昭和八年二月二十五日 市内版 (土曜日) 東京朝日新聞
聯盟よさらば! 遂に協力の方途盡く
總會、勸告書を採擇し
我が代表堂々退塲す
四十二對一票、棄權一
【ジユネーヴ特派員二十四日發至急報】日支紛爭問題に關する第十五條第四項の勸告を含む報告案を議する聯盟臨時總會はいよ〱二十四日午前十時四十九分(日本時間午後六時四十九分)ベルギー代表イーマンス氏を議長として異常の緊張裡に開會された、議塲は滿員の盛況である、まづ議長イーマンス氏の開會演說あつて後、支那代表顏惠慶氏が報告書受諾の演說をなすところあり、次いで我が松岡代表登壇して演說を開始した、時に午前十一時三十三分(日本時間午後七時三十三分)かくて演說は前後四十六分間の長きにわたり『諸君が報告を採擇せざることを要求する』と結び、正午を過ぐる十九分降壇した、松岡代表の英語演說は直に通譯によつて佛譯されたる後、更に會議を續け、預て發言を通告せるリスアニア、ヴエネズエラ、カナダ三國代表の演說が行はれた、その終るを待ち愈午後一時廿五分(日本時間午後九時廿五分)勸告を含む報告案の氷結に移り四十二票對一票、棄權一(シヤム代表)をもつて遂に採決された、卽ち反對は日本のみで全會一致の可決である、時に午後一時三十分(日本時間午後九時三十分)、採擇後松岡代表は報告書反對の聲明をなし、午後一時四十六分代表部を率ゐて退塲した【寫眞は上から松岡、顏、イーマンス三氏】
【ジユネーヴ特派員二十四日發至急報】松岡代表はその聲明を終り演壇を降るや佛譯を待たず着席せずにそのまま長岡、佐藤その他の代表部文武官を從へ議塲を去つた、滿塲寂として聲なくたゞ後方傍聽席の日本人間より數名の拍手が起つた
支那側勸告受諾
第六項の權利強調
【ジユネーヴ特派員二十四日發至急報】聯盟總會は開會冒頭支那代表顏惠慶氏起つて演說した、顏しはその演說の結論で勸告を含む報告書を保留なしに受諾することを預告しよつて日本が勸告を拒否する時支那は規約第十五條六項による權利を享受すべき<ことに特に念を押したことが注目された、同項によれぱ
聯盟理事會の報告書が紛争當事國の代表者を除き他の聯盟理事會員全部の同意を得たるものなるときは聯盟國(日本)は該報告書の勸告に應ずる紛争當事國(支那)に對し戰爭に訴へざることを約す
とあり從つてこれにより支那は聯盟國より道義的支持を受けることになるのである
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