Ob-La-Di Oblako 文庫

帝国日本の侵掠戦争と植民地支配、人権蹂躙を記憶し、再現を許さないために、ひたすら文書資料を書き取る。姉妹ブログ「歴史を忘れる民族に未来はない!」https://obladioblako.hateblo.jp/ のデータ·ベースを兼ねる。

【工事中】管轄権問題 清瀬弁護人、キーナン主席検事の弁論と判決 極東国際軍事裁判速記録第4号より 1946.5.13 

◯淸瀨辯護人 それでは豫て提出致して置きました當裁判所の管轄に關する動議の說明をさせて戴きます。其の第一は當裁判所に於ては平和に對する罪、又人道に對する罪に付き御裁きになる權限がないと云ふことであります。言ふまでもなく當裁判所は聯合國が一九四五年七月二十六日ポツダムに於て發しました降伏勸告の宣言、其の中に聯合國の俘虜に對して殘虐行爲をなしたる者を含む總ての戰爭犯罪者に對しては峻嚴なる裁判が行はるべしと云ふ條規が根源であります。此のポツダム宣言は同年の九月二日に東京湾に於て調印せられました降伏文書に依つて確認受託されたのであります。それ故は[ママ]ポツダム宣言の條項は我が國を拘束するのみならず、或る意味に於ては聯合國も亦其の拘束を受けるのでありまして、卽ち此の裁判所はポツダム宣言第十條に於て戰爭犯罪人と稱する者に對する起訴を受けることは出來ますが、同條項に於て戰爭犯罪者と稱せざる者の裁判をなす權限はないのであります。本法廷の憲章に於ては、平和に對する罪乃至人道に對する罪と云ふ明文はありますけれども、斯の如き罪に対する起訴をなす權限がなければ、聯合國から權限を委任された最高司令官はやはり其の權限は、ないのであります。自己の有せざる權限はを他人に與ふることを能うはずと云ふ法律上の格言は國際條約の解釋の上に於ても亦同樣であります。それ故に我々は茲に冷靜に嚴格にポツダム宣言に於て、戰爭犯罪人と稱するものの意義、限度を決めて掛からなければなりませぬ。而も此の意味は今日我々が考えて居る言葉ではなくして、一九四五年七月二十六日を限度として、其の日を境にして此の宣言を發した所の國、此の宣言を受けた所の國、卽ち聯合國及、び日本に於て、戰爭犯罪とは何を考えられて宣言が發せられ、宣言が受託せられたかと云ふことを決めなければなりませぬ。其の當時まで世界各國に於て知られて居つた戰爭犯罪と云ふことの意味は、結局戰爭の法規慣例を犯した罪と云ふ意味であります。其の實例として多く擧げられて居るものは、交戰者の戰爭法規違反が一つ、掠奪が一つ、間諜及び戰時反逆、此の四つが戰爭犯罪の典型的のものであります。此の法廷にはイギリスからの裁判官もおゐででありますが、イギリスの戰爭法規提要四百四十一條には、明らかにワー・クライムと戰爭犯罪の定義を擧げて居ります。

 それから又次の條には、戰爭犯罪の種類を擧げて居りまして、此の種類はやはり今私が申上げた四つであります。單り英國の戰爭法規提要だけではありませぬ。他の國に於て通用する言葉は總て今申す通りのものでありまして、平和に対する罪、卽ち其の戰爭の性質が如何でありましても、戰爭自體を計畫すること、プラン、準備すること。プレパレーション、始めること、イニシユーテイング、及び戰爭それ自體、卽ちエージオフ、それ自體を罪とすると云ふことは、一九四五年七月當時の文明國共通の觀念ではないのであります。學識豐富なる裁判官各位は國際公法の著書に付ては旣に十分御檢討相成つたことと存じます。世間に能く讀まれて居る彼の有名なオツペンハイムの著書でも、又ホールの著書でも、戰爭犯罪中に戰爭を始めること、之を戰爭犯罪とは言つて居りませぬ。卽ち受託した我が國の方で讀まれます立作太郎博士の著書でも、信夫淳平博士の著書でも、戰爭犯罪は悉く戰爭の法規慣例、之に違反して居るものであると申しまして、其の例證も、分け方に依つて五つに分けて居る例證もありますが、實際に於ては英國のマニュアルと同一であります。本法廷憲章の發布されました本年一月十九日、聯合國最高司令官マツカーサー元帥閣下が發せられました特別命令、スペシャル・オーダーの中に、聯合國は隨時戰爭犯罪者を罰する旨を宣言したと云ふこととが載つて居るのであります。此の特別宣言にある聯合國が屢々宣言したと云ふことも、やはり我が日本に對する宣言と解釋するの外はありませぬ。ドイツに對する宣言、ヨーロツパ樞軸國に對する宣言を日本に當嵌めるわけには行きませぬ。ドイツに對して或はモスコー或はヤルタ、是等の會議でどう宣言せられやうとも、我が日本に對し其の宣言を適用すると云ふ理由は斷じてありませぬ。裁判長、ここが私は非常に大切なことと思ひます。ドイツと我が國とは降伏の仕方が違つて居る。ドイツは最後まで抵抗してヒツトラーも戰死し、ゲーリングも戰列を離れ、遂に崩壞致しまして、全く文字通りの無條件降伏を致しました。それ故にドイツの戰爭犯罪人に對しては聯合國は、若し極端に言うことを許されるならば、裁判をしないで處罰することまでもなし得たかも分りませぬ。我が國に於てはまだ聯合國が日本全土に上陸しない間にポツダム宣言が發せられ、其の第五條には、聯合國政府は、我々も亦之を守るであらうと云ふ條件で――此の條件は聯合國も守るであらうと云ふことで、我が國に對して宣言を發し、我が國は之を受諾したのであります。それ故にニユールンベルグに於ける裁判で、平和に対する罪、人道に対する罪を起訴して居るからと云つて、それを直ちに類推して極東裁判に持つて行くと云ふことは絕對の間違ひであります。我が國に於ては今申した來歷で、ポツダム宣言と云ふ一つの條件附、假に民事法の言葉を藉りますれば、一つの申込、オツフアーに附いた條件オツフアーに附いた條件があるのであります。それを受託したのでありますから、聯合國と雖も之を守らなければならぬ。聯合國に於けれては、今囘の戰爭の目的の一つが國際法の尊重であると云ふことを云はれて居ります。此の條件[の]一つである戰爭犯罪人の處罰と云ふものは、世界共通の言葉、能く決つた熟語、それて戰爭犯罪と云ふものだけが罰せらるものだと思つて受諾して居る。受託してしまふと當時とは違ふ他の罪を持出して之を起訴すると云ふことは如何なるものでありませう。世間では一九二八年の不戰條約より、國家の政策としての戰爭を非とすると云ふ言葉があるから、其の後は國家の政策としての戰爭又は侵略戰爭それ自身が犯罪となるのだと極論する人もあります。伴[ママ]しながら是は徹底的に間違ひでありまして、不戰條約は國の政策としての戰爭は咎めて非として居りますけれども、之を犯罪なりとは言うて居りませぬ。其の證據には、不戰條約が成立しましたのが一九二八年であります。イギリスの戰爭法規提要が出來たのは其の翌年一九二九年であります。

 不戰條約が戰爭を咎めると云ふことを書いた後に、世界の大国たるイギリスは戰爭犯罪は戰爭の法規、慣例に違反したるものを言ふ。戰爭犯罪の種類は此の三つだと云ふことを示して居ります。以上は不戰條約が戰爭犯罪の範圍を擴めたと云ふことは考へられないと私は思います。又私共もハバナに於ける汎米會議其の他で侵略戰爭を國際滴の犯罪とする決議をなさつたことは、新聞の報道なり著書で讀んだことはあります。併しながら斯の如きアメリカ大陸と云つた局地的の條約なり、決議なり、會議と云ふものは、それに關與した國だけか抱[ママ]束せられるものであつて、局地的の會議の結果が全世界を拘束するものでないことは茲に私が申上げるまでもないのであります。苟も或る法則が國際法となるのには、世界各國が之に關與するか或は又多年の慣行で人類の承諾した觀念、エウタブリツシコ[ママ]ド、アイデア、それが生まれた時に初めて國際法となることは、茲に私が申上げるまでもありませぬ。又曩にも觸まれ[ママ]したが、國際條約でも、國際宣言でも、條約宣言の後に現はれたもので、前の條約宣言を解釋することは出來ませぬ。ーーもう一度やります。國際條約でも、宣言でも、之を解釋するのには條約宣言以前の資料は役に立ちますけれども、後に現れた資料で前の條約を解釋することは出來ないのであります。終戦後ヨーロツパからの資料を研究しますると、一九四五年の八月八日にロンドンの戰爭犯罪會議で戰爭犯罪の意義を擴張することが決つた趣であります。之が卽ちニユールンベン[ママ]グ裁判のチャーターでえります。併しながらそれは八月八日のことです、我々へのデクラレーションは七月二十六日のことであります。七月二十六日の宣言を解釋するのに、八月八日の資料を以て解釋すると云ふことは、矛盾撞着苟も法律家のなさざる所であります。此の問題は實に大きな問題で、私は今日の世界に於て法律問題としては此の裁判所の管轄に關する問題位大きな法律問題は今はないと思ひます。日本に對して從前通りの戰爭犯罪を嚴重に裁判をする。思ひもせん、當時日本では夢想だもせざりし平和に對する罪だと云つて、當時の政府の要人、當時の外交官、當時の民間の指導者を被告にすると云ふことはどう云ふ譯でありませうか。我々日本人としては實に重大なる疑義を持つて居ります。何れ檢事側の方に於かれて御反駁もあることと存じますが、何卒此の點に付ては囚はれることなく、裁判長閣下の此の法廷開始の初めに宣言せられた如く、ず、又何人をも裨益せず、嚴正なる解釋を、歷史の審判の前になされんことを切望致します。

 然るに本年四月二十九日及び三十日に送達せられました起狀中には、平和に對する罪をであると申しまして、以上の意味に於ける戰爭犯罪以外の、卽ち戰爭自體の共同の計畫、共同の立案、共同の實行、之に指導者、敎唆者、共犯者として參加したことを戰爭犯罪と列擧して居ります。卽ち訴因第一より第三十六までそれであります。此の各訴因は之を調査する必要なく、本裁判所の權限に續せざるものとして排斥せられんことを請ひます。

 又右起訴狀には、人道に對する罪であると稱して、麻藥濫用防止條約なり、議定書の違反、之を罪として據げて居るのであります。卽訴因五十三乃至五十五條の戰爭犯罪を除いたる部分、茲に附属書Bが之に當るのであります。又其の上に單純な殺人罪、モーダー、戰爭の開始の際又は戰爭攻擊中に發生した軍人又は非戰鬪員の生命に對する加害をも戰爭犯罪と擧げて居ります。訴因第三十七乃至五十二が卽ち是であります。是等も亦先刻申しました理由に依り戰爭犯罪の中に入らざるものとして證據調べを要せず直ちに排斥せられんことを要望致します。以上が本裁判所の管轄に對する點であります。

 是より本異議の第二點に付き簡単なる說明を致します。ポツダム宣言の受託と云ふのは七月二十六日現在に、聯合國と我が國との間に存在して居つた戰爭、我々は當時大東亞戰鬪と唱へました戰爭、其の戰爭を終了する國際上の宣言であつたのであります。それ故に其の戰爭犯罪と云ふのは、あの時に現に存在して居つた戰爭、我々の言ふ大東亞戰爭、諸君の仰しやる太平洋戰爭、此の戰爭の戰爭犯罪を言つたものであります。此の大東亞戰爭にも含まれず、又あなた方の仰しやる太平洋戰爭にも關係がなく、旣に過去に於て終了してしまつた戰爭の戰爭犯罪を思ひ出して起訴するなんと云ふことは斷じて考へられて居りませぬ。そこで私共實に不思議に堪へぬのは、其の一つは、遼寧吉林黒龍江、熱河に於ける日本政府の行動を戰爭犯罪と致して居ります。是は彼の滿洲事變を宣言なき戰鬪と御覧になつたのでありませうけれども、滿洲事變の結果滿洲國が出來、滿洲國は多數の邦國に依つて承認せられて居ります。此處にはソ聯御代表の裁判官も居られますか、ソ聯は滿洲國を承認されて居る。東支鐵道はソ聯より滿洲國に賣却せられました。滿洲國を國と見なければ、それに賣却すると云ふことは起りませんから、ソ聯は滿洲國を御承認なさつて居るものと我々は解釋して居ります。さうして見れば遼寧吉林黒龍江、熱河、之に關する事件の如きは、古き過去の歷史であります。太平洋戰爭には包含されないものであります。然るに本件の起訴状の訴因第二は、是等の事件に遡り、戰爭犯罪ありとして訴へられて居るのであります。更に驚くべきことは、我が國とソ聯との間に曾て起りましたハーサン湖區域に於ける事件、又ハルビン、ゴール河流域に於ける事件、前の事件を我が國では張鼓峰事件と言ひ後の事件はノモンハン事件と言ひますが、是等の事件に戰爭犯罪ありとして起訴されて居ります。此處にはソ聯の裁判官も居られることでありますから、證據の提出は必要あるまいと思ひますが、ハーサン湖事件、卽ち張鼓峰事件は一九三八年八月に日ソ間に協定が成立して居ります。

◯キーナン檢事 只今より異議を申立てる爲にお聴き戴きたい。ーー主席檢察官と致しまして、只今のやうな議論は基礎的の議論でないと云ふ理由から意義を申し立てさして戴きたいと存じます。

◯ウエツブ裁判長 簡単に願ひます。

◯キーナン檢事 私の只今申上げたい點は、只今法廷に旣に現はれて居る法律の問題及び事實に此の協議を限定して戴きたいことであります。明かなことは我々の尊敬する辯護團側はそれ以外の法律竝に事實に付て協議せんとして居るからであります。併し斯樣な問題は只今本法廷で協議することはまだ早過ぎると存じますので、裁判官閣下より辯護團に其の點御注意願ひたいと存じます。

◯ウエツブ裁判長 辯護人に申しますが、辯護人は單に管轄權のことを取扱つて居るのでありまして、法律問題を取扱つて居るのではないと云ふことを申上げます。併しながら事實に根據を置いて居られる以上は、疑問の餘地のないことでなくてはいけませぬ。

◯淸瀨辯護人 了承しました。私も今此處で立證する考へはないのであります。事實を述べて居るのであります。辯論は何卒全體として御聽き願ひたいと思ひます。

 先刻ハーサン水海流域の事件が過去の事實であるといふ事實を述べました。更にハルビン・ゴール河流域に於ける事件も過去の事件である。卽ち一九三九年九月には協定濟であります。その後日ソ間には中立條約が出來まして、ロシアと日本の間は七月二十六日には戰爭狀態にはあらなかつたのであります。

◯キーナン檢事 ソビエツト聯邦の代表は只今辯護團より紹介されたことは事實ではないと言はれて居ります。それは特にハーサン湖に關する事件のことであります。

◯ウエツブ裁判長 それは裁判所で顕著な事實として受取ることは出來ません。

◯キーナン檢事 只今の事實は疑ひの餘地がない。只今のハーサン湖に關する發言に關しては速記錄から除去して戴きたいと思ひます。

◯ウエツブ裁判長 記錄より削除致します。

◯淸瀨辯護人 裁判長、これに付ては後の段階で實證するの機會を與へられんことを御願ひ致します。

◯ウエツブ裁判長 證據は六月三日それから後に取ることになって居りますから管轄の問題も其の時になさつたら宜敷いでせう。

◯淸瀨辯護人 それでは引續いて第三點に付て更に其の趣意のあるところを述べます、前にも旣に指摘致しました通り此の裁判所の裁判管轄は一九四五年七月二十六日の宣言に基くさうして此の宣言は日本と其の時に戰爭狀態にあつた國との間の戰爭の戰爭犯罪であります裁判長、一寸訂正をお許し願ひます。第三點に入るに先立つて第二點の要旨は訴因第二十五、第二十六、第三十五、第三十六、第五十一、第五十二、此の訴因の排斥を求めるものでありますそれだけでありますさうして第三點に戾ります。

◯ウエツブ裁判長 それは正式の申出に書いてありませんでしたか。

◯淸瀨辯護人 書いてあります。說明を略したからつけておきます。
 第三點は今申した通り當時の降伏は戰爭狀態にあつた国との間の戰爭犯罪所が我が国とタイ刻との間には當時戰爭はなかつた。タイはシヤムとも云ふ、獨り戰爭なきのみならず、タイ國と我が國は同盟國であつた我が國がタイ國に於てタイに對する戰爭犯罪をしたといつたやうなことは實はどうも夢想も出來ぬ架空のことのやうに思ふのであります。假に何かの解釋で日本とタイとが戰爭をして居たと假定を致しましてもタイ國は聯合國ぢやありませんそれ故にその理由からも我が國がタイ國に對して犯した戰爭犯罪といふものは此の裁判所に於て裁判さるべきものではないのであります然るに驚くべし訴因第四の一部分、第十六、第二十四、第三十四に於ては我が國がタイ國に於てタイ國に對し戰爭犯罪を犯せりとなしこの戰爭犯罪につき內容にに入つて訴訟行爲をする前にこの問題を御處理あらんことを乞ひます。

◯ウエツブ裁判長 裁判は十分間休憩致します。

   午前十一時十分休憩

    ーー▶●◀ーー

   午前十一時二十五分開廷

  MARSHAL OF THE COURT: The Tribunal is now resumed.

◯ヴァンミーター執行官 茲に開廷を宣します。

  CAPTAIN FURNESS: The American counsel for the defense now present the supplemental motion to the jurisdiction.

◯フアーネス陸軍大尉 アメリカ辯護士側は只今附屬的動議を提出させて戴きます。

  THE PRESIDENT: Well, I thought we would take the arguments on each motion seperately.

  CAPTAIN FURNESS: Very good, sir.

  THE PRESIDENT: If Dr. KIYOSE has completed his argument, we will now hear the Chief Prosecutor.

◯ウエツブ裁判長 動議に付ては個別的に取扱つた方が宜いと思ひます。淸瀨辯護士がその辯論を集結致しましたので、今囘ら主席檢事團からその議論を聽くことに致します。

  MR. KEENAN: Mr. President, Members of this International Military Tribunal, can it be that eleven nations represented on this Tribunal and in this prosecution, and in themselves representative of orderly governments, of countries containing one-half to two-thirds of the inhabitants of this earth, having suffered through this aggression the loss of a vast amount of their resources and deplorable and incalculable quantities of blood due to the crimes of murder, brigandage and plunder, are now totally impotent to bring to trial and punish those responsible for this word-wide calumity; that these Allied Nations, having brought about, as they were compelled to so do by sheer force, the end of these wars of aggression, must now stand idly by and permit the perpetrators of those offences to remain without the reach of any lawful punishment whatsoever.

◯キーナン檢事 裁判長及び各裁判官閣下、此の法廷にも代表され又其の檢察團側にも代表されてゐる十一箇國、さうしてまた其の十一箇國自身が他の合法的政府を代表して居りますが、又彼等は世界の人口の半數乃至三分の二までも數えて居りますが是等の十一ヶ國が今までの侵略戰爭により多くの資源を失ひ又非常な人的損失をして居りますが、此の十一箇國が此の野蠻行爲に對して責任を有してゐる者を罰することが出來ないことがありませうか、又此の十一箇國の聯合國は此の侵略戰爭を武力によつて集結させたのでありますが、今や彼等は此の侵略戰爭の責任者をただ何もせずにこの儘放つておくことが出來るでありましようか。

  THE PRESIDENT: Mr. Chief Prosecutor, do you think those rhetorical phrases are fitting at this juncture?

◯ウエツブ裁判長 主席檢察官に伺ひますが、是等の言葉は此の際適當なものでござゐますか。

  MR. KEENAN: Mr. President, in answer to that remark from the President of this Tribunal, I regard the motions as being addressed to the body public of the world, as they are being published, and I do not desire and had not desired to let them go entirely unchallenged and am ready now, after this statement of our proposition of the soundness of the prosecution, to proceed to the analysis of the points raised.

◯キーナン檢事 裁判長、私は此の辯護人側が致しました動議は世界の各民衆に對してなされたものであると理解致し、此の動機[ママ]が全然反駁されずに居ることは承知出來ないのであります。さうして今これから私はこの裁判が法に適つて居るといふことについて議論を進めて行きたいと思ひます。

  The motion of  the accused attempts to restrict the jurisdiction of this Court by accused's construction of the language set forth in the Potsdam Declaration, that “stern justice shall be meted out to all war criminals, including those who have visited cruelties upon our prisoners.”  In the motion there are other assertions or implication that the surrender of Japan was subject to certain conditions in this respect.  With this latter contention we have no concern in the consideration of this motion, perhaps, purely as a matter of law.  But, I do not intend, in this Tribunal, to permit that false assertion to remain unchallenged, and I wish to state, as the position of this prosecution, that the surrender of the Japanese nation was utterly and entirely without conditions and that recourse to the Instrument of Surrender and the docunents leading thereto will so demonstrate.

 被告の動議は此の裁判所の管轄を制限せんとするものであります。それはポツダム宣言に於て「吾等の俘虜を虐待せる者を含む一切の戰爭犯罪人に對しては嚴重なる處罰を加ふるものなり」といふ條項に對する被告人側の解釋によってこゅ法廷の管轄を制限せんとするものであります。此の動議にはこれに關して日本の降伏が或る條件に基づいてゐたといふことの主張及び含みがあるのであります。この主張に對しては我々は鍛に法律の問題としては全然關心を持つて居りませんのですが、併し私はかかる誤つた主張が全然反駁されずに終つてしまふことは望みません。私は現在檢察側の主張を述べさせて戴きたいと思ひます。

 卽ち日本の降伏は全然無條件なるものであり、それにつきましては降伏文書及び他の書類を參されれば必ず立證されることと思ひます。

  Examination of the two Japanese communications already identified in this case, transmitted to the various Allied governments at the time of the surrender, will show that the surrender of the Japanese Government was 

終戰當時スイス國政府を通して各聯合國政府に通達された二つの日本國の書簡、それは今旣に引證されてて居るものでありますが、それを檢討しますれば日本國政府の降伏は無條件なるものであつたといふことを證明致します。又此の法廷を確立させる條例が交付されました時聯合國最高司令官によつて發せられた宣言の解釋によつて此の法廷の權能、權力を限定せんとする試みもなされたのであります。此の動議に於てなされた被告人側の見解も同樣に間違つて居るといふことが立證されました。何となれば、其の宣言の第一項に於いて「樞軸國側の不法なる侵略戰爭に反抗せる合衆國竝に之が聯合諸國家は戰爭犯罪人は裁判に附せらるべしとの

 

 

極東国際軍事裁判所 判決より

「起訴状に含まれている起訴事實を審理し、判決を下す本裁判所の管轄權に對して、辯護側が抗辯した主な理由は次の通りである。

(一)連合國は、最高司令官を通じて、『平和に對する罪』(第五條(イ))を裁判所條例に含め、これを裁判に付し得るものと指定する件能をもつていない。

(二)侵略戰爭はそれ自体として不法なものではなく、國家的政策の手段としての戰爭を放棄した一九二八年のパリー條約は、戰爭犯罪の意味を擴げてもいないし、戰爭を犯罪であるとしてもいない。

(三)戰爭は國家の行爲であり、それに對して、國際法上で個人責任はない。

(四)裁判所條例の規定は『事後』法であり、從つて不法である。

[中略]

 一九四六年五月に、本裁判所は、この辯護側の申立てを却下し、裁判所條例の効力とそれに基く裁判所の管轄權とを確認し、この決定の理由は後に申渡すであろうと述べたが、その後に、ニユールンベルグで開かれた國際軍事裁判所は、一九六四年十月一日に、その判決を下した。同裁判所は、他のことと共に次の意見を發表した。

 『裁判所條例は、戰勝國の側で權力を恣意的に行使したものではなく、その制定の當時に存在していた國際法を表示したものである。』

 『問題は、この條約(一九二八年八月二十七日のパリー條約)の法的効果は何であつたかということである。この條約に調印し、またはこれに加わつた諸國は、政策の手段として戰爭に訴えることを將來に向つて無條件に不法であるとし、明示的にそれを放棄した。この條約に調印した後は、國家的政策の手段としての戰爭に訴える國は、どの國でも、この條約に違反するのである。本裁判所の意見では、国家的政策の手段としての戰爭を嚴肅に放棄したことは、必然的に次の命題を含蓄するものである。その命題というのは、このような戰爭は國際法上で不法であるということ、避けることのできない、恐ろしい結果を伴うところの、このような戰爭を計畫し、遂行する者は、それをすることにおいて犯罪を行いつつあるのだということである。』

 『ある事情のもとでは、國家の代表者を保護する國際法的の原則は、國際法によつて犯罪的なものとして不法化されている行爲には、運用することができない。これらの行爲を行つた者は適當な裁判による處罰を免れるために、公職の陰にかくれることはできない。』

 『「法なければ犯罪なし」という法律格言は、主權を制限するものではなく、一般的な正義の原則である。條約や誓約を無視して、警告なしに、隣接國を攻擊した者を處罰するのは不當であると主張することは、明らかに間違つている。なぜなら、このような事情のもとでは、攻擊者は自分が不法なことをしていることを知つているはずであり、從つて、かれを處罰することは、不當であるどころでなく、もしかれの不法行爲が罰せられないですまされるならば、それこそ不當なのである。』

 『裁判所條例は次のように明確に規定している……「被告人ガ自己ノ政府又ハ上司ノ命令ニ從ヒ行動セル事實ハ被告人ヲシテ責任ヲ免レシムルモノニアラズ。但シ刑ノ輕減ノ爲考慮スルコトヲ得。」この規定は、すべての國の法と一致している。……程度はいろいろであるが、大多數の國の刑事法の中に見られる眞の基準は、命令の存在というけとではなく、事實において心理上の選擇が可能であつたかどうかということである。』

 ニユールンベルグ裁判所の以上の意見とその意見に到着するにあたつての推論に、本裁判所は完全に同意する。これらの意見は、先に擧げたところの、辯護側の强調した理由の初めの四つに對して、完全な答えを表すものである。 

 

https://www.jacar.archives.go.jp/das/meta/A08071307000 27~30/285 JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.A08071307000、A級極東国際軍事裁判記録(和文)(NO.160)(国立公文書館 平11法務02205100)