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内務省警保局警務課『第六十七議会参考資料』より「公娼制度に関する件」「婦女身売り防止に関する件」/種村氏警察参考資料第 48 集 1934

$第六十七議会参考資料

     警保局警務課

 

第六十七議会参考資料 目次

 [中略]

 12.公娼制度に関する件

 13.東北地方における婦女売買防止に関する件

 

12.公娼制度に関する件

 一、議会関係

  1.公娼制度の制限または廃止に関する法律案の沿革

 第 50 議会においては衆議院議員松山常次郎君提出、第 52 議会においては衆議院議員松山常次郎君ほか5 名提出、第 56 議会においては衆議院議員安倍磯雄郎君ほか 3 名提出、第 58 議会においては衆議院議員三宅磐君ほか 6 名提出の各法律案は、いづれ衆議院において否決、審議未了、日程に上りたるも院議に付するに至らざりしものなり。

 第 59 議会においては、衆議院議員三宅磐君ほか 10 名提出の公娼制度廃止に関する法律案は、衆議院において委員会付託となり、委員会においてはこれを否決したるも、その際「政府は笑婦に関する調査会を設け、速やかにその対策を樹立すべし」との希望決議をなし、同院本会議においては右希望決議に触るることなくして該法律案を否決したり。

  2.法律案

第 50 議会(大正 14 年〜同 15 年)提出法律案(衆議院否決)
「何人といへども新たに娼妓となり、または娼妓稼のためにする貸座敷業をなすことを得ず。」

第 52 議会(大正 15 年〜昭和 2 年)提出法律案(審議未了)
「第一条 何人といへども新たに娼妓稼のためにする貸座敷営業をなすことを得ず。
 現に右営業をなせる者は本法施行の前における娼妓の数を増加することを得ず。
 第二条 何人といへども昭和 7 年 5 月 1 日より娼妓稼をなし、または娼妓稼のためにする貸座敷営業をなすことを得ず。
 第三条 娼妓稼のためにする貸座敷営業に対しては、前条により右営業を廃止せる際、勅令の定むる所により補償するものとす。」

第 56 議会(昭和 3 年、同 4 年)提出法律案(衆議院否決)
「第一条 何人といへども新たに娼妓稼のためにする貸座敷営業をなすことを得ず。」

第 58 義会(昭和 5 年)提出法律案(日程に上りたるも院議に付するに至らず。)
「第一条 何人といへども新たに娼妓名簿に登録し、または娼妓稼のためにする貸座敷営業をなすことを得ず。
 第二条 本法施行の際現に娼妓たり、または娼妓稼のためにする貸座敷営業をなせる者は、昭和 10 年 5 月 1 日よりこれを為すことを得ず。」

第 59 議会(昭和 5 年、同 6 年)提出法律案(衆議院否決)
「第一条 何人といへども新たに娼妓名簿に登録し、または娼妓稼のためにする貸座敷営業をなすことを得ず。」

 一、政府の意見

 わが国公娼制度は保安ならびに衛生上の理由に基づく歴史的存在なり。いはゆる遊郭業者は昭和 8 年末現在において 10,281 人、娼妓数 49,302 人、貸座敷雇人はその数 26,207 人を算す。

 公娼制度の存することは、主義として歓迎すべきことにあらず、政府においても、公娼廃止に関する適当なる善後対策を得るにおいては、必ずしも現制度を保持せんとするものにあらず。よって政府においては、公娼制度に対し善処するがため、諸般の事情を参酌し、目下、慎重審議研究中に属す。

 一、公娼廃止の理由

 もし政府が公娼を廃止するとせば、その理由、左のごとし。

イ、国家が規則を設けて娼妓の存在を認むるは社会風教上ないしは人道上よりして好ましからざるところにして、政府は曩に明治 33 年娼妓取締規則制定の当初、貸座敷の新設、移転、拡張に対し消極的方針を採り、貸座敷免許地は従来のまま据置き、将来、新設、移転もしくは拡張の場合は内務大臣に稟伺を求めることとせり。これ、かかる存在を最少限度に止めむとするの拒否態度の宣明にほかならず、その後、文運の進展に伴ひ、社会悪たる売淫を公許するは人倫大本たる男女道徳観念を弛緩せしめ、延て婦女売買を促し、これが公許は然るべからざる状態に立ち至れり。

ロ、現在、わか国の醜業に従事せるものの数は公娼に数倍せる状況なり。醜業婦の存在はもとより望ましき事にあらず、これが絶滅を期することをもって理想とするも、実際の状況よりすればこれを絶滅·掃蕩するを得ざるは、世界その軌を一にするところなりとす。

 しかるに、わが国が公娼およぴ私娼の二つを有することは意義極めてすくなく、むしろその多数たる私娼の一元に統一し、社会悪として最小限度の存在たらしむるにしからざるなり。

ハ、公娼制度を廃止する場合といへども、花柳病予防成績の低下せざる様措置すべきは勿論にして、これが廃止により花柳病の蔓延を将来するがごときおそれなからしむべきをもって、花柳病防止の理由をもって公娼制度を存置せむとするの議論は、その理由乏し。

 一、山形県の状況

 山形県においては、婦女売買防止の徹底を期するがため、芸妓、娼妓、酌婦等紹介営業取締規則を改正し、紹介業者紹介の依頼を受けたるときは、その都度、求職者ならびにその親権者、および依頼を受けたる職業および種類を、求職者住所地所轄警察署に届け出でをなさしめ、その届け出でありたるときは、保護措置を講ずるとともに、娼妓名簿登録申請および稼業年限延長申請に対しては特に慎重なる調査をなし、事情止むを得ざるものを除くのほか許可せざる方針を定めたり。

 右は娼妓名簿の登録を拒否したるものにあらずして、悪周旋業者の誘惑、父兄および本人の無自覚·虚栄等に出でたる者にして、いはれなく醜業に従事するの要なき婦女に対しては、適当なる職業を斡旋せんとするにほかならず。したがってこの方針採用後といへども、真に止むを得ざる者に対しては、娼妓名簿の登録をなしをれり。

 稼業年限の制限については、各疔府県ともこれが取り締まりを行ひつつあるところにし[て]、前借りの残存を理由として長く稼業に従事せしむるは好ましからざることなるによる。

 一、廃娼県の状況

  1.群馬県においては明治 24 年 9 月 12 日、廃娼を断行し、その後、明治 31 年 11 月 18 日、草刈知事時代、公娼を復活したるも、輿論これに反対し、復活後 7 日にして同知事は免官となり、後任古荘知事任官の当日、即ち同年 11 月 24 日付、再度、公娼を廃止今日に及べり。

  2.埼玉県においては明治五年廃娼令断行後、許可を受くることなく営業を続け、その後、白根県令に対し正式に営業許可の願ひ出でをなしたるところ、これを拒否せられたり。明治 9 年、熊谷県廃止せられて埼玉県に合併せられたる結果、本庄·深谷両町における貸座敷はそのまま存続せられたるところ、昭和 5 年 12 月 30 日、自発的廃業をなし、全県廃娼のこととなる。

  3.秋田県においては昭和 8 年 6 月 30 日、廃娼し、貸座敷営業者は料理屋、娼妓は酌婦に転向せり。

  4.長崎県においては、長崎市稲佐遊郭の料理屋転向を契機として、昭和 9 年 7 月 7 日、全県の廃娼を完了せり。

 一、地方議会における公娼制度廃止の議決

 地方議会において公娼制度廃止建議案を議決の上、これが意見書を提出せる府県左のごとし。

昭和 3 年 12 月通常議会  埼玉県 福島県 秋田県 福井県

昭和 4 年 12 月通常議会  新潟県

昭和 5 年 12 月通常議会  神奈川県 長野県

昭和 6 年 12 月通常議会  山梨県

昭和 7 年 12 月通常県会  岩手県 宮崎県

 なほ京都府は昭和 4 年 1 月、茨城県は昭和 6 年11月、同趣旨の提案ありたるも、賛成者少なく決議に至らず。

 一、娼妓最低年齢引上同盟

 現行内務省令娼妓取締規則は娼妓最低年齢を満 18 歳とせるに対し、1921 年の婦人およぴ児童売買禁止に関する国際条約(後出第四参照)第五条は、婦人の保護年齢を満 21 歳未満とす。故に娼妓最低年齢の「満 18 歳」を「満 21 歳」に改め、もって国際関係の権衡を得しむべしとの請願は、従来数次衆議院に提出せられたり。しかれども前記国際条約は、醜業婦の国際取引を防遏するを目的とするものにして、直接国内制度をその対象とするものにあらざるをもって、かれこれ一致せしむるを要するものにあらず。ことに娼妓年齢を引き上ぐるときは、その年齢に達せざる貧家の子女を駆りて私娼の群に入らしむこととなるべく、また却ってこれがためますます娼妓稼業廃止の年齢を晩れしむるのおそれなきにあらず。かたがた最低年齢を現在のままとし、保護·取り締まりを厚くし、弊害の芟除に努めんとす。

 一、婦人および児童売買禁止に関する国際条約関係

  1.1904 年 5 月、パリにおいて英、仏、独等欧州 12 ヶ国代表者の間に、醜業を行はしむるための婦女売買取り締まりに関する国際協定を議定し、次いで 1910 年、前示諸国ならびにブラジル国代表者の間に、醜業を営ましむるための婦女売買禁止に関する国際条約を締結したり。前者は国際的婦女売買に対する行政上の取り締まりを主眼とし、後者は主として該行為を犯罪として処罰すべきことを約す。

  2.対独平和条約第282条および国際連盟規約第33条の規定に基づき、1921 年、国際連盟理事会主催のもとに帝国をはじめ 34 ヶ国代表はジュネーブにおいて国際会議を開催して、婦人および児童売買禁止条約を締結し、1904 年の協定ならびに 1910 年の条約の趣旨を貫徹することとしたり。

  3.大正 14 年 9 月、前示婦人および児童売買禁止条約が枢府に諮詢せられたるに、枢府においては帝国が

(イ) 該条約において制限年齢を 21 歳と規定せるに対し、これに留保を附して 18 歳となし、

(ロ) 条約を実施せざる特殊地域として朝鮮、台湾および関東州を指摘して宣言し、後に樺太および委任統治地域を追加したるは、適当にあらざる旨の意見を付して可決したり。

 政府は枢密院の意見に顧みるところあり、1927 年 3 月、巴里に於て帝国全権をして年齢に関する留保を撤廃するの旨の宣言を為さしめたり。帝国は大正 14 年 10 月、1910 年の国際条約に加入し、その結果当然に 1904 年の国際協定に加入することとなりたり。

  4.連盟においては、前示禁遏条約の目的を達するため、婦人および児童売買委員会を置き、国際的婦人および児童売買事情の調査に当たらしめつつありしが、昭和 6 年 6 月、この委員会において選任したるベスコム·ジョンソン氏ほか 2 名の実地調査委員会が、東洋における実地調査のため本邦にも渡来し、帝国における醜業婦の国際的売買の実情を究め、なほ帝国内の売笑制度に関しても参考として調査する所あり、本年月、「日本に関する調査報告書」を帝国政府に寄せ、そのオブザーヴェションを求め来たれるが、政府においては 10 月 28 日、在ジュネーブ国際連盟婦人児童実地調査委員会に対し、そのオブザーヴェーションを送付せり。

 

13.東北地方に於ける婦女身売り防止に関する件

 社会局より東北六県に対し身売り防止に関し貸付金を送付したるをもって、別に警保局長運用に関し警察当局と社会事業団体当局および民間団体と連絡協議せしめ、これが目的を達成せしめ、これが目的を達成せしむる様、左記通牒を発せしめたり。

    左  記

警保局警発甲第一四六号
  昭和九年十一月二十日
          内務省警保局長

   関係庁府県長官殿
    (青森、岩手、宮城、秋田、山形、福島)

  婦女身売り防止に関する件

 凶作窮乏に伴ひ、いはゆる婦女身等[→売]等の弊売[→害]漸く滋からんとするの状勢にこれあり候ふところ、今般、社会局社会部長より、東北窮乏地方婦人の身売り防止および職業紹介に関し、別途通牒の次第もこれあり、右は極めて有効適切なる儀と存ぜられ候ふについては、これが運用に関し、警察当局は宜しく社会事業関係当局および民間諸団体と連絡強調しその目的達成に努むるとともに、取締り上ならびに措置等に当りては左記に依拠し、婦女身売り防止および保護につき遺憾なきを期せらる様いたいたし。

 追って本件に関し東北六県ほか各庁府県長官に対しては、各庁府県間、特に連絡協調を緊密にしてこれが目的達成に遺憾なきを期せらるる様、通牒いたし置き候ふ。念のため。

     記

一、芸娼妓·酌婦紹介営業者および営利職業紹介業者の取締りに関し、左の各項、特に注意すること。

イ、この際、営業者に対しては厳重なる警告を発し、求職者を勧誘し、または誇大虚偽なる言辞を弄し、あるいは紹介先を隠蔽し、不正なる契約書に捺印せしめ、あるいは白紙委任状を提出せしめ、後日、ほしいままに稼業先を記載し、あるいはこれを変更し、または被傭者の意思に反したる紹介等の行為をなさしめざること。

ロ、違法行為ありたるときは厳重なる処罰をもって臨み、場合によりては営業禁止または許可の取消をなし、または契約書·承諾書等の偽造変造、営利誘拐、不法監禁等の非違に対しては、司法事件として送致すること。

ハ、常に営業者の臨検視察を行ひ、違法行為なからしむるとともに、紹介中のものに対する視察を厳にし、身売り婦女を発見したるときは事前に保護措置を講ずること。

一、芸娼妓、酌婦の願出でに対する許否に当りては、左の点に留意すること。

芸娼妓 酌婦たらんとする理由、および本人の意思に出たるものなるや、父母の強制または紹介営業者の勧誘によるにあらずや、および契約の内容を詳細聴取し、漫然許可または登録をなすことなく、他の正当なる商業の斡旋等、これが保護措置を講ずること。

一、戸口査察、臨検視察に当りては、婦女身売りの事実の発見に努め、これを発見したるときは、その家庭事情を詳細調査し、父兄の強制に出でたるにあらざるや、または営業者の勧誘によるものにあらざるやを探求し、父兄または保護者に対し必要なる前借金額およびその使途を訊し、かつ身売り後の結果を諭示して反省を求め、出郷のやむを得ざるものに対しては、正当なる職業に就く様、その各場合により適当なる保護措置を講ずること。

一、移動警察はこの際、不正紹介による婦女移送ならびに誘拐防止、または不法監禁等に対し列車中の検索を行ふこと。

一、各庁府県間、本件目的達成上、諸般の事項につき相互連絡·協調を保ち、遺憾なからしむること。

一、各種社会施設と協力し、これが防止に積極的方策を講ずるとともに、婦女に正当なる職業の斡旋方につき処置を講ずること。

一、一般に貞操観念を蔑視するがごとき悪習の矯正を図るがため、公共団体、教化団体等の活動を促し、これと協調して適当なる方法を講ずること。

 

https://www.digital.archives.go.jp/img/1035120 1/88

第六十七議會参考資料

     警保局警務課

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第六十七議會参考資料目次

 

https://www.digital.archives.go.jp/img/1035120 3/88 右

一二.公娼制度に関する件

一三、東北地方に於ける婦女売買

 

https://www.digital.archives.go.jp/img/1035120 54/88 左

一二、公娼制度に関する件

 一、議会関係

  1.公娼制度の制限又は廃止に関する法律案の沿革

第五十議会に於ては衆議院議員松山常次郎君提出、第五十二議会に於ては衆議院議員松山常次郎君外五名提出、第五十六議会派に於ては衆議院議員安倍磯雄郎君外三名提出、第五十八議会に於ては衆議院議員三宅磐君外六名提出の各法律案は何れも衆議院に於て否決、審議未了、日程に上りたるも院議に附するに至らざりしものなり。

第五十九議会に於ては衆議院議員三宅磐君外十名提出

 

https://www.digital.archives.go.jp/img/1035120 55/88 右

公娼制度廃止に関する法律案は衆議院に於て委員会附託となり委員会に於ては之を否決したるも其の際「政府は笑婦に関する調査会を設け速に其の対策を樹立すべし」との希望決議を為し同院本会議に於ては右希望決議に触るることなくして該法律案を否決したり。

  2.法律案

第五十議会(大正十四年 同十五年)提出法律案(衆議院否決)
「何人と雖も新に娼妓と為り又は娼妓稼の為にする貸座敷営業を為すことを得ず」

第五十二議会(大正十五年 昭和二年)提出法律案(審議未了)

 

https://www.digital.archives.go.jp/img/1035120 55/88 左

第一条 何人と雖新に娼妓稼の為にする貸座敷営業を為すことを得ず
現に右営業を為せる者は本法施行の前に於ける娼妓の数を増加することを得ず
第二条 何人と雖昭和七年五月一日より娼妓稼を為し又は娼妓稼の為にする貸座敷営業を為すことを得ず
第三条 娼妓稼の為にする貸座敷営業に対しては前条に依り右営業を廃止せる際勅令の定むる所に依り補償するものとす

第五十六議会(昭和三年 同四年)提出法律案(衆議院否決)
第一条 何人と雖新に娼妓稼の為にする貸座敷営業を為すことを得ず

 

https://www.digital.archives.go.jp/img/1035120 56/88 右

第五十八義会(昭和五年)提出法律案
(日程に上りたるも院議に附するに至らず)
第一条 何人と雖も新に娼妓名簿に登録し又は娼妓稼の為にする貸座敷営業を為すことを得ず
第二条 本法施行の際現に娼妓たり又は娼妓稼の為にする貸座敷営業を為せる者は昭和十年五月一日より之を為すことを得ず

第五十九議会(昭和五年 同六年)提出法律案(衆議院否決)
第一条 何人と雖も新に娼妓名簿に登録し又は娼妓稼の為にする貸座敷営業を為すことを得ず

 

https://www.digital.archives.go.jp/img/1035120 56/88 左

 一、政府の意見

我国公娼制度は保安並に衛生上の理由に基く歴史的存在なり所謂遊郭業者は昭和八年末現在に於て一万二百八十一人 娼妓数四万九千三百二人 貸座敷雇人は其の数二万六千二百七人を算す

公娼制度の存することは主義として歓迎すべきことに非ず政府に於ても公娼廃止に関する適当なる善後対策を得るに於ては必ずしも現制度を保持せんとするものに非ず依て政府に於ては公娼制度に対し善処するが為諸般の事情を参酌し目下慎重審議研究中に属す

 

https://www.digital.archives.go.jp/img/1035120 57/88 右

 一、公娼廃止の理由

若し政府が公娼を廃止するとせば其の理由左の如し

イ、国家が規則を設けて娼妓の存在を認むるは社会風教上乃至は人道上よりして好ましからざる処にして政府は曩に明治三十三年娼妓取締規則制定の当初貸座敷の新設、移転、拡張に対し消極的方針を採り貸座敷免許地は従来の儘据置き将来新設移転もしくは拡張の場合は内務大臣に稟伺を求めることとせり、之かかる存在を最少限度に止めむとするの拒否態度の宣明に外ならず其の後文運の進展に伴ひ社会悪たる売淫を公許するは人倫

 

https://www.digital.archives.go.jp/img/1035120 57/88 左

大本たる男女道徳観念を弛緩せしめ延て婦女売買を促し之が公許は然るべからざる状態に立ち至れり

ロ、現在我国の醜業に従事せるものの数は公娼に数倍せる状況なり醜業婦の存在は素より望ましき事に非ず之が絶滅を期することを以て理想とするも実際の状況よりすれば之を絶滅掃蕩するを得ざるは世界其の軌を一にする処なりとす

然るに我国が公娼及私娼の二を有することは意義極めて尠く蓋ろ其の多数たる私娼の一元に統一し社会悪として最小限度の存在たらしむるに然からざるなり

 

https://www.digital.archives.go.jp/img/1035120 58/88 右

ハ、公娼制度を廃止する場合と雖も花柳病予防成績の低下せざる様措置すべきは勿論にして之が廃止に依り花柳病の蔓延を将来するが如き虞なからしむべきを以て花柳病防止の理由を以て公娼制度を存置せむとするの議論は其の理由乏し

 

https://www.digital.archives.go.jp/img/1035120 58/88 左

 一、山形県の状況

山形県に於ては婦女売買防止の徹底を期するが為芸妓、娼妓、酌婦等紹介営業取締規則を改正し紹介業者紹介の依頼を受けたる時は其の都度求職者並に其の親権者及依頼を受けたる職業及[?]種類を求職者住所地所轄警察署に届出をなさしめ其の届出ありたるときは保護措置を講ずると共に娼妓名簿登録申請及稼業年限延長申請に対しては特に慎重なる調査を為し事情止むを得ざるものを除くの外許可せざる方針を定めたり

右は娼妓名簿の登録を拒否したるものに非ずして悪周旋業

 

https://www.digital.archives.go.jp/img/1035120 59/88 右

者の誘惑父兄及本人の無自覚、虚栄等に出でたる者にして謂れなく醜業に従事するの要なき婦女に対しては適当なる職業を斡旋せんとするに外ならず従て此方針採用後と雖真に止むを得ざる者に対しては娼妓名簿の登録を為し居れり

稼業年限の制限に付ては各疔府県共之が取締を行ひつつある処にし前借の残存を理由として長く稼業に従事せしむるは好ましからざることなるに依る

 一、廃娼県の状況

  1.群馬県に於ては明治二十四年九月十二日廃娼を断行し其の後明治三十一年十一月十八日草刈知事時代公娼を復活

 

https://www.digital.archives.go.jp/img/1035120 59/88 左

したるも輿論之に反対し復活後七日にして同知事は免官となり後任古荘知事任官の当日即ち同年十一月二十四日付再度公娼を廃止し今日に及べり

  2.埼玉県に於ては明治五年廃娼令断行後許可を受くることなく営業を続け其の後白根県令に対し正式に営業許可の願出を為したる処之を拒否せられたり 明治九年熊谷県廃止せられて埼玉県に合併せられたる結果本庄深谷両町に於ける貸座敷は其の儘存続せられたる処昭和五年十二月三十日自発的廃業を為し全県廃娼のこととなる

  3.秋田県に於ては昭和八年六月三十日廃娼し貸座敷営業者

 

https://www.digital.archives.go.jp/img/1035120 60/88 右

は料理屋娼妓は酌婦に転向せり

  4.長崎県に於ては長崎市稲佐遊郭の料理屋転向を契機として昭和九年七月七日全県の廃娼を完了せり

 一、地方議会に於ける公娼制度廃止の議決 地方議会に於て公娼制度廃止建議案を議決の上之が意見書を提出せる府県左の如し

昭和三年十二月通常議会  埼玉県 福島県 秋田県 福井県

昭和四年十二月通常議会  新潟県

昭和五年十二月通常議会  神奈川県 長野県

昭和六年十二月通常議会  山梨県

 

https://www.digital.archives.go.jp/img/1035120 60/88 左

昭和七年十二月通常県会  岩手県 宮崎県

京都府は昭和四年一月茨城県は昭和六年十一月同趣旨の提案ありたるも賛成者少く決議に至らず

 一、娼妓最低年齢引上同盟

現行内務省令娼妓取締規則は娼妓最低年齢を満十八歳とせるに対し千九百二十一年の婦人及児童売買禁止に関する国際条約(後出第四参照)第五条は婦人の保護年齢を満二十一歳未満とす故に娼妓最低年齢の「満十八歳」を「満二十一歳」に改め以て国際関係の権衡を得しむべしとの請願は従来数次衆議院に提出せられたり然れども前記

 

https://www.digital.archives.go.jp/img/1035120 61/88右

国際条約は醜業婦の国際取引を防遏するを目的とするものにして直接国内制度を其の対象とするものに非ざるを以て彼是一致せしむるを要するものに非ず殊に娼妓年齢を引上ぐるときは其の年齢に達せざる貧家の子女を駆りて私娼の群に入らしむこととなるべく又却て之が為益々娼妓稼業廃止の年齢を晩れしむるの虞なきに非ず旁々最低年齢を現在の儘とし保護取締を厚くし弊害の芟除に努めんとす

 一、婦人及児童売買禁止に関する国際条約関係

  1.千九百四年五月巴里に於て英、仏、独等欧州十二ヶ国代

 

https://www.digital.archives.go.jp/img/1035120 61/88 左

表者の間に醜業を行はしむる為の婦女売買取締に関する国際協定を議定し次で千九百十年前示諸国並に伯利[ママ]西爾国代表者の間に醜業を営ましむる為の婦女売買禁止に関する国際条約を締結したり前者は国際的婦女売買に対する行政上の取締を主眼とし後者は主として該行為を犯罪として処罰すべきことを約す

  2.対独平和条約第二百八十二条及国際連盟規約第三十三条の規定に基き千九百十二十一年国際連盟理事会主催の下に帝国を始め三十四ヶ国代表は寿府に於て国際会議

 

https://www.digital.archives.go.jp/img/1035120 62/88 右

を開催して婦人及児童売買禁止条約を締結し千九百四年の協定並に千九百十年の条約の趣旨を貫徹することとしたり

  3.大正十四年九月前示婦人及児童売買禁止条約が枢府に諮詢せられたるに枢府に於ては帝国が

(イ) 該条約に於て制限年齢を二十一歳と規定せるに対し之に留保を附して十八歳と為し

(ロ) 条約を実施せざる特殊地域として朝鮮台湾及関東州を指摘して宣言し後に樺太委任統治地域を追加したるは適当に非ざる旨の意見を附して可決したり

 

https://www.digital.archives.go.jp/img/1035120 62/85 左

政府は枢密院の意見に顧みる所あり千九百十二十七年三月巴里に於て帝国全権をして年齢に関する留保を撤廃するの旨の宣言を為さしめたり 帝国は大正十四年十月一九一〇年の国際条約に加入し其の結果当然に一九〇四年の国際協定に加入するすることとなりたり

  4.連盟に於ては前示禁遏条約の目的を達する為婦人及児童売買委員会を置き国際的婦人及児童売買事情の調査に当らしめつつありしが昭和六年六月此の委員会に於て選任したる ベスコム、ジョンソン氏外二名の実地調査委員会が東洋に

 

https://www.digital.archives.go.jp/img/1035120 63/88 右

於ける実地調査の為本邦にも渡来し帝国に於ける醜業婦の国際的売買の実情を究め尚帝国内の売笑精度に関しても参考として調査する所あり本年九月「日本に関する調査報告書」を帝国政府に寄せ其のオブザーヴエションを求め来れるが政府に於ては十月二十八日在ジユネーブ国際連盟婦人児童実地調査委員会に対し其のオブザーヴエシヨンを送付せり

 

https://www.digital.archives.go.jp/img/1035120 63/88 左

一三、東北地方に於ける婦女身売防止に関する件

社会局より東北六県に対し身売防止に関し貸付金を送付したるを以て別に警保局長より之が運用に関し警察当局と社会事業団体当局及民間団体と連絡協議せしめ之が目的を達成せしめ之が目的を達成せしむる様左記通牒を発せしめたり

    左  記

警保局警発甲第一四六号

  昭和九年十一月廿日

          内務省警保局長

 

https://www.digital.archives.go.jp/img/1035120 64/88 右

   関係庁府県長官殿
    (青森、岩手、宮城、秋田、山形、福島)

  婦女身売防止に関する件

凶作窮乏に伴ひ所謂婦女身等[ママ]等の弊売[ママ]漸く滋からんとするの状勢に有之候処今般社会局社会部長より東北窮乏地方婦人の身売防止及職業紹介に関し別途通牒の次第も有之右は極めて有効適切なる儀と存ぜられ候に付ては之が運用に関し警察当局は宜く社会事業関係当局 及 民間諸団体と連絡強調し其の目的達成に努むると共に 取締上 並に措置等に当りては左記に依拠し婦女身売防止 及 保護に付遺憾なきを期せらる様致度

 

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追而本件に関し東北六県外各庁府県長官に対しては各庁府県間特に連絡協調を緊密にして之が目的達成に遺憾なきを期せらるる様通牒致置候為念

     記

一、芸娼妓、酌婦、紹介営業者 及 営利職業紹介業者の取締に関し左の各項特に注意すること

イ、此際営業者に対しては厳重なる警告を発し求職者を勧誘し又は誇大虚偽なる言辞を弄し 或[は]紹介先を隠蔽し、不正なる契約書に捺印せしめ 或は白紙委任状を提出せしめ 後日 擅に稼業先を記載し 或は之を変更し 又は被傭者の意思に

 

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反したる紹介等の行為を為さしめざること

ロ、違法行為ありたるときは厳重なる処罰を以て臨み場合に依りては営業禁止 又は許可の取消を為し 又は契約書 承諾書等の偽造変造 営利誘拐 不法監禁等の非違に対しては司法事件として送致すること

ハ、常に営業者の臨検視察を行ひ 違法行為なからしむると共に紹介中のものに対する視察を厳にし 身売婦女を発見したるときは事前に保護措置を講ずること

一、芸娼妓、酌婦の願出に対する許否に当りては左の点に留意すること

芸娼妓 酌婦たらんとする理由 及 本人の意思に出たるもの

 

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なるや 父母の強制 又は紹介営業者の勧誘に依るに非ずや 及 契約の内容を詳細聴取し 漫然許可 又は登録を為すことなく 他の正当なる商業の斡旋等 之が保護措置を講ずること

一、戸口査察 臨検視察に当りては婦女身売の事実の発見に努め 之を発見したるときは 其の家庭事情を詳細調査し 父兄の強制に出たるに非ざるや 又は営業者の勧誘に依るものに非ざるやを探求し 父兄 又は保護者に対し 必要なる前借金額 及 其の使途を訊し 且 身売後の結果を諭示して反省を求め 出郷の已むを得ざるものに対しては正当なる職業に就く様 其の各場合により適当なる保護措置を講ずること

 

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一、移動警察は此際 不正紹介による婦女移送 並に誘拐防止 又は不法監禁等に対し列車中の検索を行ふこと

一、各庁府県間 本件目的達成上 諸般の事項に付 相互連絡 協調を保ち遺憾なからしむること

一、各種社会施設と協力し 之が防止に積極的方策を講ずると共に 婦女に正当なる職業の斡旋方に付 処置を講ずること

一、一般に貞操観念を蔑視するが如き悪習の矯正を図るが為 公共団体 教化団体等の活動を促し 之と協調して適当なる方法を講ずること

 

↑「第67議会参考資料」JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.A05020188000、種村氏警察参考資料第48集国立公文書館 平9警察00730100)