Ob-La-Di Oblako 文庫

帝国日本の侵掠戦争と植民地支配、人権蹂躙を記憶し、再現を許さないために、ひたすら文書資料を書き取る。姉妹ブログ「歴史を忘れる民族に未来はない!」https://obladioblako.hateblo.jp/ のデータ·ベースを兼ねる。

廃娼運動と福原遊廓 『福原遊廓沿革誌』より 1919.


f:id:ObladiOblako:20211006112042j:image

   廃娼問題と福原遊廓

 公娼に関する問題が、帝国議会に上程された最初は大正八年で、東京府選出の故横山勝太郎代議士の「公娼制度の存廃菜に関する質問主意書」がそれであって、第二回目は大正十二年に、松山常次郎、星島二郎両代議士外一名が提出者となり「消失遊廓再興不許可に関する建議案」である。ここに云う消失遊廓とは、関東大震災によって新吉原と洲崎の両遊廓が焼失したるを機とし、之を再興せしむべからずという趣旨から此の建議案が提出されたのである。

 爾来、帝国議会へは毎年の年中行事として所謂廃娼法律案乃至決議案等が提出上程されつつあるが、福原遊廓に於ては当時の正副取締塩谷元蔵、宇津七郎の両氏は、全国の貸座敷業者は一致団結して廃娼運動に対抗し、以て業界業者の権益の擁護と伸張とを画すべきであるとて、本部を東京新吉原に置く全国貸座敷連合会を鞭撻して全国の業者へ飛檄せしむると共に、明治三十五年頃創設され、五六年は業界のために働いたのみで、後中絶していた兵庫県貸座敷連合会を再興し、全国連合会の一細胞として有力なる活躍せん事を企図し、更に営業振の改善を督励し、新時代に最も応わしき公娼制度の樹立を叫びて廃娼運動に拮抗するなど、塩谷、宇津両氏の活躍と活動は真に目ざましく、着々と実効を収めて全国の業界より福原遊廓は畏敬され感謝をされ、兵庫県連合会は、東京大阪の両連合会と相鼎立して全国業界の礎石をなしているのである。因に初代以来の兵庫県貸座敷連合会長の氏名は左の通りである。

   第一次会長       友成徳次郎氏

   第二次会長       門脇常三郎氏

   第三次会長(大正十年) 宇津七郎氏

   第四次会長(昭和三年) 山村安平氏


f:id:ObladiOblako:20211006112107j:image

   全国貸座敷連合会総会を神戸市に開く

 当時、全国貸座敷連合会に於て総会を開催すること既に三回に及ぶと雖も、之までの総会は本部の所在地たる東京市に於てのみ開催せられ、四五百名内外の業者が集まって業界の権益擁護と其の伸張、並に共存共栄の具体策に就て議したので、名は全国連合会であっても出席せぬ地方も可なりにあったのである。ところが大正十三年の二月、東京新吉原遊廓事務所に於て支部長代表者会議が開かかれた時、本部の最高幹部より、第四回総会を神戸市に開催したき希望を漏らされたので、折柄会議に出席上京した宇津七郎氏と山村安平氏とは相談の上これを快諾氏、福原遊廓が主体となり兵庫県貸座敷連合会の主催で神戸市で開催することになった。神戸で開く以上、殊に福原遊廓に於て万事の切盛りをするとあっては、従来の大会よりも多くの会員を出席させたい。全国各地の業界よりあまねく出席者を集め、少なくとも千名の出席会員によって気勢をあげ以て総会をして有始有終の美を飾らしめたいと、組合幹部の心労と奔走とは実に言語に絶するものがあり、且つは地方で開く全国大会の範となる意味に於て万遺漏なき準備が整えられたのである。

 第四回全国貸座敷連合会総会は大正十三年四月二十四、二十五、二十六の三日間を期し兵庫県会議事堂に於て開催された。会するもの一道三府三十五県より千余名、遠く朝鮮、満洲、台湾、樺太の地より遥々と馳せ参じ業界業者の共存共栄に就て画策協議を重ね、真に全国総会の名に副うて意義ある総会を開催することが出来、組合幹部の不眠不休の努力と活動は完全に酬いられた。其の熱誠がここに実を結んで爾後の大会に千余名の出席会員の集まる素地を作ると共に、総会開催に関する寄与ともなった。因に兵庫県連合会より総会に提出した議案は次の通りである

一、営業の統一

二、稼業契約の統一

三、娼妓の雇傭契約、前借金の返済方法、娼妓の休養

四、産児の保護

五、火災の相互保険

 第三日の四月二十四日、総会出席者の懇親と慰安のため白砂青松水清き舞子公園に於て大規模の園遊会を開き、左記の諸氏が其の部署に就て接待に、歓待にこれ努め、鯛網、模擬店、各種の余興に終日の歓を尽して大好評大喝采裡に園遊会を終了し、目出度く第四回総会の幕を閉じたのであるが、福原遊廓にては其の予後、娼妓の産児を保育するに最大の努力と犠牲を払いつつ天下にその範を垂れている。

 

国文学研究資料館 近代書誌・近代画像データベース 『福原遊廓沿革誌』https://base1.nijl.ac.jp/infolib/meta_pub/sresult

http://school.nijl.ac.jp/kindai/OSON/OSON-00072.html#52 ~

http://school.nijl.ac.jp/kindai/OSON/OSON-00072.html#55