Ob-La-Di Oblako 文庫

帝国日本の侵掠戦争と植民地支配、人権蹂躙を記憶し、再現を許さないために、ひたすら文書資料を書き取る。姉妹ブログ「歴史を忘れる民族に未来はない!」https://obladioblako.hateblo.jp/ のデータ·ベースを兼ねる。

朴烈·金子文子裁判 東京地裁 予審尋問調書より 金子文子 第十二回訊問調書、第十三回訊問調書 1924. 5. 14, 21

  第十二回訊問調書
   (大正十三年五月十四日 市ヶ谷刑務所)
                  金子文子

   (冒頭省略)

1. 被告が朴と相談の上、金重漢に対して爆弾入手のことを頼んだのは、 皇太子の御結婚期にそれを使用する考えからであったとの、前回の申し立ては相違ないか。

 そうです。

2. 被告らが金翰に対して爆弾のことを頼んだのも、やはり殿下の御結婚期を期していたのではないか。

 私は朴が金翰と連絡をとるために京城に行ったころには、その近い将来に坊っちゃんの御結婚式が挙げられるということを知っておりました。
 その当時、坊っちゃんの結婚式の時日はしっかりきまっていなかったと記憶します。とにかくその近い将来に結婚式の行列の実現されることが予想されておりました。それゆえ私は、その最もよい機会の行列にまでに爆弾を間に合わせるために、朴が京城に行ったのであったと記憶しております。

3.問 朴が京城に出発するに際して被告は朴との間に、御結婚式までに間に合わせることを協議したか。

 私は朴と御結婚式の際に坊っちゃんに爆弾を献上しようということを始終、話し合っておりました。
 それが朴の京城に出発する以前のことであったか、以後のことであったか、ただいましかと記憶しておりませぬ。とにかく私は朴が京城に出発するころから、御結婚式に爆弾を使用することが一番よいと思っておりましたので、朴も金翰に対しては、それまでに爆弾を間に合わしてくれる様にといったはずだと思っております。

4.問 朴は京城から帰って後、被告に対して、金翰との間に御式までに爆弾を間に合わす様に協議して来たと告げたか。

 私は朴からその様な話があったと聞いておりませぬ。朴は京城から帰って来てから私に、いよいよ金翰から爆弾を分けてもらう様にして来たと申しただけでありました。

5.問 それでは朴が京城から帰ったという大正十年暮れごろより、金相玉事件のために金翰から爆弾を入手することができなくなったという大正十二年春ごろまでの間に、被告は朴と金翰から爆弾が来た以上はそれを御式の時に使用することを協議したか。

 私と朴との間には、御結婚式にそれを使用しようという話は何度もありましたが、それがそのころのことであったかどうであったか、どうも確とした記憶が残っておりませぬ。

6.問 金重漢との関係についての時はどうか。

 その時には明らかに私と朴との間に、行列に使うという話がありました。

7.問 その爆弾をだれに投げるというのか。

答 つまり坊っちゃん一匹をやっつければよいのであります。
 天皇をやってもよいのでありますが、行列の機会が少ないのと、 天皇は病人ですから、坊っちゃんをやるのとは宣伝価値が違って甲斐がありませぬ。それで坊っちゃんを狙ったのです。

8.問 爆弾入手の上は、それをだれが投げるはずであったか。

答 無論、私も朴もそれを投げるはずでありましたが、そのほか同志の新山や崔圭悰、山本勝之にもそれを頼む心算でありました。
 それは新山と山本とはかねて肺病に悩んで死を覚悟しており、崔はおだてればどんな直接行動でもする人でありますから、私と朴とはこの三人を使って私らが爆弾を投げると同時に、議会や三越、警視庁、宮城等に手を分けて爆弾を投げてもらう心算でありました。
 もっとも新山については、新山が金重漢と恋愛的関係に陥ったころから、私らは新山の性格がこの種の直接行動をすることに適していないことを感じましたので、その以後は同人を使う計画を捨てました。

9.問 被告は 皇太子殿下に爆弾を投げることを唯一の目的にしていたのか。

答 つまり坊っちゃん一人に爆弾を投げればよいのでありますが、もしできるなら坊っちゃんと一緒に大臣などの政治の実権者もやっつけたいと思っておりました。
 もっとも、爆弾を手に入れてからその機会を狙ってまごまごしていたため御役人につかまってしまえば、それこそ今の私の身の上の様に馬鹿を見ますから、どうしても機会がなかったら今度は宣伝方面に着目して、メーデー祭の時とか議会の開会式の様な時にその爆弾を投げようと考えておりました。

10.問 朴も被告と同じ様に主として殿下に爆弾を投げる心算でいたのか。

 そうであります。

11.問 被告はなぜ 皇太子殿下にその様な危害を加えようとしたのか。

答 私はかねて人間の平等ということを深く考えております。人間は人間として平等であらねばなりませぬ。そこには馬鹿もなけりば悧口もない。強者もなければ弱者もない。地上における自然的存在たる人間としての価値からいえば、すべての人間は完全に平等であり、したがってすべての人間は、人間であるというただ一つの資格によって、人間としての生活の権利を完全にかつ平等に享受すべきはずのものであると信じております。
 具体的にいえば、人間によってかつてなされた、なされつつある、またなされるであろうところの行動のすべては、完全に人間という基礎の上に立っての行動である。したがって自然的存在たる基礎の上に立つこれらの地上における人間によってなされたる行動のことごとくは、人間であるというただ一つの資格によって一様に平等に人間的行動として承認さるべきはずのものであると思います。しかしこの自然的な行為、この自然的の存在自体がいかに人為的な法律の名のもとに拒否され、左右されつつあるか。本来、平等であるべき人間が、現実社会にあってはいかにその位置が不平等であるか。私はこの不平等を呪うのであります。私はつい二、三年前まではいわゆる第一階級の高貴の人々を、いわゆる平民とはどこかに違った形と質とを備えている特殊の人種の様に考えておりました。ところが新聞で写真を見ても、いわゆる高貴のお方は少しも平民と変わらせられぬ。お目が二つ、お口が一つあって、歩く役目をする足でも、動く手でも少しも不足するところはないらしい。
 いやその様なものの不足する畸形児は、そうした階級には絶対にないことと考えていました。
 この心持ち、つまり皇室階級とし聞けばそこには侵すべからざる高貴なあるものの存在を直感的に連想せしむるところの心持ちが、恐らく一般民衆の心に根付けられているのであるましょう。語を換えていえば、日本の国家とか君主とかは、わずかにこの民衆の心持ちの命脈の上につながり、かかっているのであります。
 もともと国家とか社会とか民族とか、または君主とかいうものは、一つの概念に過ぎない。ところがこの概念の君主に尊厳と権力と神聖とを付与せんがためにねち上げたところの代表的なるものは、この日本に現在行われているところの親授君権説であります。いやしくも日本の土地に生まれた者は、小学生ですらこの観念を植え付けられているごとくに、 天皇をもって神の子孫であるとか、あるいは君権は神の命令にによって授けられたものであるとか、もしくは 天皇は神の意思を実現せんがために国権を握る者であるとか、したがって国法はすなわち神の意であるとかという観念を愚直なる民衆に印象付けるために架空的に捏造した伝説に根拠して、鏡だとか刀だとか玉だとかいう物を神の授けた物として祭り上げて、いかつめらしい礼拝を捧げて完全に一般民衆を欺瞞している。こうして荒唐無稽な伝説に包まれて幻惑されているあわれなる民衆は、国家や 天皇をまたなく尊い神様と心得ているが、もしも 天皇が神様自身であり神様の子孫であり、日本の民衆がこの神様の保護のもと、歴代の神様たる 天皇の霊のもとに存在しているものとしたなら、戦争の折に日本の兵は一人も死なざるべく、日本の飛行機は一つも落ちないはずでありまして、神様のお膝元において昨年の様な天災のために何万という忠良なる臣民が死なないはずであります。
 しかしこのあり得ないことがあり得たという動かすことのできぬ事実は、すなわち親授君権説の仮定に過ぎないこと、これに根拠する伝説が空虚であることを、あまりに明白に証明しているではありませぬか。全知全能の神の顕現であり、神の意志を行うところの 天皇が現に地上に実在しているにかかわらず、そのもとにおける現社会の赤子の一部は飢えに泣き、炭坑に窒息し、機械に挟まれて惨めに死んで行くではありませぬか。この事実は取りも直さず、 天皇が実は一介の肉の塊であり、いわゆる人民と全く同一であり平等であるべきはずのものであることを、証拠立てるにあまりに充分ではりませぬか。ね、お役人さん、そうでしょう。日本は連綿として絶ゆることなき 天皇を戴き、世界に比類なき国体である、この国に生まれ合わせたことは人間として唯一の誇りであるから、それを発揚するために努力せねばならぬとは、小学校時代に私の教えられたところでありました。しかし一つの血統、それは嘘か誠か判ったものではないが、とにかく一つの系統の統治者を戴くということが、それ程にも大きな名誉でありましょうか。かつて私は、海に沈んで魚の餌食となったという安徳天皇とやらは、わずかに二歳で日本の統治者としての任を負うていたと聞いております。こうした無能な人間を統治者として祭り上げて置くということが、果たして被統治者の誇りでありましょうか。むしろ万世一系天皇とやらに形式上にもせよ統治権を与えて来たということは、日本の土地に生まれた人間の最大恥辱であり、日本の民衆の無智を証明しているものであります。
 天皇の現に呼吸している傍らで多くの人間が焼死したという昨年の惨事は、すなわち 天皇が実は愚かな肉塊に過ぎないことを証明すると同時に、過去における民衆の愚かさ、おめでたさを嘲笑しているものであります。
 学校教育は、地上の自然的存在たる人間に教える最初においてハタ (旗) を説いて、まず国家的観念を植え付けるべく努めております。等しく人間という基礎の上に立っての諸々の行動も、ただそれが権力を擁護するものであるかいなかの一事を標準として、すべての是非を振り分けられている。そしてその標準は人為的な法律であり道徳であります。
 法律も道徳も社会の優勝者によりよく生活する道を教え、権力はの服従をのみ説いている。警察官はサーベルを下げて人間の行動を威嚇し、権力の塁を揺がすおそれのある者をば片っ端から縛り上げている。また裁判官という偉い役人は、法律書を操っては人間としての行動の上に勝手な断定を下し、人間の生活から隔離し、人間としての存在すらも否認して、権力擁護の任に当たっている。
 かつてキリスト教が全盛であった時代には、その尊厳を保つために、その説くところの神の迷信的な奇蹟や因襲的な伝説の礎の揺がさることをおそれて、科学的な研究を禁止したと同様に、国家の尊厳とか 天皇の神聖とかが一場の夢であり単なる錯覚に過ぎないことを明らかにする思想や言論に対しては、力をもってこれを圧迫する。
 かくして自然の存在たるすべての人間の享受すべき地上の本来の生活は、よく権力へ奉仕する使命をまっとうし得るものに対してのみ許されているのでありますから、地上は今や権力という悪魔に独占され蹂躪されているのであります。
 そうして地上の平等なる人間の生活を蹂躪している権力という悪魔の代表者は 天皇であり 皇太子であります。私がこれまでお坊っちゃんを狙っていた理由は、この考えから出発しているのであります。
 地上の自然にして平等なる人間の生活を蹂躪している権力の代表者たる 天皇、 皇太子という土塊にも等しい肉塊に対して、彼らより欺瞞されたあわれなる民衆は、大袈裟にも神聖にして侵すべからざるものとして至上の地位を与えてしまって搾取されている。そこで私は一般民衆に対して、神聖不可侵の権威として彼らに印象されているところの 天皇、 皇太子なる者が、実は空虚なる肉の塊であり木偶に過ぎないことを明らかに説明し、また 天皇、 皇太子は少数特権階級が私腹を肥やす目的のもとに、財源たる一般民衆を欺瞞するために操っている一個の操り人形であり愚かな傀儡に過ぎないことを、現に搾取されつつある一般民衆に明らかにし、またそれによって、 天皇に神格を付与している諸々の因襲的な伝統が、純然たる架空的な迷信に過ぎないこと、したがって神国とまで見なされている日本の国家が、実は少数特権階級者の私利を貪るために仮設した、内容の空虚な機関に過ぎないこと、ゆえに己を犠牲にして国家のために尽くすという、日本の国是とまで見なされ讃美され鼓吹されている彼の忠君愛国なる思想は、実は彼らが私利を貪るための方便として美しい形容詞をもって包んだところの、己の利益のために他人の生命を犠牲にする一つの残忍なる欲望に過ぎないこと、したがってそれを無批判に承認することは、すなわち少数特権階級の奴隸たることを承認するものであることなどを警告し、そうして従来、日本の人間たちの生きた信条としていた儒教に基礎を求めている他愛的な道徳、現に民衆の心を風靡し、ややもするとその行動をすらも律しがちな権力への隷属道徳などの観念が、実は純然たる仮定の上に現われた一つの錯覚でありうつろなる幻影に過ぎないことを人間に知らしめ、それによって、人間は完全に自己のために行動すべきもの、宇宙の創造者はすなわち自己自身であること、したがってすべてのモノは自分のために存在し、すべてのことは自分のためになされねばならぬことなどを民衆に自覚せしむるために、私は坊っちゃんを狙っていたのであります。
 私らはいずれ近いうちに爆弾を投擲することによって地上に生を断とうと考えておりました。私が坊っちゃんを狙ったということの理由としてただ今まで申し上げました外界に対する宣伝方面、すなわち民衆に対する説明は、実は私はこの企て、私の内省にやや着色し、光明を持たさたものに過ぎないのであって、取りも直さず自分に対する考えを他に延長したもので、私自身を対象とするそうした考えが、すなわち今度の計画の根底であります。
 私自身を対象とする考え、私のいわゆる虚無的思想については、すでに前回、詳しく申し上げて置きました。
 私の計画を突き詰めて考えて観れば、消極的には私一己の生の否認であり、積極的には地上における権力の倒壊が究極の目的であり、またこの計画自体の真髄でありました。
 私が坊っちゃんを狙ったのは、こうした理由であります。

12.問 被告の身体の具合はどうか。

 身体の都合ですか。それはとっく前に済みました。

13. 問 被告は改心してはどうか。

 私は改悛せねばならぬ様なことは断じてしておりませぬ。
 なるほど私の思想や行動計画は他人の迷惑となるから悪だともいえましょうが、しかしこれと同時に、それは私自身を利するものであります。
 自分の利のために計ることは決して悪ではなく、かえってそれは人間の本性であり生きることの条件であります。もし自分のために計ることが悪であるとするなら、その責任は人間自身体にあり、「生きること」にあります。私にとっては、自分を利することはすなわち善であると同時に、自分を不利にすることはすなわち悪であります。
 しかし私は善なりと信ずるがゆえに計画を行って来たのではありませぬ。したいからして来たに過ぎないのであります。他人が悪なりとしていか様に非難しようとも自分の道をまげ得ないと同時に、お役人が善なりとしていか様に私をおだてて下さいましても自分がしたくなければいたしませぬ。
 私は今後もしたいことをして行きます。そのしたいことがなんであるかを今から予定することはできませぬが、とにかく私の生命が地上にあらん限り、「今」という時における最も「したいこと」を追うて行動するだけは確かであります。


  第十三回訊問調書
   (大正十三年五月二十一日 市谷刑務所)
                  金子文子

    (冒頭省略)

1.問 なにか申し立つることがあったか。

答 判事さんが今日も出張されたということを聞いて、私が看守さんを通して判事さんに面会を求めたのは、前回の調書の中で少しばかり訂正したいことがあったからであります。

2.問 その訂正したいこととはなにか。

答 前回、私は坊っちゃん一匹をやっつければよいと申しました。その際、判事さゆから御注意を受けたことを思い出して、私はその後、一匹という言葉が成るほどいかにも汚い、けがらわしい言葉であることを気づきました。
 すでに国家観、 天皇、 皇太子観を申し述べ、 皇太子に対する私らの計画を申し上げた以上は、ことさら敬語を用ゆる必要もありませぬが、またことさら罵倒する必要もない。かえって私の立場を醜くするものであることに気づきました。それで私は前回、私らの爆弾を投げる対象が、つまるところ坊っちゃん一匹をやっつければよいのであると申し上げた点を、 皇太子一人を弑すればよいのであると申し上げて、用語を訂正したいと思います。それで私は今日、判事さんに面会を求めたのであります。

3.問 すると被告は用語を訂正しただけか。

答 そうであります。
 爆弾投擲について前回申し上げたところは実質上、相違しておりませぬ。

                    了

 

  第十二回訊問調書(大正十三年五月十四日
           市  谷  刑  務  所)
                  金子文子

   (冒頭省略)

一 問 被告カ朴ト相談ノ上金重漢ニ対シテ爆彈入手ノ事ヲ賴ンタノハ 皇太子ノ御結婚期ニ夫レヲ使用スル考カラテアツタトノ前回ノ申立ハ相違ナイカ

答 左様テス

ニ 問 被告等カ金翰ニ対シテ爆彈ノ事ヲ賴ンタノモ矢張リ殿下ノ御結婚期ヲ期シテ居タノテハ無イカ

答 私ハ朴カ金翰ト連絡ヲ執ル爲メニ京城ニ行ツタ頃ニハ其ノ近イ將来ニ坊チヤンノ御結婚式カ擧ケラレルト云フ事ヲ知ツテ居リマシタ

其ノ當時坊チヤンノ結婚式ノ時日ハ確リ極ツテ居ナカツタト記憶シマス兎ニ角其ノ近イ將来ニ結婚式ノ行列ノ實現サレル事カ豫想サレテ居リマシタ夫レ故私ハ其ノ最モ好イ機會ノ行列ニ迄ニ爆彈ヲ間ニ合ハセル爲メニ朴カ京城ニ行ツタノテアツタト記憶シテ居リマス

三 問 朴カ京城ニ出發スルニ際シテ被告ハ朴トノ間ニ御結婚式迄ニ間ニ合ハセル事ヲ協議シタカ

私ハ朴ト御結婚式ノ際ニ坊チヤンニ爆彈ヲ献上仕様ト云フ事ヲ始終話合ツテ居リマシタ

夫レカ朴ノ京城ニ出發スル以前ノ事テアツタカ以後ノ事テアツタカ只今確ト記憶シテ居リマセヌ兎ニ角私ハ朴カ京城ニ出發スル頃カラ御結婚式ニ爆彈ヲ使用スル事カ一番好イト思ツテ居リマシタノテ朴モ金翰ニ対シテハ夫レ迄ニ爆彈ヲ間ニ合ハシテ呉レル様ニト云ツタ筈タト思ツテ居リマス

四 問 朴ハ京城カラ帰ツテ後被告ニ対シテ金翰トノ間ニ御式迄ニ爆彈ヲ間ニ合ハス様ニ協議シテ来タト告ケタカ

答 私ハ朴カラ其ノ様ナ話カアツタト聞イテ居リマセヌ朴ハ京城カラ帰ツテ来テカラ私ニ愈々金翰カラ爆彈ヲ分ケテ貰フ様ニシテ来タト申シタ𠀋ケテアリマシタ

五 問 夫レテハ朴カ京城カラ帰ツタト云フ大正十年暮頃ヨリ金相玉事件ノ爲メニ金翰カラ爆彈ヲ入手スル事カ出来ナク爲ツタト云フ大正十二年春頃迄ノ間ニ被告ハ朴ト金翰カラ爆彈カ来タ以上ハ夫レヲ御式ノ時ニ使用スル事ヲ協議シタカ

答 私ト朴トノ間ニハ御結婚式ニ夫レヲ使用仕様ト云フ話ハ何度モアリマシタカ夫レカ其ノ頃ノ事テアツタカ什ウテアツタカ什ウモ確トシタ記憶カ残ツテ居リマセヌ

六 問 金重漢トノ関係ニ就テノ時ハ什ウカ

答 其ノ時ニハ明カニ私ト朴トノ間ニ行列ニ使フト云フ話カアリマシタ

七 問 其ノ爆彈ヲ誰ニ投ケルト云フノカ

ツマリ坊チヤン一匹ヲヤツ付ケレハ好イノテアリマス

天皇ヲヤツテモ好イノテアリマスカ行列ノ機會カ少ナイノト 天皇ハ病人テスカラ坊チヤンヲヤルノトハ宣傳價値カ違ツテ甲斐カアリマセヌ夫レテ坊チヤンヲ狙ツタノテス

八 問 爆彈入手ノ上ハ夫レヲ誰カ投ケル筈テアツタカ

答 無論私モ朴モ夫レヲ投ケル筈テアリマシタカ其ノ外同志ノ新山ヤ崔圭悰山本勝之ニモ夫レヲ賴厶心算テアリマシタ

夫レハ新山ト山本トハ豫テ肺病ニ悩ンテ死ヲ覺悟シテ居リ崔ハ煽テレハ什ンナ直接行動テモスル人テアリマスカラ私ト朴トハ此ノ三人ヲ使ツテ私等カ爆彈ヲ投ケルト同時ニ議會ヤ三越、警視廳、宮城等ニ手ヲ分ケテ爆彈ヲ投ケテ貰フ心算テアリマシタ

尤モ新山ニ就テハ新山カ金重漢ト戀愛的関係ニ陷ツタ頃カラ私等ハ新山ノ性格カ此ノ種ノ直接行動ヲスル事ニ適シテ居ナイ事ヲ感シマシタノテ其ノ以後ハ同人ヲ使フ計畫ヲ捨テマシタ

九 問 被告ハ 皇太子殿下ニ爆彈ヲ投ケル事ヲ唯一ノ目的ニシテ居タノカ

答 ツマリ坊チヤン一人ニ爆彈ヲ投ケレハ好イノテアリマスカ若シ出来ルナラ坊チヤント一緒ニ大臣等ノ政治ノ實權者モヤツ付ケ度イト思ツテ居リマシタ

尤モ爆彈ヲ手ニ入レテカラ其ノ機會ヲ狙ツテマゴ〱シテ居タ爲メ御役人ニ摑マツテ仕舞ヘハ夫レコソ今ノ私ノ身ノ上ノ様ニ馬鹿ヲ見マスカラ什ウシテモ機會カ無カツタラ今度ハ宣傳方面ニ著目シテメーデー祭ノ時トカ議會ノ開會式ノ様ナ時ニ其ノ爆彈ヲ投ケ様ト考ヘテ居リマシタ

一〇 問 朴モ被告ト同シ様ニ主トシテ殿下ニ爆彈ヲ投ケル心算テ居タノカ

答 左様テアリマス

一一 問 被告ハ何故 皇太子殿下ニ其ノ様ナ危害ヲ加ヘ様トシタノカ

答 私ハ豫テ人間ノ平等ト云フ事ヲ深ク考ヘテ居リマス人間ハ人間トシテ平等デアラネバ爲リマセヌ其處ニハ馬鹿モ無ケレハ悧口モ無イ强者モ無ケレハ弱者モ無イ地上ニ於ケル自然的存在タル人間トシテノ價値カラ云ヘハ總ヘテノ人間ハ完全ニ平等テアリ從ツテ總ヘテノ人間ハ人間テアルト云フ只一ツノ資格ニ依ツテ人間トシテノ生活ノ權利ヲ完全ニ且ツ平等ニ享受スヘキ筈ノモノテアルト信シテ居リマス

具體的ニ云ヘハ人間ニ依ツテ嘗テ爲サレタ爲サレツツアル又爲サレルテアラウ處ノ行動ノ總ヘテハ完全ニ人間ト云フ基礎ノ上ニ立ツテノ行動テアル從ツテ自然的存在タル基礎ノ上ニ立ツ之レ等ノ地上ニ於ケル人間ニ依ツテ爲サレタル行動ノ悉クハ人間テアルト云フ只一ツノ資格ニ依ツテ一様ニ平等ニ人間的行動トシテ承認サルヘキ筈ノモノテアルト思ヒマス然シ此ノ自然的ナ行爲此ノ自然的ノ存在自體カ如何ニ人爲的ナ法律ノ名ノ下ニ拒否サレ左右サレツヽアルカ本来平等テアルヘキ人間カ現實社會ニ在ツテハ如何ニ其ノ位置カ不平等テアルカ私ハ此ノ不平等ヲ呪フノテアリマス私ハ遂二三年前迄ハ所謂第一階級ノ高貴ノ人々ヲ所謂平民トハ何處カニ違ツタ形ト質トヲ備ヘテ居ル特殊ノ人種ノ様ニ考ヘテ居リマシタ處カ新聞テ冩眞等ヲ見テモ所謂高貴ノ御方ハ少シモ平民ト変ラセラレヌ御目カ二ツ御口カ一ツアツテ歩ク役目ヲスル足テモ動ク手テモ少シモ不足スル處ハ無イラシイ

イヤ其ノ様ナモノヽ不足スル畸形兒ハ左様シタ階級ニハ絶対ニ無イ事ト考ヘテ居マシタ

此ノ心持ツマリ皇室階級トシ聞ケハ其處ニハ侵ス可カラサル高貴ナ或ル者ノ存在ヲ直感的ニ聨想セシムル處ノ心持カ恐ラク一般民衆ノ心ニ根付ケラレテ居ルノテアリマセウ語ヲ換ヘテ云ヘハ日本ノ國家トカ君主トカハ僅カニ此ノ民衆ノ心持ノ命脈ノ上ニ繫リ懸ツテ居ルノテアリマス

元々國家トカ社會トカ民族トカ又ハ君主トカ云フモノハ一ツノ槪念ニ過キナイ處カ此ノ槪念ノ君主ニ尊嚴ト權力ト神聖トヲ附與センカ爲メニネチ上ケタ處ノ代表的ナルモノハ此ノ日本ニ現在行ハレテ居ル處ノ親授君權説テアリマス苟モ日本ノ土地ニ生レタ者ハ小学生テスラ此ノ觀念ヲ植付ケラレテ居ル如クニ 天皇ヲ以テ神ノ子孫テアルトカ或ハ君權ハ神ノ命令ニ依ツテ授ケラレタモノテアルトカ若クハ 天皇ハ神ノ意思ヲ實現センカ爲メニ國權ヲ握ル者テアルトカ從テ國法ハ即チ神ノ意志テアルトカト云フ觀念ヲ愚直ナル民衆ニ印象付ケル爲メニ架空的ニ捏造シタ傳説ニ根據シテ鏡タトカ刀タトカ玉タトカ云フ物ヲ神ノ授ケタ物トシテ祭リ上ケテ鹿爪ラシイ禮拜ヲ捧ケテ完全ニ一般民衆ヲ欺瞞シテ居ル斯ウシテ荒唐無稽ナ傳説ニ包マレテ幻惑サレテ居ル憫レナル民衆ハ國家ヤ 天皇ヲ又ナク尊イ神様ト心得テ居ルカ若シモ 天皇カ神様自身デアリ神様ノ子孫テアリ日本ノ民衆カ此ノ神様ノ保護ノ下歷代ノ神様タル 天皇ノ靈ノ下ニ存在シテ居ルモノトシタナラ戰爭ノ折ニ日本ノ兵ハ一人モ死ナサル可ク日本ノ飛行機ハ一ツモ落チナイ筈テアリマシテ神様ノ御膝元ニ於テ昨年ノ様ナ天災ノ爲メニ何萬トイフ忠良ナル臣民カ死ナヽイ筈テアリマス

然シ此ノ有リ得ナイ事カ有リ得タト云フ動カスコトノ出来ヌ事實ハ即チ親授君權説ノ假定ニ過キナイ事之レニ根據スル傳説カ空虚テアル事ヲ餘リニ明白ニ證明シテ居ルテハアリマセヌカ全知全能ノ神ノ顯現テアリ神ノ意志ヲ行フ處ノ 天皇カ現ニ地上ニ實在シテ居ルニ拘ラス其ノ下ニ於ケル現社會ノ赤子ノ一部ハ飢ニ泣キ炭坑ニ窒息シ機械ニ挟マレテ惨メニ死ンテ行クテハアリマセヌカ此ノ事實ハ取リモ直サス 天皇カ實ハ一介ノ肉ノ塊テアリ所謂人民ト全ク同一テアリ平等テアル可キ筈ノモノテアル事ヲ證據立テルニ餘リニ充分テハアリマセヌカ、ネ、御役人サン、左様テセウ、日本ハ連綿トシテ絶ユル事無キ 天皇ヲ戴キ世界ニ比類ナキ國體テアル此ノ國ニ生マレ合ハセタ事ハ人間トシテ唯一ノ誇テアルカラ夫レヲ發揚スル為メニ努力セネハ爲ラヌトハ小學校時代ニ私ノ教ヘララタ處テアリマシタ然シ一ツノ血統夫レハ嘘カ誠カ判ツタモノテハ無イカ兎ニ角一ツノ系統ノ統治者ヲ戴クト云フ事カ夫レ程ニモ大キナ名譽テアリマセウカ嘗テ私ハ海に沈ンテ𩵋ノ餌食ト爲ツタト云フ安徳天皇トヤラハ僅ニ二歳テ日本ノ統治者トシテノ任ヲ負フテ居タト聞イテ居リマス斯ウシタ無能ナ人間ヲ統治者トシテ祭リ上ケテ置クト云フ事カ果シテ被統治者ノ誇テアリマセウカ寧ロ萬世一系ノ天皇トヤラニ形式上ニモセヨ統治權ヲ與ヘテ来タト云フ事ハ日本ノ土地ニ生レタ人間ノ最大恥辱テアリ日本ノ民衆ノ無智ヲ證明シテ居ルモノテアリマス

天皇ノ現ニ呼吸シテ居ル傍テ多クノ人間カ燒死シタト云フ昨年ノ惨事ハ即チ 天皇カ実ハ愚ナ肉塊ニ過キ無イ事ヲ證明スルト同時ニ過去ニ於ケル民衆ノ愚サ御目出度サヲ嘲笑シテ居ルモノテアリマス

學校教育ハ地上ノ自然的存在タル人間ニ教ヘル最初ニ於テ「ハタ」(旗) ヲ説イテ先ツ國家的觀念ヲ植付ケル可ク努メテ居リマス等シク人間ト云フ基礎ノ上ニ立ツテノ諸々ノ行動モ只夫レカ權力ヲ擁護スルモノテアルカ否カノ一事ヲ標準トシテ總テノ是非ヲ振リ分ケラレテ居ルソシテ其ノ標準ハ人爲的ナ法律テアリ道德テアリマス

法律モ道德モ社會ノ優勝者ニヨリ能ク生活スル道ヲ教ヘ權力ヘノ服從ヲノミ説イテ居ル警察官ハサーベルヲ下ケテ人間ノ行動ヲ威嚇シ權力ノ壘ヲ揺ス虞ノアル者ヲハ片ツ端カラ縛リ上ケテ居ル又裁判官ト云フ偉イ役人ハ法律書ヲ操ツテハ人間トシテノ行動ノ上ニ勝手ナ断定ヲ下シ人間ノ生活カラ隔離シ人間トシテノ存在スラモ否認シテ權力擁護ノ任ニ當ツテ居ル

嘗テ基督教カ全盛テアツタ時代ニハ其ノ尊嚴ヲ保ツ爲メニ其ノ説ク處ノ神ノ迷信的ナ奇蹟ヤ因襲的ナ傳説ノ礎ノ揺カサル事ヲ虞レテ科学的ナ研究ヲ禁止シタト同様ニ國家ノ尊嚴トカ 天皇ノ神聖トカヾ一場ノ夢テアリ單ナル錯覺ニ過キナイ事ヲ明ニスル思想ヤ言論ニ対シテハ力ヲ以テ之ヲ壓迫スル

斯クシテ自然ノ存在タル總ヘテノ人間ノ享受スヘキ地上ノ本来ノ生活ハ能ク權力ヘ奉仕スル使命ヲ完フシ得ルモノニ対シテノミ許サレテ居ルノテアリマスカラ地上ハ今ヤ權力ト云フ悪魔ニ獨占サレ蹂躪サレテ居ルノテアリマス

左様シテ地上ノ平等ナル人間ノ生活ヲ蹂躪シテ居ル權力ト云フ悪魔ノ代表者ハ 天皇テアリ 皇太子テアリマス私カ是レ迄オ坊チヤンヲ狙ツテ居タ理由ハ此ノ考ヘカラ出發シテ居ルノテアリマス

地上ノ自然ニシテ平等ナル人間ノ生活ヲ蹂躪シテ居ル權力ノ代表者タル 天皇 皇太子ト云フ土塊ニモ等シイ肉塊ニ対シテ彼等ヨリ欺瞞サレタ憫レナル民衆ハ大袈裟ニモ神聖ニシテ侵スヘカラサルモノトシテ至上ノ地位ヲ與ヘテ仕舞ツテ搾取サレテ居ル其處テ私ハ一般民衆ニ対シテ神聖不可侵ノ權威トシテ彼等ニ印象サレテ居ル處ノ 天皇 皇太子ナル者カ實ハ空虚ナル肉ノ塊テアリ木偶ニ過キナイ事ヲ明ニ説明シ又 天皇 皇太子ハ少数特權階級カ私腹ヲ肥ス目的ノ下ニ財源タル一般民衆ヲ欺瞞スル爲メニ操ツテ居ル一個ノ操人形テアリ愚ナ傀儡ニ過キ無イ事ヲ現ニ搾取サレツヽアル一般民衆ニ明ニシ又夫レニ依ツテ 天皇ニ神格ヲ附與シテ居ル諸々ノ因襲的ナ傳統カ純然タル架空的ナ迷信ニ過キナイ事從ツテ神國ト迄見做サレテ居ル日本ノ國家カ實ハ少数特權階級者ノ私利ヲ貪ル爲メニ假設シタ内容ノ空虚ナ機関ニ過キナイ事故ニ己ヲ犠牲ニシテ國家ノ爲メニ盡スト云フ日本ノ國是ト迄見做サレ讃美サレ鼓吹サレテ居ル彼ノ忠君愛國ナル思想ハ實ハ彼等カ私利ヲ貪ル爲メノ方便トシテ美シイ形容詞ヲ以テ包ンタ處ノ己ノ利益ノ爲メニ他人ノ生命ヲ犠牲ニスル一ツノ残忍ナル慾望ニ過キナイ事從ツテ夫レヲ無批判ニ承認スル事ハ即チ少数特權階級ノ奴隸タル事ヲ承認スルモノテアル事等ヲ警告シ左様シテ從来日本ノ人間達ノ生キタ信條トシテ居タ儒教ニ基礎ヲ求メテ居ル他愛的ナ道德現ニ民衆ノ心ヲ風靡シ動モスルト其ノ行動ヲスラモ律シ勝ナ權力ヘノ隷属道徳等ノ觀念カ實ハ純然タル假定ノ上ニ現ハレタ一ツノ錯覚テアリ空ロナル幻影ニ過キナイ事ヲ人間ニ知ラシメ夫レニ依テ人間ハ完全ニ自己ノ爲メニ行動スヘキモノ宇宙ノ創造者ハ即チ自己自身テアル事從テ總ヘテノ「モノ」ハ自分ノ爲メニ存在シ總ヘテノ事ハ自分ノ爲メニ爲サレネハ爲ラヌ事等ヲ民衆ニ自覺セシムル爲メニ私ハ坊チヤンヲ狙ツテ居タノテアリマス

私等ハ何レ近イ中ニ爆彈ヲ投擲スル事ニ依ツテ地上ニ生ヲ断トウト考ヘテ居リマシタ私カ坊チヤンヲ狙ツタト云フ事ノ理由トシテ只今迄申上ケマシタ外界ニ対スル宣傳方面即チ民衆ニ対スル説明ハ實ハ私ハ此ノ企私ノ内省ニ稍々著色シ光明ヲ持タセタモノニ過キナイノテアツテ取リモ直サス自分ニ対スル考ヲ他ニ延長シタモノテ私自身ヲ対象トスル左様シタ考カ即チ今度ノ計畫ノ根底テアリマス

私自身ヲ対象トスル考私ノ所謂虚無的思想ニ就テハ既ニ前回詳シク申上ケテ置キマシタ

私ノ計畫ヲ突キ詰メテ考ヘテ觀レハ消極的ニハ私一己ノ生ノ否認テアリ積極的ニハ地上ニ於ケル權力ノ倒懷カ究極ノ目的テアリ又此ノ計畫自體ノ真髓テアリマシタ

私カ坊チヤンヲ狙ツタノハ斯ウシタ理由テアリマス

一二 問 被告ノ身體ノ具合ハ什ウカ

答 身體ノ都合テスカ夫レハトツク前ニ濟ミマシタ

一三 問 被告ハ改心シテハ什ウカ

答 私ハ改悛セネハ爲ラヌ様ナ事ハ断シテシテ居リマセヌ

成ル程私ノ思想ヤ行動計畫ハ他人ノ迷惑ト爲ルカラ悪タトモ云ヘマセウカ然シ之レト同時ニ夫レハ私自身ヲ利スルモノテアリマス

自分ノ利ノ爲メニ計ルコトハ決シテ悪テハ無ク却テ夫レハ人間ノ本性テアリ生キル事ノ條件テアリマス若シ自分ノ爲メニ計ル事カ悪テアルトスルナラ其ノ責任ハ人間自體ニアリ「生キル事」ニアリマス私ニ取ツテハ自分ヲ利スル事ハ即チ善テアルト同時ニ自分ヲ不利ニスル事ハ即チ悪テアリマス

然シ私ハ善ナリト信スルカ故ニ計畫ヲ行ツテ来タノテハアリマセヌ爲タイカラ爲テ来タニ過キナイノテアリマス他人カ悪ナリトシテ如何様ニ非難仕様トモ自分ノ道ヲ枉ケ得ナイト同時ニ御役人カ善ナリトシテ如何様ニ私ヲ煽テヽ下サイマシテモ自分カ爲タク無ケレハ致シマセヌ

私ハ今後モ爲タイ事ヲシテ行キマス其ノ爲タイ事カ何テアルカヲ今カラ豫定スル事ハ出来マセヌカ兎ニ角私ノ生命カ地上ニ在ラン限リ「今」ト云フ時ニ於ケル最モ「爲タイ事」ヲ追フテ行動スル𠀋ケハ確カテアリマス

 

  第十三回訊問調書(大正十三年五月二十一日
           市   谷   刑   務   所)
                  金子文子

   (冒頭省略)

一 問 何カ申立ツル事カアツタカ

答 判事サンカ今日モ出張サレタト云フ事ヲ聞イテ私カ看守サンヲ通シテ判事サンニ靣會ヲ求メタノハ前回ノ調書ノ中テ少シ計リ

訂正シ度イ事カアツタカラテアリマス

二 問 其ノ訂正仕度イ事トハ何カ

答 前回私ハ坊チヤン一匹ヲヤツ付ケレハ好イト申シマシタ其ノ際判事サンカラ御注意ヲ受ケタ事ヲ思ヒ出シテ私ハ其ノ後一匹ト云フ言葉カ成ル程如何ニモ汚イ醜シイ言葉テアル事ヲ氣附キマシタ

既ニ國家觀、 天皇 皇太子觀ヲ申述ヘ 皇太子ニ対スル私等ノ計畫ヲ申上ケタ以上ハ殊更ラ敬語ヲ用ユル必要モアリマセヌカ又殊更ラ罵倒スル必要モ無イ却テ私ノ立場ヲ醜クスルモノテアル事ニ氣附キマシタ夫レテ私ハ前回私等ノ爆彈ヲ投ケル対象カツマル處坊チヤン一匹ヲヤツ付ケレハ好イノテアルト申上ケタ點ヲ 皇太子一人ヲ弑スレハ好イノテアルト申上ケテ用語ヲ訂正仕度イト思ヒマス夫レテ私ハ今日判事サンニ靣會ヲ求メタノテアリマス

三 問 スルト被告ハ用語ヲ訂正シタ𐀋ケカ

答 左様テアリマス

爆彈投擲ニ就テ前回申上ケタ處ハ實質上相違シテ居リマセヌ

                     了

 

↑再審準備会 編『「最高裁判所蔵」 金子文子 朴烈 裁判記録 刑法第 73 条ならびに爆発物取締罰則違反 付 参考資料』1977 年、黒色戦線社、pp. 57−62, p. 65 https://iss.ndl.go.jp/sp/show/R100000002-I000001371351-00/