝し.され|登記中尓人民登ある中尓.然訓ては王ろき処も阿り|な本オホミタカラと訓ムぞ.何 [イヅ]|處 [コ] 尓も王多りてよろし起. ◯死ハ.宇勢弖 [ウセテ] 登訓倍"し|書紀尓も死又斃又卒な登"をも.然訓里. 又古れら越.美宇 [ウ] 勢 [セ] 奴 [ヌ] 登も訓|里.美 [ミ] ハみま可流の美 [ミ] 尓天身奈る倍"し. ◯為盡は.都伎那牟登須 [ツキナムトス] 登訓倍"し

とある.是レ意冨美多訶羅と云言の.正しく見えたるな|り. 公ノ字は.つねに公民書キならはる.公ノ字を取れるの|みなり.オホヤケとは訓べからず.さて此 [ココ] の人民を.|師はアラヒトクサと訓れき.此は然訓マむも冝し.され|と記中に人民とある中に.然訓てはわろき処もあり|なほオホミタカラと訓ムぞ.何 [イヅ]|處 [コ] にもわたりてよろしき.

 

 

 

本居宣長古事記伝 44巻』[23],刊,刊年不明. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/2556383 (参照 2024-06-10)

 

https://dl.ndl.go.jp/pid/1920821/1/12

https://dl.ndl.go.jp/pid/1920821/1/13

本居宣長 著 ほか『古事記伝』坤,吉川弘文館,1935. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1920821 (参照 2024-06-11)


平田篤胤 著『玉襷』八之巻より

 さて総じて穀物の種 [タネ] の始めは、豊受の大神の御身より成り出でたるを、御年の皇神たちの、作り教へ給はる業 [ワザ] を農業 [タツクリワザ] といひ、土着してその農業に労 [イタヅ] く農人を、常に民 [タミ] といひ、百姓と云ふ。多美 タミ は田 [タ] 持 [モチ] の義 [ココロ] と聞こえ、百姓をおほみたからと云ふは、師説に大 [オオ] 御 [ミ] 宝 [タカラ] の義なりと言はれたり。そは江家次第に、公御財 [オホミタカラ] と書きたるに著 [シル] し。(かくて多加羅と云ふ言の義 [ココロ] は、田 [タ] 力 [チカラ] の略 [ハブ] きか、田 [タ] 自 [カラ] の義かなど、種々に思ひつづくれど、叶はりとも聞えず。)   そもそも多加羅 [タカラ] といふ言の始めは、天照大御神の、皇みまの命に、天下しろし食 [メ] せと御言 [ミコト] 依 [ヨサ] して、八咫鏡 [ヤタカガミ] と、村雲剣 [ムラクモノツルギ] とを御璽 [ミシルシ] の神宝 [カムタカラ] として賜へる処に見えたるが、この時よりして、天の下を治め給はば、青人草をも、大御神の賜へる物と、愛 ハシ く思ほす意 [ココロ] をもて、大御宝 [オホミタカラ] とは申すにや。げにも天皇の、また比類 [タグヒ] なき御宝は、天の下の大御民 [オホミタミ] にぞ有ける。(そは既にも云へる如く、天下は、天下の御民の天下なりしを、天照大御神、そを恵み給ふとして、天下の地は更なり。その人草をも賜ひて、治めしめ給ふにて、二種の神宝は、尊 [タウト] しと云へども、その天下の御民を治め給ふ御業を、依し賜へる御璽 [シルシ] の御宝なれば、大御民の御宝なるに比 [クラ] べては、却りて末なる道理なりかし。)   但し大御宝とは農人のみにあらず、そは率土の浜、王臣にあらずと云ふこと無しと云ふごとく、天皇の御正朔を奉ずる人の限り、謂はゆる士農工商までにわたる称なること、国史に、王民、良人、兆民、黔首、公民、百姓、万民などをもオホミタカラと訓 [ヨメ] るにて知るべし。然るに農人を打ち任せて云ふ言の如くなれるは、謂はゆる四民の中に殊に多く、かつ上なく大切なる穀物を作り殖 [ウウ] る業に労 [イタヅ] きて、これにて上をも養へばなり。(そはもろこし書にも、民は国の本と云ひ、君なければ、民を治むること能はず、など云へるは、皆この意をばなり。謂はゆる経書の類にかかる類の語ども多く見えたる、皆理 [イハ] れたる語どもなり。漢籍の語とて嫌 [キラ] ふこと勿れ。)   然ればその大御宝と有らむ人はも、常にその大御宝なる由緒 [イハレ] を思ひ、また大御神の、天皇に属奉 [ツケマツ] り賜へる事本 [コトノモト] を思ひ、その御治めを辱 [カタジケナ] み奉り、各〻 [オノオノ] 某〻 [ソレゾレ] の家業 [イエノトリ] を好 [ス] きて、怠らず勤 [ツト] むべきこと勿論なり。そは士たらむ人は、士の業う好 [ス] き、農たる人は農業を好き、工商また某〻 [ソレ/] にその業を好 [スク] より、各〻その業に上手となるは然 [サ] る物にて。然しもその道に至㴱 [イタリフカ] く成りなむ事は、神世の道に習ふ心ぞ本なりける。

https://dl.ndl.go.jp/pid/815787/1/7

佐天總じて穀物の種 [タネ] 能始免ハ。豐受ノ大|神能御身よ里成出 [ナリイデ] 多流を。御年能皇神多ちの。作里敎 [オシ] へ給|芳る業 [ワザ] を農業 [タツクリワザ] といひ。土著し天其ノ農業尓勞 [イタヅ] く農人を。常尓

さて總じて穀物の種 [タネ] の始めハ。豐受ノ大|神の御身より成出 [ナリイデ] たるを。御年の皇神たちの。作り敎 [オシ] へ給|はる業 [ワザ] を農業 [タツクリワザ] といひ。土著して其ノ農業に勞 [イタヅ] く農人を。常に

民 [タミ] といひ。百姓と云ふ。多美 [タミ] は田 [タ] 持 [モチ] の義 [ココロ] と聞え。百姓を於本|美多可ら登云は。師説尓大 [オホ] 御 [ミ] 寶(タカラ)能義奈里登言 [イハ] れ多里。其 [ソ] は|江家次第尓。公御財 [オホミタカラ] と書 [カキ] 多る尓著 [シル]し。 かくて多加羅と云|ふ言の義 [ココロ] 者。田 [タ] 力 [チカラ] の|畧 [ハブ]き可。田 [タ] 自 [カラ] の義可那ど。種〻尓思ヒ|都ヾ久れど。叶芳里登も聞え須"。 抑 [ソモソモ] 多加羅 [タカラ] といふ言能始|免は。天照大御神の。皇美麻ノ命尓。天下志ろし食 [メ] せと御言 [ミコト] 依 [ヨサ]|し天。八咫鏡 [ヤタカガミ] と。村雲劔 [ムラクモノツルギ] とを御璽 [ミシルシ] 能神寶 [カムタカラ] と志て賜へる處尓|見え多流可"。此ノ時よ里志て。天の下を治免給芳ば。靑人草を|も。大御神能賜へ畄物登。愛 [ハシ] く思本須意 [ココロ] 乎も亭。大御寶 [オホミタカラ] とは|申須耳や。實 [ケニ] も天皇の。ま多比類 [タグヒ] 那き御寶ハ。天ノ下能大御民 [オホミタミ]尓ぞ有ける。 そは既尓も云ヘる如く。天下者。天下の御民能天|下奈里しを。天照大御神。そを恵み給ふと志て。

民 [タミ] といひ。百姓と云ふ。多美 タミ は田 [タ] 持 [モチ] の義 [ココロ] と聞え。百姓を於本|美多可らと云は。師説に大 [オホ] 御 [ミ] 寶 [タカラ] の義なりと言 [イハ] れたり。其 [ソ] は|江家次第に。公御財 [オホミタカラ] と書 [カキ] たるに著 [シル]し。 かくて多加羅と云|ふ言の義 [ココロ] は。田 [タ] 力 [チカラ] の|畧 [ハブ]きか。田 [タ] 自 [カラ] の義かなど。種〻に思ヒ|都ヾくれど。叶はりとも聞えず。  抑 [ソモソモ] 多加羅 [タカラ] といふ言の始|めは。天照大御神の。皇みまノ命に。天下しろし食 [メ] せと御言 [ミコト] 依 [ヨサ]|して。八咫鏡 [ヤタカガミ] と。村雲劔 [ムラクモノツルギ] とを御璽 [ミシルシ] の神寶 [カムタカラ] として賜へる處に|見えたるが。此ノ時よりして。天の下を治め給はば。靑人草を|も。大御神の賜へる物と。愛 [ハシ] く思ほす意 [ココロ] をもて。大御寶 [オホミタカラ] とは|申すにや。實 [ケニ] も天皇の。また比類 [タグヒ] なき御寶は。天ノ下の大御民 [オホミタミ]|にぞ有ける。 そは既にも云ヘる如く。天下は。天下の御民の天|下なりしを。天照大御神。そを恵み給ふと志て。

https://dl.ndl.go.jp/pid/815787/1/8

天下の地者更奈利。其ノ人草をも賜ひて。治免しめ給ふ耳て。|二種能神宝ハ。尊 [タウト] しと云へど母。其ノ天下の御民を治め給ふ|御業を。依し賜へる御玺 [シルシ] の御宝奈れ者’"。大御民の御|宝奈る尓比 [クラ] 倍"て者。却りて末奈る道理奈利可し。 但し大|御寶とは農人のみ尓非春"。其 [ソ] ハ率土の濱。王臣尓非須"と云|古登無しと云フ古"登く。天皇能御正朔を奉須"る人の限里。謂 [イハ]|ゆる士農工商ま天"尓和多る稱奈る古と。國史尓。王民。良人。|兆民。黔首。公民。百姓。萬民奈登"をも。オホミタカラ登訓 [ヨメ] る尓|天知ルべし。然る尓農人を打任 [マカ] せて云ふ言能如く那連流|は。謂ゆ流四民能中尓殊耳多く。加都上那く大切奈流穀物|を作里殖 [ウウ] る業尓勞 [イタヅ] 起て。此 [コレ] 尓て上をも養へば那里。 其 [ソ] 者も|ろこし|書 [ブヨ] 尓も.民者国の本と云ひ.君奈介れ者".民を治むること能|者須".奈ど云ヘるハ.皆此ノ意を芳那里.謂ゆる經書の類尓加ゝ

天下の地は更なり。其ノ人草をも賜ひて。治めしめ給ふにて。|二種の神宝は。尊 [タウト] しと云へども。其ノ天下の御民を治め給ふ|御業を。依し賜へる御玺 [シルシ] の御宝なれば。大御民の御|宝なるに比 [クラ] べては。却りて末なる道理なりかし。 但し大|御寶とは農人のみに非ず。其 [ソ] は率土の濱。王臣に非ずと云|こと無しと云フごとく。天皇の御正朔を奉ずる人の限り。謂 [イハ]|ゆる士農工商までにわたる稱なること。國史に。王民。良人。|兆民。黔首。公民。百姓。萬民などをも。オホミタカラと訓 [ヨメ] るに|て知ルべし。然るに農人を打任 [マカ] せて云ふ言の如くなれる|は。謂ゆる四民の中に殊に多く。かつ上なく大切なる穀物|を作り殖 [ウウ] る業に勞 [イタヅ] きて。此 [コレ] にて上をも養へばなり。 其 [ソ] はも|ろこし|書 [ブヨ] にも.民は国の本と云ひ.君なければ.民を治むること能|はず.など云ヘるは.皆此ノ意をはなり.謂ゆる經書の類にかゝ

る類の語ども多く見え多る。皆理 [イハ] れ多る|語ども奈利。漢籍の語とて嫌 [キラ] ふこと勿連。) 然れ者"其ノ 大御寶|登有らむ人はも。常尓そ能大御寶奈流由緒 [イハレ] を思ひ。ま多大|御神能。天皇尓屬奉 [ツケマツ] 里賜へ畄事本 [コトノモト] を思ひ。其ノ御治めを辱 [カタジケナ] み|奉里。各〻 [オノ/] 某〻 [ソレ/] 能家業 [イエノトリ] を好 [ス] きて。怠ら須"勤 [ツト] むべきこ登勿論|奈利。其 [ソ] は士多らむ人者。士能業宇好 [ス] き。農多流人者農業を|好き。工商満多某〻 [ソレ/] 尓其ノ業を好 [スク] 与里。各〻そ能業尓上手登|那畄は然 [サ] る物尓て。然しも其ノ道尓至㴱 [イタリフカ] く成リ奈む事ハ。神世|の道尓習ふ心ぞ本奈利介流。

る類の語ども多く見えたる。皆理 [イハ] れたる|語どもなり。漢籍の語とて嫌 [キラ] ふこと勿れ。) 然れば其ノ 大御寶|と有らむ人はも。常にその大御寶なる由緒 [イハレ] を思ひ。また大|御神の。天皇に屬奉 [ツケマツ] り賜へる事本 [コトノモト] を思ひ。其ノ御治めを辱 [カタジケナ] み|奉り。各〻 [オノ/] 某〻 [ソレ/] の家業 [イエノトリ] を好 [ス] きて。怠らず勤 [ツト] むべきこと勿論|なり。其 [ソ] は士たらむ人は。士の業う好 [ス] き。農たる人者農業を好き。工商また某〻 [ソレ/] に其ノ業を好 [スク] より。各〻その業に上手と|なるは然 [サ] る物にて。然しも其ノ道に至㴱 [イタリフカ] く成リなむ事ハ。神世|の道に習ふ心ぞ本なりける。

平田篤胤 著 ほか『玉襷』8之巻,[気吹舎塾],〔明2〕. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/815787 (参照 2024-06-05)

https://dl.ndl.go.jp/pid/815111/1/4

◎近藤芳樹 著『一君一民弁』より

また民を多美 [タミ] といふ。多 [タ] は田なり。美 [ミ] はこれも母知 [モチ] の約にて、多美(タミ)は即ち田持(タミ)の義なり。(伎美の美、多美の美、ともに同じ。)この多美 [タミ] を多加良 [タカラ] ともいふ。多加良 [タカラ] は田 [タ] 族 [カラ] なり。加良 [カラ] は生族 [ウカラ] 家族 [ヤカラ] の加良 [カラ] に同じく、田を作る輩 [トモカラ] といふ言 [コト] なり。天皇のやすみし垂拱 [タムタキ] て、天下を統御 [シロシメス] は、この田族 [タカラ] より租調 [ミツキモノ] を献 [タテマツ] りて、供御に備ふればなり。故 [カレ] 天皇の寵 [イツク] しみ愛 [メデ] 給ふは田族 [タカラ] なるを、これよりうつりて、世々いつくしみ愛 [メヅ] る物を、なべて宝 [タカラ] といふごとくなれるまま、また三種の神器 [カムタカラ] をも神宝といひ、金銀珠玉をもみな多加良 [タカラ] といふごとくなれり。しかるを世の人本末を取りたがへ、金銀珠玉を多加良 [タカラ] といふが本にて、民を多加良といふは末のごとく思へるは誤なり。(古事記伝の説は従ひがたし。)   中古までも多加良の民なること、その言義を失はざりしと思はれて、江家次第非常赦の條、罪人を免じ給ふ所に、公御財 [オホミタカラ] と為りて御調物 [ミツキモノ] 備へ進 [タテマツ] れとある。(財をかけるは仮字なり。)   調 [ミツキ] を献 [タテマツ] る者を田族 [タカラ] といへる明證なり。かくて田持 [タミ] を御民 [ミタミ] また田族 [タカラ] を大御多加良 [オホミタカラ] と御 [ミ] 字、大御 [オホミ] 字を加 [ソ] へて云ふは、田ことごとく天皇の有 [モ] ち給へる地なるを、百姓 [アラヒトクサ] に給はりて、作らしめ給ふ故に、御字も大御の字も、共に百姓の私有 [ワタクシモノ] ならぬよしを、あかせる言なり。万葉集に。天平六年。海犬飼 [アヤイヌカイノ] 宿禰 [スクネ] 岡麻呂 [ヲカマロ] 応詔歌に、御民我 [ミタミワレ] いけるしるしあり、天地 [アメツチ] のさかゆる時にあへらくおもへば、とよめるは。自 [ミツカラ] のうへに御字をそへたり。(わが防長の民の、官府に申しいづるに、自 [ミツカ] ら御百姓といへるも、この義なり。)   この人、続日本紀に見えねども、詔を奉 [ウケ] て歌よめるばかりなれば、無位無冠の平民にはあらじ。書紀の幸徳天皇四年、入鹿を誅せられし件に、海犬飼連勝麻呂あり。これ岡麻呂の先祖なるが、連を後に宿禰に改めさせ給へるなるべし。されば名家なること、いはんも更なるを、自 [ミツカ] ら御民吾 [ミタミワレ] とよめるを以て、朝廷に仕ゆる官人
もみな民なるを知るべし。また開化天皇の皇子、日子坐 [ヒコイマス] 王の子に丹波の美智能宇斯 [ミチノウシノ] 王といふがあり、此御女 [ミムスメ] 兄比賣 [エヒメ] 弟比賣 [オトヒメ] はまさしく開化天皇の御曾孫にあたれば、いはゆる三世王 [ミヨノオホキミ] なるを、古事記に公民 [オホミタミ] といへるを以て、天皇の御親族も、みな民なることを知るべし。また増鏡に、桓武天皇の御子式部卿親王と聞えしより五代の末に。平将軍貞盛といふ人、惟衡、惟時とてふたりの子をもた

 


https://dl.ndl.go.jp/pid/815111/1/9

りける.ま多民を多美 [タミ] といふ。多 [タ] ハ田奈り。美 [ミ] ハ古|れも母知 [モチ] の約尓天。多美 [タミ] ハ即田持 [タミ] の義奈り。 伎美|の美。|多美の美。|とも尓同じ。 古の多美 [タミ] を多加良 [タカラ] ともいふ。多加良 [タカラ]|ハ田 [タ] 族 [カラ] 奈り。加良 [カラ] 盤生族 [ウカラ] 家族 [ヤカラ] の加良 [カラ] 尓同じく。田|を作る輩 [トモカラ] といふ言 [コト] 奈り。天皇のや須ミし垂拱 [タムタキ] て。|天下を統御 [シロシメス] ハ。この田族 [タカラ] より租調 [ミツキモノ] を献 [タテマツ] りて。供御|尓備ふ連バ奈り。故 [カレ] 天皇の寵 [イツク] しみ愛 [メデ] 給ふハ田族 [タカラ]|奈るを。これよりう徒り天。世々いつくしミ愛 [メヅ] る|物越。奈べて寳 [タカラ] といふことく奈れるまゝ。亦三種乃|神器 [カムタカラ] をも神寳といひ。金銀珠玉をも皆多加良 [タカラ] と

りける.また民を多美 [タミ] といふ。多 [タ] ハ田なり。美 [ミ] はこ|れも母知 [モチ] の約にて。多美 [タミ] ハ即田持 [タミ] の義奈り。 伎美|の美。|多美の美。|ともに同じ。 この多美 [タミ] を多加良 [タカラ] ともいふ。多加良 [タカラ]|は田 [タ] 族 [カラ] なり。加良 [カラ] は生族 [ウカラ] 家族 [ヤカラ] の加良 [カラ] に同じく。田|を作る輩 [トモカラ] といふ言 [コト] なり。天皇のやすみし垂拱 [タムタキ] て。|天下を統御 [シロシメス] は。この田族 [タカラ] より租調 [ミツキモノ] を献 [タテマツ] りて。供御|に備ふればなり。故 [カレ] 天皇の寵 [イツク] しみ愛 [メデ] 給ふは田族 [タカラ]|なるを。これよりうつり天。世々いつくしみ愛 [メヅ] る|物を。なべて寳 [タカラ] といふことくなれるまゝ。亦三種の|神器 [カムタカラ] をも神寳といひ。金銀珠玉をも皆多加良 [タカラ] と

いふことく奈れり。然る越世の人本末を取りた可"へ。|金銀珠玉を多加良 [タカラ] といふ可"本尓天。民を多加良|といふハ末の如く思へるハ誤奈り。 古事記傳の|説ハ従ひ可|多|し。 中古まても多加良の民奈ること。其言義を失ハ|ざりしと思者れ天江家次第非常赦の條。罪人を|免し給ふ所尓。為 [ナリテ] 公御財 [オホミタカラト] 御調物 [ミツキモノ] 備進禮 [ソナヘタテマツレ] とある。 財|を|可けるハ|假字也。 調 [ミツキ] を獻 [タテマツ] る者を田族 [タカラ] といへる明證奈り。|可く天田持 [タミ] を御民 [ミタミ] ま多田族 [タカラ] を大御多加良 [オホミタカラ] と御 [ミ]|字大御 [オホミ] 字を加 [ソ] へて云者。田こと/\具天皇の有 [モ] ち給|へる地奈る越。百姓 [アラヒトクサ] 尓給者りて。作らしめ給ふ故

いふことくなれり。然るを世の人本末を取りたがへ。|金銀珠玉を多加良 [タカラ] といふが本にて。民を多加良|といふは末の如く思へるは誤なり。 古事記傳の|説は従ひか|た|し。 中古まても多加良の民なること。其言義を失は|ざりしと思はれて江家次第非常赦の條。罪人を|免し給ふ所に。為 [ナリテ] 公御財 [オホミタカラト] 御調物 [ミツキモノ] 備進禮 [ソナヘタテマツレ] とある。 財|を|かけるは|假字也。 調 [ミツキ] を獻 [タテマツ] る者を田族 [タカラ] といへる明證なり。|かくて田持 [タミ] を御民 [ミタミ] また田族 [タカラ] を大御多加良 [オホミタカラ] と御 [ミ]|字大御 [オホミ] 字を加 [ソ] へて云は。田こと/\く天皇の有 [モ] ち給|へる地なるを。百姓 [アラヒトクサ] に給はりて。作らしめ給ふ故

 

https://dl.ndl.go.jp/pid/815111/1/10

尓。御字も大御の字も。共尓百姓の私有 [ワタクシモノ] 奈ら奴よ|し越。あ可せる言奈り。萬葉集尓。天平六年。海犬飼 [アヤイヌカイノ] 宿祢 [スクネ]|岡麻呂 [ヲカマロ] 應レ詔歌尓。御民我 [ミタミワレ] いけるしるしあり。|天地 [アメツチ] のさ可ゆる時尓あへら久於もへ者"。とよめ|るハ。自 [ミツカラ] のうへ尓御字をそへ堂り。 王可防長の民|の。官府尓申し|いづる尓。自 [ミツカ] ら御百姓|といへるも。此義奈り。 此人續日本紀尓見えねど|も。詔を奉 [ウケ] て歌よめる者"可り奈れバ。无位无冠乃|平民尓ハあらじ。書紀の幸徳天皇四年。入鹿を誅|卋られし件尓。海犬飼連勝麻呂あり。古れ岡麻呂|の先祖奈る可"。連を後尓宿祢尓改めさ卋給へる

に。御字も大御の字も。共に百姓の私有 [ワタクシモノ] ならぬよ|しを。あかせる言なり。萬葉集に。天平六年。海犬飼 [アヤイヌカイノ]|宿祢 [スクネ] 岡麻呂 [ヲカマロ] 應レ詔歌に。御民我 [ミタミワレ] いけるしるしあり。|天地 [アメツチ] のさかゆる時にあへらくおもへば。とよめ|るは。自 [ミツカラ] のうへに御字をそへたり。 王可防長の民|の。官府に申し|いづるに。自 [ミツカ] ら御百姓|といへるも。此義なり。 此人續日本紀に見えねど|も。詔を奉 [ウケ] て歌よめるばかりなれば。无位无冠の|平民にはあらじ。書紀の幸徳天皇四年。入鹿を誅|せられし件に。海犬飼連勝麻呂あり。これ岡麻呂|の先祖なるが。連を後に宿祢に改めさせ給へる

奈るべし。されバ名家奈ること。い者んも更奈る越。|自 [ミツカ] ら御民吾 [ミタミワレ] とよめる越以天。朝廷尓仕ゆる官人|もみ奈民奈るを知べし。ま多開化天皇の皇子。日|子坐 [ヒコイマス] 王の子尓丹波の美智能宇斯 [ミチノウシノ] 王といふ可"阿|り。此御女 [ミムスメ] 兄比賣 [エヒメ] 弟比賣 [オトヒメ] ハまさしく開化天皇の|御曾孫尓あ多れバ。い者ゆる三世王 [ミヨノオホキミ] 奈るを。古事|記尓公民 [オホミタミ] といへるを以て。天皇の御親族も。ミ奈|
民奈ることを知るべし。ま多増鏡尓。桓武天皇の御|子式部卿親王と聞えしより五代の末尓。平將軍|貞盛といふ人。惟衡惟時と天ふ多りの子をも多

なるべし。されば名家なること。いはんも更なるを。|自 [ミツカ] ら御民吾 [ミタミワレ] とよめるを以て。朝廷に仕ゆる官人|もみな民なるを知べし。また開化天皇の皇子。日|子坐 [ヒコイマス] 王の子に丹波の美智能宇斯 [ミチノウシノ] 王といふがあ|り。此御女 [ミムスメ] 兄比賣 [エヒメ] 弟比賣 [オトヒメ] はまさしく開化天皇の|御曾孫にあたれば。いはゆる三世王 [ミヨノオホキミ] なるを。古事|記に公民 [オホミタミ] といへるを以て。天皇の御親族も。みな|民なることを知るべし。また増鏡に。桓武天皇の御|子式部卿親王と聞えしより五代の末に。平將軍|貞盛といふ人。惟衡惟時とてふたりの子をもた

 

https://dl.ndl.go.jp/pid/815111/1/11

りけり。 中略 その惟時可"奈ごりハ。ひ多すら尓民|と奈り天。平時政といふ者のミぞ。伊豆國北條の|古保りと可?や尓在 [ア] める。と阿るを以て。北條時政|奈との如き譜代の大名も。皆民奈ることを知るべ|し。 民尓良賤あり。上尓いへる所の民ハミ奈良民|奈り。賤民ハ五等あり。官戸陵戸家人公奴婢私|奴婢といふ。委くハ標注令義解尓いへり。源平盛|衰記奈ど尓家ノ子とあるハ家人奈り。郎等とある|ハ。私奴婢尓て。此家の子ハ。栄花物語其外尓。いへの子とあるとハ別奈り。 可くのことく。|上一人を置給うて。其外は皇子皇孫を始め。諸臣|庶人尓至るま天"。貴きも賤きも。於し奈へ天民と|せさ卋給へるハ。人の身を堂もち。家をとゝのふる

りけり。 中略 その惟時がなごりは。ひたすらに民|となりて。平時政といふ者のみぞ。伊豆國北條の|こほりとか?やに在 [ア] める。とあるを以て。北條時政|なとの如き譜代の大名も。皆民なることを知るべ|し。 民に良賤あり。上にいへる所の民はみな良民|なり。賤民は五等あり。官戸陵戸家人公奴婢私|奴婢といふ。委くは標注令義解にいへり。源平盛|衰記などに家ノ子とあるは家人なり。郎等とある|は。私奴婢にて。此家の子は。栄花物語其外に。いへの子とあるとは別なり。 かくのことく。|上一人を置給うて。其外は皇子皇孫を始め。諸臣|庶人に至るまで。貴きも賤きも。おしなへて民と|せさせ給へるは。人の身をたもち。家をとゝのふる

尓種々 [クサ/] の業 [ワサ] 多しといへども。衣食乃ふ多つの為|奈らざるハ奈けれバ。み奈稲田越耕して糓を作|り。桑田を墾 [ヒラ] きて蝅 [コ] を養 [カ] ひ。まづ衣食をして足者|しめ。これを基本と奈して。さ天後尓。朝廷尓も仕|へ。自家をも治る可大旨尓天。言巻 [イハマク] も可しこ介連|ど。皇孫 [スメミマ] の御名越。火瓊々杵尊 [ホノニニギノミコト] と申須も。古事記傳|尓。穂 [ホ] 之 [ノ] 丹 [ニ] 𩜙 [ニ] 君 [ギ] 尓て。稲穂尓因れる御名奈り。丹と|ハ。穂の赤熟 [アカラ] めるをいふと云れ多る可"如く。稲穂|尓与り天稱 [タタ] へ多る御名奈り。ま多皇孫 [スメミマ] 乃妻問 [ツマドヒ] し|給へる時。機織る音を聞給ひて。手玉も由ら尓機

に種々 [クサ/] の業 [ワサ] 多しといへども。衣食のふたつの為|ならざるはなければ。みな稲田を耕して糓を作|り。桑田を墾 [ヒラ] きて蝅 [コ] を養 [カ] ひ。まづ衣食をして足は|しめ。これを基本となして。さて後に。朝廷にも仕|へ。自家をも治るか大旨にて。言巻 [イハマク] もかしこけれ|ど。皇孫 [スメミマ] の御名を。火瓊々杵尊 [ホノニニギノミコト] と申すも。古事記傳|に。穂 [ホ] 之 [ノ] 丹 [ニ] 𩜙 [ニ] 君 [ギ] にて。稲穂に因れる御名なり。丹と|は。穂の赤熟 [アカラ] めるをいふと云れたるが如く。稲穂|によりて稱 [タタ] へたる御名なり。また皇孫 [スメミマ] の妻問 [ツマドヒ] し|給へる時。機織る音を聞給ひて。手玉もゆらに機

https://dl.ndl.go.jp/pid/815111/1/12

於る少女 [オトメ] ハ誰 [タ] 可"子そと登ハせ給へるハ。后妃を|も。女工を毛て選者"せ給ひ。即 [ヤガテ] その妃の御名を。栲|幡千々姫 [タクハタチチヒメ] とまを春も。織紝乃こと尓与れる。こ連を|以ても可く大八洲 [オオヤシマ] の主 [キミ] とま須帝と后とさへ。農|桑のふ多つ越。御名尓わ可ち徒介給へる聖慮を|弁ふべし。可く天のち。崇神天皇の御代尓。男尓弓|端乃調 [ユハズノミツギ] 。女尓手末調 [タナスヘノミツギ] とて課 [オホ] 卋給へるハ。田租 [タチカラ] の|外の調物 [ミツギモノ] のこと尓天。男ハ弓矢を多づさへ天。禽獸|を取り。その羽毛皮肉を貢 [タテマツ] り。女ハ手末 [タナスヘ] 毛て糸を|操り [ト] 。絹絁布帛を貢 [タテマツ] ること奈り。これ崇髪の十三年

おる少女 [オトメ] は誰 [タ] が子そととはせ給へるは。后妃を|も。女工をもて選ばせ給ひ。即 [ヤガテ] その妃の御名を。栲|幡千々姫 [タクハタチチヒメ] とまをすも。織紝乃ことによれる。これを|以ても。かく大八洲 [オオヤシマ] の主 [キミ] とます帝と后とさへ。農|桑のふたつを。御名にわかちつけ給へる聖慮を|弁ふべし。かくてのち。崇神天皇の御代に。男に弓|端乃調 [ユハズノミツギ] 。女に手末調 [タナスヘノミツギ] とて課 [オホ] せ給へるは。田租 [タチカラ] の|外の調物 [ミツギモノ] のことにて。男は弓矢をたづさへて。禽獸|を取り。その羽毛皮肉を貢 [タテマツ] り。女は手末 [タナスヘ] もて糸を|操 [ト] り。絹絁布帛を貢 [タテマツ] ることなり。これ崇神の十三年

の紀尓載られ多りといへども。實 [マコト] ハ此御代尓剏 [ハジ]|まれる尓ハあら奴𦾔 [フル] き制尓て。田あれ者"租賦あ|り。身あれ者"調役あるハ。當然の理奈り。されども|上世は何言も於保ら可尓て。御民 [ミタミ] の有 [モ] 多る田も。|一人尓い可者"可り。と㝎まり天ハあらざりけら|し。孝徳天皇乃御代尓至りて漢様尓倣者卋給ひ|て。細 [コマカ] 尓沙汰し於きてさせ給へり。そハ此天皇乃|御紀と。大寳令とを合卋て。その大概をい者ん尓。|大臣尓ハ封戸織田あり。五位以上尓ハ位田あり|て。官位高き人々。御田をあま多賜り持たり

の紀尓載られ多りといへども。實 [マコト] ハ此御代尓剏 [ハジ]|まれる尓ハあら奴𦾔 [フル] き制尓て。田あれ者"租賦あ|り。身あれ者"調役あるハ。當然の理奈り。されども|上世は何言も於保ら可尓て。御民 [ミタミ] の有 [モ] 多る田も。|一人尓い可者"可り。と㝎まり天ハあらざりけら|し。孝徳天皇の御代に至りて漢様に倣はせ給ひ|て。細 [コマカ] に沙汰しおきてさせ給へり。そは此天皇の|御紀と。大寳令とを合せて。その大概をいはんに。|大臣には封戸織田あり。五位以上には位田あり|て。官位高き人々。御田をあまた賜り持たり

↑近藤芳樹 著『一君一民弁』,英蘭堂,[明3]. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/815111 (参照 2024-06-12)

第二章 臣民権利義務

 第二章は第一章に次ぎ臣民の権利義務を掲ぐ。蓋し祖宗の政は専ら臣民を愛重して名づくるに大宝 オホミタカラ の称をもってしたり。非常赦の時、検非違使佐、囚徒に仰するの詞に、「為公 御-財御-調-物備進 オホミタカラトナリテミツキモノソナヘマツレ」 と云へり (江家次第)。歴世の天子即位の日は、皇親以下、天下の人民を集め大詔を宣 ノリ たまふの詞に、「集-侍皇子等王臣百官人等天下公民諸〻聞食 ウコナハレルミコタチ、オホキミタチ、オミタチ、モモノツカサヒトタチアメノシタノオホミタカラモロモロキコシメサヘ」 と詔るとあり、史臣用ゐる所の 「公民」 の字は、即ち 「オホミタカラ」の名称を訳したるなり。その臣民にありてまた自ら称へて御民といふ天平六年、海犬養宿禰岡麻呂詔に応ずる歌に、「みたみわれ、いける、しるし、あり、あめつちの、さかゆるときに、あへらく、おもへば」 と謂へる、これなり。蓋し上にありては愛重の意を致し、待つに邦国の宝をもってし、下にありては大君に服従し自ら視てもって幸福の臣民とす。これ我が国の典故旧俗に存するものにして、本章に掲ぐるとこの臣民の権利義務またこの義に源流するにほかならず。そもそも中古、武門の政、士人と平民との間に等属を分かち、甲者公権を専有して乙者預らざるのみならず、その私権を併せて乙者その享有を全くすること能はず。公民の義、ここにおいて絶滅して伸びざるに近し。維新の後、しばしば大令を発し氏族の殊権を廃し、日本臣民たる者始めて平等にその権利を有しその義務を尽すことを得せしめたり。本章の戴するところは実に中興の美華を培殖し、これを永久に保明するものなり。

第十八条 日本臣民たるの要件は法律の定むるところによる

 日本臣民とは外国臣民とこれを区別するの謂なり。日本臣民たる者はおのおの法律上の公権および私権を享有すべし。これ臣民たるの用件は法律をもってこれを定むるを必要とする所以なり。日本臣民たるに二つの類あり。第一は出生による者、第二は帰化またはの他法律の効力による者。
 国民の身分は別法の定むるところによる。ただし私権の完全なる享有と、および公権は専ら国民の身分に伴随するをもって、特に別法をもってこれを定むるの旨を憲法に掲ぐることを怠らず。故に別法の掲ぐる所は、即ち憲法の指命するところたり。また憲法における臣民権利義務のよって係属するところたり。
 選挙被選の権、任官の権の類、これを公権とす。公権は憲法またはその他の法律によってこれを認定し、専ら本国人の享有するところとしてこれを外国人に許さざるは各国普通の公法なり。私権に至りては内外の間に懸絶の区別をなしたるは既に歴史上の往事に属し、今日は一二の例外を除くほか各国大抵、外国人をして本国人と同様にこれを享受することを得せしむるの傾向を取りたり。

 

https://dl.ndl.go.jp/pid/2937342/1/25

第二章 臣民權利義務

第二章ハ第一章ニ次ギ臣民ノ權利義務ヲ揭グ蓋祖宗ノ政ハ專ラ臣民ヲ愛重シテ名クルニ大寶 オホミタカラ ノ稱ヲ以テシタリ非常赦ノ時檢非違使佐、囚徒ニ仰スルノ詞ニ爲²公御-財¹御-調-物備進 オホミタカラトナリテミツキモノソナヘマツレ ト云ヘリ (江家次第) 歷世ノ天子卽位ノ日ハ皇親以下天下ノ人民ヲ集メ大詔ヲ宣 ノリ タマフノ詞ニ集-侍皇子等王臣百官人等天下公民諸〻聞食 ウコナハレルミコタチ、オホキミタチ、オミタチ、モモノツカサヒトタチアメノシタノオホミタカラモロモロキコシメサヘ ト詔ルトアリ史臣用ヰル所ノ公民ノ字ハ卽チオホミタカラノ名稱ヲ譯シタルナリ其ノ臣民ニ在テ亦自ラ稱ヘテ御民ト云天平六年海犬養宿禰岡麻呂應レ詔歌ニミタミワレ、イケル、シルシ、アリ、アメツチノ、サカユルトキニ、アヘラク、オモヘハト謂ヘル是ナリ蓋上ニ在テハ

愛重ノ意ヲ致シ待ツニ邦國ノ寶ヲ以テシ下ニ在テハ大君ニ服從シ自ラ視テ以テ幸福ノ臣民トス是レ我ガ國ノ典故舊俗ニ存スル者ニシテ本章ニ揭グル所ノ臣民ノ權利義務亦此ノ義ニ源流スルニ外ナラズ抑〻中古、武門ノ政、士人ト平民トノ閒ニ等屬ヲ分チ甲者公權ヲ專有シテ乙者預ラザルノミナラズ其ノ私權ヲ倂セテ乙者其ノ享有ヲ全クスルコト能ハズ公民ノ義、是ニ於テ絕滅シテ伸ビザルニ近シ維新ノ後、屡〻大令ヲ發シ氏族ノ殊權ヲ廢シ日本臣民タル者始メテ平等ニ其ノ權利ヲ有シ其ノ義務ヲ盡スコトヲ得セシメタリ本章ノ戴スル所ハ實ニ中興ノ美華ヲ培殖シ之ヲ永久ニ保明スル者ナリ

第十八條 日本臣民タルノ要件ハ法律ノ定ムル所ニ依ル

https://dl.ndl.go.jp/pid/2937342/1/26

日本臣民トハ外國臣民ト之ヲ區別スルノ謂ナリ日本臣民タル者ハ各〻法律上ノ公權及私權ヲ享有スヘシ此レ臣民タルノ用件ハ法律ヲ以テ之ヲ定ムルヲ必要トスル所以ナリ日本臣民タルニ二ツノ類アリ第一ハ出生ニ依ル者第二ハ歸化又ハ其ノ他法律ノ效力ニ依ル者
國民ノ身分ハ別法ノ定ムル所ニ依ル但シ私權ノ完全ナル享有ト及公權ハ專ラ國民ノ身分ニ伴隨スルヲ以テ特ニ別法ヲ以テ之ヲ定ムルノ旨ヲ憲法ニ揭グルコトヲ怠ラズ故ニ別法ノ揭グル所ハ卽チ憲法ノ指命スル所タリ又憲法ニ於ケル臣民權利義務ノ由テ係屬スル所タリ
選擧被選ノ權任官ノ權ノ類之ヲ公權トス公權ハ憲法又ハ其ノ他ノ法律ニ依テ之ヲ認定シ專ラ本國人ノ享有スル所トシテ之ヲ外

國人ニ許サゞルハ各國普通ノ公法ナリ私權ニ至テハ內外ノ閒ニ懸絕ノ區別ヲナシタルハ既ニ歷史上ノ往事ニ屬シ今日ハ一二ノ例外ヲ除ク外各國大抵外國人ヲシテ本國人ト同樣ニ之ヲ享受スルコトヲ得セシムルノ傾向ヲ取リタリ

伊藤博文 著『帝國憲法 皇室典範 義解』,国家学会,1889. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/2937342 (参照 2024-07-31)