Ob-La-Di Oblako 文庫

帝国日本の侵掠戦争と植民地支配、人権蹂躙を記憶し、再現を許さないために、ひたすら文書資料を書き取る。姉妹ブログ「歴史を忘れる民族に未来はない!」https://obladioblako.hateblo.jp/ のデータ·ベースを兼ねる。

A級極東国際軍事裁判記録(和文)(NO.13)より 橋本欣五郎 著『革新ノ必然性』抜萃 1946.8.8(1940.12.31)


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22 E.264 P.488-2
21-8-8(13)
支那事変(芦溝橋事件 及 其后)

革新ノ必然性
橋本欣五郎
書類番号 第四八八号

抜萃

一、僕ガ附イテヰタ部隊ハ蕉湖ニ出テ揚子江岸ニ沿ウテ南京ニ攻メ入ルコトニナツテヰタ。トコロガ南京陥落ノ二日前ニ突如トシテ命令ガ来テ、「今 南京カラ多頭数ノ支那兵ガ運送世話デ上流方向ヘ退却中ダカラ、ソレラノ船ヲ全部砲撃セヨ」ト、イフノダ。

ソコデ直チニ蕉湖ヘ引キ返シ、ソノ江岸ノ路上ヘ野重砲、野砲、機関銃ヲ並ベ、延々一里餘ニワタル砲列ヲ布イタ。時アタカモ蕉湖下流数千メートルノトコロニ敗残兵ヲ乘セタ運送船ラシイモノ数隻ガ通リカヽツタカラ、コレニ砲擊ヲ加ヘタ。

ソノ船ノ中ニ圖ラズモ英國軍艦ガアツテ、コレニ我ガ砲彈ノ数發ガ命中シテ問題ニナツタトイフ話デアルガ、皇軍トシテハ當然ノ處置ヲ取ツタニ過ギナイ。(十三頁~十四頁)

二、ソノ時オモシロイ事二ハ、英艦砲撃後 南京ガ陥ルトスグ、蕉湖ノ全面へ日本ノ驅逐艦ガ上ツテ来タ。自分ハ直チニソノ停船ヲ求メルト、艦長ノ某少佐ガランチデ上陸シテ来タカラ、會見シテイロイロ情報ヲ交換シタ。ソノ末ニ僕ハ少佐ニ向ヒ、「實ハ今マデワレ/\ハ食ハズ飲マズデ弱ツテヰルカラ、米ト酒ガアレバ少シ廻シテ呉レンカ」ト、言フト、少佐ハスグ快諾シテ 後カラ持参サセルト言ツテクレタ

コレデヨシ、ト喜ンデ待ツテヰルト、間モナク、海軍兵ガ積ンデ来テ呉レタガ、酒ハナイトイフ。艦長ノ使者トシテ、「實ハ酒モアツタノデスガ、南京カラコヽマデ来ル途中ニ、敵兵ヲ乗セタジヤンクガ無数ニ浮イテヰタノヲ片ツ端カラ擊チ沈メタ。敗残兵ガ揚子江ノ鯰ノ餌食ニナルノカト思フト、痛快デ仕方ガナイノデ、勝利祝ヒニ酒ヲスツカリ飲ミ乾シテ仕舞ヒマシタ。上ゲラレナイデ残念デス」ト、イフ口上ダ。ヨロシイ。

實ハ、英艦デスラモ蕉湖沖ヲ通ラウトスレバ砲擊サレルトイフノデ、支那ノ運送船ハ蕉湖カラ上ハ上レナイ。対岸モスデニ日本軍ガ占領シテヰル。ソコデ南京ノ敗残兵ハ船ヘ乗リ込ンダモノノ上流ヘモ対岸ヘモ逃ゲラレナイ。マルデ大蛇ガ象デモ呑ンダヨウニ、南京ト蕉湖ノ間ノ江上ニ敵ノ艦ガ動ケズニ密集シテヰタノヲ、驅逐艦ノ砲デ擊チマクルノダカラ、定メシ有効カツ痛快ナコトデアツタロウト想像シ、コチラモ嬉シカツタ。(十四頁~十五頁)

三、新體制ノ要諦ノ第一ハ、國體ノ飛躍的顯現デアル。卽チ、政治、経濟、文化、國防凡テガ、天皇ニ歸一シ、總力ガ一奌ニ集中發揮セラルルモノタルヲ要スル。殊ニ從来、自由主義 乃至ハ社會主義ニヨツテ指導編成セラレシ、政治、経濟、文化方面ヲ皇道一体主義ニヨツテ編成スルコトデアル。

コノ體制ハ、國家千年ノ体勢ヲ決スルモノタルト同時ニ、最モ强力ニシテ雄渾ナルモノデアル。世界 國多シト雖モ、天皇ヲ中心ニ歸一 一体トナル國民ノ血脈的團結ニ比スベキモノハ断ジテアリ得ナイノデアル。

コノ意味ニ於テ、コノ新體制コソ、世界ノ混乱期ニ處シ、独リ、我ガ八紘一宇ノ國是ノ發揚ヲ完全ナラシムルノミナラズ、危機ヲ轉ジテ神機トナシ、我ガ國ガ世界新秩序建設ノ指導權ヲ握リ得ルモノデアル。支那事変ノ如キモ、世界新秩序建設ノ緖戦タリ得ルノデアル。

從ツテ、新體制ハ、時艱ニ際シテ、我ガ民族 本然ノ理想ヲ顯現セントスルモノデアルト共ニ、コレノミガ疾風怒濤逆巻ク世界混乱ヲ指導シテ、八紘一宇ノ國是顯現ノ大道ヲ開闡スルモノデアル。故ニ、コレハ政策的意圖以上ノモノデアル。政策的必要ノモノナラバソノ政策ヲ必要トスル環境ガナクナレバ 新體制モイラナクナル。例ヘバ、英米等トノ妥協成立スルヤウナ場合ヲ假定スレバ最早ヤ必ズシモ、新体制ヲ必要トセヌカモ知ラヌゴトキデアル。本然ノ國家体制ヲ作リ、如何ナル環境ヲ生ズトスルモ、八紘一宇ノ國是ニヨリ、ソレラノ環境ヲ指導シ皇道ヲ世界ニ光披シ、世界新秩序ノ建設ヲ目的トスルモノデアツテ、同時ニ、時局ノ急迫ヲ完全ニ解決スルノガ、コノ新体制デアル。
(五二頁~五三頁)

四、支那事変ヲ英米ト恊力スルノデナケレバ解決出来ナイト判断スルソノコトガ、永久ニ事変ヲ解決セナイノデアル。英米支那ヨリ擊攘スルトイフ方針ヲ立テタ瞬間ニ於テ、支那ハ新シキ秩序ニ向ツテ動キ始メルノデアル。独伊ト恊働戰線ヲ結ブト云フ覺悟ヲキメルナラバ、直チニ歐洲ノ事態モ一変スルノデアル。何時マデモ英独ガ戰ツテヰテ欲シイト空賴ミヲシテヰルナラバ、歐洲戰爭ハ案外早ク片付クカモ知レヌ。英米依存ノ態度ヲ一擲シテ、日滿支ブロツクニ於テ自給自足経濟ヲ建設スルト云フ方針ヲ確定シタ場合ニ、始メテ英米ニ依存セザル軍備生産力ノ擴充ノ具体的計画モ立チ得ルノデアル。政府ハ親英米ヨリ脱却セル意圖ノ下ニ経濟的具体案ノ研究立案ヲシタ事ガアルカドウカ。英米ヲ失フケレド、滿洲 支那 或ハ南洋ハ我モノトナル。

勿論、コノブロツク建設ニハ多大ノ努力ガ必要デアツテ、英米依存ノ安易ナモノトハ、同旧ノ談デハナイ。而モ戰場ニ於ケル將兵ノ覺悟ヲ以テ當ルナラバ、困難ナダケ得ル所ハ眞實ノ血デアリ、肉デアル。外國ノ物ヲ賴ツテヰルヨリモ、苦勞ヲ積ンダ眞ノ我物ヲ持ツコトガ、國家トシテ採ルベキ態度デアル。独伊ト結ビ、支那ヨリ英米ノ勢力ヲ驅逐シ、事変ヲカクカクノ方式 及ビ規模ニヨツテ解決スルノガ、我國ノ進ムベキ道デアルト確信スルナラバ、此處ニ始メテ國内ノ諸計画モ立チ、國民ノ向フベキトコロモ一決シ、國民ハ苦難ヲ物トモセズ、將来ノ希望ニ燃エ乍ラ全力ヲ擧ゲテ事変解決ノ爲ニ邁進スルコトガ出来ルノデアル。一方的ニ カヽルコトハ空想デアルトシテ、コノ方針ノ具体化ニ努力シナイノデハナイカ。現状維持カ、現状打破カ、ソノ何レカヲ取ラネバナラヌ時期デアツテ、断ジテ妥恊ヲ許サヌノデアル。我々ハ米内首相ニ対シ、之等ノ事ニ関シテ、政府ノ決意ヲ問ハントスルモノデアル。(七三頁~七四頁)

 

↑A級極東国際軍事裁判記録(和文)(NO.13)
https://www.digital.archives.go.jp/das/image/F0000000000000340081 p.216~p.220