［表紙］
昭和六年十一月 起
満洲問題ニ關スル情報
陸軍省調査班
Ⅰ
陸軍省
調査班
滿蒙問題ニ直面シテ支那國民性ヲ論ズ
本著ハ支那事情ニ精シキ一將校ノ講話案トス
目次
一、緒言
ニ、排日侮日
三、事變ノ突發
四、外交手段
五、結論
滿蒙問題ニ直面シテ支那國民性ヲ論ズ
緒言
滿蒙ガ經濟上、生存上、國防上、我國ノ死活存亡ニ關スル所デアル事ハ茲ニ贅言ヲ要セナイ。
此ノ滿蒙ノ我特殊利權ガ暴道狡猾ナル支那政權ノ爲ニ侵害セラレ我ガ隠忍自重協調的態度ニ增長セル東北軍權ガ横暴 飽ク所ヲ知ラズ遂ニ滿鐵爆破ノ暴擧ヲ敢テスルニ至リ國軍 否 國民ヲシテ旭旗ヲ翻シテ滿蒙問題一併解決ヲ絶叫セシムルニ至ツタノハ支那ノ國情ト民性ニ就キテ考フレバ之レ當然ノ歸結デアル。
二十年前、支那通 所謂 支那浪人ナル一派ガアツテ、單ニ支那ニ永住耽溺シ支那高官ト相識ルヲ以テ能トシタ者ガ多カツタガ、今日ハ歐米ヲ見タ眼デ直ニ支那ヲ解釋シ樣トスル者モ生ジテ來タ。
支那ニ關スル問題ハ世界ノ大勢カラ推斷スル事モ必要デアルガ、支那其物ノ徹底的研究 卽チ國情ト民俗ノ研究モ肝要デアル、換言スレバ歐米ノ物差 或ハ日本ノ秤デ直接 支那ヲ量ルハ妥當デハナイ、先ツ支那尺デ量ツテ後 歐米 或ハ日本ト比較スル事ガ重要デアル。
二、排日侮日
清朝ノ始メ準葛兒（ジユンガル）ノ葛兒旦王（ガルタンオウ）ガ蒙古ヲ攻メ│タ時、蒙古王候ハ庫倫（今ノ「ウランバアトル」）ニ會議ヲ開イテ善後策ヲ議シタガ結局他力ニ依ル外ニ途ナク、露支兩國何レニ據ルベキヤノ議題ニ對シ、甲説乙駁 何レトモ決シ兼ネタ時 活佛 哲布尊丹巴呼圖克圖（ジブソンダンバホトクト）ハ「支那ハ我國ト人種モ同ジク孔孟ノ敎ヲ受ケタル國民デ、恰モ仙人ノ容姿ヲ備ヘ人情モ惇厚ナル故 此レニ頼ルヲ可トス」トテ使ヲ北京ニ送リ保護ヲ求メ多倫諾爾會見トナツタ事ガ史實ニアル如ク、昔ノ支那人ハ孔孟ノ本場デ誰モガ聖人デアルカノ如ク思ハレルガ其ノ實ハ全ク然ラズ孔孟ノ敎示ニ訓育サレタノハ寧ロ日本人デアル、囲碁ガ支那カラ超ツテモ今ハ日本ノ方ガ所謂 出藍ノ譽ガアルガ如ク、豆腐ガ支那カラ傳ツテモ今ハ日本人ノ品ガ優秀デアルノト同樣デアル、抑モ孔孟ノ敎訓ハ當時 支那人ノ道德觀念ガ缼ケテ居ツタカラ孔子孟子ガ□敎シタノデアツテ、腐敗セル世相ヲ奮慨シテ國士ガ表レルノト同轍デアル、從而 男女七歳ニシテ席ヲ同ジフセズト敎ヘラレタノハ七歳ノ男女デモ性的危険性ガアルカラデアル、信ゼザル人ハ印度ノ現状ヲ見レバ思半バニ過ル所ガアロウ、又 支那ノ淫本ヲ讀メバ理解サレル事デアル。
支那ノ小説ニ一婦人ガ河ニ溺レテ居ルノヲ發見シタ一青年ガ（日本ナラ早速「ローマンス」デモ作ル筋書キニナル所ダガ）竹桿ヲ以テ岸上ヨリ此ヲ助ケ一指モ触レナカツタ事ガ書カレテアルハ、孔孟ノ敎ノ敷衍デアル。
又 六七歳ノ子供デモ四書五經ノ難句ヲ讀ミ書キシテ居ルガ、此レハ假名ノ無イ國デハ當然ノ事デアル。
婦人スラ不自然ニ赤子ノ時カラ纏足シテ歩行ノ自由ヲ制止セネバ浮気スル（張王趙李牧認識 多少ト浮氣女ノ意）程デアルカラ一般ニ於テ、外形ニ於テハ孔孟式ノ聖人型トナリ内容ニ於テハ此に反スル性格（外面如菩薩 内心如夜叉）ヲ有スル事ハ明カニシテ常ニ國民ニ對シ不誠意ナ政權ノミニ支配サレ（現ニ滿蒙住民ハ日本ノ支配ヲ熱望シアリ）テ居ルノデアルカラ利己ニ走リ其場逃レノ虚偽ヲ言フノモ當然デアル。
言行一致セナイノハ支那人ノ通弊デアツテ、彼等ニ接シタ事ノアルモノハ異口同音「支那人ハ虚言ヲツク者ナリ」ト批難スルノガ常デアルガ然シ子細ニ研究シテ見ルト決シテ無暗ニ出鱈目バカリ言フノデハナイ。
支那ニハ「相見之禮」ト言フ格言ガアル、相見之禮トハ御互ニ對向シテ話ス時、相互ノ面子ヲ潰サヌ事デアル、面子感念ハ誠ニ感心ナ事モアルガ甚ダ不都合ナ點モアル、支那人ノ面子感念ヲ研究スレバ數冊大部ノ記録トナルガ今 一二實例ヲ擧レバ、十年前 滿洲里デ梁忠甲園長（昨年 露支衝突ノ際ノ在滿洲里護路司令梁少將）ヲ招待シ或目的ノ爲 泥酔サセ樣ト企テタガ美妓ノ手腕ニヨリ八分通リ成功シタ時 傳令ガ「太々□病」ノ通知ニ來タノデ驚イテ急ギ送リ返シタガ、翌日 見舞ニ行ツテ見ルト彼ニウマウマト芝居ヲ打タレタノデアツタ、私ハ之ヲ責メタ所ガ先方デハ常ニ此ノ用意ヲシテ居ル事ヲ平氣デ白狀シテ居ツタ、ソシテ此レガ禮議ト心得テ居ルノデアル、日本デハ正月其他祝祭日ニハ街頭ニ泥酔者ガ相當 見受ケラレ特ニ婦人ニ至ツテハ不体裁ノ極デアルガ支那人ハ常ニ面子ヲ考ヘテ飲ムカラ上述ノ樣ナ醜態ハ決シテナイ、遊里ニ行クニシテモ身分、階級相當ノ處ニ限ツテ居ルノデ日本ノ旅行者ガ第三流ノ所謂 下宿（最モ下等ナ淫賣窟）（一流 班子［パンズ］、二流 茶室［チャーシー］、三流 下宿［シャスー］）ヲ見タガルノデ支那人ハ奇異ナ感ヲ抱ク事ガアル、支那人ノ思想カラスレバ紳士ガ如斯處ニ往クハ面子ニカヽハルトシテ居ル、苦力ヲ見テ支那人全般ガ同様ニ不仕鱈デアルト思フノハ間違デアル、社會的階級ニ依ツテ著シク異ル、俗諺ニ「徒歩者ハ人力車ヲ避ケ人力車ハ馬車ヲ避ク」（自動車ノ無カツタ時代）トアルガ如ク支那ニハ古來 相互ノ面目 特ニ長上ノ面目ヲ立ツル習慣ガアリ、現在 其實質ハ旣ニ失セテモ形式ハ尚 残ツテ居ル。
相見ノ禮ノ一例ヲ擧レハ、李某ガ趙某ト途中デ會ツタ、而シテ李ハ趙ニ今晩七時ニ芝居見物ニ行コウト誘ツタ、趙ハ承諾シタガ其ノ實 趙ハ王某ト今晩七時ニ活動冩眞見物ニ行ク事ヲ昨日カラ約束シテ居ルカラ李ト芝居見物ノ約束ハ履行出來ナイカラ無届デ破約スルノデアル、然シテ再會シタ時ハ沒法子デ言ヒ逃レルノデアル、趙トシテ李ガ誘ツタ時、向キ合ツテ不同意ヲ唱エナイノガ相見之禮デアル、卽座ニ拒絶スルノハ禮ヲ失スル事ニナルノデアル。
支那人ハ二重三重ノ人格所有者デアルカラ商取引丈ケハ上述ニ反シ信用確實デアル、支那商人ト数年間モ取引ヲ行ヒ互ニ信用スレバ證書等ハ無クテモ履行確實デアル、商業ニ對スル道德ト努力ハ彼等ガ世界的ニ發展スル所以デアル、在支日本人ハ小金ヲ儲クレバ美衣美食 特ニ婦人至ツテハ藝妓ト見違エル程 華美ナル服裝ヲナシ、乳母ヨ、女中ヨ番頭ヨト使用人ヲ增シテ花見湯□ニ奢侈ノ限ヲ盡シ、其ノ費用ハ商品ノ賣價ニ割込マスル者ガ少クナイガ、支那商人ハ蓄財幾萬ニ達スルモ滿足スル事ナク粗衣粗食ニ甘ンジ梱包材料等ノ廃品ニ至ル迄利用シテ廉價多賣主義トナリ營利ニ汲々タルモノデアル、數萬圓モ貯エタ下男車夫ガ其ノ日ノ暮シニ困ツテ居ル、日本商人ノ残飯ヲ食フテ働イテ居ル例モ少クナイ。
支那人ハ喧嘩ノ中裁 商取引ノ仲介 又ハ物事ヲ依頼スル時 其他 諸交渉ノ際「私ノ面子ノ爲ニ」ト言ヘバ必ズ成功スルモノデアル、某氏ガ熱河附近旅行ノ際 彼ノ使用人ガ附近ノ子供ヲ毆打セシ爲 村民多數 群衆シテ使用人ヲ抱圍シ スワ一大事ニ至ラントセシ時「俺ハ日本公使館ノ武官デアル 俺ノ面子ノ爲ニ許シテヤ」ト叫ビ、難ヲ免レタ例モアル。
斯ノ如キ國民性デアルカラ國家觀念ハ皆無デ利己感念ガ發達シテ居ツテモ、自大思想ハ旺盛デアルカラ、國家ノ體面 卽チ面子ヲ潰ス條約ノ不履行ハ日常茶飯事デアル。
大正四年 日支協約直後ヨリ支那官民ガ著シキ反動氣勢ヲ擧ゲ、官憲ハ協約不履行ノ爲ノ細則ヲ設ケ官民協力シテ日本ノ利權排除ニ努力シタノハ國民性ヲ理解スル者ノ首肯カルヽ處デ、對支政策トシテハ寧ロ形ヲ捨テ實ヲ得ル方法ガ上乗ノ策デアル、今次ノ根本解決ニ就テモ然リデアル、要スルニ實ヲ得ルコトヲ忘レテハナラヌ、形ノミニテハ駄目デアル。
大正五年以後 排日ハ年ト共ニ漸次 激烈ニ向ヒシガ蔣介石ガ南京ニ現出シテ以來 對外關係ヲ顧慮シテ共產党トハ絶縁シタガ、國權回収、租界奪回、外國兵撤退ハ國民党ノ旗印、卽チ生命トスル處デ民望ヲ集ムル爲ノ面子上 唯一ノ方策トシテ確立シ居ルノデアルカラ排日ガ増大スルノハ當然ノ勢デ遂ニ侮日マデ進ミ抗日トナツタノデアル、日本ガ外交交渉デ利權擁護ヲシ樣ト急ツテモ東洋百年ノ大計ヲ絶叫シテモ彼ハ馬耳東風 只管 排日侮日抗日ニ專念スルノデアルカラ武力ヲ以テ徹底的ニ彈壓スルカ支那ニ屈服シテ利權ヲ放棄スルヨリ他ニ手段ハ無イノデアル。
三、事變ノ突發
日本ノ隠忍自重協調政策ハ支那人ヲシテ極度ニ增長セシメ、遂ニ事變ヲ突發シタノデアル。
支那人ハ強者ヲ恐レ、弱者ヲ侮ル性質ガアル、日本人ノ弱ヲ助ケ、強ヲ挫ク義俠心トハ反對デアル、血ヲ見レバ號泣スル小心漢モ敵 弱シト見レバ如何ナル惨虐行為モ敢テスル者デ、我同胞ノ惨殺サレタ死體ヲ見テモ明デアル。
故ニ支那ノ戰爭勝負ガ早イ、平素カラ二十倍ノ大敵ニ對スル戰鬪ヲ準備演練シテ居ツタ關東軍ノ機敏果敢ナル行動デ二十數萬ノ敵ガ一溜リモナク潰走シタノハ道理デアル。
突擊デモ五百米位カラ夜間ト雖 喊声ヲ擧ゲテ甚シキニ至ツテハ伏セタ儘デ聲丈アゲ、互ニ敵ガ退却スルノヲ待ツノガ普通デアル、從ツテ支那軍の戰爭力ハ強キ場合 卽チ小敵ニ對スル場合、弱キ場合 卽チ強敵ニ對スル場合ノ二ツニ分ケテ判斷セネバナラヌ、日本軍ガ古來 寡ヲ以テ衆ニ對シテ強キト正反對デアル。
支那人ノ喧嘩ヲ見ルト必ヅ激烈ナル口論戰ヲ演ズルガ相互ニ對手ノ顔ヲ見ルコトナク或ハ觀衆ヲ見乍ラ罵詈暴言シ對手ノ弱味ヲ見テ始メテ打チカヽルノデアル。
漢口ノ西村事件ハ忘レラレテモ昌黎ノ佐野中尉事件ハ今尚 支那人ヲ戰慄サセテ居ル。
西村事件ト佐野事件トハ相互□□□□シタ問題デアル。事件ノ慨要ハ、西村事件ハ第一革命直後 漢口デ西村少尉ガ便服デ支那軍隊ニ入リ込ミ多數官兵ニ捕エラレテ凌辱サレタ問題デアルガ、佐野事件ハ眞ニ痛快ナ出來事デアル、昌黎ノ守備隊（一小隊）デ三名ノ兵士ガ停車場巡察ノ際 多數支那警官ニ包圍凌辱サレタノデ、報告ヲ受ケタ佐野中尉ハ入浴中デアツタガ直ニ浴衣ノ儘デ軍刀ヲ提ゲ部下十五六名ヲ率キテ警察署ニ至リシガ、署長ガ逆襲ニ出タノデ得意ノ劍法デ先ヅカレヲ切ツタ血ニ染ンダ佐野中尉ヲ見タ下士以下ハ奮然署内ニ躍リ込ミ、署員数十名ヲ全滅サセタ事件デ今デモ北支那附近デハ佐野中尉ト部下其軍曹（ヒゲデ有名ナ）ノ名ハ彼等ヲ戰慄サセテ居ル。
故ニ今次ノ事變デ支那軍ガ案外 危カツタカラ日本ノ對支軍備ハ縮小シテモ善イト思フノハ早計デアル。
上述ノ如キ支那人ノ性格ヲ辯ヘテ、日本人ノ心ヲ以テ温情主義デ、平和手段デ退嬰政策デ滿蒙問題ヲ解決シ樣トシテモ彼等ノ排日 侮辱 抗日ガ益々增大スルバカリデアルコトハ當然過ル事デアツテ、 オトナシク頭ヲ下ゲテ孤鼠々々ト修繕ニ来ル位ニ思ツタノモ肯カルルヽ事デアル、若シ關東軍ガ今次ノ果敢ナ處置ヲ執等なかったら東北軍權ハ更ニ大ナル爆破ヲ繰返シタノデアロウ。
四、外交手段
支那ガ巧言令色、辭令ニ秀デテ居ル事ハ萬國ニ冠タル處デ、特ニ外交辭令ニ至ツテハ他國人ノ到底 思ヒモ及バヌ處デ、應酬ノ術ハ極メテ御得意デアル。
高位高官ノ支那人 及ビ資產家ニハ蓄妾ノ風ガ盛デ、多キハ數十名（□親王 四十六名、張宗昌 二十六名）張宗昌 二十六名）ニ及ブ者モアル、妾ヲ選ブ際ハ必ズ正妻ニ相談スルノガ例デアルガ、正妻ハ面子上 決シテ之ヲ否定セヌ事ニナツテ居ル、多數ノ妻妾ハ其子女 使用人ヲ率キ各 家庭ノ一廓ヲナシテ對峙シテ居ル、此ノ群雄ノ統率ニハ大人モ相當 骨ガ折レルノデアルガ得意ノ外交術デ切リ拔ケルノテルアル、卽チ若イ方程 可愛ガル代リニ老妾ニナル程 權利ヲ與ヘ、衣食住ノ給與ニモ公平ヲ本旨トスルノデアル、妻妾同志ハ互ニ疾視スルガ當然デ吃醋（チーツー）卽チ燒餅ハ日本人以上デアルガ、面子ヲ思フノデ表面 仲善ク暮スノデアル。
第一奉直戰直前ニ曹錕ト張作霖ガ天津デ會見シ 恰モ親友トデモ會ツタカノ如ク互ニ「御機嫌宜シク」「御自愛ヲ祈ル」等々 丁重ニ挨拶ヲ交シタ時ニハ 御互ニ旣ニ交戰ノ意圖モ陣幕モ出來テ居ツタノデアル。
第二奉直戰デ李景林ガ二個旅ヲ併ベテ熱河ヲ攻擊シタ時、第一旅長ハ臆病狡猾デアツタカラ常ニ第二旅ノ後方ヲ徐々ニ前進シ、第二旅ノ攻擊ガ進捗シタカラ側方ニ進出シテ功ヲ収メ様トシタノデ李景林ハ此ヲ指導スル爲 第二旅長ニ對シ「第一旅長ハ臆病デ云々─」ト惡口ヲ言ツタノデアル、依テ某氏ガ李景林ニ對シ「何故第一旅長ヲ叱責セズシテ第二旅長ニ第一旅長ノ惡口ヲ言ツタノカ」ト問ヒシニ 李景林ハ「第一旅長ニ當面説話（直接言フ）スレバ彼ノ面子ガ無クナルカラ損デアル、相見之禮ヲ缺ク事ニナルカラ、彼モ彼ノ部下モ困ルダロウ、第二旅長ニ告グレバ、彼ハ必ズ自己ノ自慢話トシテ部下ニ漏シ 一犬 嘘ニ吠レバ番犬 實ヲ傳フデ 自然ニ第一旅長ニ傳ハリ彼ヲ反省セシムダロウ」ト平然タルモノデアツタ、支那デハ間接ノ惡口ハ其ノ響?ノ程度ガ低イノデアル、日本デハ單ニ話スト言ヘバ向キ合ツテ話ス事デアルガ、支那デハ特ニ當面説話ト言ツテ意味ガ強クナルノデアル。
部下ト長官トノ間 旣ニ此ノ邊リデ統御ニモ外交手腕ガ要ルノデアル。
第二奉天吾直戰デ奉天軍ノ山海關占領ハ再三 傳ヘラレタガ、皆 虚報デアツタ、此レハ攻擊部隊ノ隊長カラ軍司令官ニ報告サレタ眞報デアル、其ノ内情ヲ調ベテ見ルト 甲乙兩旅ガ併列シテ攻擊シテ居ルト甲乙相互ニ損害ヲ少クシテ成功シ様ト思ツテ述策ヲ弄スルノデアル、卽チ甲旅ハ未ダ山海關迄 五百米モアルノニ軍司令官ニ對シテハ山海關占領ト報告シテ賞金ヲ受領シ 一部ヲ部下ニ與ヘテ志氣ヲ鼓舞シ大部ハ私腹ヲ肥シ、又 一面 軍司令官ヲシテ乙旅ヲ推進サセルノデアル、乙旅ハ甲旅ガ旣ニ山海關ヲ占領セルモノト思ヒ急進スル爲 多大ノ損害ヲ被リ、漸ク山海關ヲ占領セントスル時 甲旅ハ俄然急進シ本當ニ占領スルノデアル、友軍相互間ニモ述策ガアルノデアル。
支那ノ戰爭ハ夜戰ガ少イ（但シ第二奉直戰後 流行シ出シタガ）カラ 支那ノ將校ニ其ノ理由ヲ聞クト返答ガ面白イ「當方カラ夜襲スルト敵モ亦 其其翌晩 夜襲シテ來ルカラ都合二晩モ⬜レヌカラ厄介デアル」 雨ガ降レバ傘ヲサシテ戰爭ヲ休ムシ、敵味方ノ間ニモ外交術ガ必要デアル。
今次ノ満洲問題ニ於テ支那ガ「弱者ハ騒シ」ノ原則ニヨリ切リニ國際聯盟 及ビ米國ニ泣キツキ、自信セル得意ノ外交術策ヲ以テ 嘘ヲ以テ眞ニ傳エテ同情ヲ集メ 强要恐米ト見込ヲツケタ我外交ト戰フテ居ル情態ハ、今後 益々 其辣腕ヲ表スノハ明カデアル。
日本ガ若シ專ラ外交々渉ニ依リ蔣介石 若シクハ張学良ト圓滿解決ヲ企圖シタナラバ 此レハ大ナル錯誤デアル、蔣、張トシテハ國民党の手前 何ウシテモ日本ニ有利ナ解決ガ出來ヌ立場ニアル、若シ 縦令 相當ナ形デ條約ヲ結ンダトシテモ其レハ窮余ノ策、相見之禮デアツテ、決シテ實行ノ伴フモノデハナイ、朝令暮改 必ズヤ他面ニ於テ反日ノ法ヲ講ジテ抵抗スルノデアル。
極言スレバ實力監視ノ伴ハザル條約ハ駄目デアル、寧ロ條約ハ如何様デモ實行ガ先決デアル、形ヲ捨テ、實ニ入ルベキデアル。
五、結論
滿蒙問題ハ日本帝國ノ興亡ニ関スル重大緊要事ニシテ、日本ノ生存ノ繫ル所デアル、今日 之ヲ解決シナカツタナラ夫レコソ悔ヲ千歳ニ残スモノデアリ、恐ラク將來ニハ其ノ機會ハ無カロウト思ハレル、滿蒙ハ日本ノ生命線ト謂ハレルガ、某生命線 卽チ life line 救難索トハ船ニテ人ノ海中ニ落チザル様 張レル索ノ意味デアツテ、此ノ綱 卽チ滿蒙ガ我勢力ヨリ除カルレバ、ブクブクト我ガ国ハ沈沒セザルヲ得ナイノデアル、之レ程重要ナ所デアルカラ挙國一致 輿論ト國力トヲ以テ解決スベキ問題デアル、然シテ解決ノ爲ニハ外交軍事 相結果セル實力行使ノ一方アルノミ、殊ニ相手ノ支那ハ前述ノ樣ナ特殊ナ國民性ヲ有シテ居ルカラ生優シイ方法デハ解決ガ出來ナイ、押シテ押シツケテ解決スベキデアル、正義ニ敵ハナイ、公道ニ憚ル所ハナイ。
恐米病者 曰ク、對米戰爭ヲ如何ニスルカト 米國ハ軍事ニ於テハ日本ノ敵デハ無イ、海軍ニ就テ言ヘバ一九三六年ニハ「一〇對六」トナルベキ比率モ、少クモ現在ニ於テハ一〇對八ノ優勢ヲ保持シテ居ルカラ今ガ絶好ノチヤンスデアル、米國ハ戰爭準備ニ一ヶ年ヲ要スルシ、日本ヲ攻擊スル爲ニハ五千海里ノ長距離ヲ多数ノ運送船ヲ曳船 蛇行シナガラ航海シテ來ルノデアル。
經濟封鎖ヲ心配スル人モアルガ、日本ガ正戰ヲ行ヒ公道ヲ踏ンデ居ル以上、米國 如何ニ偉大デアル横暴デアルトハ云ヘ、經濟封鎖ノ如キハ思ヒモ及バヌコトデアル、又 日本ハ今迄 此ンナ扼憂ニ脅サレナカラ、云フベキ事モ能ウ云ハズ遠慮シナガラ損ヲシテ來テ居ルノデアル。今ヤ日本ハ遠慮シテ居レバ生命線ガ切レルトイフ断崖ノ上ニ立ツテ居ルノデアル、我々ハ今ヤ上述ノ悪夢ヨリ覺メ勇敢ニ進ムベキデアル。
今度ノ事變ノ寫眞ヲ見テモ、軍帽ノ者ト鉄兜ノモノト二種類アルノヲ発見スルデアロウ。滿洲ノ軍隊中ニハ二百名ニ對シテ二十個ノ鉄兜デ戰カツタ部隊ガアル。濟南事變デハ鉄兜ノ御蔭デ二十六發ノ弾丸ヲ受ケタガ命中セズニ戰死ヲ免レタ天津歩兵隊兵卒ノ例モアル、如斯有效ナル鉄兜モ軍縮軍縮ノ聲デ全部ニ渡スコトガ出來ズニ一部分丈シ渡サレナイガ 其ノ鉄兜モ被レズニ甘ンジテ死地ニ入リ奮闘スル我兵卒ノ恤國誠忠ナル精勤ヲ思フ時 國民ハ一部空想的軍縮論者ニヨリ如何ニ國防ガ危キ狀態ニ置カレントシツヽアルヲ知ルデアロウ。
日本人程 國際義務ニ忠実ナル國民ハ少イ、支那ト比較スレバ正ニ雲泥ノ差デアツテ、此ノ點カラ云ヘバ支那ノ如キハ國際聯盟ニ加入スルノ資格ガナイノデアル、然ルニ若シ國際聯盟ガ札附ノ支那ノ虚言ヲ信ジ、我帝國ノ正當公正ナル言ヲ採用シナイナラバ 而シテ更ニ國際聯盟ガ米國ノ力マデモ引キ入レテ日本ヲ圧迫シ干渉スルナラバ、日本ハ宜シク國際聯盟ヲ脱退スレバ宜シイ、道德的ニ勧告云々ト云フガ正義公道以上ノ道德ハナイ、米國ヲ引キ込マネバ議論サヘ出來ズ、况ンヤ支那ノ非道ヲ制シ得ザル如キ國際聯盟ニ何ノ力アリヤ。
吾人ハ敢テ事ヲ好ム譯デハナイガ、滿蒙ノ日本ニ於ケル關係ハ如斯重要デアツテ日本帝國ノ存亡興廃 岐ルヽ所デアルカラ、如斯事迄考ヘザルヲ得ナイノデアル、我等ハ支那ノ國情ト民性ヲ理解シ、形ヲ捨テヽ實ニ入ル方法ヲ以テ第三国ノ干渉ヲ排除シ 斷乎トシテ自主的独力解決ヲ敢行スベキモノデアル。
↑満蒙問題ニ直面シテ支那国民性ヲ論ズ https://www.jacar.archives.go.jp/das/meta/A03023736700
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