警視局書記課編纂
警視 類聚規則 坤巻
警視局蔵版
第三十五章 売淫取締
第一款 貸座敷
○(達)九年二月二十四日 第四十七号 区戸長へ
貸座敷ならびに娼妓規則(第二款に見ゆ)左の通り改定候ふ条、右業体の者どもヘ洩れなく相達し候ふべきこと。
貸座敷規則
第一条 貸座敷営業は免許地に限るべし。他所においては決して相成らず候ふこと。
第二条 貸座敷をなさんと欲する者、戸長奥印をもつて警視本徐へ願ひ出づべし。詮議の上、免許鑑札下し渡すべきこと。
第三条 黴毒検査査ならびに病院入費として月々商高の一割納金いたすべきこと。
ただし客帳は毎朝元締めまたは副元締めの検査を受くべきこと。
第四条 明治五年十月仰せ出でられ候ふ年季解放の御趣意(後に出づ)いよいよ堅く相守るべきこと。
第五条 各地同渡世中、元締めならびに副元締めを設け、すべて警視官の命令を奉承し、業体諸取り締まり向きおよび黴毒検査等費金上納方、相取り扱ふべきこと。
第六条 娼妓の価直あらかじめ警視官へ届け出づべきこと。
第七条 娼妓の写真ならびに価付けを店頭へ掲げ出すべきこと。
第八条 娼妓に見世を張らせ、または雇人を路傍、店前等へ出だし置き、通行人へ遊興を勧むる儀、相成らざること(十一年六月三日、丙第三号をもつて改正)。
第九条 娼妓と契約の条件は必ずその条約調印の前、警視官吏の検閲を受くべし。しかしてその契約書には元締めまたは副元締めにて奥印いたすべきこと。
ただし本文の手続きをなささる契約は、他日、争論を生じ訴へ出で候ふとも取り上ぐまじきこと。
第十条 貸座敷、娼妓規則を娼妓に渡し置き、違背いたさぬ様、厚く注意すべきこと。
ただし娼妓の規則を了解いたさざる者には篤と教示可事いたすべきこと。
第十一条 娼妓の契約に背き、あるいは命令に従はざるなどのことあるときは、警視官吏に訴へ出で、その処分を受くべし。自儘に苛刻の取り計らひいたすまじきこと。
第十二条 娼妓、他の貸座敷に転移し、あるいは廃業せんことを乞ふときは、そのむね警視官へ届け出づべし。故なく自由を妨げ申すまじきこと。
第十三し 鑑札を持たざる婦女に座敷を貸し、娼妓に紛はしき所業、決していたさすまじきこと。
第十四条 娼妓の健康、清潔に注意し、黴毒の検査を受くべき趣意、篤と告諭あおたすべきこと。
第十五条 娼妓、疾病あらば、何症にかかはらず速やかに警視官吏に届け出で、医員の診察を受くべし。黴毒その他伝染病と認むるときは、別して注意すべきこと。
第十六条 娼妓は猥りに区域外に出すべからず。もしやむを得ざる事故あるときら、必ず慥[たし]かなる者を附け添へ申すべきこと。
第十七条 娼妓より正業に転就せんと欲するときは、決して故障いたすまじきこと。
第十八条 娼妓をして早く正業に転就せしむるに注意し、従前、物日等の弊習を襲ひ無益の出費を促し候ふ儀、堅く禁止いたすべきこと。
第十九条 罪犯人相書をもつて布達の者は勿論、その他不良の徒、潜伏いたし候ふか、または金銭遣り方等不審の者これある節は、取り逃がさざる様注意いたし置き、速やかにその区警視分署または巡行の巡査へ密告いたすべきこと。
第二十条 この規則に違背いたし候ふ者は、貸座敷免許取り上げ、または取り上げず罰金三拾円以内、苦役六ヶ月以内の処分申し付くべきこと。
◯(参観)明治五年十月二日 布告 第二百九十五号
人身を売買いたし、終身または年期を限り、その主人の存意に委せ虐使いたし候ふは、人倫に背き、有るまじきことにつき、古来制禁のところ、従来、年季奉公等種々の名目をもつて奉公住みいたさせ、その実、売買同様の所業に至り、もつてのほかのことにつき、自今厳禁なすべきこと。
一、農工商の所業習熟のため弟子奉公いたさせ候ふは勝手に候へども、年限満七年に過ぐべからざること。ただし双方和談をもつて更に期を延ぶるは勝手たるべきこと。
一、平常の奉公人は一ヶ年あてたるべし。もつとも奉公取り続け候ふ者は証文相改むべきこと。
一、娼妓·芸妓等年季奉公人、一切解放いたすべく、右についての貸借訴訟、すべて取り上げず候ふこと。
右の通り定められ候ふ条、きっと相守るべきこと。
壬申十月ニ日 太政官
警視局書記課編纂
警視 類聚規則 坤巻
警視局藏版
第三十五章 賣淫取締
第一款 貸座敷
○(達)九年二月廿四日第四十七號區戸長ヘ 貸座敷幷娼妓規則(第二款ニ見ユ)左之通改定候條右業體之者共ヘ無洩可相達候事
貸座敷規則
第一條 貸座敷營業ハ免許地ニ限ルヘシ他所ニ於テハ決シテ不相成候事
第二條 貸座敷ヲナサント欲スル者戶長奥印ヲ以テ警視本署ヘ願出ツヘシ詮議ノ上免許鑑札可下渡事
第三條 黴毒檢査幷病院入費トシテ月々商高ノ一割納金可致事
但客帳ハ毎朝元締又ハ副元締ノ檢査ヲ受クヘキ事
第四條 明治五年十月被仰出候年季解放ノ御趣意(後ニ出ツ)彌堅ク可相守事
第五條 各地同渡世中元締幷副元締ヲ設ケ總テ警視官ノ命令ヲ奉承シ業體諸取締向及ヒ黴毒檢査等費金上納方可相取扱事
第六條 娼妓ノ價直豫メ警視官ヘ可届出事
第七條 娼妓ノ寫眞幷價付ヲ店頭ヘ可揭出事
第八條 娼妓ニ見世ヲ張ラセ又ハ雇人ヲ路傍店前等ヘ出タシ置キ通行人ヘ遊興ヲ勸ムル儀不相成事(十一年六月三日丙第三號ヲ以テ改正)
第九條 娼妓ト契約ノ條件ハ必ス其條約調印ノ前警視官吏ノ檢閲ヲ受クヘシ而シテ其契約書ニハ元締又ハ副元締ニテ奥印可致事
但本文ノ手續ヲナサヽル契約ハ他日爭論ヲ生シ訴出候トモ取上ケ間敷事
第十條 貸座敷娼妓規則ヲ娼妓ニ渡置キ違背不致樣厚ク可注意事
但娼妓ノ規則ヲ了解不致者ニハ篤ト敎示可致事
第十一條 娼妓ノ契約ニ背キ或ハ命令ニ從ハサル等ノ事アルトキハ警視官吏ニ訴出其處分ヲ受クヘシ自儘ニ苛刻ノ取計致間敷事
第十二條 娼妓他ノ貸座敷ニ轉移シ或ハ廢業センヿ[コト]ヲ乞フトキハ其旨警視官ヘ届出ツヘシ無故自由ヲ妨ケ申間敷事
第十三條 鑑札ヲ持タサル婦女ニ坐敷ヲ貸シ娼妓ニ紛ハシキ所業決シテ爲致間敷事
第十四條 娼妓ノ健康淸潔ニ注意シ黴毒ノ檢査ヲ受クヘキ趣意篤ト告諭可致事
第十五條 娼妓疾病アラハ何症ニ拘ハラス速ニ警視官
吏ニ届出醫員ノ診察ヲ受クヘシ黴毒其他傳染病ト認ムルトキハ別シテ注意ス可キ事
第十六條 娼妓ハ猥リニ區域外ニ出スヘカラス若シ已ムヲ得サル事故アルトキハ必ス慥カナル者ヲ附添可申事
第十七條 娼妓ヨリ正業ニ轉就セント欲スルトキハ決シテ故障致間敷事
第十八條 娼妓ヲシテ早ク正業ニ轉就セシムルニ注意シ從前物日等ノ弊習ヲ襲ヒ無益ノ出費ヲ促シ候儀堅ク禁止可致事
第十九條 罪犯人相書ヲ以テ布達ノ者ハ勿論其他不良ノ徒潛伏致候歟又ハ金錢遣方等不審ノ者有之節ハ不
取逃樣注意致置速ニ其區警視分署又ハ巡行ノ巡査ヘ密告可致事
第廿條 此規則ニ違背致候者ハ貸坐敷免許取上又ハ取上ケス罰金三拾圓以内苦役六ケ月以内ノ處分可申付事
◯(參觀)明治五年十月二日布告第二百九十五號
一 人身ヲ賣買致シ終身又ハ年期ヲ限リ其主人ノ存意ニ委セ虐使致シ候ハ人倫ニ背キ有マシキ事ニ付古來制禁ノ處從來年季奉公等種々ノ名目ヲ以テ奉公住爲致其實賣買同様ノ所業ニ至リ以ノ外ノ事ニ付自今可爲嚴禁事
一 農工商之諸業習熟ノ爲メ弟子奉公爲致候ハ勝手
ニ候得共年限滿七年ニ過ク可カラサル事
但雙方和談ヲ以テ更ニ期ヲ延ルハ勝手タルヘキ事
一 平常之奉公人ハ一ヶ年宛タルヘシ尤 奉公取續候者ハ證文可相改事
一 娼妓藝妓等年季奉公人一切解放可致右ニ付テノ貸借訴訟總テ不取上候事
右之通被定候條屹度可相守事