昭和十一年中に於ける在留邦人の特種婦女の状況およびその取り締まり（在上海総領事館警察署沿革誌による）
一､芸妓
昭和十一年末現在における料理店兼置屋数二十四軒、芸妓の数百四十五名にして、前年に比し軒数において増減なきも芸妓十名減少し、また芸妓の総揚高において、昭和十年の三十六万八千七百八ドルに対し、昭和十一年は三十四万三千七十四ドルにして、前年に比し二万五千六百三十四弗の減少を示せり。しかるに日支経済提携問題の抬頭、生産物価漸騰等により、紡績その他商社方面の取引活況を呈し、十一日[→月?]以来はこれら花街方面にも影響し、頓に好況時代を現出するに至れり。芸妓の大部分は家計不如意に因さるよ者、または幼少より仕込として抱へらるる者らにして教育程度低きも、近時社会情勢または国民思想の変遷、および接客が比較的上層階級に属する等の関係上、相当常識に長け、かつ契約年期満了後、再契約をなす者稀にして、進んで正業に就かんとする者、漸次増加の傾向あるとともに、各営業主にありてはこれがため新妓抱ひ入れに相当腐心しをる状況にあり、当館においては右料理店兼置屋に対しては保安·風俗·衛生上の取り締まりを励行しをるほか、新規営業主および稼業者の漸減策を講じつつあり。
二､酌婦
昭和十一年末現在において（海軍慰安所たる料理店三軒を含む）の数は十軒、酌婦数百三十一名（うち内地婦人百二名は[ﾏﾏ]、朝鮮人二十九名）ありて、うち料理店三軒は居留邦人を顧客となし、他の七軒は海軍下士·兵を専門として絶対に地方客に接しめず、かつ酌婦の健康診断も陸戦隊員および当館警察官吏立会の上、週二回、専門医をして施行しあるのほか、慰安所に対しては海軍側とも強調、取り締まりを厳にし、かつ新規開業を許さざることとせり。これら稼業者はいづれも教育程度低きも、既往数年前に比し、品性、常識ともに幾分向上しつつあるを認めらるると同時に、女給、ダンサーまたは他に転向せんとする者、漸次増加の傾向にあり。一方、抱へ入れについては前借を認めず、稼高の折半契約方を命令しをるも、事実上の娼妓稼業と見らるる本業は、抱へ入れに際し幾分の前借あるを免れず、またこれらの者にして時に自由廃業等の申出をなす者らありて、その都度、臨機の措置を講ぜり。
昭和十一年中ニ於ケル在留邦人ノ特種婦女ノ狀況及其ノ取締（在上海總領事館警察署沿革誌ニ依ル）
一､藝妓
昭和十一年末現在ニ於ケル料理店兼置屋數二十四軒藝妓ノ數百四十五名ニシテ前年ニ比シ軒數ニ於テ增減ナキモ藝妓十名減少シ又藝妓ノ總揚高ニ於テ昭和十年ノ三十六萬八千七百八弗ニ對シ昭和十一年ハ三十四萬三千七十四弗ニシテ前年ニ比シ二萬五千六百三十四弗ノ減少ヲ示セリ然ルニ日支經濟提携問題ノ擡頭生產物價漸騰等ニ由リ紡績其ノ他商社方面ノ取引活況ヲ呈シ十一日[ﾏﾏ]以來ハ此等花街方面ニモ影響シ頓ニ好況時代ヲ現出スルニ至レリ藝妓ノ大部分ハ家計不如意ニ因ル者又ハ幼少ヨリ仕込トシテ抱ヘラルル
者等ニシテ敎育程度低キモ近時社會情勢又ハ國民思想ノ變遷及接客ガ比較的上層階級ニ屬スル等ノ關係上相當常識ニ長ケ且契約年期滿了後再契約ヲ爲ス者稀ニシテ進ンデ正業ニ就カントスル者漸次增加ノ傾向アルト共ニ各營業主ニアリテハ之ガ爲新妓抱入ニ相當腐心シ居ル狀況ニアリ當館ニ於テハ右料理店兼置屋ニ對シテハ保安風俗衞生上ノ取締ヲ勵行シ居ル外新規營業主及稼業者ノ漸減策ヲ講ジツツアリ
二､酌婦
昭和十一年末現在ニ於テ（海軍慰安所タル料理店三軒ヲ含ム）ノ數ハ十軒酌婦數百三十一名（內內地婦人百二名ハ[ﾏﾏ]朝鮮人二十九名）アリテ內料理店三軒ハ居留邦人ヲ顧客ト爲シ他ノ七軒ハ海軍下士
兵ヲ專門トシテ絕對ニ地方客ニ接シメズ且酌婦ノ健康診斷モ陸戰隊員及當館警察官吏立會ノ上週二回專門醫ヲシテ施行シアルノ外慰安所ニ對シテハ海軍側トモ强調取締ヲ嚴ニシ且新規開業ヲ許サザルコトトセリ此等稼業者ハ孰レモ敎育程度低キモ既往數年前ニ比シ品性常識共ニ幾分向上シツツアルヲ認メラルルト同時ニ女給「ダンサー」又ハ他ニ轉向セントスル者漸次增加ノ傾向ニアリ一方抱入ニ付テハ前借ヲ認メズ稼高ノ折半契約方ヲ命令シ居ルモ事實上ノ娼妓稼業ト見ラルル本業ハ抱入ニ際シ幾分ノ前借アルヲ免レズ又此等ノ者ニシテ時ニ自由廢業等ノ申出ヲ爲ス者等アリテソノ都度臨機ノ措置ヲ講ゼリ
(財) 女性のためのアジア平和国民基金 編 政府調査「従軍慰安婦」関係文書資料集成 ① 警察庁関係公表資料 外務省関係公表資料
