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帝国日本の侵掠戦争と植民地支配、人権蹂躙を記憶し、再現を許さないために、ひたすら文書資料を書き取る。姉妹ブログ「歴史を忘れる民族に未来はない!」https://obladioblako.hateblo.jp/ のデータ·ベースを兼ねる。

「至尊の聖明を以てさえも尚ほ今日の悲局を招来し、斯くも深く宸襟を悩まし奉りましたことは、臣子として洵に申訳のないことでありまして、民草の上を是程までに御軫念あらせらるる大御心に対し、我々国民は御仁慈の程を深く肝に銘じて自粛自省しなければならないと思います。敗戦の因って来る所は固より一にして止まりませぬ。前線も銃後も、軍も官も民も総て、国民悉く静かに反省する所がなければなりませぬ。我々は今こそ総懺悔し…」 内閣総理大臣、東久邇宮稔彦王の施政方針演説から 1945.9.5

第 88 回帝国議会 貴族院 本会議 第 2 号 昭和 20 年 9 月 5 日

000 会議録情報

昭和二十年九月五日(水曜日)午前十時五分開議
    ━━━━━━━━━━━━━
 議事日程 第二號
  昭和二十年九月五日
   午前十時開議
 一 國務大臣の演説に關する件
    ―――――◇―――――

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 002 稔彦王

○國務大臣(稔彦王殿下) 稔彦曩に組閣の大命を拜し、國家非常の秋に際し重責を負ふことになりましたが、誠に恐懼感激に堪へませぬ、茲に第八十八囘帝國議會に臨み、諸君に相見え、今次終戰に至る經緯の概要を申述べ、現下困難なる時局に處する政府の所信を披瀝することは、私の最も嚴肅なる責務であると考へます、畏くも 天皇陛下に於かせられましては、昨日開院式に親臨あらせられ、特に優渥なる勅語を賜りましたことは、誠に恐懼感激に堪へませぬ、私は諸君と共に有難き 御聖旨を奉體し、帝國の直面する現下の難局を克服し、總力を將來の建設に傾け、以て 聖慮を安んじ奉らむと存じて居ります、諸君、曩に畏くも大詔を拜し、帝國は米英「ソ」支四國の共同宣言を受諾し、大東亞戰爭は茲に非常の措置を以て其の局を結ぶこととなりました、征戰四年、顧みて萬感交々至るを禁じ得ませぬ、併しながら大詔は既に下つたのであります、我々臣子と致しましては、飽く迄も承詔必謹、大詔の御精神、御諭しを體し、大御心に副ひ奉り、聊かなりとも是より外れることなく、擧國一家整齊たる秩序の下に新たなる事態に處して大道を誤ることなき努力に生きなければならぬと信じます、此の度の終戰は實に有難き御仁慈の大御心に出でたるものでありまして 至尊御自ら、祖宗の神靈の前に謝し給ひ、萬民を困苦より救ひ、萬世の爲に太平を開かせ給うたのであります、臣子として宏大無邊の大御心の有難さに是程の感激を覺えたことはないのであります、我々は唯々感涙に咽びますると共に、斯くも深く宸襟を惱まし奉りましたことに對し、深く御詫を申上げる次第であります、恭しく惟ひまするのに世界の平和と東亞の安定を念ひ、萬邦共榮を冀ふは、肇國以來帝國が以て不變の國是とする所であります、固より常に大御心の存する所でありました、世界の國家民族が相互に尊敬と理解を念として相和し、相携へて其の文化を交流し、經濟の交通を敦くし、萬邦共榮、相互に相親しみ人類の康福を増進し、益益文化を高め、以て世界の平和と進運に貢獻することこそ歴代の 天皇が深く念ひとせられた所であります、誠に畏き極みでありますが、天皇陛下に於かせられましては大東亞戰爭勃發前、我が國が和戰を決すべき重大なる御前會議に於きまして、世界の大國たる我が國と米英とが戰端を開くが如きこととならば、世界人類の蒙むるべき破壞と混亂は測るべからざるものがあります、世界人類の不幸之に過ぐるものがありませぬ、之を痛く御軫念あらせられ、御自ら 明治天皇の「よもの海みなはらからと思ふ世になど波風の立ちさわぐらん」との御製を高らかに御詠み遊ばされ、如何にしても我が國と米英兩國との間に蟠る誤解を一掃し、戰爭の危機を克服して、世界人類の平和を維持せられむことを冀はれたのであります、政府に對し、百方手段を盡して交渉を圓滿に纒めるやうにとの御鞭撻を賜つたのであります、參列の諸員一同は此の宏大無邊の大御心に肅然として襟を正したと云ふことを漏れ承つて居ります、此の大御心は開戰後と雖も終始變らせらるることなく、世界平和の確立に對し、常に海の如く廣く深き 聖慮を傾けさせられたのであります、此の度新たなる事態の出現に依り、不幸我が國は非常の措置を以て大東亞戰爭の局を結ぶこととなつたのであります、是亦全く世界の平和の上に深く 大御心を留めさせ給ふ御仁慈の思召しに出でたるものに外なりませぬ、 至尊の聖明を以てさへも今日尚此の悲局を招來し、斯くも深く宸襟を惱し奉りましたことは臣子と致しまして、誠に申訳なき極みであります、それと共に、民草の上を是程迄に御軫念あらせらるる有難き御仁慈の大御心に對し我々國民は御仁慈の程を深く肝に銘じて自肅自省しなければならないのであります、敗戰の因つて來る所は固より一にして止りませぬ、後世史家の愼重なる研究批判に俟つべきであり、今日我々が徒らに過去に遡つて、誰を責め、何を咎むることもないのでありますが、前線も銃後も軍も官も民も國民悉く靜かに反省する所がなければなりませぬ、我々は今こそ總懺悔をして神の前に一切の邪心を洗ひ淨め、過去を以て將來の戒めと爲し、心を新たにして、戰の日にも増して擧國一家乏しきを分ち、苦しきを勞はり、温き心に相援け、相携へて、各各其の本分に最善を盡し、來るべき苦難の途を踏超えて帝國將來の進運を開くべきであると思ひます、征戰四年、我が忠勇なる陸海の精強は沍寒を凌ぎ、炎熱を冒し、具に辛酸を嘗めて勇戰敢鬪し、官吏は寢食を忘れて其の職務に盡瘁し、銃後國民は協心戮力、一意戰力増強の職域に挺身し、擧國一體、皇國は其の總力を戰爭目的の完遂に傾けて來たのであります、固より其の方法に於ては過ちを犯し、適切を缺いたものも少くありませぬ、其の努力に於て悉くが適當であつたと言ひ得ざる憾もありました、併しながら有らゆる困苦缺乏に耐へて參りました、一億國民の此の敢鬪の意力、此の盡忠の精神力こそは、假令戰は負けたりとは言へ、永久に記憶せらるべき民族の底力であります、然るに「ガダルカナル」島よりの後退以來、戰勢は必ずしも好轉せず、殊に「マリアナ」諸島の喪失以降、聯合國軍の進攻は頓に其の速度を加へまして、我が本土に對する空襲は次第に激化し、其の慘害は日を逐うて増大して來ました、既に海上輸送力の低下に因つて、相當の影響を受けて居りました軍需生産は、斯くの如き戰局の一段の急迫と共に、本年春頃より愈愈至難を加へ、一方戰爭の長期化に伴ふ民力の疲弊亦漸く顯著ならむとし、終戰前の状況に於きましては、近代戰の長期維持は逐次困難を加へ、憂慮すべき状況になつたのであります、詳細のことは御質疑に應じて御答へ致しまするが、茲に其の概要を述べますれば、即ち今年五月頃の状況に於きまして汽船輸送力は船舶喪失量の増大と數次に亙る船腹の南方抽出等に依り、開戰當初の使用船腹の概ね四分の一程度を保持するに過ぎなくなりました、而も液體燃料の不足と、聯合國軍の妨害激化等に依つて運航能率は著しく阻害せられ、殊に沖繩戰の終末以來、聯合國軍航空機の威力の増大に伴ひ、大陸との交通すらも至難の状態となりました、一方機帆船輸送力も燃料不足と聯合國軍の妨害に因つて急激に減少し、新船の建造及損傷船舶の補修亦意の如く進捗せず、海上輸送力の斯くの如き機能の低下は戰力の維持に甚大なる影響を與ふるに至りました、鐵道輸送力の方面に於きましても車輛、施設等の疲弊に加へて、相次ぐ空襲に依り逐次に其の機能を低下し、動もすれば一貫性を失ふ傾向すらありまして、全體としての輸送力は本年中期以降に於きましては、昨年度に比しまして、各般の努力を盡すも尚二分の一以下に減退するを免れないものと豫想せらるるに至りました、斯くの如き輸送力の激減に伴ひまして、石炭其の他工業基礎原料資材の供給は著しく圓滑を缺くのみならず、南方還送物資の取得も殆ど不可能となり、之に加へて、空襲に依る生産施設の被害の増大と作業能率の低下は、各産業に深刻なる影響を與へ、工業生産は全面的に下向の一途を辿り、軍官民の努力にも拘らず、之が速かなる改善は望み難き状況となつたのであります
  〔議長退席、副議長著席〕
鐵鋼の生産は開戰當初に比し、約四分の一以下に低下しました、それで鐵鋼に依存する鋼船の新造補給も、爾後多くを期待し得ざる状況となりました、又所在資材の活用戰力化も小運送力の低下、配炭の不圓滑等の事情に依り、減退の一途を辿るに至りました、石炭に付きましても、出炭實績は益益惡化するに加へて、陸海輸送力の大幅低下に依り、供給は逐次減少し、之が爲、中樞地帶の工業生産は全面的に下向き、本年中期以降、是等の地帶に於きましては、相當部分運轉休止を見るが如き、由々しき事態の發生をすら豫想せらるるに至つたのであります、又大陸工業鹽の還送減少に伴ひ、「ソーダ」工業を基礎とする化學工業生産は、加速度的に低下するの已むなきに至り、之が爲、本年中期以降に於きましては、金屬生産は勿論、爆藥等の供給にも、支障を生ずる惧なしとせざる危機に瀕したのであります、液體燃料に於きましても、既に日滿支の自給力に依存するの外なき状態にありましたが、而も貯油の拂底と擴充の困難に伴ひ、「アルコール」、松根油等の生産増強に、異常なる努力を傾けましたにも拘らず、航空機燃料等の減少は、遠からざる將來に於て、戰爭遂行に重大なる影響を及すやうな形勢となつたのであります、一方航空機を中心とする近代戰備の生産も亦空襲の激化に因る、交通及生産施設の破壞と、各種材料、燃料等の不足に因りまして、在來の方式に依る大量生産の遂行は遠からず至難を豫想せられるに至つたのであります、斯くの如く我が國力は急速に消耗し、本年五六月の交に於きましては、近代戰を續行すべき物的戰力の基盤は、極度に弱められ、軍官民相協力して有らゆる對策を講じ、國力の恢復に異常なる努力をしたのでありまするが、近き將來に於て、物的國力の徹底的轉換を圖ることは漸く困難なることとなりました、殊に沖繩戰の終末以來形勢は全く重大化するに至つたのであります、加ふるに、長期に亙る戰爭の結果、國民生活殊に食糧の面に於ける苦難は益益増加すると共に、「インフレーション」の影響は逐次に浸潤せむとし、戰力の現状は、戰爭の前途に對し、深甚なる考慮を拂はなければならないやうになつたのであります、此の間我が特別攻撃隊は、悲愴極りなき盡忠の精神を發揮して、赫々たる偉勲を樹て、硫黄島、「フイリピン」、沖繩島に於ける陸海將兵は一丸となつて奮戰力鬪、克く進攻の聯合國軍に甚大なる出血を強要したのであります、又我が陸海の精鋭は、大東亞戰爭全戰域に亙り、一死以て皇國防護の大義に生くる、傳統の勇武を發揮し、一億國民亦來るべき本土決戰に、完璧の防衞態勢を以て、一擧に上陸する聯合國軍を撃滅すべく増産に、築城に軒昂たる意氣を示して居つたのであります、併しながら長期に亙る數々の決戰に於て、其の都度聯合國軍に至大なる損害を與へましたとは云へ、此の間皇軍の蒙りました創痍も亦決して尠い數字ではなかつたのであります、御手許に配付しました表に依つて御覽の如く、海軍力及び航空勢力の損耗は甚大なるものがありました、共に戰爭遂行上重大なる影響を與へました、而も以上の如き國内生産の現状に於きましては、是が補充は意の如くならず、又陸上兵力に於きましては、大東亞各地に亙り、作戰を續けて來たのでありまするが、其の裝備は漸く十全を期し難く、終戰時に於ける皇軍の物的戰力は逐次低下するの已むなき状況にあつたのであります、之に對し厖大なる資源と、工業力とを有する聯合國側の軍需補給力は愈愈増大し、殊に歐洲に於ける「ドイツ」の屈伏後は、戰勝の餘勢を驅つて、全戰力を帝國の周邊に集中して來たのであります、而して物的方面に於ける彼我戰力の相對比率は、急速に均衡を失ふに至りました、國力の現状は以上の如く、陸海の戰備も亦斯くの如き低下を見るに至つたのであります、是では徹底的勝利の確信も理論上に於ては、遺憾ながら其の根據を減少し、戰爭の繼續は、正に容易ならざる段階に到達したのであります、一面聯合國軍航 機に依る、我が本土の空襲は愈愈甚だしく大都市は申す迄もなく、中小の諸都市は次々に壞滅し、戰災に依り家屋の燒失せるものは二百二十萬戸に逹し、死傷者は數十萬を以て數へ、戰災者は一千萬に垂んとするの慘状を呈し、而も八月に入り、聯合國軍は新たに原子爆彈を使用するに至り其の攻撃を受けましたる廣島、長崎兩市の慘状は、眼も當てられぬ悲慘なものでありました、又其の非人道的なる災禍の及ぶ所、惹ては我が民族の滅亡を來し、世界人類の文明も、爲に破滅に陷るを憂へしむるに至りました、加ふるに、「ソ」聯は突如として我が國に宣戰し、國際情勢も亦最惡の事態に到達したのであります、是より先、米英支三國は「ポツダム」に於て帝國の降伏を要求する共同宣言を發表し、諸般の情勢は又帝國は一億玉碎の決意を以て死中に活を求むるか、然らざれば終戰かの岐路に立つたのでありますが、日本民族の將來と世界人類の平和を思はせらるる大御心より大乘的御聖斷が下つたのであります、即ち「ポツダム」宣言は、原則として 天皇の國家統治の大權を變更するの要求を包含し居らざることの諒解の下に、涙を呑んで之を受諾するに決し、茲に大東亞戰爭の終戰を見るに至つたのでありまして、帝國と聯合各國との間の降伏文書の調印は、本月二日横濱沖の米國軍艦上に於て行はれ、同日御詔書を以て聯合國に對する一切の戰鬪行爲を停止し、武器を措くべきことを命ぜられたのであります、私は顧みて無限の感慨を禁じ得ませぬと共に、戰爭四年の間、共同の目的の爲に有らゆる協力を傾けられた大東亞の諸盟邦に對し此の機會に深甚なる感謝の意を表するものであります、聯合國軍は既に我が本土に進駐して居ります、事態は有史以來のことであり、三千年の歴史に於て最も重大局面と申さねばなりませぬ、此の重大なる國家の運命を擔つて其の嚮ふべき所を誤らしめず、國體をして彌が上にも光輝あらしめることは現代に生を享けて居りまする我々國民の重大責務であります、一に懸つて今後に處する我々の覺悟と我々の努力とに依るものであります、今日に於て尚現實の前に眼を覆ひ當面を糊塗して自ら慰めむとするが如き怯懦や、或は激情に驅られて事態を滋くせむとするが如きは、到底國運の恢弘を期する所以ではありませぬ、一言一行悉く 天皇に絶對歸一し奉り、苟くも過たざることこそ臣子の本分であります、我々臣民は大詔の御誡めを畏み、堪へ難きを堪へ、忍び難きを忍んで、今日の敗戰の事實を甘受し、斷乎たる大國民の矜持を以て潔よく自ら誓約せる「ポツダム」宣言を誠實に履行し、誓つて信義を世界に示さむとするものであります、今日我々は不幸にして敗戰の苦杯を嘗めて居りますが、我々にして誓約せる所を正しく堂々と實行するの信義と誠實を示し、正と信ずる所は必ず之を貫くと共に、非は非として速かに之を改め、理性に悖ることなき行動に終始致しまするならば、我が國家及び國民の眞價は必ずや世界の信義と理性に訴へ、列國との友好關係を囘復し、茲に萬邦共榮の永遠の平和を世界に現はすべきことを確信するのでありまして、今後に於ける我が外交の根本基調も正しく之に依るのであります、畏くも大詔に於きましては「世界の進運に後れさらむことを期すへし」と御示になつて居ります、私共は維新の大業成るの時に、明治天皇御自ら天地神明に誓はせられました五箇條の御誓文の御精神に復り、此の度の悲運に毫も屈することなく、自肅自重、徒らに過去に泥まず、將來に思ひ惑ふことなく、一切の蟠りを去つて、虚心坦懷、列國との友誼を囘復し、高き志操を堅持しつつ長を採り短を補ひ、平和と文化の偉大なる新日本を建設し、進んで世界の進運に寄與するの覺悟を新たにせむことを誓ひ奉らねばならないと信じます、組閣の大命を拜しまするに當り、畏くも 天皇陛下に於かせられましては、私に對し、「特に憲法を尊重し詔書を基とし軍の統制秩序の維持に努め時局の拾收に努力せよ」との有難き御言葉を賜りました、時局に對する御軫念の程、拜察するだに畏き極みであります、私は此の有難き大御心に副ひ奉ることを唯一の念願とし、之を施政の根本基調として粉骨碎身の努力を致し、國民の先頭に立つて平和的新日本の建設の礎たらむことを期して居ります、國民諸君も亦畏き 聖慮の存する所を再思三省し、心機一轉、溌剌清新の意氣を以て新たなる御代の隆昌に向つて勇往邁進して戴きたいのであります、之が爲には特に活溌なる言論と公正なる輿論とに依り、同胞の間に溌剌たる建設の機運の湧き上ることが先づ以て最も必要なことと信じます、私は組閣の初に當りまして、建設的なる言論の洞開を促し、健全なる結社の自由を認めたい旨、意見を發表する所があつたのでありまするが、政府と致しましても、言論の尊重、結社の自由に付きましては、最近の機會に於きまして、言論出版集會結社等臨時取締法を撒廢致し度き意嚮であり、既にそれ等の取締を緩和致しましたことは曩に發表した通りであります、苟くも國民の能動的なる意慾を冷却せしむるが如きことなきやう今後共十分留意する考であります、特に帝國議會は國民代表の機關として、名實共に眞に民意を公正に反映せしめ得る如く憲法の精神に則り、正しき機能を發揮せられむことを衷心より希望する次第であります、戰爭の終結に伴ひまして、軍事上、産業上の復員が行はれ、今後多數の同胞は各各其の家郷に歸り、舊の職場に復歸します、又大東亞各地に配備せられました多數の軍隊の内地歸還は眞に容易なことではありませぬ、相當の年月を要する虞があるのであります、是等の任務を解かれた軍人及産業要員の就職、授産等の援後厚生に付きましては、政府と致しましても固より萬全の準備を盡して遺憾なきを期する所存でありますが、同胞諸君に於きましても、傷き破れた是等の人々に深き思ひやりを致され、温き同胞愛を以て抱擁して戴きたいのであります、特に特別攻撃隊の勇士を初め、壯烈護國の華と散られました幾多の將兵の盡忠に對しましては、私は諸君と共に謹んで敬弔の誠を捧げますると共に、戰場に傷き病んだ將兵各位に對して深甚なる同情の意を表します、而して其の速かなる再起を衷心より希望して居るのであります、政府と致しましては、軍人遺族並に傷病軍人の上に寄せさせ給ふ有難き大御心を體し、其の援護厚生に今後特別の努力を傾け、施策の萬全を期したき考であります、又第一線の將兵と變ることなき危險を侵し、幾多の尊き殉職者を出しつつも、敢然として長期に亙り海上輸送の完遂に撓まざる努力を示して參りました船員諸君に對し、更に空爆下一身の安危を顧みず、増産、増送の職場を守り抜き、遂に職域に殉じた同胞諸君並に皇國の大義に生くる行學一致の學徒動員に目覺しき働きを示しました學徒諸君に對しまして、私は諸君と共に心から敬意を表しますると共に、又空爆に依り、非命に斃れ、家を失ひ、職を離れた同胞諸君に對し深甚なる同情の意を表します、是等殉職者、戰災者の援護に付きましては、此の度の詔書に於きましても、誠に有難き聖慮を拜して居るのでありまして、政府は今後共全力を傾注致したき考であります、戰災者諸君に於れましても、非運に屈することなく速かに溌剌たる意氣を以て建設に奮起して戴きたいのであります、今や歴史の轉機に當り、國歩艱難、各方面に亙る戰後の再建は極めて多難であります、戰ひは終りました、併しながら我々の前途は益益多難であります、詔書にも御示になりました如く、今後帝國の受くべき苦難は蓋し尋常一樣のものではありませぬ、固より政府と致しては衣食住の各方面に亙り戰後に於ける國民生活の安定に特に力を注ぎ、有らゆる部面に於て急速に萬全の施策を講じて參る考であります、併し戰爭の終結に依りまして、直ちに過去の安易なる生活への復歸を夢見るが如きものがありと致しますならば、想はざるも甚だしきもので、將來の建設の如きは到底期し得ないのであります、殊に外地滿洲等よりの輸移入に差當り多くを期待し得ざる今日の食糧對策は、極めて多難重大であります、從つて今後政府、國民一致して、全力を盡して之が解決を圖らねばならぬことは勿論でありますが、政府と致しましては、特に復員に依る多數の軍人や産業要員の食糧生産部面への轉進に依つて、既耕地の集約強化は固より、戰災地未墾地の積極的開發を行ひ、又水産の劃期的振興に努めたき考であります、國民諸君も有らゆる地力を利用して食糧の自家生産に努め、農民諸君は食糧の供出に從來以上の熱意と努力を示し、又一般消費者に於ても食生活に付一段の工風を凝されむことを期待するのであります、斯くして今後假令外地海外より食糧の輸移入が困難なるが如き事態となりましても、國内に於て爲し得る限り自給すべき方途を講じて行きたいと思ひます、次に住宅の問題に付きましては、相次ぐ戰災に依つて家屋の燒失致しましたものは極めて莫大なる數に上つて居ります、之が復舊は一刻も忽せにすることが出來ない重大なる問題であります、畏くも 天皇陛下に於かせられましては戰災復興のことを深く御軫念あらせられ、過日特別の思召を以ちまして木材百萬石を下賜せられます旨の有難き御沙汰を拜したのであります、政府と致しましては 聖慮の存しまする所を奉體し、大量の簡易住宅を急速に建設する等萬般の對策を講じて速かに住宅問題の安定解決を期したい考で居ります、衣料の問題に付きましても、特に今後冬に向つて戰災者の衣料、寢具等の對策は極めて深刻なるものがあります、而も繊維製品の在庫の拂底、原料の取得困難なるに加へまして、其の生産設備は戰時中概ね軍需生産方面へ轉換せられたのでありまして、國民に對する繊維製品の供給は當面相當困難なる實情にあります、勿論政府と致しましては今後速かに生産設備等の復舊を圖る等諸般の方策を講じ、爲し得る限り衣料品の供給を圖りますと共に、戰災を受けなかつた人々の衣料を同胞愛を以て戰災者に分配することに依りまして、多少とも當面の困難を緩和したいと思つて居ります、戰災其の他の影響に依り、我が國の經濟が蒙りました打撃は極めて大なるものがあります、經濟各般の状況を審かに檢討致しますならば、「インフレーシヨン」の潜在的原因が内面的には逐次釀成せられつつありますことは否み難い所であります、而も戰後處理等今後の事態に想到致しまするならば、我が國經濟の負擔は終戰に依り却て益益加重せられるのであります、若し戰後に於ける國民の覺悟に弛みを生じ、政府の施策にして適當を缺くものがありましたならば、「インフレーション」の恐るべき慘害は遂に收拾すべからざる破壞と混亂に導かれねばなりませぬ、政府と致しましては全力を擧げて「インフレーシヨン」の防遏に努め、之が施策に萬全を期する所存でありますが、此のことは固より國民全幅の協力に依つて初めて克くし得ることであることは説明する迄もないことであります、軍隊の復員、軍需生産の停止轉換等に伴ふ軍人及び産業要員の就職、授産等のことが戰後の處理に於て極めて重大なる問題でありますことは只今も申述べた通りであります、今後相當の失業者を出すが如きことも豫想せねばならぬと思ひます、從つて政府と致しましては、戰後對策として失業問題の處理に付きましては、國民生活の安定と共に、特に施政の重點として之が施策の萬全を期して居るのであります、差當り農業増産の部面に是等の人々の勞力を極力活用するの方途を講じたき考で居ります、新しき教育、文化の建設、産業の轉換復舊、固より大事業であります、其の他終戰に伴ふ當面の難問は今や山積して居るのであります、是等の問題を誤りなく速かに處理し得てこそ新建設への基は開けるのでありまして、我々の今後に於ける努力は亦容易ならざるものがあるのであります、政府と致しましては、固より全力を擧げて之が迅速なる處理解決に邁進する覺悟でありますが、是等戰後對策が圓滑的確を期し得ますると否とは、全國民が乏しきに耐ゆる生活の中に克く建設の覺悟を示し得るか否かに懸ることが甚大なのであります、我々の前途は遠く且苦難に滿ちて居ります、併しながら、御詔書にも御諭しあります如く、我々國民は固く神州不滅を確信し、いつ如何なる事態に於きましても、飽く迄も帝國の前途に希望を失ふことなく、何處迄も努力を盡さねばならぬのであります、誠に恐れ多き極みでありますが、「朕は常に爾臣民と共に在り」と仰せられたのであります、此の有難き大御心に感奮し、我々は愈愈決意を新にし、將來の平和的、文化的日本の建設に向つて邁進せねばならぬと信じます、全國民が悉く一つ心に融和し、擧國一家、力を戮せて不斷の精進努力に徹しまするならば、私は帝國の前途は軈て洋々として輝き開くものと信じます、斯くしてこそ初めて宸襟を安んじ奉り、戰線銃後に散華殉職せられたる幾十萬の忠魂に應へ、英靈を慰め得るものと信ずるのであります、是で終ります(拍手)

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 000 会議録情報

昭和二十年九月五日(水曜日) 
   午後一時十五分開議
    ━━━━━━━━━━━━━
 議事日程 第一號
  昭和二十年九月五日
   午後一時開議
    質 問
  一 大東亞戰爭を不利なる終結に導きたる原因竝其の責任の所在を明白にする爲政府の執るべき措置に關する質問(芦田均君提出)
  二 戰災者救濟に關する質問(松本治一郎君提出)
    ━━━━━━━━━━━━━
 一 國務大臣の演説
    ━━━━━━━━━━━━━
  〔左の報告は朗讀を經さるも參照の爲茲に掲載す〕
[以下略]

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第 88 回帝国議会 衆議院 本会議 第 2 号 昭和 20 年 9 月 5 日

 004 稔彦王

○國務大臣(稔彦王殿下) 稔彦、曩に組閣の大命を拜し、國家非常の秋に方り重責を負ふことになりました、眞に恐懼感激に堪へませぬ
 茲に第八十八囘帝國議會に臨み、諸君に相見え、今次終戰に至る經緯の概要を述べまして、現下困難なる時局に處する政府の所信を披瀝しますことは、私の最も嚴肅なる責務であると考へます、畏くも 天皇陛下に於かせられましては、昨日開院式に親臨あらせられ、特に優渥なる勅語を賜はりました、洵に恐懼感激に堪へませぬ、私は諸君と共に有難き 御聖旨を奉體し、帝國の直面する現下の難局を克服し、總力を將來の建設に傾け、以て 聖慮を安んじ奉らんと存ずるのであります(拍手)
 諸君、曩に畏くも大詔を拜し、帝國は米英「ソ」支四國の共同宣言を受諾し、大東亞戰爭は茲に非常の措置を以て其の局を結ぶこととなりました、征戰四年、顧みて萬感交交至るを禁じ得ませぬ、併しながら既に大詔は下つたのであります、我々臣子と致しましては飽くまでも承詔必謹、大詔の御精神と御諭しを體し、大御心に副ひ奉り、聊かも之に外れることなく、擧國一家、整齊たる秩序の下に新たなる事態に處し、大道を誤ることなき努力に生きなければならないと思ひます(拍手)
 此の度の終戰は一に有難き御仁慈の大御心に出でたるものであります、至尊御自ら祖宗の神靈の前に謝し給ひ、萬民を困苦より救ひ、萬世の爲に太平を開かせ給うたのであります(拍手)臣子として、宏大無邊の大御心の有難さに、是程の感激を覺えたことはないのであります(拍手)我々は唯々感涙に咽びますると共に、斯くも深く宸襟を惱まし奉りましたことに對し、深く御詑びを申上ぐる次第であります
 恭しく惟ひまするに、世界の平和と東亞の安定を念ひ、萬邦共榮を冀ふは、肇國以來帝國が以て不變の國是とする所、又固より常に大御心の存する所であります、世界の國家民族が、相互ひに尊敬と理解を念として、相和し、相携へて其の文化を交流し、經濟の交通を敦くし、萬邦共榮、相互ひに相親しみ、人類の康福を増進し、益益文化を高め、以て世界の平和と進運に貢獻することこそ、歴代の 天皇が深く念とせられた所であります(拍手)洵に畏き極みでありますが、 天皇陛下に於かせられましては、大東亞戰爭勃發前、我が國が和戰を決すべき重大なる御前會議が開かれました時に、世界の大國たる我が國と米英とが、戰端を開くが如きこととなりましたならば、世界人類の蒙るべき破壞と混亂は測るべからざるものがあり、世界人類の不幸之に過ぐることなきことを痛く御軫念あらせられまして、御自ら 明治天皇の「よもの海みなはらからと思ふ世になと波風のたちさわくらむ」との御製を高らかに御詠み遊ばされ、如何にしても我が國と米英兩國との間に蟠まる誤解を一掃し、戰爭の危機を克服して、世界人類の平和を維持せられることを冀はれ、政府に對し、百方手段を盡して交渉を圓滿に纒めるやうにとの御鞭撻を賜り、參列の諸員一同、宏大無邊の大御心に、肅然として襟を正したと云ふことを漏れ承つて居ります、此の大御心は、開戰後と雖も終始變らせらるることなく、世界平和の確立に對し、常に海の如く廣く深き 聖慮を傾けさせられたのであります、此の度新たなる事態の出現に依り、不幸我が國は非常の措置を以て、大東亞戰爭の局を結ぶこととなつたのでありますが、是れ亦全く世界の平和の上に深く大御心を留めさせ給ふ御仁慈の思召に出でたるものに外なりませぬ
 至尊の聖明を以てさへも尚ほ今日の悲局を招來し、斯くも深く宸襟を惱まし奉りましたことは、臣子として洵に申譯のないことでありまして、民草の上を是程までに御軫念あらせらるる 大御心に對し、我々國民は御仁慈の程を深く肝に銘じて自肅自省しなければならないと思ひます
 敗戰の因つて來る所は固より一にして止まりませぬ、前線も銃後も、軍も官も民も總て、國民悉く靜かに反省する所がなければなりませぬ、我々は今こそ總懺悔し、神の御前に一切の邪心を洗ひ淨め、過去を以て將來の誡めとなし、心を新たにして、戰ひの日にも増したる擧國一家、相援け相携へて各各其の本分に最善を竭し、來るべき苦難の途を踏み越えて、帝國將來の進運を開くべきであります(拍手)
 征戰四年、忠勇なる陸海の精強は、沍寒を凌ぎ、炎熱を冒し、具さに辛苦を嘗めて勇戰敢鬪し、官吏は寢食を忘れて其の職務に盡瘁し、銃後國民は協心戮力、一意戰力増強の職域に挺身し、擧國一體、皇國は其の總力を擧げて戰爭目的の完遂に傾けて參りました、固より其の方法に於て過ちを犯し、適切を缺いたものも少くありませぬ、其の努力に於て悉く適當であつたとは言ひ得ざる憾みもあります、併しながら凡ゆる困苦缺乏に耐えて參りました一億國民の此の敢鬪の意力、此の盡忠の精神こそは、假令戰ひに敗れたりとは言へ永く記憶せらるべき民族の底力であります(拍手)
 然るに「ガダルカナル」島よりの後退以來、戰勢は必ずしも好轉せず、殊に「マリアナ」諸島の喪失以降、聯合國軍の進攻は頓に其の速度を加ふると共に、我が本土に對する空襲は次第に激化し、其の慘害は日を逐うて増大して來ました、既に海上輸送力の低下に依つて相當の影響を受けて居りました軍需生産は、斯くの如き戰局の、一段の急迫と共に、本年の春頃よりは愈愈至難を加へ、一方戰爭の長期化に伴ふ民力の疲弊亦漸く顯著ならんとし、終戰前の状況に於きましては、近代戰の長期維持は逐次困難を加へ、憂慮すべき状況になつたのであります、茲に其の概要を述べますれば、即ち本年五月頃の状況に於きまして、汽船輸送力は、船舶喪失量の増大と、數次に亙る船腹の南方抽出等に依りまして、開戰當初の使用船腹の概ね四分の一程度を保持するに過ぎませぬでした、而も液體燃料の不足と、聯合國軍の妨害激化等に依りまして、運航能率は著しく阻碍せられ、殊に沖繩戰の終末以來、聯合國軍航空機の威力の増大に伴ひ大陸との交通すらも至難の状態となり、一方機帆船の輸送力も燃料不足と聯合國軍の妨害に因って急激に減少し、新船の建造及び損傷船舶の補修亦意の如く進捗せず、海上輸送力の斯くの如き機能の低下は、戰力の維持に甚大なる影響を與ふるに至りました
 鐵道輸送力の方面に於きましても、車輛、施設等の疲弊に加へて、相次ぐ空襲に依り逐次に其の機能を低下し、動もすれば一貫性を失ふ傾向すらありまして、全體としての輸送力は本年中期以降に於きましては昨年度に比し、各般の努力に拘らず尚ほ二分の一以下に低減するを免れないものと豫想せらるるに至りました
 斯くの如き輸送力の激減に伴ひまして、石炭其の他工業基礎原料資材の供給は著しく圓滑を缺くのみならず、南方還送物資の取得も殆ど不可能となり、之に加へて空襲に依る生産施設の被害の増大と作業能率の低下は、各産業に深刻なる影響を與へ、工業生産は全面的に下向の一途を辿り、軍官民の努力にも拘らず是が速かなる改善は望み難き状況となつたのであります
 鐵鋼の生産は開戰當初に比し約四分の一以下に低下し、鐵鋼に依存する鋼船の新造補給も爾後多くを期待し得ざる状況となりました、又所在資材の活用戰力化も、小運送力の低下、配炭の不圓滑等の事情に依り、減退の一路を辿るやうになりました
 石炭に付きましても、出炭實績は益益惡化するに加へて、陸海輸送力の大幅低下に依り、供給は逐次減少し、是が爲め中樞地帶の工業生産は全面的に下向き、本年中期以降是等の地蔕に於きましては相當部分運轉休止を見るが如き由々しき事態の發生をすら豫想せらるるに至つたのであります
 又大陸工業鹽の還送減少に伴ひ、「ソーダ」工業を基礎とする化學工業生産は加速度的に低下するの已むなきに至り、是が爲め本年中期以降に於きましては、金屬生産は固より、爆藥等の供給にも支障を生ずる虞なしとせざる危機に瀕したのであります
 液體燃料に於きましても、既に日滿支の自給力に依存するの外なき状況にありましたが、而も貯油の拂底と擴充の困難に伴ひ、「アルコール」、松根油等の生産増強に異常なる努力を傾けましたにも拘らず、航空機燃料等の減少は、遠からざる將來に於て戰爭の遂行に重大なる影響を及ぼさざるを得ない状況に立至つたのであります、一方航空機を中心とする近代戰備の生産も亦空襲の激化に因る交通及び生産施設の破壞と、各種材料、燃料等の不足に因り、在來方式に依る大量生産の遂行は遠からず至難を豫想せらるるに至つたのであります
 斯くの如く我が國力は急速に消耗し、本年五、六月の交に於きましては、近代戰を續行すべき物的戰力の基盤は極度に弱められ、軍官民相協力して凡ゆる對策を講じ、國力の恢復に異常なる努力を捧げましたが、近き將來に於て物的國力の徹底的轉換を圖ることは、漸く至難なるものあるを想はしむるに至りました、殊に沖繩戰の終末以來形勢は全く重大化するに至つたのであります
 加ふるに長期に亙る戰爭の結果、國民生活、特に食糧の面に於ける苦難は益益増加すると共に、「インフレーション」は逐次一般に浸潤せんとし、戰力の現況は戰爭の前途に對し深甚なる考慮を要するに至りました
 此の間我が特別攻撃隊は悲愴極りなき盡忠の精神を發揮して赫々たる偉勳を樹て、硫黄島、「フィリピン」、沖繩島等に於ける陸海の將兵亦一丸となつて奮戰力鬪、克く進攻の聯合國軍に甚大なる出血を強要する等、我が陸海の精鋭は大東亞全戰域に亙り、一死以て皇國防護の大義に生くる傳統の勇武を發揮し、一億國民亦來るべき本土決戰に完璧の防衞態勢を以て、一擧に上陸聯合國軍を撃滅すべく軒昂たる意氣を示したのであります、併しながら長期に亙る數々の決戰に於て、其の都度聯合國軍に至大なる損害を與へたりとは言へ、此の間皇軍の被りました創痍も亦決して少い數字ではないのであります、御手許に配付致しました表に依つて御覽の如く、海軍力及び航空勢力の消耗は甚大なるものがありました、何れも戰爭遂行上重大なる影響を與へ、而も前述の如く國内生産の現状に於きましては、是が補充は意の如くならず、又陸上兵力に於きましては、大東亞各地に亙り作戰を續けて來たのでありますが、其の裝備は漸く十全を期し難く、終戰時に於ける皇軍の物的戰力は逐次低下するの已むなきに至りました、之に對し厖大なる資源と工業力とを有する聯合國側の軍需補給力は愈愈増大し、特に歐洲に於ける「ドイツ」の屈伏後は、戰勝の餘勢を驅つて全戰力を帝國の周邊に集中し來り、物的方面に於ける彼我戰力の相對的比率は、急速に均衡を破るに至りました、國力の現状は以上の如く、陸海の戰備も亦斯くの如く低下を見るに至りましては、徹底的勝利の確信も理論上に於ては遺憾ながら其の根據を減少し、戰爭の繼續は正に容易ならざる階段に到達したのであります
 一面聯合國航空機に依る我が本土の空襲は愈愈甚だしく、大都市は申すまでもなく、中小の諸都市は次々に壞滅し、戰災に因り家屋の燒失せるものは二百二十萬に達し、負傷者は數十萬を以て數へ、戰災者は一千萬に垂んとするの慘状を呈しました、而も八月に入りまして聯合國軍は新たに原子爆彈を使用するに至り、其の攻撃を受けました廣島、長崎兩市の慘状は、眼も當てられぬ悲慘なものであります、其の殘酷なる非人道的なる災禍の及ぶ所、延いては我が民族の滅亡を來し、世界の人類の文明も爲に破壞に陷るを憂へしむるに至りました、加ふるに「ソ」聯は突如として我が國に宣戰し、國際情勢亦最惡の事態に到達したのであります
 是より先、米英支三國は「ポツダム」に於て帝國の降伏を要求する共同宣言を發し、諸般の情勢上、帝國は一億玉碎の決意を以て死中に活を求むるか、然らざれば終戰かの岐路に立つたのであります、日本民族の將來と世界人類の平和を思はせられた大御心に依り、大乘的 御聖斷が下されたのであります、即ち「ポツダム」宣言は原則として 天皇の國家統治の大權を變更するの要求を包含し居らざることの諒解の下に、涙を呑んで之を受諾するに決し、茲に大東亞戰爭の終戰を見るに至つたのであります、帝國と聯合各國との間の降伏文書の調印は、本月二日横濱沖の米國軍艦上に於て行はれ、同日御詔書を以て聯合國に對する一切の戰鬪行爲を停止し、武器を措くべきことを命ぜられたのであります、顧みて無限の感慨を禁じ得ませぬと同時に、戰爭四年の間、共同目的の爲に凡ゆる協力を傾けられた大東亞の諸盟邦に對し、此の機會に於て深甚なる感謝の意を表するのであります、聯合國軍は既に我が本土に進駐して居ります、事態は有史以來のことであります、三千年の歴史に於て、最も重大局面と申さねばなりませぬ、此の重大なる國家の運命を擔つて、其の嚮ふべき所を誤らしめず、國體をして彌が上にも光輝あらしむることは、現代に生を享けて居りまする我々國民の一大責務であります(拍手)一に懸つて今後に處する我々の覺悟、我々の努力に存するのであります
 今日に於て尚ほ現實の前に眼を覆ひ、當面を糊塗して自ら慰めんとする如き、又激情に驅られて事端を滋くするが如きことは、到底國運の恢弘を期する所以ではありませぬ(拍手)一言一行悉く 天皇に絶對歸一し奉り、苟くも過たざることこそ、臣子の本分であります、我々臣民は 大詔の御誡めを畏み、堪へ難きを堪へ、忍び難きを忍んで、今日の敗戰の事實を甘受し、斷乎たる大國民の矜持を以て、潔く自ら誓約せる「ポツダム」宣言を誠實に履行し、誓つて信義を世界に示さんとするものであります(拍手)
 今日我々は不幸敗戰の苦杯を嘗めて居りますが、我々にして誓約せる所を正しく堂々と實行するの信義と誠實を示し、正しきと信ずる所は必ず之を貫くと共に、正しからざる所は速かに之を改め、理性に悖ることなき行動に終始致しまするならば、我が國家及び國民の眞價は必ずや世界の信義と理性に愬へ、列國との友好關係を恢復し、茲に萬邦共榮の永遠の平和を世界に現はし得べきことを確信するのであります(拍手)今後に於ける我が外交の基本も、正しく之に存するのであります畏くも 大詔に於きましては「世界の進運に後れさらむことを期すへし」と御示しになつて居ります、私共は維新の大業成るに當り、 明治天皇御自ら天地神明に誓はせられました所の五箇條の御誓文の御精神に復り、此の度の悲運に毫も屈することなく、自肅自重徒らに過去に泥まず、將來に思ひ迷ふことなく、一切の蟠りを去つて虚心坦懷、列國との友誼を囘復し、高き志操を堅持しつつ、長を採り短を補ひ、平和と文化の偉大なる新日本を建設し、進んで世界の進運に寄與するの覺悟を新たにせんことを、誓ひ奉らなければならぬと存じます(拍手)
 組閣の大命を拜するに當りまして、畏くも 天皇陛下に於かせられましては私に對し、「特に憲法を尊重し、詔書を基とし、軍の統制、秩序の維持に努め時局の收拾に努力せよ」との有難き御言葉を賜はりました、私は此の有難き 大御心に副ひ奉ることを唯一の念願として、之を施政の根本基調として、粉骨碎身の努力を致し、國民の先頭に立ち平和的新日本の建設の礎たらんことを期して居ります(拍手)國民諸君も亦畏き 聖慮の存する所を再思三省され、心機一轉、溌剌清新の意氣を以て、新たなる御代の隆昌に向つて勇往邁進して戴きたいのであります(拍手)
 是が爲には特に溌剌たる言論と公正なる輿論とに依つて、同胞の間に溌剌たる建設の機運の湧上ることが、先づ以て最も重要なりと信ずるのであります(拍手)私は組閣の初めに當りまして建設的なる言論の洞開を促し、健全なる結社の自由を認めたき旨意見を表明する所があつたのでありますが、政府と致しましては、言論の尊重、結社の自由に付きましては、最近の機會に於きまして言論、出版、集會、結社等臨時取締法を撤廢致したき意向であり、既にそれ等の取締を緩和致しましたことは曩に發表致しました通りであります(拍手)苟くも國民の能動的なる意欲を冷却せしむるが如きことなきやう、今後とも十分留意して參る所存であります、特に帝國議會は、國民代表の機關として名實共に眞に民意を公正に反映せしめ得る如く、憲法の精神に則り正しき機能を發揮せられんことを衷心より希望するものであります(拍手)
 戰爭の終結に伴ひまして、軍事上、産業上の復員が行はれ、今後多數の同胞は各各其の家郷に、或は又舊の職場に復歸して參ります、又大東亞各地に配備せられて居ります多數軍隊の内地歸還は眞に容易のことではありませぬ、相當の年月を要する虞があるのでありますが、是等の任務を解かれた軍人及び産業要員の就職、授産等の援護厚生に付きましては、政府と致しましても固より萬全の準備を盡して遺憾なきを期する所存でありますが、同胞諸君に於かれましても、傷き破れた是等の人々に深き思ひやりを致され、温き同胞愛を以て抱擁して戴きたいのであります(拍手)特に特別攻撃隊の勇士を初め、壯烈護國の華と散られました幾多の將士の盡忠に對しましては、私は諸君と共に謹んで敬弔の誠を捧げます、又戰陣に傷き病んだ將兵各位に對し深甚なる同情の意を表し、其の速かなる再起を衷心より希望して居るのであります(拍手)政府と致しましては軍人遺族竝に傷痍軍人の上に寄せさせ給ふ有難き 大御心を體し、其の援護厚生に今後特段の努力を傾け施策の萬全を期したき考へであります
 又第一線の將兵と變ることなき危險を冒し、幾多の尊き殉職者を出しつつも、敢然として長期に亙り海上輸送の完遂に撓まざる努力を示して參りました船員諸君に對し、更に空爆下一身の安危を顧みず増産増送の職場を守り拔き、遂に職域に殉じた同胞諸君竝に皇國の大義に生くる行學一致の學徒動員に、眞に目覺ましき働きを示しました學徒諸君に對しましては、私は諸君と共に心から敬意を表しますると共に、空爆に因り非命に斃れ、家を失ひ、職を離れた同胞諸君に對し深甚なる同情の意を表するものであります(拍手)是等殉職者、戰災者の援護に付きましては、今次の 御詔書に於きましても洵に有難き 御聖慮を拜して居るのでありまして、政府は今後とも全力を傾注致したき考へであります、戰災者諸君に於かれましても、悲運に屈することなく、速かに溌剌たる意氣を以て建設に奮起して戴きたいのであります
 今や歴史の轉機に當り、國歩艱難、各方面に亙る戰後の再建は極めて多難なるものがあります、戰ひは終りました、併しながら我々の前途は益益多難であります、詔書にも拜しまする如く、今後帝國の受くべき苦難は蓋し尋常一樣のものではありませぬ、固より政府と致しましては衣食住の各方面に亙り、戰後に於ける國民生活の安定に特に意を注ぎ、凡ゆる部面に於て急速に萬全の施策を講じて參る考へであります、併し戰爭の終結に依つて直ちに過去の安易なる生活への復歸を夢見るが如き者ありと致しますならば、思はざるも甚だしきもので、將來の建設の如きは到底期し得ないのであります(拍手)特に外地、滿洲等よりの輸移入に差當り多くを期待し得ませぬ今日に於て、食糧對策は極めて多難重大であります、隨て今後政府、國民一致して全力を盡して是が解決を圖らねばならぬことは勿論でありますが、政府と致しましては、特に復員に依る多數の軍人や産業要員の食糧生産部面への轉進に依つて、既耕地の集約強化は固より戰災地、未墾地の積極的開發を行ひ、又水産の劃期的振興に努めたき考へであります、國民諸君も凡ゆる地力を利用して食糧の自家生産に努め、農民諸君は食糧の供出に從來以上の熱意と努力を示し、又一般消費者に於ても食生活に付き一般の工夫を凝らされんことを期待する次第であります(拍手)斯くして今後假令外地、海外より食糧の輸移入が困難なるが如き事態となりましても、國内に於てなし得る限り自給し得べき方途を講じて行きたいと思つて居ります
 次に住宅の問題に付きましては、相次ぐ戰災に因って家屋の燒失致しましたものは極めて莫大な數に上って居るのでありまして、是が復舊は一刻も忽せにすることが出來ない重大なる問題であります、畏くも 天皇陛下に於かせられましては、戰災復興のことを痛く御軫念あらせられ、過日特別の思召や以て木材百萬石を下賜あらせられます旨の有難き御沙汰を拜しました、政府と致しましては 聖慮の存しまする所を奉體し、大量の簡易住宅を急速に建設する等萬般の對策を講じて、速かに住宅問題の安定解決を期したき考へであります
 衣料の問題に付きましても、特に今後冬に向つて戰災者の衣料寢具等の對策は極めて深刻なるものがあります、而も纖維製品の在庫の拂底、原料の取得困難なるに加へて、其の生産設備は戰爭中概ね軍需生産方面へ轉換せしめられました爲め、國民に對する纖維製品の供給は當面相當困難なるものがあります、勿論政府と致しましては、今後速かに生産設備の復舊を圖る等諸般の方策を講じ、爲し得る限り衣料品の供給を圖りますと共に、戰災を受けなかつた人々の衣料を、同胞愛に依りまして戰災者に分配することに依つて、多少とも當面の困難を緩和致したいと思つて居ります  戰災其の他の影響に依り我が國が蒙りました打撃は極めて甚大でありまして、經濟各般の状況を詳かに檢討致しまするならば、「インフレーション」の濳在的原因が内面的には逐次釀成せられつつありますことは否み難き所てあります、而も戰後處理等今後の事態に想到致しまするならば、我が國經濟の負擔は終戰に依り却て益益加重せられるのであります、若し戰後に於ける國民の覺悟に弛みを生じ、政府の施策にして適切を缺くものありと致しまするならば、「インフレーション」の恐るべき慘害は、遂に收拾すべからざる破壞と混亂に導かれなければならぬのであります、政府と致しましては全力を擧げて「インフレーション」の防遏に努め、是が施策に萬全を期する考へであります、固より國民全幅の協力に依つて、初めて能くなし得るものでありますことは申すまでもありませぬ
 軍隊の復員、軍需生産の停止轉換等に伴ふ軍人及び産業要員の就職、授産等のことが戰後の處理に於て極めて重要な問題でありますことは只今も申述べた通りであります、今後に於きましては相當の失業者を出すことも豫期せねばなりませぬ、隨て政府と致しましては、戰後對策としての失業問題の處理に付きましては、國民生活の安定と共に、特に施政の重點として是が施策の萬全を期して居る次第であります、差當り農業増産の部面に是等の人々の勞力を極力活用するの方途を講じたき考へで居ります
 新しき教育文化の建設、産業の轉換復舊固より大事業であります、其の他終戰に伴ふ當面の難問は今や山積して居るのであります、是等の問題を誤りなく速かに處理し得てこそ、新建設への基は開かれるのでありまして、我々の今後の努力は又容易ならざるものがあります、政府と致しましては、固より全力を擧げて是が迅速なる處理解決に邁進する覺悟でありますが、是等戰後對策が圓滑的確を期し得ますると否とは、全國民が乏しきに耐ゆる生活の裡に、能く建設の覺悟を示し得るか否かに懸ること甚大なるものがあります  我々の前途は遠く且つ苦難に滿ちて居ります、併しながら 御詔書にも御諭しを拜する如く、我々國民は固く神州不滅を信じ、如何なる事態に於きましても、飽くまでも帝國の前途に希望を失ふことなく、何處までも努力を盡さねばならぬのであります
 畏くも 詔書には「朕は常に爾臣民と共に在り」と御示しになつて居ります、此の有難き 大御心に感奮し、我々は愈愈決意を新たにして、將來の平和的文化的日本の建設に向つて邁進せねばならぬと信じます(拍手)全國民が一つ心に融和し、擧国一家、力を戮せて、不斷の精神努力に徹しますならば、私は帝國の前途は軈て洋々として開け輝くことを固く信じて疑はぬものであります(拍手)斯くしてこそ初めて 宸襟を安んじ奉り、戰線銃後に散華殉職せられましたる幾十萬の忠魂に應へ、英靈を慰め得るものと固く信じます(拍手)

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