Ob-La-Di Oblako 文庫

帝国日本の侵掠戦争と植民地支配、人権蹂躙を記憶し、再現を許さないために、ひたすら文書資料を書き取る。姉妹ブログ「歴史を忘れる民族に未来はない!」https://obladioblako.hateblo.jp/ のデータ·ベースを兼ねる。

「帝国憲法の他の規定は、すべてかくの如き御本質を有せられる天皇御統治の準則である。就中、その政体法の根本原則は、中世以降の如き御委任の政治ではなく、或は英国流の「君臨すれども統治せず」でもなく、又は君民共治でもなく、三権分立主義でも法治主義でもなくして、一に天皇の御親政である。」 文部省編纂『国体の本義』より 1937.5.31

   欽定憲法
 明治天皇は、皇祖皇宗の御遺訓、御歴代統治の洪範を紹述し給い、明治二十二年二月十一日を以て皇室典範を御制定になり、大日本帝国憲法を発布遊ばされた。
 外国に於ける成文憲法は、大体に於て既存の統治権者を放逐し、または掣肘することから生まれた。前の場合は所謂民約憲法と称せられるけれども、その実は平等な人民が自由の立場に於て交互に契約したものではなくして、権力争奪に於ける勝利者によって決定せられたものに過ぎない。後の場合は所謂君民協約憲法と称せられるものであって、これは伝統的の権力者たる君主が新興勢力に強要せられて相互の勢力圏を協定したものに外ならぬ。尚、この外に欽定憲法の名を冠するものがあっても、それは程度の差こそあれ、実質に於ては、矢張りこの協約憲法以外のものではない。
 然るに帝国憲法は、万世一系天皇が「祖宗ニ承クルノ大権」を以て大御心のままに制定遊ばされた欽定憲法であって、皇室典範と共に全く「みことのり」に外ならぬ。
 而してこの欽定せられた憲法の内容は、外国に於けるが如き、制定当時の権力関係を永久に固定せんがために規範化したものでもなく、或は民主主義・法治主義立憲主義共産主義・独裁主義等の抽象的理論的又は実践的要求を制度化したものでもない。又、外国の制度を移植し模倣したものでもなく、皇祖皇宗の御遺訓を顕彰せられた統治の洪範に外ならぬ。
[中略]

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 我が憲法に祖述せられてある皇祖皇宗の御遺訓中、最も基礎的なものは、天壤無窮の神勅である。この神勅は、万世一系天皇の大御心であり、八百万ノ神の念願であると共に、一切の国民の願である。従って知ると知らざるとに拘らず、堅実に存在する命法である。それは独り将来に向つての規範たるのみならず、肇国以来の一代事実である。憲法第一条に「大日本帝国万世一系天皇之ヲ統治ス」とあるのは、これを明示し給うたものであり、第二条は皇位継承の資格並びに順位を昭かにし給い、第四条前半は元首・統治権等、明治維新以来採択せられた新しき概念を以て、第一条を更に紹述し給うたものである。天皇統治権の主体であらせられるのであって、かの統治権の主体は国家であり、天皇はその機関に過ぎないという説の如きは、西洋国家学説の無批判的の踏襲という以外には何らの根拠はない。天皇は、外国の所謂元首・君主・主権者・統治権者たるに止まらせられるお方ではなく、現御神(あきつみかみ)として肇国以来の大義に随って、この国をしろしめし給うのであって、第三条に「天皇ハ神聖ニシテ侵スヘカラス」とあるのは、これを昭示せられたものである。外国に於て見られるこれと類似の規定は、勿論かかる深い意義に基づくものではなくして、元首の地位を法規によって確保せんとするものに過ぎない。

   天皇御親政

 尚、帝国憲法の他の規定は、すべてかくの如き御本質を有せられる天皇御統治の準則である。就中、その政体法の根本原則は、中世以降の如き御委任の政治ではなく、或は英国流の「君臨すれども統治せず」でもなく、又は君民共治でもなく、三権分立主義でも法治主義でもなくして、一に天皇の御親政である。これは、肇国以来万世一系天皇の大御心に於ては一貫せる御統治の洪範でありながら、中世以降絶えて久しく政体法上制度化せられなかったが、明治維新に於て復古せられ、憲法にこれを明示し給うたのである。
 帝国憲法の政体法の一切は、この御親政の原則の拡充紹述に外ならぬ。例えば臣民権利義務の規定の如きも、西洋諸国に於ける自由権の制度が、主権者に対して人民の天賦の権利を擁護せんとするのとは異なり、天皇の恵撫慈養の御精神と、国民に隔てなき翼賛の機会を均しうせしめ給わんとの大御心より出づるのである。政府・裁判所・議会の鼎立の如きも、外国に於ける三権分立の如くに、統治者の権力を掣肘せんがために、その統治権者より司法権立法権を奪い、行政権のみを容認し、これを掣肘せんとするものとは異なって、我が国に於ては、分立は統治権の分立ではなくして、親政輔翼機関の分立に過ぎず、これによって天皇の御親政の翼賛を弥々確実ならしめんとするものである。議会の如きも、所謂民主国に於ては、名義上の主権者たる人民の代表機関であり、又君民共治の所謂君主国に於ては、君主の専横を抑制し、君民共治するための人民の代表機関である。我が帝国議会は、全くこれと異なって、天皇の御親政を、国民として特殊の事項につき特殊の方法を以て、翼賛せしめ給わんがために設けられたものに外ならぬ。

 

↑文部省編纂 國體の本義 1937.5.31