警視庁編『大正大震火災誌』（1925年）より
（三）震災当時の幹部
官房主事 正力松太郎
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1748933/41
【極秘】 亜細亜局長
支那人王希天行衛不明の件
確実なる報道を総合するに、元東京支那基督教青年会幹事、元支那労働組合共済会会長、王希天は、震災当時、早稲田支那留学生、建盧方に避難し居りたる処、本所、深川方面、殊に大島町付近に於ける支那労働者の実況調査の為、九月九日朝、自転車にて出発したるに、同日、亀井戸警察署に留置せられ、間も無く武装せる日本兵士数名に護送せられ同警察署を去りたる侭、今日迄、行衛不明なり。
九月十六日、警備会議の際、出渕局長より正力警視庁官房主事に対し、王希天の所在如何と質問したるに、同主事は行衛全然不明なりとて言葉を濁らし、又、同月二十日来訪の広瀬警視庁外事課長にも局長より同様の質問を発したるに、是亦、行衛不明なりと言明したる侭、多く語ることを避けたり。
王希天は在京支那人中有名なる煽動家にして、曽て排日張本人として其の筋より睨まれ居りたる人物なるを以て、偶々、大島町付近を徘徊したる機会に警察署に留置せられ、陸軍側にて之を連れ出し、多分、何れかに葬り去りたるものと想像せらる。
九月九日以後、王希天の行衛不明となりたることは、支那留学生の一部にも知れ渡り、追々問題となりつつあるものの如し。支那青年会員、王兆澄の如きは、現に極力、王希天の行衛如何を探索しつつあり。
本所大島町付近に於て約三百名の支那労働者殺害せられたる事実は、九月十六日、警視総監の出渕局長に言明（正力官房主事、熱心に之を裏書せり）せる所なるを以て、同問題と王希天行衛不明問題とは、多分、早晩、支那側の疑惑を惹起するに至るが如きことなきやと私[ひそか]に懸念せらる。
「只今迄の処、九月二十日、支那公使館側にても、又、在留支那人側にても、震災の際、日本人の手にて危害を受けたる支那人は僅々四五名なりと認め居るものの如く、大島町事件は全然、問題となり居らざる如し｡」
（大正十二年九月二十一日）
【極秘】 亜細亜局長
支那人 王希天 行衛不明ノ件
確実ナル報道ヲ綜合スルニ 元東京支那基督敎青年會幹事 元支那労働組合共済會々長 王希天ハ 震災當時 早稲田支那留學生 建盧方ニ避難シ居リタル處 本所 深川方面 殊ニ大島町附近ニ於ケル支那労働者ノ実况調査ノ为 九月九日朝 自轉車ニテ出發シタルニ 同日 亀井戸警察署ニ留置セラレ 間モ無ク武装セル日本兵士数名二護送セラレ同警察署ヲ去リタル侭 今
日迠 行衞不明ナリ
九月十六日 警備會議ノ際 出渕局長ヨリ正力警視廳官房主事ニ對シ 王希天ノ所在如何ト質問シタルニ 同主事ハ行衛全然不明ナリトテ言葉ヲ濁ラシ 又 同月二十日來訪ノ廣瀬警視廳外事課長ニモ 局長ヨリ同様ノ質問ヲ発シタルニ 是亦 行衛不明ナリト言明シタル侭 多ク語ルコトヲ避ケタリ
王希天ハ在京支那人中 有名ナル煽動家ニシテ 曽テ排日張本人トシテ其ノ筋ヨリ睨マレ居リタル人物ナルヲ以テ 偶々 大島町附近ヲ徘徊シタル機會ニ警察署ニ留置セラレ 陸軍側ニテ之ヲ連出シ 多分 何レカニ葬リ去リタルモノト想像セラル
九月九日以後 王希天ノ行衛不明トナリタルコトハ支那留學生ノ一部ニモ知レ渡リ 追々問題トナリツツアルモノノ如シ 支那青年會員 王兆澄ノ如キハ現ニ極力 王希天ノ行衛如何ヲ探索シツツアリ
本所大島町附近ニ於テ約三百名ノ支那労働者殺害セラレタル事実ハ九月十六日 警視総监ノ出渕局長ニ言明（正力官房主事 熱心ニ之ヲ裏書セリ）セル所ナルヲ以テ 同問題ト王希天行衛不明問題トハ 多分 早晩 支那側ノ疑惑ヲ惹起スルニ至ルカ如キコトナキヤト私ニ懸念セラル
（大正十二年九月二十一日）
↑本邦変災並救護関係雑件／関東地方震災関係
２．大島町事件其他支那人殺傷事件 分割１
https://www.jacar.archives.go.jp/das/image/B04013322800 p.６
