「在朝鮮国日本公使館」用箋
次官【林董】
二十七年十二月二十六日接受 主管 政務局【本野】
【発第 129 号】 受第 14943
東学党鎮圧の模様報告
本年八、九月の交より慶尚、全羅、忠清の各道において東学於党再起、次第に蔓延し漸く京城に迫らんとするも、当国政府がこれを制御する能はざるにより、その鎮圧方を我に依頼越し候ふ義についてはすでに電信または公信をもって報告に及び置き候ふところ、爾来、当分の間は当国政府より請求ある毎に我においてその援急を量り韓兵の救援として若干あて追々出兵いたし候へども、その後、仁川伊東兵站司令官と協議を遂げ、これがため特に派遣せられたる後備一大隊を三路に分け進勦中にこれあり候ふ。しかるに今回群起の東学党には、単に地方官の貪虐を憤り暴挙に及ぶものあり、あるいは当国政府大小諸侯中、陰険の手段をもってこれを教唆し、牙山敗余の清兵またその中に加はり、日本人を斥逐し日本兵を攻撃せんと声言し、良民を脅従せしめ、暴威を逞しふする等、種々のもの胚胎いたしをると認め候ふにつき、これら勦滅についても徒らに脅従の人民を殺戮するより、むしろ巨魁らを捕獲し、その根源を審究勦絶すること最も緊要と相考へ、出征の各隊長へ右の趣意を訓逹し、勦討に従事せしめ候ふところ、その後、東学党は意外に猖獗し、したがって討すればしたがって集まり、その衆また万をもって数ふるほどにて、かつ不完全ながら、かつて韓兵の遺留したる洋式の鉄砲を奪ひ、あるいは火縄銃、木砲を携帯いたしをり、通常の竹槍、席旗の族と同一視し難きとこりろもこれあるにかかはらず、各隊長ら奪属?し追々これを掃蕩し、務めて生民の害を除き、ことに各隊長らにおいてもよく本使の旨意をし、務めて過酷の所為に陥るを避け候ふ結果、別紙写しの通り被害地方官民中、自然、我が善隣の好意を通暁し、我が軍隊の威徳に感服候ふ模様相見え候ふ段、本使においても満足の義にこれあり、よって別紙相添へ、この段、具報候ふなり。
明治廿七年十二月二十日
特命全権公使 伯爵 井上馨
【在朝鮮国特命全権公使】
「日本公使館」用箋
写し
敬啓者､刻接忠清道観察使朴牒称日本陸軍歩兵少尉鈴木彰､駐防本営､頗有著労､現擬招募土兵教練陸操､擬請本衙門照知日本駐京大目転飭該少尉仍駐本営､凡防守習操時宜帮同弁理､並定限期俾該少尉得以安心久駐､寔為公便等因､拠此､営処南隘､値匪徒閃忽之時､練軍防守尤宜致力､際茲 貴歩兵大尉帯旅来駐､全著頼貴､可作長城､該観察使牒請久駐､寔為特無恐之起見､尚望 貴伯爵公使照諒迅即礼行該少尉仍令紮駐務著終効､至所祷聁､耑此､順頌 冬安､
金允植 花押
甲午十月二十五日
「日本公使館」用箋
写し
仁川より応援として派遣の中隊は洪州にあり、海美方面に逃れたる賊の再挙を図るを知り、去る五日、賊数百名を捕へ五十余名を斃す。この枝隊は九日、洪州に帰り、しぱらくこの地に滞在せしめ、付近の急に応ぜしめ、中隊は十日、洪州を発し、海美瑞山を経て泰安に至り、該地方の義勇兵を召集し、賊を半島に圧し込め、数百名を捕へ三十名を斃す。首魁は悉く縛に就き、あるいは斃る。故に将来、この方面の賊は再び起るの患ひなかるべし。泰安より海美に至る地方は、官民ともに我が軍隊を労らひ、天幕を張り、あるいは小屋を設け酒肴を供し、庶民は自ら荷物の運搬に従事し、これを名誉とするもののごとく、大いに我が軍の威徳に感ぜり。右、十四日徳山発、山村中隊長の報告、ただ今達せり。
十二月十七日午後七時 仁川 伊藤中佐発電
京城 井上公使
「在朝鮮國日本公使館」用箋
次官【林董】
廿七年十二月廿六日接受 主管 政務局【本野】
【發苐一二九號】 受第一四九四三
東學党鎮壓ノ模様報告
本年八九月ノ交ヨリ慶尚全羅忠清ノ各道ニ於テ东學党再起次㐧ニ蔓延シ渐ク京城ニ迫ラントスルモ當国政府之力之ヲ制禦スル能ハサルニヨリ其鎮壓方ヲ我ニ依頼越シ候義ニ付テハ既ニ電信又ハ公信ヲ以テ及報告置ヽ[=候]䖏尓來當分ノ間ハ當国政府ヨリ請求アル毎ニ我ニ於テ其援急ヲ量リ韓兵ノ救援トシテ若干宛追〻出兵致ヽ[=候]ヘ共其後仁川伊東兵站司令官ト𫝓議ヲ遂ケ之ガ为メ特ニ派遣セラレタル後備一大隊ヲ三路ニ分ケ進勦中ニ有之候然ルニ今囬羣起ノ東学党ニハ単ニ地方官ノ貪虐ヲ憤リ暴挙ニ及フモノアリ或ハ當国政府大
小諸侯中陰険ノ手段ヲ以テ之ヲ教唆シ牙山敗餘ノ清兵亦其中ニ加ハリ日本人ヲ斥逐シ日本兵ヲ攻撃セント聲言シ良民ヲ脅従セシメ暴威ヲ逞シフスル等種〻ノモノ胚胎致シ居ルト認メ候ニ付 此等勦滅ニ付テモ徒ラニ脅従ノ人民ヲ殺戮スルヨリ寧ロ巨魁等ヲ捕獲シ其根源ヲ審究勦絶スルヿ[=コト]最モ紧要ト相考ヘ出征ノ各隊長ヘ右ノ趣意ヲ訓逹シ勦討ニ従事セシメ候䖏其後東学党ハ意外ニ猖獗シ随テ討スレバ随テ集リ其衆亦萬ヲ以テ数フル程ニテ且ツ不完全ナカラ嘗テ韓兵ノ遺畄シタル洋式ノ鉄砲ヲ奪ヒ或ハ火縄銃木砲ヲ携帶致シ居リ通常ノ竹槍席旗ノ族ト同一視シ難キ䖏モ有之ニ拘ラズ各隊長等奪属?シ追〻之ヲ掃蕩シ務メテ生
民ノ害ヲ除キ殊ニ各隊長等ニ於テモ克ク本使ノ旨意ヲ体シ務メテ過酷ノ所为ニ陥ルヲ避ケ候結果別紙冩ノ通リ被害地方官民中 自然我善鄰ノ好意ヲ通暁シ我軍隊ノ威徳ニ感服候模様相見ヘ候段 本使ニ於テモ満足ノ義ニ有之依テ別紙相添此段 具報候也
明治廿七年十二月廿日
特命全権公使伯爵井上馨
【在朝鮮國特命全權公使】
「日本公使館」用箋
寫
敬啟者､刻接忠清道觀察使朴牒称日本陸軍歩兵少尉鈴木彰､駐防本営､頗有著労､現擬招募土兵教練陸操､擬請本衙門照知日本駐京大目轉飭該少尉仍駐本営､凡防守習操時宜帮同辨理､並定限期俾該少尉得以安心久駐､寔為公便等因､據此､営處南隘､値匪徒閃忽之時､練軍防守尤宜致力､際茲 貴歩兵大尉帶旅來駐､全著頼貴､可作長城､該觀察使牒請久駐､寔為特無恐之起見､尚望 貴伯爵公使照諒迅即礼行該少尉仍令紮駐務著終效､至所禱聁､耑此､順頌 冬安､
金允植 花押
甲午十月二十五日
「日本公使館」用箋
寫
仁川ヨリ応援トシテ派遣ノ中隊ハ洪州ニアリ海美方面ニ逃レタル賊ノ再挙ヲ図ルヲ知リ去ル五日賊数百名ヲ捕ヘ五十餘名ヲ斃ス此枝隊ハ九日洪州ニ帰リ暫ク此の地ニ滯在セシメ附近ノ急ニ応セシメ中隊ハ十日洪州ヲ發シ海美瑞山ヲ経テ泰安ニ至リ該地方の義勇兵ヲ召集シ賊ヲ半島ニ壓シ込メ数百名ヲ捕ヘ三十名ヲ斃ス首魁ハ悉ク縛ニ就キ或ハ斃ル故ニ将来此ノ方面ノ賊ハ再ヒ起ルノ患ナカルヘシ泰安ヨリ海美ニ至ル地方ハ官民共ニ我軍隊ヲ労ラヒ天幕ヲ張リ或ハ小屋ヲ設ケ酒肴ヲ供シ庶民ハ自ラ荷物ノ運搬ニ従事シ之ヲ名譽トスルモノヽ如ク大ニ我軍ノ威德ニ感セリ右十四日德山發山村中隊長ノ報告只今達セリ
十二月十七日午後七時 仁川 伊藤中佐発電
京城 井上公使
「分割５」JACAR（アジア歴史資料センター）Ref.B08090159200、韓国東学党蜂起一件（外務省外交史料館 5-3-2-0-5）
