十月二十二日（第十軍作戦に関する意見具申）
天気 、依然、快晴温暖、尚続く。欣ぶ可し。
昨夜より重藤支隊及び第十一師団并び第十三師団正面に於て相当統一せる敵の攻擊ありたるも、尽く多大の損害を与へて之を撃攘す。蓋し此の方面の攻撃は敵の真面目なる反撃と云ふよりも、寧ろ大場方面に於ける攻撃の助攻たりしならん。
本攻撃に於て第十三師第五十八連、軍旗に敵砲弾命中し、其の桿を切断せり。未曾有の事なり。
第九、第三、第百一師団正面は反て敵の攻擊緩まり、寧ろ漸次、第一線兵力減、可の状にて、著しく各方面共、進出せり。
此の日、参謀本部 中佐、第十軍作戦に関する命令、計画等を持参し来たる。該計画に依れば第十軍ハ（第六、第十八、第百十師団を基幹とす）金山衛城付近に上陸し（十一月二日と定む）、上海西方地区に作戦し、我が軍の作戦と響応して敵軍を捕捉せんとするにあり。其の計画は頗る可なるも、少からず図上の計画なる嫌あり。蓋し曩に記せし如く、此の方面の地形と海面の状況に於て、此る大兵団を予定の時日に上陸せしめ、速に黄浦江を渡りて上海西南方地区に進出せんことは、天候頗る可なる場合に於ても大なる困難にして、殊に目下の敵状及び今後予想する上海付近に於ける我が軍奏功後、敵軍一般の動揺、退却を予定せば、以て能く敵軍を捕捉し得ること頗る疑はしく、尚之が為。此る大兵力を此の方面に必要とせざるものと思はる。
而かも今後、冬期に向ひ金山、乍浦付近を以て此る大軍の根拠地として其の補給を全ふせんことは頗る困難にして、予は深く本計画に遺憾を感ず。而かも事の此に至るは参謀本部が予め本作戦に関し予の意見を求めざりし結果にして、従来、予は中央部に於て此る企画あるを知り、既に非公式に意見を詳細申遣したるに、速に此の発令を見たること、返す返すも遺憾の至なり。由て予は将来の状勢に応じ、便宜、本作戦を変更するを有利とする場合あるを予期し、参謀本部が更めて既報、予の意見を研究すると共に、予メ適当の措置を講ぜられ度き旨、軍司令官として次長に意見を申遣し、尚、詳細 中佐に予の意のある所を述べ、急遽、東京に帰還報告せしむることに取計ひたり
十月二十二日（㐧十軍作戦ニ関スル
意見具申）
天気 依然 快晴温暖 尚続ク 可欣
昨夜ヨリ重藤支隊 及 㐧十一師団 幷 㐧十三
師団正面ニ於テ 相當 統一セル敵ノ攻擊ア
リタルモ尽ク夛大ノ損害ヲ与ヘテ之ヲ擊攘
ス 蓋シ此方面ノ攻擊ハ敵ノ真面目ナル反
撃ト云フヨリモ寧ロ大塲方面ニ於ケル攻撃ノ
助攻タリシナラン
本攻撃ニ於テ㐧十三師㐧五十八联 軍旗ニ敵砲弾
命中シ其桿ヲ切断セリ 未曾有ノ事ナリ
㐧九､㐧三､㐧百一師團正面ハ反テ敵ノ攻擊
緩リ 寧ロ漸次 㐧一線兵力減 可ノ状ニテ
著ク各方面共 進出セリ
此日 参謀本部 中佐 㐧十軍作戦ニ関スル
命令計画等ヲ持参シ来ル 該計画ニ依レ
ハ 㐧十軍ハ（㐧六､㐧十八､㐧百十師団ヲ基幹トス）
金山衞城附近ニ上陸シ（十一月二日ト定ム）上海
西方地区ニ作戦シ 我軍ノ作戦ト響応
シテ敵軍ヲ捕捉セントスルニアリ 其計畫ハ
頗ル可ナルモ 不少 図上ノ計畫ナル嫌アリ 蓋
シ曩ニ記セシ如ク此方面ノ地形ト海面ノ状
况ニ於テ此ル大兵団ヲ予定ノ時日ニ上陸セシ
メ速ニ黄浦江ヲ渡リテ上海西南方地区ニ進
出センコトハ天候 頗ル可ナル場合ニ於テモ
於テモ大ナル困難ニシテ殊ニ目下ノ敵状 及 今後
予想スル上海附近ニ於ケル我軍奏功後 敵
軍一般ノ動搖退却ヲ予定セハ 以テ能ク敵
軍ヲ捕捉シ得ルコト頗ル疑ハシク 尚之カ为 此ル
犬兵力ヲ此方面ニ必要トセサルモノト思ハル
而カモ今後 冬期ニ向ヒ金山､乍浦附近ヲ以テ
此ル大軍ノ根據地トシテ其ノ補給ヲ全フセン
コトハ頗ル困難ニシテ 予ハ深ク本計畫ニ
遺憾ヲ感ス 而カモ事ノ此ニ至ルハ参謀
本部カ豫メ本作戦ニ関シ予ノ意見ヲ求
メサリシ結果ニシテ 従来 予ハ中央部ニ於
テ此ル企画アルヲ知リ 既ニ非公式ニ意見
ヲ詳細 申遣シタルニ 後 速ニ此發令
ヲ見タルコト 返ス／＼モ遺憾ノ至ナリ 由テ予
ハ将来ノ状㔟ニ應シ便宜 本作戦ヲ
変更スルヲ有利トスル場合アルヲ豫
期シ 参謀本部カ更メテ既報 予ノ意
見ヲ研究スルト共ニ 豫メ適當ノ措置
ヲ講セラレ度旨 軍司令官トシテ次長ニ意
見ヲ申遣シ 尚 詳細 中佐ニ予ノ意ノアル
所ヲ述ヘ 急遽 東京ニ帰還報告セシ
ムルコトニ取計ヒタリ
