Ob-La-Di Oblako 文庫

帝国日本の侵掠戦争と植民地支配、人権蹂躙を記憶し、再現を許さないために、ひたすら文書資料を書き取る。姉妹ブログ「歴史を忘れる民族に未来はない!」https://obladioblako.hateblo.jp/ のデータ·ベースを兼ねる。

自警団員諸君に檄す 関東自警同盟 1923. 11

   自 警 団 員 諸 君 に 檄 す

             関 東 自 警 同 盟

 敬愛する我が関東六百万の自警団員諸君、我らはここに結束して立たねばならぬ時機に際会した。諸君は知るや、知らずや、震災当時より力をあはせて警備の任に当った我らの同志は、今や続々として検挙せられ、その数すでに八千に余り、起訴された者だけでも二千を越えてゐる。しかして当局の検挙の手はさらに八方に延びて、停止する所を知らぬ状態にあるではないか。心あるものは胸に手をあてて考へよ。災害の当時、我らに告げて「某々方面より鮮人襲来のおそれあり。男子は武装せよ。女子は避難せよ。◯◯と見れば殺しても差支へない。主義者と判らば殴っても宜しい。彼らは凶器を携へて至る所に殺人、強盗、凌辱、放火、投毒など、あらゆる悪事を働いてゐる」とふれ廻ったのは何者であったか。当局はこれを、横浜に強盗を働いた某々らの宣伝であるといふも、直接我らに伝へた者は正しく詰襟の◯◯官吏であった。事実、この時、多くの鮮人や不逞日本人の殺人、放火、その他あらゆる悪事は到るところに行はれ、低級愚劣な一部の主義者に至っては、貧民のあばら屋に放け火して喜んだものすらあった。我ら自警団員はここに奉公愛国の一念にかられ、九月二日の午後八時から一斉に剣を按じて警備のために起ったのである。当時、警視庁は管下六十余ヶ署に分配せる巡査一万の中より五千余人の罹災者を出し、神奈川県警察部も同じく多大の人手を失って、残る一部は救済のために東奔西走したため、焼け残された山手方面はほとんどサーベルの影さへ見られぬ状態であったのみか軍隊の警備も最初はその不足を補ふに足らなかった。

 この時、警察と軍隊との欠を補って市郡一円の警備に当り、民人の危急を未然に防いだもの、我ら自警団の闘士にあらずして誰であらう。我らの功労は無力なりし当時の警察に比して正に百倍千倍であった。しかるに何ぞ今や吾人の功績はことごとく没却せられ、一命を賭して防御の任に当った幾多の同志は、いづれも殺人、暴行、傷害の極悪人として起訴収監せられつつあるではないか。

 かくて忠良なる我が自警団は、全古稀国七千万の同胞より凶悪無頼の悪徒として敵視せられ、当時の事情に疎い列国の外人よりは、血に飢えた蛮人のやうに誤解せられつつあるのである。言ふまでもなく我等の中には好んで殺人強盗を働いた似非団員も交ってゐた。けれどもこれらは厳正な意味において我ら自警団の仲間でないのは勿論であり、したがって真正な自警団はその責を負ふの必要がないとともに、真の団員の過失のすべては官憲の宣伝に迷はされた結果であるのは明白な事実である。のみならずそは邦家のため後日の死刑をも省みぬ嵩[→崇]高な犠牲的精神の発露であったことは、何人がこれを否定することができやう。これをしも知らぬ振りして悪名のすべてをばひとり我が自警団に嫁し、誠良なる 陛下の赤子をして凶徒の汚名を蒙らしめんとするは、そも何者の侫漢[→佞奸]ぞ。

 誠に思へ。当時、電信·電話はことごとく破壊せられ、鉄道は陥ちて交通途絶し、監獄は開かれて幾千となき無頼不逞の徒は手に手に凶器を擁して各地に蜂起したではないか。もしこれをしも棄て置かば、彼らは果して何をしでかしたであらう。

 当時、奮然蹴[→蹶]起してこれらの凶徒と闘ひ力尽きて立所に落命した自警団員の数が百数拾名に達せるを見ても、彼らが狂暴の一班は知らるるではないか、自衛に伴ふ殺人傷害は非常危急の際やむを得ざるに出でたるもの。我らはいかに鮮人の暴逆に同情するとも自衛のためには背に腹が代へられなかったのである。さらによしや被害者中に科なくして殺された者が多少とも有ったとせよ、殺された者も罪の一部を頒たねばならないものが多かったのは事実である。即ちある者はことさらに異様の風を装ひ、怪しい挙動を示して自警団に誤られた者であり、あり者は時と場所をわきまへずフザケ散らして団員の怒りを買った呆痴漢、または故意に暴慢不遜の言辞を弄して不逞無頼の徒と誤られた成らず者であった。これ等が殺されるのに何の不思議があらう。しかも多くの極悪行為を眼のあたり見せつけられてた我等、神に非ざる限り路行く人の黒白を弁ずることは出来なかつたのである。

 もしそれ防御のための過失が果して悪いとするならば、自警団以外の手によって行はれた多くの殺人傷害は、これはまたなんとする。今や我らは自らの名誉回復のために我らの頭上に蒙らされたあらゆる汚名を雪がなければならない。けだし震火災を機として一旦生れた各地の自警団は決して一時的のものにあらずして、将来といへども團体自身は永久に存続し、一朝有事の際は再び出で、民人の衛に任ぜねばならぬ民間警備軍であるにかかはらず、これに対する社会の信望地に堕ち、民衆怨嗟の的とならんか、国家社会のため由々しき大事であるのみならず、我ら団員は同胞国民に対し顔向けが出来ない。関東の震火災地一帯を打って一丸とする自警団の大同盟はこの目的により成ったもの。大方同感の有志は奮って我らの運動に參加へられんことを希望する。
             (筆責者 菊池義郎)

 

    同 盟 決 議 案

 △我らは当局に対して左の事項を訊す。

一、流言の出所につき当局がその責を負はず、これを民衆に転嫁せんとする理由いかん。

二、当局が目のあたり自警団の暴行を放任し、後日に至りその罪を問はんとする理由いかん。

三、自警団員の罪悪のみ独りこれを天下にあばき、幾多警官の暴行はこれを秘せんとする理由いかん。

 △我等は当局に対して左の事項を要求す。

四、過失により犯したる自警団員の殺人および傷害罪は、ことごとく異例の恩典に浴せしめて裁決すること。

五、自警団員中の功労者を表彰し、特に警備のため失命したる者の遺族に対しては充分に慰藉の方法を講ずること。

     東京市外西巣鴨町宮仲一八八九
          関 東 自 警 同 盟 仮 本 部

 

https://www.jacar.archives.go.jp/das/image-j/C08051013400 30/53

   自 警 團 貟 諸 君 に 檄 す

             関 東 自 警 同 盟

敬愛する我が関東六百万の自警團貟諸君我等はここに結束して立たねばならぬ時機に際會した。諸君は知るや 知らずや 震災當時より力を恊せて警備の任に當つた我等の同志は 今や續々として檢擧せられ其の数旣に八千に餘り起訴された者𠀋でも二千を越えてゐる。而して当局の檢擧の手は更に八方に延びて停止する所を知らぬ狀態にあるではないか。心あるものは胸に手をあてゝ考へよ 災害の当時我等に告げ天[て]『某々方面より鮮人襲來の惧れあり男子は武装せよ女子は避難せよ◯◯と見れば殺しても差支へない主義者と判らば殴つても宜い、彼等は兇器を携へ天[て]至る所に殺人強盗凌辱放火投毒等あらゆる悪事を働いてゐる』とふれ廻つたのは何者

 

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であつたか。当局は之越[を]横浜に強盗を働いた某々等の宣傳であると云ふも直接我等に傳へた者は正しく詰襟の◯◯官吏であつた事實此時多くの鮮人や不逞日本人の殺人放火其他あらゆる悪亊は到る処に行はれ低級愚劣な一部の主義者に至つては貧民のあばら屋に放け火して喜んだものすらあつた。我等自警團貟はこゝに奉公愛國の一念にかられ九月二日の午後八時から一齊に劍を按じて警備のために起つたのである。当時警視廰は管下六十余ヶ署に分配せる巡査一万の中より五千余人の罹災者を出し神奈川縣警察部も同じく夛大の人手越[を]失つて残る一部は救済のために東奔西走したため焼け残された山手方面は殆どサーベルの影さへ見られぬ状態であつたのみか軍隊の警備も最初は其不足越[を]補ふに足らなかつた。

 

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此の時警察と軍隊との缺を補つて市郡一圓の警備に當り民人の危急を未然に防いだもの我等自警團の闘士に非ずし天[て]誰であらう。我等の功勞は無力なりし當時の警察に比し天[て]正に百倍千倍であつた。然るに何ぞ今や吾人の功績は悉久[く]沒却せられ一命を賭して防禦の任に当つた幾夛の同志は何れも殺人暴行傷害の極悪人として起訴收监せられつゝあるではないか。

斯くて忠良なる我が自警團は全國七千萬の同胞より兇悪無頼の悪徒とし天[て]敵視せられ當時の亊情に疎い列国の外人よりは血に飢えた蠻人のやうに誤解せられつゝあるのである。言ふまでもなく我らの中には好んで殺人強盗を働いた似非團貟も交つてゐた。けれ共是等は嚴正な意味に於て我等自警團の仲間でないのは勿論であり從つて眞正な自警團は其の責

 

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を負ふの必要がないと共に眞の團貟の過失の總ては官憲の宣伝に迷はされた結果であるのは明白な亊實である。のみならずそは邦家のため後日の死刑をも省みぬ嵩[ママ]髙な犠牲的精神の発露であつたことは何人が之を否定することができやう。之れをしも知らぬ振して悪名のすべてをば独り我が自警團に嫁し誠良なる。 陛下の赤子をし天[て]兇徒の汚名を蒙らしめんとするはそも何者の侫漢[ママ]ぞ。

誠に思へ当時電信電話は悉く破壞せられ鐵道は陥ちて交通途絶し监獄は開かれて幾千となき無頼不逞の徒は手に〱兇器を擁し天[て]各地に蜂起したではないか若し之をしも棄て置かば彼等は果し天[て]何を仕出來かしたであらう。

當時奮然蹴[ママ]起し天[て]之等の兇徒と闘比[ひ]力盡きて立所に落命した自警團員の數が百數拾名に達せるを見ても彼等が狂暴の一班は知ら

 

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るゝではないか、自衞に伴ふ殺人傷害は非常危急の際已むを得ざるに出でたるもの。我等は如何に鮮人の暴逆に同情するとも自衞の爲めには背に腹が代へられなかつたのである 更によしや被害者中に科なくして殺された者が夛少とも有つたとせよ殺された者も罪の一部を頒たねばならないものが夛かつたのは亊実である。即ち或者は殊更に異様の風を装比[ひ]怪しい擧動を示して自警團に誤られた者であり、或者は時と場所を辨へ春"[ず]フザケ散らし天[て]團員の怒を買つた呆痴漢、又は故意に暴慢不遜の言辞を弄して不逞無頼の徒と誤られた成らず者であつた。之れ等が殺されるのに何の不思議があらう而も夛くの極悪行爲を眼のあたり見せつけられて激怒した我等、神に非ざる限り路行く人の黑白を辨することは出來なかつたのである。

若しそれ防禦のための過失が果し天[て]悪いとするならば自警團以外

 

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の手によつて行はれた夛くの殺人傷害は之は又何とする。今や我等は自らの名譽恢復のために我等の頭上に蒙らされた有らゆる汚名を雪がなければならない。蓋し震火災を機とし天[て]一旦生れた各地の自警團は決して一時的のものにあらずして將來と虽團体自身は永久に存續し一朝有亊の際は再比"[び]出天"[で]民人の衞に任ぜねばならぬ民間警備軍であるに拘らず、之れに対する社会の信望地に堕ち民衆怨嗟の的とならんか國家社会のため由々しき大亊であるのみならず我等團貟は同胞國民に對し顔向けが㞮來ない。関東の震火災地一帶を打つて一丸とする自警團の大同盟は此の目的により成つたもの。大方同感の有志は奮つて我等の運動に參加せられんことを希望する
             (筆責者 菊池義郎)

 

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    同 盟 決 議 案

 △我等は当局に対して㔫の亊項を訊す

一、流言の㞮所につき当局が其責を負はず之れを民衆に轉嫁せんとする理由如何

二、当局が目のあたり自警團の暴行を放任し後日に至り其の罪を問はんとする理由如何

三、自警團員の罪悪のみ独り之を天下にあばき幾多警官の暴行は之を秘せんとする理由如何

 △我等は当局に對し天[て]㔫の亊項を要求す

四、過失により犯したる自警團貟の殺人及び傷害罪は悉く異例の恩典に浴せしめて裁決すること

五、自警團員中の功勞者を表彰し特に警備のため失命したる者の遺族に對しては充分に慰藉の方法を講ずること

 

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       東京市外西巣鴨町宮仲一八八九
           関 東 自 警 同 盟 假 本 部

 

「一般雑件 其の2(2)」JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C08051013400

大正12年 公文備考 変災災害附属 巻12(防衛省防衛研究所 海軍省-公文備考-T12-180-3063)