【●●部の内第●●号】
【極秘】昭和十六年三月末日
南方作戦に於ける占領地統治要綱案
第一部研究班起案
参謀総長よりの質問
一、□□□□によれは□□□あるより□ありたり。
二、特務機関の働きに害あり、〜□□せざるごとくせり。
通□憲兵□□□りとする。
目 次
第一 統治方針
第二 統治実施要綱
その一 統治要領
その二 統治主務機関およびその管掌業務
その三 行政対策
その四 財政、金融、通貨対策
その五 産業ならびに貿易対策
その六 交通対策
その七 既往邦人および在留華僑ならびに欧系住民対策
附 録
第一、南方作戦における占領地統治要項案説明書
第二、南方における占領地経営のため事前準備に関する意見
第一 統治方針
一、占領地の統治は武力をもって抵抗分子を排除し、わが指導下に在来の組織慣行に準拠し統治機構を復活運営して、迅速に治安と秩序を回復し、もって資源の獲得を容易ならしむるとともに、軍自らの統治に関する煩累を努めて省略するを本旨とす。
二、英領に関するものを除き、将来における主権の帰属、統治機構の変革等に関しては過早なる意志の発表を避け、統治の実績と国際関係の推移を注視し最善の方策を定めたる後、漸を遂ふてこれが具現を策するものとす。
三、現政権がわが軍事行動を認容する邦国に対しては、その主権を尊重し独立国としてこれを待遇し、軍は軍事行動の遂行に必要なる事項を該政権に要求するに止め、その統治に干与することなし。
第二 統治実施要綱
その一 統治要領
一、統治実施の要領は作戦の進捗に伴ひ、速かにまづ占拠せる地区毎に在来の統治機構を再建復活してその機能を発揮せしめ、逐次これを拡大して迅速に治安と秩序を回復し自治の態勢を確立せしめたる後、軍はその主脳部を確実に掌握し、これに作戦の遂行ならびに物資の獲得上必要とするところを提示して、なし得る限りその力においてこれを履行せしめ、希望満たざるものに対してのみこれが是正もしくは管理の手段を講ずることとし、統治に関し勉めて住民との摩擦と行政上の煩累を避けつつ作戦目的を達成するにあり。
したがひて作戦に重大なる影響をもたらさざる内政事項その他に関しては単に監察に止め、特に緊要を認めざる限り軍として干与せず。
また占領地の自治に緊要なる産業貿易等の問題に関し帝国の協力援助を要するものにありては、直接帝国政府において、もしくは大本営の指示に基き、方面軍において処理するものとす。
占領地域ごとに必要を生ずる対外交渉は、大本営の指示に基き方面軍司令官これを統督す。
二、占領地統治は方面軍司令官これを統括し、その作戦地域に応じ各軍司令官これを担任す。
ただし海軍を主力とする占拠地域においてはその地域にある海軍最高指揮官これを代行す。
占領地行政に関する陸海軍中央協定案、別紙その一のごとし。
その二 統治主務機関およびその管掌業務
一、方面軍司令部における占領地統治主務機関は方面軍特務部にして、その主なる管掌業務、左のごとし。
(イ)占領地統治に関する大本営の方針ならびに指示に基づき、各軍占領地統治の実績を監察して所要の指導を行ふ。
(ロ)占領地における資源の獲得ならびにその培養、開発に関する一般計画を立案し、かつこに関する研究、調査を統轄して、その実施に関し各軍に所要の指示を与ふ。
その重要なる事項につきては大本営に連絡す。
(ハ)占領地における金融、貿易および交通に関し各軍間に所要の統制を行ふ。
(ニ)占領地行政に関し現地海軍最高司令部と所要に応じ協定を行ふ。
(ホ)作戦地域内における統治関係事項に関し作戦地域内独立国との交渉に任ず。
(へ)占領地における統治関係宣伝謀略を統轄す。
二、軍司令部における占領地統治主務機関は軍特務部にして、その主なる管掌業務、左のごとし。
(イ)速やかに占領地における統治機構を再建し、これを監督指導して所望のごとくその機能を発揮せしむ。
これがため高級官公吏の任免を掌る。ただし最高幹部の人事に関しては、あらかじめ方面軍司令官の指示を受くるものとす。
(ロ)占領地における物資収集獲得を担任し、かつ資源に関する調査およびその開発、培養に関する研究ならびに計画の立案およびその実行に当たる。
(ハ)金融、貿易および交通に関しわが方策の実現に任ず。
(ニ)占領地行政に関し現地海軍司令部との連絡に任ず。
(ホ)占領地の行政に関する範囲において在留邦人ならびに商社の監督に任ず。
(ヘ)占領地行政に関する宣伝謀略を実施す。
三、方面軍司令官の占領地統治上、占領地の経営、国際問題の処理等、重要事項に関し、その諮詢に関するため、別に高級顧問若干を置くことを得。軍司令部においては原則として特務部顧問とするも、特に方面軍司令官において認可せる場合に限り、軍司令部直属の高級顧問を置くことを得。
その三 行政対策
一、行政諸般にわたる事項は、在来の組織慣行に則り各種機構の敏速なる機能復活を策し、かつ軍自ら直接行政に干与する煩累を勉めて軽減するを主旨としてこれを処理するものとす。
軍は在来の行政機関における高級官公吏を任免してこれを確実に掌握し、かつこれを支援してわが欲するところを履行せしめ、その成果を監督するごとくし、その実行手段には成るべく干与することを避く。
しかして人心の把握と秩序回復促進のため、軍の要求する諸制令のごときはなし得る限りこれを簡ならしむべしといへども、軍政の施行、特に占領地の経済運営に緊要なる事項は、当初においてこれを明示し、その履行を厳に要求すべきにして、初め寛に過ぎ漸次厳を加ふるの要を生じ却て人心を離反せしむる素因を将来に胎さざる着意を緊要とす。
二、強力なる統制管理を実施するため厳重なる指導監督を必要とする部門にはわが人員を配置するも、この場合においても成し得る限り巡察機関等の運用により目的を達することを図り、もって固定的に吸収せらるる人員増加を抑止するとともに、漸次自治形態を著しく破壊するに至る結末を馴致せざることに留意するものとす。
三、治安の維持は成るべく速やかに地方官憲に移管するごとくし、わが軍隊は主として強力なる抵抗勢力の破砕ならびに緊要地域の直接警備に任じ、そののかたがた地方官憲の支援をなすものとす。
わが武力の直接及ばざる地域に迅速なる治安の回復を見ざる場合には宣伝謀略等によりこれが促進に努力すべきは勿論なるも、場合によりその地域を遮断封鎖して自治の途なく屈服の止むなきに至らしむるか、あるいはその騒擾を占拠地に波及せしめざるごとくし、わが武威未だ弘通せざるに先だち広大なる地域に小兵力を分散するを避くるものとす。
軍は治安維持のため主なる努力を地方軍隊および警察に対する厳重なる監督指導に指向す。
直接軍において治安維持に任する地区においては連座罪を重視す。
裁判は地方官憲に委するも軍隊に関するものは軍法をもって律す。
四、行政の監察には特にその地方の民情習慣を考慮に加へ、軍事目的の遂行に重大なる影響なき不都合はこれを黙過し、住民の教育向上ごときに特別の関心を示すことなし。
ただし宗教はこれを保護し、信仰に基づく風習を尊重することに関しては、これを軍隊に徹底せしめ、その実行を厳に要求するものとす。
五、宣伝は一般民衆を対称として治安の維持に資するを主目的とし、兼て軍令法令等の普及に協力し行政の施行を容易ならしむるを主眼とす。宣伝計画立案に際し特に留意すべきは、民衆が智能低劣にして□能を欠除せるを一般とすると、占領地行政には在来の支配者たりし白人系の者も依然関与しある事実と、さらに戦争遂行中占領地統治は必ずしも占領地民衆の幸福安易なる生活を保証し難き予察の存する諸点なり。故に徒らに東亜共栄圏建設の大理想を説き、あるいは急躁に民族意識を喚起せんとするがごとき迂遠に陥り、また直ちに生活の向上改善を示唆するがごときは適当ならずして、寧ろ端的に皇軍の威力と善意を認識せしめ、これに服従協力すべきを感得せしむべきものとす。
謀略は重点を経済的支配力を把握せる有力華僑操縦に指向す。
占領によりあるいは展開することあるべき民族運動のごときは、その動向、特に実質を注視し、不即不離の態度をもってこれに臨み、確実なる根拠無くして一時附和雷同泡沫的勢力を得て治安に害あるものはむしろこれを弾圧し、精選してその実力を確認し、かつこれを利用するの時期に至るまでは進みてこれを煽動助長せんとするがごとき態度を慎むべきものとす。
六、軍は治安逐次に回復し統治力普及圏を拡大するに伴ひ、特に研究機関を設け、統治の見地より備に民情を洞察して将来の施策決定に寄与すべき適確なる資料を収集するものとす。
その四 財政、金融、通貨対策
一、占領地においては、方面によりその統治に軍政色彩自から濃淡を生ずへしといへども、財政、関税、通貨、外国為替、金融中枢機関に関する限りは完全にその大綱を方面軍 (軍) 司令官において把握し、帝国の経済戦力維持培養を主眼として諸施策を立案遂行するものとす。
二、作戦軍軍費其の他帝国側において必要とする経費は、万止むを得ざるもののほか、ことごとく現地調達の方針により帝国戦時経済の負󠄁担を軽減するを本旨とす。
三、財政に関しては当分のうち従来の制度を踏襲し、各種機関の機能を十分に発揮せしめ、専ら歳入の増加を期す。
諸策安定するに至らば逐次、在来制度の合理化を図り、さらに高度の要求をなすべしといへども、直接税の増加は民心把握に害あるをもって成るべく避くるものとす。
四、歳出は既定の経費に限定することなく専ら駐軍の必要に基くも
本案起案の主旨
一、本案は南方作戦実施に際し、占領地統治に関して、大本営が方面軍司令官に、作戦地全域にわたる軍政実施の準縄たるべき統治要綱として指示すべき内容を包含するを目的とせり。したがって作戦各方面の地域に応ずる統治要領案もまた概ね本要綱案の思想に統一せられ起案せられあり。
素より作戦地は方面によりその本国のわれに対する敵性度、属領として本国との連鎖関係、平時統治機構の特質、民情なかんづくわが作戦目的等に応じ、さらに作戦実施時における国際情勢を反映して、占領地土着官民のわれに対する敵性度に著しき相違を生じ、軍政執行の形態におのづから大いに趣を異にするものあるべきは明らかなるも、南方作戦なる一途目的のためには一貫せる占領地処理の方針を存し、これを具現するためにはおのづから一律の準縄を定め得べく、またさらに一定の準縄をもってこれを律する要あるものをも存するは自明の理にして、その要綱があらかじめ準備せられあらざる場合において占領地の処理は定見を欠き応急を事とし便宜を旨として、収拾し難き混乱に陥るべきは予見に難からず。
本要綱案はこれに備へ、起案者において必要と認めたる項目にわたり、起案者として最善と信ずる結論を掲げたるものなるも、未だ決してその最適たるを確信し得ざるものとす。
二、立案にあたり特に考慮せるところ左のごとし。
(イ)戦争遂行に必要なる物資の獲得をもって第一義とす。
けだし南方作戦の目的とするところは資源確保に存すればなり。
(ロ)南方作戦遂行のためわが国の支出すべき戦費を占領地の犠牲において極力節減するのみならず、さらになし得れば占領地より戦費を吸収して国力を培養す。
占領地住民の福祉増進は終局における戦勝獲得後において企画す。
けだし英米ならびにソ連をも敵とする持久戦に終局の勝利を獲得するには、わが国の戦力維持を第一条件とすればなり。
(ハ)占領地統治に関し統帥系統に基づく統制の完璧を期するとともに、作戦と統治の円満なる調和を求む。
第一 統治方針
一、戦争遂行のため占領地の統治は最小限の努力を用ひて最大限に物資を獲得するをもって主眼とせさるべからす。しかも物資の獲得は轍鮒の急に応ずるを要し、これがためにはまづ速やかに治安を確立するを第一とす。作戦地域の諸邦は幸に属領にして、統治者と被統治者を容易に分離し得る状態にあり。しかも被統治者は民度低くわれに対する敵性度大ならざるべきをもって、在来の統治機構を、その指導分子をわれにおいて掌握し、そのまま利用するを、最も簡易に秩序を回復し治安を確立する手段とすべし。則ちわれは単に統治者に属する、もしくは独自の見地に基づく抵抗分子を排除し、従前の統治者に代りてそのままの形において民衆に臨むことにより作戦に伴ふ混乱を最も簡易に収拾し得るものとす。 これ同時に統治のためのわが直接的労力を省略する最良の手段ともなるものなり。
二、戦争遂行中は統治に努めて面倒を省き所望のごとく資源を確保しあれは足るをもって現状維持ーーこれを極端に謂へば、事なかれ主義が第一にして将来における占領地処理方案のごときは後廻しとし差し支へなきのみならず、またかくするを最も適当とす。けだし吾人の南方に対する現在の認識は到底不足を免れず。したがって今最良と信ずる方策も決して最善を期し難きのみならず、戦後処理に決定的要素たる国際情勢の推移に至りては予期し難し。故に当初より例へば民族運動如ごときに力を用ひ、過早の言質を与ふるがごときことあらば無用の摩擦を惹起し、しかも徒労に帰し、もしくは将来帰結せる最善の方策を取らんとする場合、これを拘束するに至るやも知れず。則ちかくのごときは害ありて益なきなり。
要はわれが終局において戦勝を獲得せば、いか様にも処理し得るものなるが故に、占領間その地域に親炙し研究を加へ、最善の方法を準備し置けば足るものなり。
三、比島、仏印のごとく現地政権がその邦土におけるわが作戦行動を認容する可能性あるものに対しては、われはまづ極力該政権を敵側に立たしめざるかごとく万般の手段を講ずべきにして、幸にわれと妥協の態度に出づるにおいてはわれもまた相当の譲歩をもって無益の抗争を回避すべきなり。したがってその主権を尊重するは勿論、要すれば自立のため財政的援助をなすも友邦たらしむるを可とす。けだしこれ抗争のため払ふ犠牲より僅少にして生産的なるをもってなり。
第二 統治実施要綱
その一 統治要領
【●●部ノ內第●●號】
【極秘】昭和十六年三月末日
南方作戰ニ於ケル占領地統治要綱案
第一部研究班起案
参謀總長ヨリノ質問
一、□□□□ニヨレハ□□□アルヨリ□アリタリ
二、特務機関ノ働キニ害アリ、〜□□セサル如クセリ
通□憲兵□□□リトスル
目 次
第一 統治方針
第二 統治實施要綱
其ノ一 統治要領
其ノ二 統治主務機關及其ノ管掌業務
其ノ三 行政對策
其ノ四 財政、金融、通貨對策
其ノ五 產業竝ニ貿易對策
其ノ六 交通對策
其ノ七 旣往邦人及在留華僑竝ニ歐系住民對策
附 錄
第一、南方作戰ニ於ケル占領地統治要項案說明書
第二、南方ニ於ケル占領地經營ノ爲事前準備ニ關スル意見
第一 統治方針
一、占領地ノ統治ハ武力ヲ以テ抵抗分子ヲ排除シ我カ指導下ニ在來ノ組|織慣行ニ準據シ統治機構ヲ復活運營シテ迅速ニ治安ト秩序ヲ恢復シ|以テ資源ノ獲得ヲ容易ナラシムルト共ニ軍自ラノ統治ニ關スル煩累|ヲ努メテ省略スルヲ本旨トス
二、英領ニ關スルモノヲ除キ將來ニ於ケル主權ノ歸屬、統治機構ノ變革|等ニ關シテハ過早ナル意志ノ發表ヲ避ケ統治ノ實績ト國際關係ノ推|移ヲ注視シ最善ノ方策ヲ定メタル後漸ヲ遂フテ之カ具現ヲ策スルモ|ノトス
三、現政權カ我カ軍事行動ヲ認容スル邦國ニ對シテハ其ノ主權ヲ尊重シ|獨立國トシテ之ヲ待遇シ軍ハ軍事行動ノ遂行ニ必要ナル事項ヲ該政|權ニ要求スルニ止メ其ノ統治ニ干與スルコトナシ
第二 統治實施要綱
其ノ一 統治要領
一、統治實施ノ要領ハ作戰ノ進捗ニ伴ヒ速カニ先ツ占據セル地區每ニ|在來ノ統治機構ヲ再建復活シテ其ノ機能ヲ發揮セシメ逐次之ヲ擴|大シテ迅速ニ治安ト秩序ヲ恢復シ自治ノ態勢ヲ確立セシメタル後|軍ハ其ノ主腦部ヲ確實ニ掌握シ之ニ作戰ノ遂行竝ニ物資ノ獲得上|必要トスルトコロヲ提示シテ爲シ得ル限リ其ノ力ニ於テ之ヲ履行|セシメ希望ニ滿タサルモノニ對シテノミ之カ是正若クハ管理ノ手|段ヲ講スルコトトシ統治ニ關シ勉メテ住民トノ摩擦ト行政上ノ煩累ヲ避ケツツ作戰目的ヲ達成スルニアリ
從ヒテ作戰ニ重大ナル影響ヲ齎ラササル內政事項其ノ他ニ關シテ|ハ單ニ監察ニ止メ特ニ緊要ヲ認メサル限リ軍トシテ干與セス
又占領地ノ自治ニ緊要ナル產業貿易等ノ問題ニ關シ帝國ノ協力援|助ヲ要スルモノニアリテハ直接帝國政府ニ於テ若クハ大本營ノ指|示ニ基キ方面軍ニ於テ處理スルモノトス
占領地域每ニ必要ヲ生スル對外交渉ハ大本營ノ指示ニ基キ方面軍
司令官之ヲ統督ス
二、占領地統治ハ方面軍司令官之ヲ統括シ其ノ作戰地域ニ應シ各軍司|令官之ヲ擔任ス
但シ海軍ヲ主力トスル占據地域ニ於テハ其ノ地域ニ在ル海軍最高|指揮官之ヲ代行ス
占領地行政ニ關スル陸海軍中央協定案別紙其ノ一ノ如シ
其ノ二 統治主務機關及其ノ管掌業務
一、方面軍司令部ニ於ケル占領地統治主務機關ハ方面軍特務部ニシテ|其ノ主ナル管掌業務左ノ如シ
(イ)占領地統治ニ關スル大本營ノ方針竝ニ指示ニ基キ各軍占領地統|治ノ實績ヲ監察シテ所要ノ指導ヲ行フ
(ロ)占領地ニ於ケル資源ノ獲得竝ニ其ノ培養、開發ニ關スル一般計|畫ヲ立案シ且之ニ關スル研究、調査ヲ統轄シテ其ノ實施ニ關シ|各軍ニ所要ノ指示ヲ與フ
其ノ重要ナル事項ニ就キテハ大本營ニ連絡ス
(ハ)占領地ニ於ケル金融、貿易及交通ニ關シ各軍間ニ所要ノ統制ヲ
行フ
(ニ)占領地行政ニ關シ現地海軍最高司令部ト所要ニ應シ協定ヲ行フ
(ホ)作戰地域內ニ於ケル統治關係事項ニ關シ作戰地域內獨立國トノ|交涉ニ任ス
(ヘ)占領地ニ於ケル統治關係宣傳謀略ヲ統轄ス
二、軍司令部ニ於ケル占領地統治主務機關ハ軍特務部ニシテ其ノ主ナ|ル管掌業務左ノ如シ
(イ)速カニ占領地ニ於ケル統治機構ヲ再建シ之ヲ監督指導シテ所望|ノ如ク其ノ機能ヲ發揮セシム
之カ爲高級官公吏ノ任免ヲ掌ル但シ最高幹部ノ人事ニ關シテハ|豫メ方面軍司令官ノ指示ヲ受クルモノトス
(ロ)占領地ニ於ケル物資ノ蒐集獲得ヲ擔任シ且資源ニ關スル調査及
其ノ開發、培養ニ關スル研究竝ニ計畫ノ立案及其ノ實行ニ當ル
(ハ)金融、貿易及交通ニ關シ我カ方策ノ實現ニ任ス
(ニ)占領地行政ニ關シ現地海軍司令部トノ連絡ニ任ス
(ホ)占領地ノ行政ニ關スル範圍ニ於テ在留邦人竝ニ商社ノ監督ニ任ス
(ヘ)占領地行政ニ關スル宣傳謀略ヲ實施ス
三、方面軍司令官ノ占領地統治上占領地ノ經營國際問題ノ處理等重要|事項ニ關シ其ノ諮詢ニ關スル爲別ニ高級顧問若干ヲ置クコトヲ得|軍司令部ニ於テハ原則トシテ特務部顧問トスルモ特ニ方面軍司令|官ニ於テ認可セル場合ニ限リ軍司令部直屬ノ高級顧問ヲ置クコト|ヲ得
其ノ三 行政対策
一、行政諸般ニ亙ル事項ハ在来ノ組織慣行ニ則リ各種機構ノ敏速ナ|ル機能復活ヲ策シ且軍自ラ直接行政ニ干與スル煩累ヲ勉メテ輕減|スルヲ主旨トシテ之ヲ處理スルモノトス
軍ハ在來ノ行政機關ニ於ケル高級官公吏ヲ任免シテ之ヲ確實ニ掌|握シ且之ヲ支援シテ我カ欲スルトコロヲ履行セシメ其ノ成果ヲ監|督スル如クシ其ノ實行手段ニハ成ルヘク干與スルコトヲ避ク
而テ人心ノ把握ト秩序恢復促進ノ爲軍ノ要求スル諸制令ノ如キハ|爲シ得ル限リ之ヲ簡ナラシムヘシト雖軍政ノ施行特ニ占領地ノ經|濟運營ニ緊要ナル事項ハ當初ニ於テ之ヲ明示シ其ノ履行ヲ嚴ニ要|求スヘキニシテ初メ寛ニ過キ漸次嚴ヲ加フルノ要ヲ生シ却テ人心|ヲ離反セシムル素因ヲ將來ニ胎ササル着意ヲ緊要トス
二、强力ナル統制管理ヲ實施スル爲嚴重ナル指導監督ヲ必要トスル|部門ニハ我カ人員ヲ配置スルモ此ノ場合ニ於テモ成シ得ル限リ巡
察機關等ノ運用ニ依リ目的ヲ達スルコトヲ圖リ以テ固定的ニ吸收|セラルル人員增加ヲ抑止スルト共ニ漸次自治形態ヲ著シク破壞ス|ルニ至ル結末ヲ馴致セサルコトニ留意スルモノトス
三、治安ノ維持ハ成ル可ク速カニ地方官憲ニ移管スル如クシ我カ軍|隊ハ主トシテ强力ナル抵抗勢力ノ破碎竝ニ緊要地域ノ直接警備ニ|任シ其ノ旁地方官憲ノ支援ヲナスモノトス
我カ武力ノ直接及ハサル地域ニ迅速ナル治安ノ恢復ヲ見サル場合|ニハ宣傳謀略等ニ依リ之カ促進ニ努力スヘキハ勿論ナルモ場合ニ|依リ其ノ地域ヲ遮斷封鎖シテ自治ノ途ナク屈服ノ止ナキニ至ラシ|ムルカ或ハ其ノ騷擾ヲ占據地ニ波及セシメサル如クシ我カ武威未|タ弘通セサルニ先チ廣大ナル地域ニ小兵力ヲ分散スルヲ避クルモ|ノトス
軍ハ治安維持ノ爲主ナル努力ヲ地方軍隊及警察ニ對スル嚴重ナル|監督指導ニ指向ス
直接軍ニ於テ治安維持ニ任スル地區ニ於テハ連座罪ヲ重視ス
裁判ハ地方官憲ニ委スルモ軍隊ニ關スルモノハ軍法ヲ以テ律ス
四、行政ノ監察ニハ特ニ其ノ地方ノ民情習慣ヲ考慮ニ加ヘ軍事目的|ノ遂行ニ重大ナル影響ナキ不都合ハ之ヲ黙過シ住民ノ敎育向上如|キニ特別ノ關心ヲ示スコトナシ
但シ宗敎ハ之ヲ保護シ信仰ニ基ク風習ヲ尊重スルコトニ關シテハ|之ヲ軍隊ニ徹底セシメ其ノ實行ヲ嚴ニ要求スルモノトス
五、宣傳ハ一般民衆ヲ對稱トシテ治安ノ維持ニ資スルヲ主目的トシ|兼テ軍令法令等ノ普及ニ協力シ行政ノ施行ヲ容易ナラシムルヲ主|眼トス宣傳計畫立案ニ際シ特ニ留意スヘキハ民衆カ智能低劣ニシ|テ□能ヲ缺除セルヲ一般トスルト占領地行政ニハ在来ノ支配者タ|リシ白人系ノ者モ依然關與シアル事實ト更ニ戰爭遂行中占領地統|治ハ必スシモ占領地民衆ノ幸福安易ナル生活ヲ保證シ難キ豫察ノ|存スル諸點ナリ故ニ徒ニ東亜共栄圏建設ノ大理想ヲ說キ或ハ急躁
ニ民族意識ヲ喚起セントスルカ如キ迂遠ニ陷リ又直チニ生活ノ向|上改善ヲ示唆スルカ如キハ適當ナラスシテ寧ロ端的ニ皇軍ノ威力|ト善意ヲ認識セシメ之ニ服從協力スヘキヲ感得セシムヘキモノト|ス
謀略ハ重點ヲ經濟的支配力ヲ把握セル有力華僑操縦ニ指向ス
占領ニ依リ或ハ展開スルコトアルヘキ民族運動ノ如キハ其ノ動向|特ニ實質ヲ注視シ不卽不離ノ態度ヲ以テ之ニ臨ミ確實ナル根據無|クシテ一時附和雷同泡沫的勢力ヲ得テ治安ニ害アルモノハ寧ロ之|ヲ彈壓シ精選シテ其ノ實力ヲ確認シ且之ヲ利用スルノ時期ニ至ル|迄ハ進ミテ之ヲ煽動助長セントスルカ如キ態度ヲ愼ムヘキモノト|ス
六、軍ハ治安逐次ニ恢復シ統治力普及圏ヲ拡大スルニ伴ヒ特ニ研究|機關ヲ設ケ統治ノ見地ヨリ備ニ民情ヲ洞察シテ將來ノ施策決定ニ寄|與スヘキ適確ナル資料ヲ蒐集スルモノトス
其ノ四 財政、金融、通貨對策
一、占領地ニ於テハ方面ニ依リ其ノ統治ニ軍政色彩自カラ濃淡ヲ生|スヘシト雖モ財政、關稅、通貨、外國爲替、金融中樞機關ニ關ス|ル限リハ完全ニ其ノ大綱ヲ方面軍(軍)司令官ニ於テ把握シ帝國|ノ經濟戰力維持培養ヲ主眼トシテ諸施策ヲ立案遂行スルモノトス
二、作戰軍軍費其ノ他帝國側ニ於テ必要トスル經費ハ萬止ムヲ得サ|ルモノノ外悉ク現地調達ノ方針ニ依リ帝國戰時經濟ノ負󠄁擔ヲ輕減|スルヲ本旨トス
三、財政ニ關シテハ當分ノ內從來ノ制度ヲ踏襲シ各種機關ノ機能ヲ|十分ニ發揮セシメ專ラ歳入ノ增加ヲ期ス
諸策安定スルニ至ラハ逐次在來制度ノ合理化ヲ圖リ更ニ高度ノ要|求ヲ爲スヘシト雖モ直接稅ノ增加ハ民心把握ニ害アルヲ以テ成ル|ヘク避クルモノトス
四、歳出ハ旣定ノ經費ニ限定スルコトナク專ラ駐軍ノ必要ニ基クモ
本案起案ノ主旨
一、本案ハ南方作戰實施ニ際シ占領地統治ニ關シテ大本營カ方面軍司令|官ニ作戰地全域ニ亘ル軍政實施ノ準縄タルヘキ統治要綱トシテ指|示スヘキ內容ヲ包含スルヲ目的トセリ。從テ作戰各方面ノ地域ニ應|スル統治要領案モ亦槪ネ本要綱案ノ思想ニ統一セラレ起案セラレア|リ
素ヨリ作戰地ハ方面ニ依リ其ノ本國ノ我ニ對スル敵性度、屬領トシ|テ本國トノ連鎖關係、平時統治機構ノ特質、民情就中我カ作戰目的|等ニ應シ更ニ作戰實施時ニ於ケル國際情勢ヲ反映シテ占領地土着官|民ノ我ニ對スル敵性度ニ著シキ相違ヲ生シ軍政執行ノ形態ニ自ラ大
ニ趣ヲ異ニスルモノアルヘキハ明カナルモ南方作戰ナル一途目的ノ|爲ニハ一貫セル占領地處理ノ方針ヲ存シ之ヲ具現スル爲ニハ自ラ一|律ノ準縄ヲ定メ得ヘク又更ニ一定ノ準縄ヲ以テ之ヲ律スル要アルモ|ノヲモ存スルハ自明ノ理ニシテ其ノ要綱カ豫メ準備セラレアラサル場|合ニ於テ占領地ノ處理ハ定見ヲ缺キ應急ヲ事トシ便宜ヲ旨トシテ收|拾シ難キ混亂ニ陷ルヘキハ豫見ニ難カラス
本要綱案ハ之ニ備ヘ起案者ニ於テ必要ト認メタル項目ニ亘リ起案者|トシテ最善ト信スル結論ヲ揭ケタルモノナルモ未タ決シテ其ノ最適|タルヲ確信シ得サルモノトス
二、立案ニ方リ特ニ考慮セルトコロ左ノ如シ
(イ)戰爭遂行ニ必要ナル物資ノ獲得ヲ以テ第一義トス
蓋南方作戰ノ目的トスルトコロハ資源確保ニ存スレハナリ
(ロ)南方作戰遂行ノ爲我カ國ノ支出スヘキ戰費ヲ占領地ノ犠牲ニ於テ|極力節減スルノミナラス更ニ爲シ得レハ占領地ヨリ戰費ヲ吸收シ|テ國力ヲ培養ス
占領地住民ノ福祉增進ハ終局ニ於ケル戰勝獲得後ニ於テ企畫ス
蓋英米竝ニソ聯ヲモ敵トスル持久戰ニ終局ノ勝利ヲ獲得スルニハ|我カ國ノ戰力維持ヲ第一條件トスレハナリ
(ハ)占領地統治ニ關シ統帥系統ニ基ク統制ノ完璧ヲ期スルト共ニ作戰|ト統治ノ圓滿ナル調和ヲ求ム
第一 統治方針
一、戰爭遂行ノ爲占領地ノ統治ハ最小限ノ努力ヲ用ヒテ最大限ニ物資ヲ|獲得スルヲ以テ主眼トセサルヘカラス。 而モ物資ノ獲得ハ轍鮒ノ|急ニ應スルヲ要シ之カ爲ニハ先ツ速ニ治安ヲ確立スルヲ第一トス|作戰地域ノ諸邦ハ幸ニ屬領ニシテ統治者ト被統治者ヲ容易ニ分離シ|得ル狀態ニアリ而モ被統治者ハ民度低ク我ニ對スル敵性度大ナラサ|ルヘキヲ以テ在来ノ統治機構ヲ其ノ指導分子ヲ我ニ於テ掌握シ其ノ|儘利用スルヲ最モ簡易ニ秩序ヲ恢復シ治安ヲ確立スル手段トスヘシ|則チ我ハ單ニ統治者ニ屬スル若クハ獨自ノ見地ニ基ク抵抗分子ヲ排|除シ從前ノ統治者ニ代リテ其ノ儘ノ形ニ於テ民衆ニ臨ムコトニ依リ
作戰ニ伴フ混亂ヲ最モ簡易ニ收拾シ得ルモノトス。 之レ同時ニ統|治ノ爲ノ我カ直接的勞力ヲ省略スル最良ノ手段トモナルモノナリ
二、戰爭遂行中ハ統治ニ努メテ面倒ヲ省キ所望ノ如ク資源ヲ確保シアレ|ハ足ルヲ以テ現状維持ーー之ヲ極端ニ謂ヘハ事勿レ主義カ第一ニシ|テ將來ニ於ケル占領地處理方案ノ如キハ後廻シトシ差シ支ヘナキノ|ミナラス又斯クスルヲ最モ適當トス。 蓋吾人ノ南方ニ對スル現在|ノ認識ハ到底不足ヲ免レス從テ今最良ト信スル方策モ決シテ最善ヲ|期シ難キノミナラス、 戦後處理ニ決定的要素タル國際情勢ノ推移|ニ至リテハ豫期シ難シ。 故ニ當初ヨリ例ヘハ民族運動如キニ力ヲ|用ヒ過早ノ言質ヲ與フルカ如キコトアラハ無用ノ摩擦ヲ惹起シ而モ
徒労ニ歸シ、若クハ將來歸結セル最善ノ方策ヲ取ラントスル場合之|ヲ拘束スルニ至ルヤモ知レス。 則チ斯ノ如キハ害アリテ益無キナ|リ
要ハ我レカ終局ニ於テ戰勝ヲ獲得セハ如何樣ニモ處理シ得ルモノナ|ルカ故ニ占領間其ノ地域ニ親炙シ研究ヲ加ヘ最善ノ方法ヲ準備シ置|ケハ足ルモノナリ
三、比島、 仏印ノ如ク現地政權カ其ノ邦土ニ於ケル我カ作戰行動ヲ認|容スル可能性アルモノニ對シテハ我ハ先ツ極力該政權ヲ敵側ニ立タ|シメサル如ク萬般ノ手段ヲ講スヘキニシテ、 幸ニ我ト妥協ノ態度|ニ出ツルニ於テハ我モ亦相當ノ讓歩ヲ以テ無益ノ抗爭ヲ回避スヘキ
ナリ。 從テ其ノ主權ヲ尊重スルハ勿論要スレハ自立ノ爲財政的援
助ヲナスモ友邦タラシムルヲ可トス。 蓋之レ抗爭ノ爲拂フ犠牲ヨ
リ僅少ニシテ生產的ナルヲ以テナリ
第二 統治實施要綱
其ノ一 統治要領
一、統治方針ニ基キ其ノ要領ヲ稍々具體的ニシ特ニ我カ手ニ於テ如何ナ
ル事項ヲ直接處理スヘキヤヲ明ニセリ。
二、南方作戰ノ主目的ハ資源確保ニ存シ之カ爲ニハ占領地統治カ其ノ主
體トナルカ故ニ統帥ト統治ハ不可分ニ屬ス。 從テ統治當事者ハ當
然統帥當事者ニシテ別個ニ占領地總督如キヲ設クヘキニアラス。
↑「1.南方作戦に於ける占領地統治要綱案」JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C14060703800、
南方作戦に於ける占領地統治 要綱案 昭和16.3末日(防衛省防衛研究所、南西-軍政-62)