Ob-La-Di Oblako 文庫

帝国日本の侵掠戦争と植民地支配、人権蹂躙を記憶し、再現を許さないために、ひたすら文書資料を書き取る。姉妹ブログ「歴史を忘れる民族に未来はない!」https://obladioblako.hateblo.jp/ のデータ·ベースを兼ねる。

「共産党のわが軍隊に対する思想的瓦解工作の真相とこれが防遏対策」より 北支那方面軍司令部 1939.4.5

昭和14年4月5日 北支那方面軍司令部『共産党のわが軍隊に対する思想的瓦解工作の真相とこれが防遏対策』より

労働者の所得税の申告に年収3千円、4千円と自ら申告するものがざらにあるくらいだから、実収入はこれ以上あることがわかる。土曜、日曜には労働者が2等の列車に乗り、大威張りで家族を引き連れ温泉に遊びに行く者が随分多いとのことである。

以上のような社会的不均衡の状態、ことに出征軍人の家族の困難なる状態は、家族通信その他の方法で戦地の軍人が知る。

しかるに戦地の軍人は身命を犠牲に供して君国のため働いているのであるから、内地においてかくのごとき状態があることを知れば、不平・不満の気持ちにもなり、軍人の思想に及ぼす影響は決して少なくないと思う。

第八、共産党(軍)のわが軍に対する瓦解工作を防遏するため採るべき思想対策

その一、思想対策の重要性

共産党(軍)が思想攻撃の重点をわが軍隊に指向し、わが出征軍隊を思想的に瓦解せしめようとして、あらゆる方法の手段をつくして猛烈なる策動を行いつつあることは、前に説述したとおりである。

しかるに戦場におけるわが軍隊は既に作戦一段落を告げ、今や駐留配置を採りつつあるから、精神の緊張がややもすれば緩み、敵愾心も衰え、密かに戦闘の惨烈性を追想するとともに、故郷のことを思い一日も早く内地へ帰りたい気持ちとなり、また戦場における軍人の困窮・欠乏の生活と、資本家や会社員、労働者などの生活ぶりとを比較するなどにより、色々の不平・不満が増加する傾向にある。
共産党は右のごとき不平・不満に油を注ぐような宣伝を巧妙に行うから、その影響は時日の経過とともにますます大となるものと見なければならん。

ゆえに「日本の軍人は大和魂があるから大丈夫だ」といって安心し、油断することが最も危険である。要するに軍においてもし徹底せる対策を講ずることなくして成り行きのままに放置すれば、軍人の思想はますます悪化し、ついには恐ろしい結果を生じないともかぎらない。誠に憂慮すべきことであると思う。

欧州大戦においてドイツは作戦では大体勝っていたにもかかわらず、英国などの赤化工作によってドイツ軍隊が思想的に崩壊したために、ついに戦争の敗者となり屈服するのやむなきに至った事実を思い出すとき、吾人は大いに考えさせられるのである。

ゆえに軍隊および憲兵隊は勿論、高等司令部においても真に有効にして適切なる思想対策を講じ、軍人の思想悪化を徹底的に予防することが極めて肝要であると信ずる。

これがためには次のような緊急対策を講ずることが緊要であると思う。

その二、軍隊自ら速やかに実行すべき思想対策

一、まず将校に思想対策の重要性を認識せしむること。

思想対策は作戦などとちがい、極めて地味であって、方法が面倒である。しかもその効果が充分現れたかどうか明確に解らないことがあるから、とかく怠りがちになりやすい。

ゆえに徹底した思想対策を講ずることが極めて肝要であることを将校によく認識せしめて、万難を排して有効・適切なる対策を実行せしめることが肝要である。これがためにはまず、共産党が採るべき陰謀、および共産党軍が現に採りつつあるわが軍瓦解工作の真相、ならびにわが出征軍人の思想傾向の実況などを、高等司令部以下、各軍部の将校に具体的に知らしめ、徹底せる対策を講ずることの重要性を充分認識せしむることが最も肝要である信ずる。これがためには将校を集めて講話し、あるいは印刷物などを配布することが良かろう。

二、討伐にあたりては共産軍(匪)に重点を傾注し、これを覆滅すること。

共産党の策動を根本的に防遏するには、その原動力たる共産軍(匪)を討伐撲滅することが肝要である。

三、軍隊において精神教育を徹底的に行うこと。

共産党(軍)がわが軍に対して行う瓦解工作に対抗するためには、誠心教育を徹底的に実行して、敵がいかに宣伝しても少しも動揺しないような確固たる信念を、部下軍人に与えることが最も肝要である。

しかるに軍隊の現状を見ると、警備・討伐に忙殺せられてなかなか時間の余裕がないのみならず、軍隊が分散配置をとり、しかも各種の勤務についているから、部下を集めて教育すること、すこぶる困難である。しかも下級将校は幹部候補生出身将校・特別志願将校など精神教育の経験に乏しく、そのうえ精神教育のため必要なる資料が整っていないために、軍隊における精神教育は、ややもすれば不徹底に陥りやすい状況にあると思う。

甚だしきに至りては、精神教育など長時日間ほとんど実行していない隊もあるとのことである。

ゆえに高等司令部などにおいて精神教育資料を整備して、これを各中隊に配布し、万難を排して精神教育を実行させることが極めて肝要である。

なお従来わが軍は俘虜になることを最大の恥辱としておったが、今事変においては共産党の俘虜優待工作のため、俘虜となっても平気でいるものがある。

ゆえに俘虜に対する徹底した観念を与え、絶対俘虜とならないように教育することが肝要である。

共産軍や中央軍の実情を調べてみると、敵軍においては精神教育に非常な力を用い、ほとんど毎日相当の時間をこの教育に充当しているとのことである。

四、部下軍人の思想傾向を調査し、個性に応じ特別対策を講ずること。

各種の手段を尽して部下軍人の思想傾向を綿密に調査して記録に止め、各自の抱持する思想に応じ適切なる指導方策を講ずることが肝要である。思想傾向の調査のために次のごとき方法を用うるのが良かろうと思う。

1.軍隊内部における言動を調査すること。

2.外出先その他、上官の監視外における言動を調査すること。外出先の言動、立寄り先、交友関係などを調査するためには、憲兵隊と密接に連絡・協力するを要す。

3.過去における各自の経歴、性行、ことに思想動向を調査すること。

4.郵便検閲を行うとき、発信郵便は軍事上の秘密を漏洩しないかということに重点を置いて各隊において検閲しているが、このほか更に思想傾向を観察するという見地において検閲することが肝要である。

五、思想上注意を要する人物の監視・取締りを厳にすること

憲兵隊よりの通報その他、部下の言動調査などの結果、思想上注意を要する人物を発見したならば、これに対しては特別なる精神教育を施して思想的に転向させるように努力するとともに、多面においてその言動を絶えず監視して、特に思想的策動を禁遏し、些少といえども策動したときには厳罰に処することが肝要である。

また、すでに危険思想に感染し、しかも転向しない者が内地に帰還すれば、内地において他人にこれを伝播し、その弊害はむしろ花柳病より大である。花柳病に罹った者は直るまで戦地に止めて治療しているが、これと同様に危険思想に感染したる者も、これが真に転向するまで内地に帰さず、特別の感化院のごとき所に収容して特別教育を施し、転向させるように仕向けることが必要であると思う。

六、外部より軍人に対して行う思想的策動を警防するため採るべき手段

1.郵便検閲は従来、各隊においては多くは軍事の秘密を保護するという見地において単に発信のみについて行っているが、現今、共産党や内地の左翼分子が郵便を利用して宣伝文を軍人にいる実情に鑑み、着信郵便についても検閲を徹底的に行い、宣伝文または宣伝文句が含まれていないかどうかを検査することが必要である。
もし宣伝文が封入されていたら、これを没収することが肝要である。

なお検閲に当たり、軍人発信郵便を思想的見地において観察する様については、すでに述べたとおりである。

2.慰問袋のなかへ宣伝文を入れて送ってきた例があるから、慰問袋の内容についても検査してみる必要がある。

3.宿営地または勤務地その他列車内などにおいて宣伝文を散布したり、あるいは貼付したりすることがあるから、見つけ次第これを蒐集してなるべくわが軍人に見せないようにする方がよいと思う。
もし宣伝文を多くの者が読んだ形跡があるときには、その宣伝文の内容をよく検討し、その内容の文句につき理論と実際との両方面から反駁して説明を加え、敵の宣伝の効果を無効に終わらしめるように努める必要があると思う。

4.外出先または勤務地において直接軍人に話しかけたり、宣伝文を手交したりして宣伝することがあるから、これらの予防についても注意を要する。

5.敵は毎晩のごとく日本語でラジオ放送を行って宣伝しているから、ラジオの受信に注意し、敵の宣伝放送のごときものは聴かないように取り締まることも必要である。

6.内地から来る家庭通信によって軍人の思想を悪化させることがあるから、軍人の家族に対し注意書きを送り、出征軍人の思想に影響するような通信文を書いて寄こさないように注意するのも一方法である。

七、軍自体として思想悪化の原因となるべき諸要素を除くこと

1.傷病兵は衛生部員の取扱いが不親切だといって不平をいう者が非常に多い。これは衛生勤務者の監督・指導上、特に注意を要する点である。また衛生施設をできるだけ良くしてやることも必要である。

2.軍人の慰安の施設をできるだけ良くしてやること

3.古年次の招集兵は成るべく早く若い者と交代させて召集解除してやること

八、敵の俘虜工作に対する処置

1.日本軍人として敵の俘虜となることの恥辱、逃亡・奔敵の罪科などを徹底的に教育す。

2.逃亡者ありたる場合、捜索の手段を講ずるは勿論なるが、行方不明となりたるゆえをもって過早に戦死したるものと認定することは戒めねばならん。

3.俘虜となりたる者が原隊に帰還したる場合にはおいては、敵に逆用せられたる実情を厳密に調査し、法によって厳に処断することが肝要である。

九、内地に帰還する軍人に対する指導を適切にすること

事変地より内地に帰還する軍人の思想は概ね穏健で、軍紀もまた概ね厳正であって、機関軍人としての矜持を保ち、その言動を慎んでいるが、なかには往々、凱旋気分に駆られ、あるいは従軍の困苦を体験せりとの優越感などより不謹慎・不穏当なる言辞を弄する者が少なくない。

例えば郷党に対し自己の功績・名声を吹聴せんがために、ことさらに事実を捏造して上官および他部を誹謗し、甚だしきに至りては反戦的言辞を弄し、あるいは戦場の悲惨を誇張し、または物知り顔に軍紀事項を漏らし、あるいは座興のため戦場における軍紀・風紀の紊乱の状況を針小棒大に述べるなど、甚だ不謹慎な者がある。

これらの言動は皇軍に対する国民の信頼を傷つけ、かつ銃後の団結に罅隙を生ぜしむる虞れあるのみならず、往々にして造言蜚語の原因ともなり、また国民の思想に悪影響を及ぼすことが多く、その弊害は極めて大であるから、帰還軍人に対しては叙上の点に注意して精神教育を徹底的に行い、いやしくも不謹慎の言辞を弄するがごときことなきよう戒むるとともに、召集解除後は国民の中堅として国民精神総動員の核心となりて大いに活動し、さらに銃後奉公に貢献するごとく努力するよう教育指導することが肝要であると信ずる。

その三、憲兵隊として実行すべき思想対策

共産党のわが軍隊に対する思想的瓦解工作に対し、軍隊を擁護し、かつ邦人に対する策謀を警防するため、憲兵隊として採るべき対策は概ね左のとおりである。

一、共産党員(抗日分子)を徹底的に検挙・弾圧して共産党の組織を破壊し、その活動を不可能ならしむるごとく努むること。
これがためには次のごとき方法を講ずること肝要である。

1.共産党(軍)に対する監察および諜報網の機構を組織的に構成・運用するとともに、軍隊、新民会、領警などと密に連絡し、的確なる情報を蒐集すること。この際、密偵報を過信することなく、必ずその真偽を確認すべき処置を講ずることが肝要である。

2.共産党の内部的秘密組織、およびその策動状況の真相を明らかにするためには、普通の密偵をもってしては充分目的を達することが出来ない。共産党員を逆用し、これを操縦し、たくみに内部に喰い入らしめることが最も有効である。この方法によってはじめて内部の秘密組織を知り、一網打尽的に逮捕することもできるのである。

3.各種の情報を総合して、思想上要注意人物名簿および写真を調整・整理するとともに、共産党の組織系統表を調整・補修し、常に最新の状況を明らかならしむ。

4.共産党員は下っ端の小物を捕らえても大なる効果がない。党の組織構成の状態を深く探求し、組織全体を一網打尽的に逮捕することが最も肝要である。したがって検挙時期は過早であってはいけない。充分に組織を探知したる後に、各方面緊急なる連携のもとに一挙に検挙を開始し、特に主要分子を逮捕することに努力することが肝要である。

5.日本人および第三国人にして中国共産党と連絡・強調し、あるいはこれを指導援助しつつあるものを発見せば、これらをもあわせ検挙・弾圧することが必要である。

二、共産党のわが軍隊に対する思想的策動の警防・取締り

1.共産党の組織および策動の方法、なかんづくわが軍隊に対する瓦解工作の実況を調査し、まずこれらを究明すること。

2.共産党員のわが軍隊および在留邦人に対する宣伝文の撒布およびビラ・ポスター貼付を防遏すること。
軍隊の駐屯地、警備地、列車内などに共産党員の潜入するを防止するはもちろん、党員にして宣伝文を撒布し、またはビラ、ポスターなどをひそかに貼付し、また直接軍人に手交する者などを発見せば、速やかに犯人を逮捕するとともに、宣伝文などを蒐集し、軍人らにしてこれらを拾得または閲覧することを防止す。

3.郵便を利用し宣伝文を軍人および在留邦人などに郵送することを防止すること。
通信検閲を厳にし、封書中に宣伝文を封入し、または内容中有害なる文句あるものを発見せば、宣伝文を没収し、また思想宣伝のため特に書き添えたるものを発見せば、適宜これを切り除くなどの方法を講ずること。

4.口頭をもってわが軍人または在留邦人に直接宣伝的言辞を話しかくる者を阻止すること。共産党(軍)またはその指導下にある者は、往々に日本語をもって巧みに宣伝することがある。かくのごとき者を発見せば、直ちにこれを逮捕し、その背後関係を究明すること。また、軍人が外出時、多く立ち寄るべき飲食店、料亭、カフェ

ー、妓楼などには共産党の手先となりて宣伝する女がいる。かくのごとき者なきように注意し、これが発見・逮捕に努めねばならん。

三、軍隊内にいる思想上要注意軍人・軍属の取締りに協力すること。

軍人にして思想上要注意人物が外出などにより部隊外において単独行動を取るときには、これが行動・交友関係・立寄り先などを厳に監察し、いやしくも思想的策動をなす者を発見せば、直ちにこれを抑圧するとともに、部隊長と連絡し適切なる処置を取ること。これらの言動は監察名簿に記入・整理すること。

3.その他の軍人・軍属の外出時における言動、交友関係などに注意し、思想上注意を要する言動を調査す。もし注意を要するものを発見せば、速やかに部隊長に通報すること。

4.軍人より発信し、または軍人に宛てたる郵便物などの検閲を厳にし、思想上注意を要する文句または宣伝文、刊行物などを発見せば、部隊長と連絡し適切なる処置を講ずること。

5.思想上有害なる犯罪(抗命、上官暴行、侮辱、奔敵、逃亡)に対しては、部隊と連絡し断固たる処置を採ること。

四、内地に帰還する軍人の言動取締り

内地に帰還する軍人、環送患者あるときは、出発前および輸送途中および宿営地、乗船地などにおいてこれらの言動を監察し、特に思想上注意を要する言動をなすを発見せば、その事由を所属指揮官に通報し、また不穏なる思想宣伝をなす者を発見せば、直ちに抑制するなど適切なる処置を採ることが肝要である。

五、在留邦人中、思想要注意人物の取締り、ならびにこれらが軍人に対して行う策動を警防すること。

1.北支に進出したる左右両翼分子は軍人を利用して将来の企図を遂行せんことを画策しているようであるから、これらの分子は軍人に接近し、軍人を獲得するために色々策動することがあるであろう。

ゆえにまず左右両翼の思想要注意人物の北支進出の状況、活動の状況、ならびに軍人に対する接近策動の状況を厳密に調査する必要がある。北支に進出し、または来住する思想要注意人物の状況、名簿などについては、内地の憲兵司令部その他の関係方面と密に連絡してその真相を究明すること、先決問題である。

2.北支に進出した在留邦人などに思想注意人物中、中国共産党関係人物またはソ連人などと連絡・交通する人物の監察を厳密にし、特にその策動状況を偵知すること。

3.反軍・反戦的言辞を弄し、または軍部を誹謗する者、またはこれに関する文書を発表せし者の真意を調査し、その背後関係を究明する。

4.興亜院連絡部、新民会その他軍関係機関において使用しつつある左翼より転向したる人物の監視を怠らぬこと。
5.通信検閲上の注意についてすでに述べたるところ、準用すること。

6.病院を慰問に籍口して患者に待遇不満を煽動し、反軍・反戦思想を宣伝するものを取り締まること。これがため病院と密に連絡すること。

その四、高等司令部において実行すべき思想対策

一、滅共委員会を未だ構成しあらざる兵団は、速やかにこれを組織すること。

思想対策は単に軍隊のみをもって実行し得るものではない。軍隊を中心として日支各機関が強力なる統制のもとに一致協力してはじめて充分なる成果を発掲し得るものである。

この見地において、方面軍の滅共委員会規定により速やかに各地に委員会を組織し、各機関の思想対策業務を統制することが肝要であると信ずる。

二、共産党および共産軍の撲滅方策を徹底的に実行すること。

共産党は目下敵側における長期抗戦強要の原動力となっているから、今次事変を成るべく速やかに解決に導くためにも、また共産党の思想的瓦解工作を根本的に絶滅するためにも、その策動の根源たる共産軍を撃滅するとともに、共産党の組織を破壊することが最も肝要である。

三、共産軍(匪)を徹底的に討伐・撲滅すること

軍の討伐作戦にあたりては兵力の重点を成るべく共産軍(匪)に指向し、軍の占拠地域内は勿論、軍の作戦可能範囲内における共産軍(匪)を速やかに掃討・撲滅することが肝要である。

四、共産党の組織を破壊すること

共産党の組織については第3章に詳述したとおりであって、郡の勢力圏内においては各地に秘密組織を設けて潜行的に活動し、共産軍(匪)の勢力圏においては公然ソヴェート区を設定して共産党員をして政治・経済・文化などの実権を掌握している。また共産軍の内部には共産党員をもって政治部を作り思想工作を猛烈に実行している。ゆえに軍の勢力圏内の秘密組織に対しては偵諜網を拡充・統制して、暗躍しつつある共産党の組織機構を明らかにし、片端から共産党員を検挙し、特に主要分子を逮捕し、その組織を破壊することが必要である。これがためには憲兵隊を運用することが肝要である。ソヴェート区に対しては討伐によってその地域をわが勢力圏に収め、政治・経済・文化などあらゆる方面に喰い入りている党員を撲滅し、親日分子をもって入れ換える必要がある。また共産軍内部の政治部は、共産軍を撃滅することにより自然にこれを撲滅することが出来るであろう。

五、敵の国共合作を破壊し、抗日救国の統一戦線を崩壊に導き、中央軍をして共産党軍を撃滅せしむるごとく工作するとともに、対敵思想戦を強化・徹底し、思想攻撃の重点を共産党に指向すること。

共産党軍は陝西、甘肅などに根拠を有し、寧夏、新彊などもソ連赤魔の勢力下に入りつつある。しかしこの広大なる地域にわたる共産勢力をわが武力により徹底的に覆滅することは極めて困難である。
翻って考えるのに、国民党と共産党の提携・合作には大いなる矛盾性がある。即ち両党は目下ただ抗日救国の名のもとに合作しているが、両党本来の主義政策において根本的の差異があるから、至る所において両党の摩擦・相克が現れ、共産軍と中央系軍隊の間においても既に衝突・抗争さえ起こりつつある。また国家社会党中国青年党など共産党とは全然相容れないものもあり、国民党、CO団などの内部には熱烈なる共産党排撃者もいる。

ゆえに我は国共合作の矛盾性に乗じ、宣伝・謀略など各種の手段に[より]党派の摩擦・相克を助長・激化させ、もって抗日戦線の統一を破壊し敵を内部より崩壊に導き、さらに進んで中央系軍隊をして共産軍を討伐・擦滅せしめるように工作することが最も有効である。これ即ち夷をもって夷を制する最良の手段で、我にとっては最も有利な方法であると信ずる。

これがためには国民党および中央系軍隊に対しソ連共産党の恐るべき陰謀と罪悪を暴露・宣伝して反共意識を鼓吹し、また共産党軍に対しては国民党軍の警戒・圧迫の状況その他、両党の相克・抗争への実例を誇張宣伝し、あるいは一党派の名を偽称して他党派を誹謗・脅迫・テロなどを行わしめ、次いで両党派を離間し、両者の相克を激化せしむるのが有効であろう。

そのほか敵の両種軍隊に対し戦争忌避および反戦・平和思想を鼓吹して戦意を喪失せしめ、敵兵の投降を勧誘し、また軍紀破壊の観念を扶植して、これを瓦解に導くことが肝要である。

要するに敵に対する思想戦を一層強化・徹底することが緊要で、その方法としては飛行機によりビラを大規模に散布し、また各地にある放送局を総動員してラジオ放送を行うほか、各種の秘密工作を行うことが必要である。この種思想戦を大々的に行うには、北支・中支・南支の各軍が協力一致するほか、海軍と密に協力し、在外大使館・武官・通信社を総動員し、第三国を介して敵側に巧みに宣伝するなど、内外相呼応して徹底的に行うことが肝要である。

要は思想戦を強化統制して大規模に行い、その効果を絶大ならしむることが最も肝要である。

六、対敵思想戦を強化徹底するため、飛行機を有利に活用すること
対敵宣伝を広範囲に、かつ大規模に実施するためには飛行機によって宣伝文を散布するのが最も有効である。

飛行機をもって爆弾を投下して敵を攻撃する方法は、敵を殺傷し建築物を破壊するほか、敵に与うる精神的効果は相当大である。しかし飛行機の爆弾投下だけでは共産党軍を撲滅することは不可能である。けだし延安その他、共産党の首脳部の存在する所にはたいてい洞窟または地下室の施設があって、そのなかに隠れているから、いかに爆撃しても彼らを殺傷することが出来ない。

しかるに宣伝文の散布は敵の思想に影響を及ぼすのであって、この思想はいかなる洞窟のなかにても、地下室にも効果を発揮するのみならず、宣伝によって敵の一部に熾烈なる反共思想を扶植することを得ば、その思想は逐次他に波及し、その効果はますます拡大する。

ゆえに国民党系軍隊に猛烈なる反共思想を扶植することを得ば、ついには同軍をして共産党軍を攻撃せしめ得るのである。かつて蒋介石は第1次国共合作により広東より北伐軍を進め、揚子江岸に進出して北伐に成功したる後、共産党の勢力拡大をおそれて国民党軍をもって徹底的に共産党軍を討伐撃破した経験がある。

ゆえに国民党軍に少しく反共思想を扶植せば、必ずや共産党に対する攻撃を開始するであろう。かくのごとき謀略効果を発揮するためには、国民党系軍隊の存在する都市に対し大規模に反共思想宣伝のためのビラを散布することが肝要である。この目的のためには飛行機を有利に活用することが極めて緊要である。

七、隷下将校に対し思想対策の重要性を充分認識せしむること。
その要領は軍隊の思想対策の第二項において説述したとおりである。

八、精神教育の指導・監督を適切にすること。

1.軍隊における精神教育を徹底的に行なわしむるごとく適切に指導するとともに、その実施を監督すること。

2.精神教育資料はなるべく高等司令部において蒐集または調整して、隷下各中隊などに至るまで配布すること。

3.陣中新聞に精神教育事項を掲載し、各兵をして読ましむること。

4.精神教育上有益なる映画を巡回観覧せしめ、また有益なる雑誌を編集し配布すること。

九、その他、軍隊において思想対策として実行すべき事項の監督・指導を適当に行なうこと。

十、軍人の思想悪化の原因となるべき諸要素を努めて除去すべき方策を講ずること

1.古年次兵は既に家庭を編成し家族扶養の核心となるをもって、これを永く家族より離隔して軍隊内においてきんむせしむるときは、家族の生活の不安、家庭生活の不自然など各種の事情のため戦争に対する不平・不満の観念を持ちやすき境遇にあるゆえに、これらを永く召集しおくことは思想上に及ぼす影響最も大であるから、事情これを許せば古年次はなるべく早く新年次兵と交代せしめて召集を解除するを可とす。

2.病院などにおける衛生勤務員の、患者に対し取扱いを懇切ならしむるごとく、指導と監督に特別の注意をなし、かつ衛生勤務員を充実し手不足のための取扱い不親切に陥る弊害を予防すること。また衛生施設を出来る限り完備すること。

3.給養、補給などの実施を監督し、いやしくも欠陥なからしむるごとく注意すること。

4.軍人の慰安施設をできるかぎり良くしてやること。

5.国策会社および軍需工業に対する指導・監督を国家機関において適切に行い、社員・従業員などの待遇、過度に向上せしめざること。

6.資本家・社員などの豪遊・横暴を適度に抑圧、取り締まり、かつこれらの自粛を促すこと。

7.内地において出征軍人の家族、戦死者遺族および傷痍軍人に対する待遇、生活の援助、失業の救済、物価騰貴の抑圧、物資の配給など社会政策・経済政策を適切に実行すること。

8.国民精神総動員運動の強化徹底を図ること

第九 結論

これを要するに、ソ連邦は今次事変を利用し、支那の共産軍を援助してその武力を強化し、共産党の各種策動を威力的に支援せしむるとともに、中国共産党を指導して徹底せる思想戦形態を整え、大規模の思想戦をなさしめ、わが軍隊に対し猛烈なる瓦解工作を行いつつ、在留邦人、なかんづく朝鮮人・台湾人に革命思想を鼓吹し、日本内地に対してもあらゆる方法・手段をつくして思想的崩壊を図り、また支那民衆に対しては抗日・救国を名として民心を獲得し、これを民族革命に誘導して逐次ソヴェート区を拡大し、ますます支那に対する赤化侵略の地歩を進めつつある。

共産党ノ我軍隊ニ対スル思想的瓦解工作ノ真相ト之ガ防遏方策
https://www.digital.archives.go.jp/das/image/F0000000000000217790