Ob-La-Di Oblako 文庫

帝国日本の侵掠戦争と植民地支配、人権蹂躙を記憶し、再現を許さないために、ひたすら文書資料を書き取る。姉妹ブログ「歴史を忘れる民族に未来はない!」https://obladioblako.hateblo.jp/ のデータ·ベースを兼ねる。

【工事中】婦人および児童売買禁止に関する国際連盟総会における問題の件 1920. 10. 8

大正九年十月十八日        【鈴木】
  警保局長【印】
  警務課長【印】
  書記官【印】

   婦人および児童売買禁止に関する国際連盟
   総会における問題の件

 本件、別紙外務次官照会に対し、社会局において取りまとめ回答の趣きにつき、公娼廃止問題に関し左記の通り社会局に申し送り然るべきや。

    記

[上余白:□衛生局□に渡し、認め]

 公娼制度の存在は道義上および国家の体面上、極めて望ましからざるところなり<るをもって、相当改善の必要を認む>といへども、現下の国情に徴し、今、にわかにこれを禁止する能はざるをもって、風俗および衛生上、行政官庁の厳重なる監視の下に当分これを存置するのやむを得ざる状態にありとす。<したがって遊廓の新設は、事情やむを得ざる場合のほか、これを許可せざるの方針を採れり。>人身の売買を目的とする行為は、明治五年太政官布告第二百九十五号をもって夙にこれを禁ずる所にして、現行公娼制度は全くこれと異なり、満十八歳以上の婦女にして娼妓たらむとする者は、本人自ら警察官署に出頭し、娼妓となる事由、尊族親等の承諾の事実その他、必要成る事項を具したる書面を提出して申請をなし、警察官署においては厳密慎重の調査を遂げ、その事情においてやむを得ざる者に限り、これを娼妓名簿に登録し、これが稼業を認むるものにして、貸座敷営業者との間に人身の自由を拘束するの契約を認むるものにあらず。故に娼妓にして廃業せむとする場合においては、本人自ら警察官署に出頭し、またその出頭する能はざる場合においては書面等をもって、登録の削除を申請せば、警察官署、直ちに名簿よりこれを削除することとなせり。しかしてこの名簿削除の申請に対しては、何人といへどもこれが妨害をなす能はず、もしこれを妨害するにおいては、内務省令をもって三月以下の懲役または百円以下の罰金に処することとなし、その他、娼妓の通信、面接等の自由を妨害する者に対しても省令中、制裁の規定を設くる所あり。要するに公娼は、わが国現下の状態において<当分>これを認むるのやむを得ざるものにして、そのこれを認むるも、人身の自由を拘束するは断じてこれを容さず、ことに婦女売買の事実は厳にこれを禁ずる所なりとす。

 

写し

通三送苐四四一号
 大正九年九月十一日
     外務次官 埴原正直

内務次官 小橋一太殿

  第一回国際連盟総会における婦人
  および児童売買禁止に関する問題の件

 来たる十一月開催せらるべき第一回国際聯盟総会において婦人および児童の売買禁止に関する問題(同盟および連合国とドイツ国との平和条約第二十三条参照)の議せらるることある合、もしわが国の本件に関する既存条約加入問題、公娼廃止問題または海外より送還せらるる醜業婦の保護問題等が議題とならばわが邦はこれに対しいかなる態度を持すべかこやに関し、あらかじめ貴省の御意見、承知いたしたく候ふ条、右詳細、至急御回答相成りたく、この段、照会に及び候ふなり。

 追って本件既存条約には千八百九十[1890]年のブラッセル条約および同盟および連合国とドイツ国との平和条約第二百八十二条第十七項記載の条約等あるにつき、念のため申し添へ候ふなり。

 

 わが国の妓樓制度は人道上および国家の体面上、極めて望ましからざるは言を俟たざるのみならず、[×妓楼制度の存立は到底、私娼の跋扈を防止する能はず、×]風俗および衞生上、現状に放任するは甚だ不可なるをもって、欧米等に行はるる登録制度等を参照し[×適当の方法を×]<て>調査つつあるむねを説明するの必要ありと認む。

 遊廓は新設を許可せざる方針なることを明らかにする必要ありと認む。

      衛 生 局【印】 【印】 【奥村】 

 

參照)

  同盟および連合国とドイツ国との平和条約

第二十三条 連合国は現行または将来協定せれべき国際条約の規定に遵由し、

(イ)略

(ロ)略

(ハ)婦人および児童の売買ならびに阿片その他の有害薬物の取り引きに関する取り極めの実行につき一般監視を連盟に委託すべし。

第二百八十二条 本条約に別段の規定ある場合を除くのほか、経済上または専門事項上の性質を有する数国間の条約および取り極めは、本条以下数条に列記したるものに限り、ドイツ国と同條約および取り極めの当時国たる同盟および連合国との間に本条約実施の時よりこれを適用す。

(一)より(十六)略

十七 醜業を行はしむるための婦女売買禁止に関する千九百四[1904]年五月十八日および千九百十[1910]年五月四日の条約

 

https://www.digital.archives.go.jp/img/1012620 1/28 左

大正九年十月十八日        【鈴木】
  警保局長【印】
  警務課長【印】
  書記官【印】

  婦人 及 児童賣買禁止ニ関スル國際聨盟
  縂会ニ於ケル問題ノ件

本件 別紙外務次官照会ニ對シ 社会局ニ於テ取纏 囘答ノ趣ニ付 公娼廢止問題ニ関シ左記ノ通 社会局ニ申送可然哉

   記

 

https://www.digital.archives.go.jp/img/1012620 2/28

[上余白:□衛生局□ニ渡シ 認メ]

公娼制度ノ存在ハ道義上 及 國家ノ体面上 極メテ望マシカラサル所ナリ<ルヲ以テ相當改善ノ必要ヲ認ム>ト虽 現下ノ國情ニ徴シ 今 俄ニ之ヲ禁止スル能ハサルヲ以テ 風俗 及 衛生上 行政官廳ノ厳重ナル监視ノ下ニ當分 之ヲ存置スルノ已ムヲ得サル狀態ニ在リトス <従テ遊廓ノ新設ハ事情 已ムヲ得サル場合ノ外 之ヲ許可セサルノ方針ヲ採レリ> 人身ノ賣買ヲ目的トスル行為ハ明治五年太政官布告第二百九十五號ヲ以テ夙ニ之ヲ禁スル所ニシテ 現行公娼制度ハ全ク之ト異リ 滿十八歳以上ノ婦女ニシテ娼妓タラムトスル者ハ 本人自ラ警察官署ニ出頭シ  娼妓ト为ル事由、尊族親等の承諾ノ事実其ノ他 必要ナル事項ヲ具シタル書面ヲ提出シテ申請ヲ為シ 警察官署ニ於テハ厳密愼重ノ調査ヲ遂ケ 其ノ

 

https://www.digital.archives.go.jp/img/1012620 2/28 左

事情ニ於テ已ムヲ得サル者ニ限リ之ヲ娼妓名簿ニ登錄シ之カ稼業ヲ認ムルモノニシテ 貸坐敷營業者トノ間ニ人身ノ自由ヲ拘束スルノ契約ヲ認ムルモノニアラス 故ニ娼妓ニシテ廢業セムトスル場合ニ於テハ本人自ラ警察官署ニ出頭シ 又其ノ出頭スル能ハサル場合ニ於テハ書面等ヲ以テ登錄ノ削除ヲ申請セハ警察官署 直ニ名簿ヨリ之ヲ削除スルコトト為セリ 而シテ此ノ名簿削除ノ申請ニ對シテハ何人ト虽 之カ妨害ヲ為ス能ハス 若シ之ヲ妨害スルニ於テハ内務省令ヲ以テ三月以下ノ懲役又ハ百圓以下ノ罰金ニ處スルコトト為シ 其ノ他 娼妓ノ通信、面接等ノ自由ヲ妨害スル者ニ

 

https://www.digital.archives.go.jp/img/1012620 3/28 右

對シテモ省令中 制裁ノ規定ヲ設クル所アリ 要スルニ公娼ハ 我國現下ノ狀態ニ於テ<当分>之ヲ認ムルノ已ムヲ得サルモノニシテ 其ノ之ヲ認ムルモ 人身ノ自由ヲ拘束スルハ断シテ之ヲ容サス 殊ニ婦女売買ノ事實ハ厳ニ之ヲ禁スル所ナリトス

 

https://www.digital.archives.go.jp/img/1012620 3/28 左

通三送苐四四一號
 大正九年九月十一日
     外務次官 埴原正直

内務次官 小橋一太殿

  苐一囬國際聨盟総會ニ於ケル婦人
  及児童賣買禁止ニ関スル問題ノ件

来ル十一月開催セラルヘキ苐一囬國際聨盟総會ニ於テ婦人及児童ノ賣買禁止ニ関スル問題(同盟及聨合國ト独逸國トノ平和條約苐二十三條参照)ノ議セラルルコトアル場合若シ我國ノ本件ニ関スル既存條約加入

 

https://www.digital.archives.go.jp/img/1012620 5/28 右

問題、公娼廢止問題又ハ海外ヨリ送還セラルル醜業婦ノ保護問題等カ議題トナラハ我邦ハ之ニ對シ如何ナル態度ヲ持スヘキヤニ関シ豫メ貴省ノ御意見承知致度候條右詳細至急御囬答相成度此段及照會候也

追テ本件既存條約ニハ千八百九十年ノ「ブラッセル」條約及同盟及聨合國ト獨逸國トノ平和條約苐二百八十二条㐧十七項記載ノ條約等アルニ付為念申添候也

 

https://www.digital.archives.go.jp/img/1012620 4/10

我國ノ妓樓制度ハ人道上及國家ノ体面上極メテ望マシカラサルハ言ヲ俟タサルノミナラス [×妓樓制度ノ存立ハ到底私娼ノ跋扈ヲ防止スル能ハス×]風俗及衞生上現状ニ放任スルハ甚タ不可ナルヲ以テ欧米等ニ行ハルヽ登録制度等ヲ参照シ[×適当ノ方法ヲ×]<テ>調査シツヽアル㫖ヲ說明スルノ必要アリト認厶

遊廓ハ新設ヲ許可セサル方針ナルコトヲ 明ニスル必要アリト 認厶

      衞 生 局【印】 【印】 【奥村】 

 

https://www.digital.archives.go.jp/img/1012620 5/左

(參照)

  同盟 及 聨合國ト独逸國トノ平和條約

苐二十三條 聨盟國ハ現行又ハ将来恊定セラルベキ國際條約ノ規定ニ遵由シ

(イ)畧

(ロ)畧

(ハ)婦人 及 児童ノ賣買 竝 阿片其ノ他ノ有害薬物ノ取引ニ関スル取極ノ実行ニ付 一般监視ヲ聨盟ニ委託スヘシ

苐二百八十二條 本條約ニ別段ノ規定アル場合ヲ除クノ外 經濟上 又ハ專門事項上ノ性質ヲ有スル数國間ノ條約 及 取極ハ本條以下數條ニ列記シ

 

https://www.digital.archives.go.jp/img/1012620 6/28 右

タルモノニ限リ独逸國ト同條約 及 取極ノ當事國タル同盟 及 聨合國トノ間ニ本條約実施ノ時ヨリ之ヲ適用ス

(一)ヨリ(十六)畧

十七 醜業ヲ行ハシムル為ノ婦女賣買禁止ニ関スル千九百四年五月十八日 及 千九百十年五月四日ノ條約

 

婦人及児童売買禁止に関する国際聯盟総会に於ける問題の件https://www.jacar.archives.go.jp/das/meta/A05032251500 JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.A05032251500、警保局長決裁書類・大正9年(国立公文書館 平9警察0020210)