Ob-La-Di Oblako 文庫

帝国日本の侵掠戦争と植民地支配、人権蹂躙を記憶し、再現を許さないために、ひたすら文書資料を書き取る。姉妹ブログ「歴史を忘れる民族に未来はない!」https://obladioblako.hateblo.jp/ のデータ·ベースを兼ねる。

判決書 第3被告 岡田慶治少佐 バタビア裁判 第69号 (スマラン慰安所) 事件 

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        判 決 書

第二、被告岡田慶治に関しては下記の点を顧慮す。

 即ち,本被告は,各「キャンプ」に於ける婦女子の選択並に之等婦女子を「カラリーラン」の建物に連行せることに関する全責任を否認[し]あり。然し,本被告は,各抑留所より和蘭人婦女子を連行する計画のありたることは知りあり,又本計画の実行並びに之等婦女子を四ヶ所の慰安所に配置するが為に必要なりし許可を,高橋少佐と池田大佐の命に依り,第16軍司令部に受領に赴きたることは認めあり。

 又,彼は全然,己が自由意志にて「バンドン」に旅行し,同地に於て,慰安所にて働きある欧州人婦女の取扱並びに之が状況視察も行いたることも認めあり。

 又,本被告は,43年1月末或は2月始め池田大佐の日本出張後は,軍人の慰安並に厚生を掌管せる兵站業務を引継ぎたり。

 被告は婦女子の選択は,州庁職員に全然任せあるを以て,何等の干渉をも行はずと主張[し]あり。

 更に,被告は,司令部の許可は婦女は自由意志にて,抑留所を離れ,又,自由意志にて慰安所に務むべきことの条件づきなりしことを知りありたり。而も斯かる事実は,婦女子が選択の目的を充分に知らされ,同意書に署名する前に,その結果に関し充分考慮する機会を与へられざるべからざりしことを意味するものなり。又この自由意志に基くべしとの要求は,当然,同意書の署名に際し,充分なる監督を行ふ将校は,之等婦人が事実充分にその内容を知らされ,自由意志なることが全然疑ふ余地のなきことを確認すべきなり。

 然るに,被告は,兵站将校にして,故に第16軍司令部の要求を知り知り[ママ]いたるのみならず,又現地に於ける最高級将校として,斯かる監督を行ふ[→行はざる]べからざりしにも拘らず,之を怠りたり。更に彼の主張する如く,全部を州庁職員に一任し,為に,被告の主張に従へば,此の同意書の内容が適宜,婦女子達に諒解せられありたりや否やも知らざりき。

 然るに,本件に関する諸証人の陳述は,之と全然違ひあり,即ち,彼女等はその書類の内容を知らされず,又日本語で書かれありし為に読むことも出来ず,一方,之に関する質疑は無法にも拒否せられたり。

 数人の証人は更に,或る婦女子は泣き出したる旨をも証言したり。

 又,被告自身の申立てたるところに依れば,州庁の一役人は被告に対し,多数の婦女子は抑留所にて拒否し,一日は同意したるも,又他の日には志願せずと語りたり。

 此の言葉を被告は,最大の注意を要する警告として聞かざるべからざりしにも拘らず,何等の注意をも払わず,全婦女子は自由意志に基きたりとの結論を得たりと称しあり。

 本件に関し被告の自認せる事実は,「カナリーラーン」に集められたる婦女子の多数は彼女等の運命に関しては知らされあらざりしこと,故に彼女等が自由意志に依り,売淫行為に従事する筈なく,其所に強制力が加へありたることを理性を以て判断し得ぜ[→ざ]るべからさりしことを語れるものなり。

 

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 又,斯かる事実は上述の日本人証人の諸証言――宣誓はなしあらざるも――に依りても肯定せられあり。故に被告が上述の如く推察し得たることに関しては,本軍法会議は何等の疑ひも有せず。

 故に,本被告に関する基礎事実 a) 項は Semaran − Oast 抑留所に連行せられたる婦人に対しては立証せられざるも、その他の婦女に対しては,法的且つ充分に立証せられたり。

 訳注=a) = 被告は,上記全婦人少なくともその大部分が,自発的に売淫を承認したるものにあらず,故に彼女等に対し暴行が行はれ得るを察知し得る筈なり。

 又,証人 M. H. C. Reeders, H. J. Reeders 及 L. Fonteyn の証言に基き,被告は否認しあるも,基礎事実 b) 項も法的且つ充分に立証せられたり。

 訳注=b) = 客と性交を拒否せる際は最も恐るべき方法にて殺害し,報復は家族にも及ぶべしと脅迫,売淫を強制す。

 猶,基礎事実 c) 項に関しては証拠として次のものがあり。(c = L. Fonteyn の強姦)

 a L. Fonteyn の証言

 b 上記の他の二名の証人が述べある同種の経験より察知し得る事実

 c 婦女の大多数が「キャンプ」から欺かれて連れ出され,慰安所に入れられてから始めて,売淫行為の行はねばならぬこのを知るに至りたる事実

 之等の証拠は被告の起訴事実c) 項に関しても,本会議は法的且つ充分に立証せられたるものと思考す。

 又,基礎事実d) に関しては(d) = 部下の強制売淫及強姦)

 被告は,将校「クラブ」以外の慰安所に於いて行はれたる事実に対し,有責なることを否認しあるも,本軍法会議は全慰安所に対する監督は,「兵站」係将校たりし被告の義務に属し,且又,之等慰安所に於ける出来事は全部被告に報告せられるべきものたりと判断す。

 基礎事実 a) 項にて立証せられたる被告の「推察」に基くも,将校「クラブ」以外の他の慰安所に於ても,自由意志に基かざる婦女子が売淫を強制せられ,且強姦せらるるを察知し得たるものなり。

 婦女子の拒否,逃走,自殺未遂,精神病の仮装,又疾病等のありたる際,之が被告に伝へられざりしとは、本軍法会議の考え得ざるところなり。

 更に,被告が自由意思に基き行ふものにあらずと推察せる婦女子を慰安所に入れ,之を軍人,軍属(邦人)に公開せば,必ずや,全証人の述べあるが如く,之等婦女子が客に依り売淫を強制せられ,強姦せらるべしとの推察は行ひ得たる筈なり。

 故に被告に対する本項に関する基礎事実も立証せられたり。

 

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 依而,被告は基礎事実全部に対し有罪にして,刑の宣告を受けざるべからず。

次に量刑に関しては次の諸点を考慮す。

 本件にて犯されたる戦犯行為自体は苛酷なる性質のものなるも,之等犯罪が既に長期に亘り最悪の状況下に抑留せられありし婦女子に対して行はれたることは最も苛酷なる犯罪に属するものと言はざるべからず。

 日本占領軍当局は,之等婦女子より自由を奪不事に依りて完全なる従属状態に置き,以て彼女等の扶養,保護に対する責任を一手に掌握せり。之にも飽き足らず,占領軍当局者は此の無援 ,不当なる従属関係を濫用し,暴力或は脅迫を以て,数名の婦女子を最も侮辱的なる選択の後,抑留所より連行せり。斯かる行為は婦人に対する一般的なる尊敬を全然払わず,又己が権力下にある敵国民に対する責任観念を曲度に抹殺せるものと言はざるべからず。

 証人の述べある慰安所に於ける最初の数日間の出来事は若干の誇張は認めらるとは雖へど,然し,之等婦女子が置かれたる戦慄的状況及彼女等が此の状況より絶対に脱出し得ざりし点は見逃し得ざる事実なり。斯かる状況は,多の者に殆ど堪え難き精神的苦痛を与へ,中には衝撃を受け,又精神異常者をも出さしむるに至りたり。(被告中の医師は,之を Geistliche Erregung [心霊興奮]と述べたり。)

 又犠牲者達は斯かる野獣的且非人道的環境に対し,最初,反抗を試みたるも,間もなく斯かることは何も効果もなきことを知り,反抗を中止したるも,斯かることは,之等婦女子が自発的に売淫行為を行ふに至り,故に被告には,之に対する責任なしとは絶対に言い得ず。何となれば各犠牲者共,最初に加へられたる強制の惰性にて,俄かに日本人訪客の希望に従ひいたると述べ,本質的なる自由は此の際,全然問題外のことなりき。

 更に之等の犯罪は,最初の「戦勝の興奮」からと言ふには余りにも時日を過ぎてより行はれたり。

 第三被告は,希望者のみを募集し,選択すると申出で,之に対し第16軍司令部は許可を与へたるものなりと言ふも,然し,之は一先ず嘘なりとするも,抑留所より所謂志願者,なるものを募集するに当り,日本軍自身が抑留所の状況を悪化せしめをき,その食糧や宿舎の悪状況を利用したることは道徳,人道に対する違反にして,故に之は犯罪と見做されざるべからず。

 被告達は,之等慰安所の建設,慰安婦の獲得計画を何等の同情心をも持たずに行ひ,更に,之が運営,維持を冷酷且つ事務的に実行したる為に,一団の過酷なる戦争犯罪者を生ぜしむるに至り,為に重罪の判決を受けざるべからざるに至りたり。

 第三被告は,之等慰安所の建設計画に参与し,斯かる大なる不法行為に何等の異議を唱へることなく,婦女子の選択を行ひたることは,堕落せる精神の持主と言はざるべからず。

 被告は,又この選択が純然たる自由意志に基きて行はれたるものに非ざることを知り

 

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いたるに違ひなし。何となれば,最初に二ヶ所の慰安所に於て騒動(反抗)が起こりたる後,次の諸「キャンプ」に於ては,企図を秘匿し,又彼の直接指揮下に於て行はれたる所謂「同意書」の署名の際にも,何等その内容を知らしめずに,又何等の着意をも示さずに之を実行せり。

 被告は抗弁として,彼の同僚たりし,高橋少佐が本計画の実施を担当し,彼は,高橋の依頼に依り「カナリーラーン」に行きたるのみなりと主張するも,本会議は,之が真実性に対し,大なる疑惑を抱かざるを得ず,又之が仮令事実なるとするも,被告はその時監督を行ひたりしを以て,第16軍司令部の要求たりし,自由意志に基く者なりや否やを確かむる義務がありたり。

 然るに被告は,何等かの異調がありたることを知り居たるにも拘らず,之を行はざりき。

 更に被告は,日本軍の高級将校としてのみならず,一個の教養ある人間として,斯かる義務がありたり。又少くとも彼は敵国人の為に慰安所に行きて働くことが,之等婦女の多数にとりて如何に苦難に満ち満ちたるものか、又極く限られた一部の型の者及非常に特別なる状況のみが之を緩和せしむるものなることを知りいたる筈なり。

 斯かる考慮から被告は,当然注意を行はざるべからざりしにも拘らず,何等の注意をも払はずに,州庁の職員の全員志願者なりとの言をそのまま鵜呑みにせるも,然も,猶,此の際,州庁の職員の一名は,婦女子達が或日は同意を示すも,他の日には働くを希望せずとさへ言いあり。

 更に,自由意志などは全然問題にならずとの証言が多数あるにも拘らず,被告の否定的なる態度よりして,本軍法会議は,被告が,此の計画の実施方法を完全に知悉しいたりとの確信を得たり。

 依而,被告の犯せる最も悪質なる(犯罪)事実に対しては最高の刑が適当なり。

   罪名=「強制売淫の為の婦女子の連行」
      「売淫の強制」
      「強 姦」 

 

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264 J_J_068 資料名:判決書 第3被告岡田少佐 簿冊:BC級(オランダ裁判)バタビア裁判69号事件 https://wam-peace.org/ianfu-koubunsho/pdf/M-PDF/J_J_068.pdf 日本政府未認定の日本軍「慰安婦」関連公文書リスト https://wam-peace.org/ianfu-koubunsho/list/m-all-list.html 日本軍「慰安婦」関連公文書 https://wam-peace.org/ianfu-koubunsho/