機密戦争日誌 第十五課
昭和16年12月8日
一、午前七時、臨時ニュースをもつて帝国陸海軍は本八日未明、西太平洋において米英軍と戦闘状態に入れる旨、大本営陸海軍部発表あり。
二、第二十五軍の南タイ急襲上陸、海軍のハワイに対する大戦略奇襲成功。ここに歴史的戦争、急襲成る。
三、早朝より枢密院会議。
宣戦布告に関する件、十一時三十七分御裁可、十一時四十分公布、同時、ラジオをもつて放送。ここに対米英蘭戦争発起せらる。
四、右ラジオ放送に引き続き、大詔を拝してと題し、東条内閣総理大臣は全国民に対し、勝利は常に御稜威の下にある旨を述ぶ。
午後〇時二十分、政府声明、引き続き日米交渉の経緯に関する外務省発表、ラジオにより放送す。
かくて全国民の血は湧き肉躍る。
五、午後二時、陸海軍大臣を宮中に召され、陸海軍人に対し優渥なる勅語を賜ふ。
午後二時三十分、部内全員集合、宣戦の詔書および右勅語の捧読式、終つて伊勢神宮に遥拝す。一同、尽忠報公の決意ここに新たなるものあり。
六、泰首相ピブンは逃避せりと言ひ、東部国境にありとも言ひ、明らかならず。
坪上大使、一時五十分、最後的通牒を交付せるに、三時に至るも回答なし。軍は三時三十分、進駐に決せるがごとし。
午後に至り日タイ了解成り、友好的に進駐す。
七、三時三十分、第三十八師団は香港攻撃を開始し、十一時、租界進駐を行ふ。
すべて予定計画通りなり。
八、午後八時四十五分、ハワイ急襲の大戦果発表、戦艦二撃沈、同四大破、大巡四大破。午後九時、比島に対する空襲の戦果発表、撃墜百に及ぶ。
九、戦争第一日を送るにあたり、作戦の急襲と言ひ、全国民戦意の昂揚と言ひ、理想的戦争発起の成功せるを確信し、戦争指導班として感激感謝の念、尽きざるものあり。
しかれども戦争の終末をいかに求むべきや、これ本戦争最大の難事、神人一如の境地において始めてこれが完きを得ベきかな。
一〇、帝国全土に防空下令せらる。
機密戰爭日誌 第十五課
昭和16年12月 8 日
一、午前七時 臨時「ニュース」ヲ以テ
帝國陸海軍ハ本八日未明 西太平洋ニ於テ米英軍ト戰鬪狀態ニ入レル旨 大本營陸海軍部發表アリ
二、第二十五軍ノ南泰急襲上陸 海軍ノ「ハワイ」ニ對スル大戰略奇襲成功 茲ニ歴史的戰爭 急襲成ル
三、早朝ヨリ樞密院會議
宣戰布告ニ關スル件 十一時三十七分 御裁可 十一時四十分公布 同時「ラジオ」ヲ以テ放送 茲ニ對米英蘭戰爭發起セラル
四、右「ラジオ」放送ニ引續キ 大詔ヲ拜シテト題シ 東條内閣總理大臣ハ全國民ニ對シ 勝利ハ常ニ御稜威ノ下ニ
在ル旨ヲ述ブ
午後〇時二十分 政府聲明 引續キ日米交渉ノ經緯ニ關スル外務省發表 「ラジオ」ニ依リ放送ス
斯クテ全國民ノ血ハ湧キ肉躍ル
五、午後二時 陸海軍大臣ヲ宮中ニ召サレ 陸海軍人ニ對シ優渥ナル勅語ヲ賜フ
午後二時三十分 部内全員集合 宣戰ノ詔書 及 右勅語ノ捧讀式 終ツテ伊勢神宮ニ遙拜ス 一同 盡忠報公ノ決意 茲ニ新ナルモノアリ
六、泰首相「ピブン」ハ逃避セリト言ヒ 東部国境ニ在リト
モ言ヒ明カナラス
坪上大使 一時五十分 最後的通牒ヲ交付セルニ 三時ニ至ルモ囘答ナシ 軍ハ三時三十分 進駐ニ決セルカ如シ
午後ニ至リ日泰諒解成リ 友好的ニ進駐ス
七、三時三十分 第三十八師團ハ香港攻擊ヲ開始シ 十一時 租界進駐ヲ行フ
總テ豫定計畫通リナリ
八、午後八時四十五分 「ハワイ」急襲ノ大戰果發表 戰艦二撃沈 同四大破 大巡四大破 午後九時 比島ニ對スル空襲ノ戰果發表 擊墜一〇〇ニ及ブ
九、戰爭第一日ヲ送ルニ方リ 作戰ノ急襲ト言ヒ 全國民戰意
ノ昂揚ト言ヒ 理想的戰爭發起ノ成功セルヲ確信シ 戰爭指導班トシテ感激感謝ノ念 盡キサルモノアリ
然レトモ戰爭ノ終末ヲ如何ニ求ムヘキヤ 是 本戰爭最大ノ難事 神人一如ノ境地ニ於テ始メテ之カ完キヲ得ベキ哉
一〇、帝國全土ニ防空下令セラル
↑機密戦争日誌 其4 自昭和16年12月8日至昭和17年12月7日
昭和16年12月 機密戦争日誌 https://www.jacar.archives.go.jp/das/image/C12120319900