【供覧】花押[彪]【岡田】 【藤田】【坂野】【洪】
【軍務局】【大角】第一課【印】
第二課【塩沢】
震災善後の経綸に就て【前田】【印】【太田】
社会主義者不逞鮮人凶行の一班 【印】
【法務局】【済】
黑龍會主幹【済】内田良平
次に吾人が更に苦言を呈出して、政府の考慮を乞はんとするものは、他にあらず、彼の社会主義者及び不逞鮮人の徒が震災の機會に乘じて、或は爆彈を投じ、或は毒藥を飲料水に入れ、或は放火を敢えてし、或は暴行を無辜の邦人に加ヘ、或は掠奪を縦にした亊は、掩ふ可からざる乎として實である。而かも其の確證は政府に於て挙け得ぬ筈はないのに拘らず、政府當局者が之を掩蔽しつゝあるは、果して何亊である[か]。彼の湯浅警視総监が『此の未曾有の惨状に對し、罹災民の狼狽することは、然ることながら、亊實の據る所なき鮮人暴行の風聲鶴唳に驚き、殆んど常軌を逸した行動に出づるものゝあつたことは、遺憾千萬である』と云って鮮人の暴行を否認し、一歩を進めて『浮説に惑はされて、暴行を鮮人に加へたことは、我が朝鮮統治上憂ふべきことは申すまでも無い』と云ひ、又た山本首相が『多数罹災民は、概ね能く危急を冒し、艱苦に耐ヘ、沈著の態度を失はざりしも、此の間、多少の常軌を逸したるものあるを免れす』と云って居るのは、是れ我が國民が、不逞鮮人の暴行に對し自警団を組織し、自衞的手段に出で、時に或は鮮人を毆殺したことある事實を指摘したものゝ如く奈[=な]れども吾人は此言に対し草々看過する能はざるものである。
抑も我が國民が自警團を組織した所以のものは、不逞鮮人が震災の機會に乘じて、爆彈を投じ、放火を事とし、其の他種々の暴行を我が罹災民に加ヘ、残虐なる行動を逞しうしたのを目擊し、之を放任し去ることが出来ぬからである。しかも警察官の如きは公安保䕶の能力を缺ぎ大道に疾駆して『鮮人の暴行に對しては之れを毆殺するも亦た已むを得ぬ』と聲言し廻り、或は之れを告示に迠出したことは全市に公然なる亊實である。若し警察官にして
【供覧】花押[彪]【岡田】 【藤田】【坂野】【洪】
【軍務局】【大角】第一課【印】
第二課【塩澤】
震災善後ノ経綸ニ就テ【前田】【印】【太田】
社會主義者不逞鮮人兇行ノ一班 【印】
【法務局】【濟】
黑龍會主幹【濟】内田良平
次に吾人が更に苦言を呈出して、政府の考慮を乞はんとするものは、他
にあらず、彼の社会主義者及び不逞鮮人の徒が震災の機會に乘じて、或は爆彈を投じ、或は毒藥を飲料水に入れ、或は放火を敢えてし、或は暴行を無辜の邦人に加ヘ、或は掠奪を縦にした亊は、掩ふ可からざる亊實である。而かも其の確證は政府に於て挙け得ぬ筈はないのに拘らず、政府當局者が之を掩蔽しつゝあるは、果して何亊である[か]。彼の湯浅警視総监が『此の未曾有の惨状に對し、罹災民の狼狽することは、然ることながら、亊實の據る所なき鮮人暴行の風聲鶴唳に驚き、殆んど常軌を逸した行動に出づるものゝあつたことは、遺憾千萬である』と云って鮮人の否認し、一歩を進めて『浮説に惑はされて、暴行を鮮人に加へたことは、我が朝鮮統治上憂ふべきことは申すまでも無い』と云ひ、又た山本首相が『多数罹災民は、概ね能く危急を冒し、艱苦に耐ヘ、沈著の態度を失はざ
八
りしも、此の間、多少の常軌を逸したるものあるを免れす』と云って居るのは、是れ我が國民が、不逞鮮人の暴行に對し自警団を組織し、自衞的手段に出で、時に或は鮮人を毆殺したことある事實を指摘したものゝ如く奈[=な]れども吾人は此言に対し草々看過する能はざるものである。
抑も我が國民が自警團を組織した所以のものは、不逞鮮人が震災の機會に乘じて、爆彈を投じ、放火を事とし、其の他種々の暴行を我が罹災民に加ヘ、残虐なる行動を逞しうしたのを目擊し、之を放任し去ることが出来ぬからである。しかも警察官の如きは公安保䕶の能力を缺ぎ大道に疾駆して『鮮人の暴行に對しては之れを毆殺するも亦た已むを得ぬ』と聲言し廻り、或は之れを告示に迠出したことは全市に公然なる亊實である。若し警察官にして
鮮人の暴行を制し、公安保䕶の任務を竭すことが出来た奈[=な]らば、國民は何を苦んでか自警團を組織し警察官に代りて鮮人防禦の挙に出でんや。畢竟、我が國民が自ら進んで自警團を組織するに至った所以のものは、警察の無能力より生じた結果に外ならぬのである。故に今囬の如き危急の場合に際し、警視総監の所謂る鮮人暴行の風声鶴唳に驚き、殆んど其の常軌を一歩した行動に出でたものは、我が國民にあらずして、寧ろ警察官である。然るに戒嚴令が實施せられ、輦轂の下が、軍隊に由りて漸次秩序と安寧とが囬復せらるゝや、當局者が恰も掌を返すが如く、社會主義者や、鮮人の暴行亊實を掩蔽し、我が國民を誣ゆるに、常軌を逸したものゝ如く聲明するに至ったのは、吾人其の理由を知るに苦しまざるを得ぬのである。
「一般雑件 其の2(10)」JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C08051014200、大正12年 公文備考 変災災害附属 巻12(防衛省防衛研究所 海軍省-公文備考-T12-180-3063)