決裁指定:【次官委任】 決行指定:【櫛淵】
受領番号:支密第3335号 起源庁:上海派遣軍
件名:上海占領地域内稲刈り取りに関する件
大臣:【委】 次官:【梅津】
高級副官:【櫛淵】 主務副官:【小薗江】
主務局長:【印】 主務課長:【印】
主務課員:【園田】
主務局課 番号:軍務課第556号
提出:昭和拾貳年拾月廿日
大臣官房 受領:10月20日
結了:11月1日
軍事課:【印】 主計課:【印】
衣糧課:【印】
次官より上海派遣軍参謀長宛電報案(暗)
(陸支密)
上海占領地域内稲刈り取りのため特に人夫を派遣するの件は、左記理由により見合わすべきにつき、承知ありたし。
左 記
1.農繁期を控へ人夫の募集困難なるのみならず、今より着手するも1ヶ月後にあらざれば上海に到着し得ず、すでに時機を失せること。
2.人夫の給与、所要器具の整備、輸送費、賠償等を考慮するときは、収支償はざる虞あること。
3.① 募集可能予想人夫数より見て、人糧1ヶ月分を得るに過ぎざること。
② 現地一般物資利用のため特に要する人員の派遣については別に研究するも、差し当たり現地労働力の不足は収容者(俘虜)、土民等を使用するのほか、適当の方法を講じて補はれたし。
④ この際、特に国際的問題を惹起せざることに注意ありたし。
【陸軍省送達 陸支密電545】
昭和拾貳年拾月廿日【雨谷】
[付箋]左記を付加せられたし。(経理局)
左 記
また本件以外に現地資源利用のため特に要する人員の派遣については別に考慮す。
【支密第3335号 その1】
【陸軍省/大臣官房/昭和12.10.19/午前】【吉田】
【陸軍省/軍務課/12.10.19/□1159特】
㊙ 電報訳 10月18日 午後2時25分発
午後4時02分着
陸軍次官 宛 発信者 上海派遣軍参謀長
稲刈り取りのため上申せる人夫の派遣は、遅延せば時機を失するをもつて、少なくも軍補充用として藁、綿その他農作物および古材等、有利処理するため朝鮮人、台湾人少なくも一千名に技術者若干を付し、農具(刈取機、稲扱機、筵縄等) 大工道具および起居用具(炊具、寝具、アンペラ)を携行、至急派遣方取り計らはれたし。収穫せる籾の処理に関してはさらに研究す。
【陸軍省受領/陸支密受第3335号】
【陸軍省/大臣官房/昭和12.10.18/午前】
【陸軍省/軍務課/12.10.18/□1159特】
上軍経第65号
占領地域内における水稲収集計画の件
昭和12年10月10日
上海派遣軍参謀長【官印】
陸軍次官殿
占領地域内における水稲は今や収穫期に在るも、住民 遁走しありて徒に腐朽せんとす。軍は直接これを軍糧に充当する目的をもつて物質収集部の編成、派遣を俟ち、別紙計画により徴発を実施せんとする企図を有す。しかして本計画の実行は、国際的関係もありて、将来に関係するところ多く、 また多額の経費を伴ひ、正貨の流出等にも影響するところ鮮なからざるごとく存ぜらるるにつき、これが実行に関しては何分の指令方、御取り計らひ相成りたし。
なほ拓務省関係についてはしかるべく連絡煩はしたく、申し添ふ。
[付箋]
本件写、10月16日、貴課に送付しあるにつき、本書を添付し置かれたし。
軍務課御中 官房
占領地域内における水稲収集計画
その1.目的
占領地域内における現地物資たる水稲は今や収穫時期にあるも、住民逃亡しありて徒に腐朽せんとす。軍は直接これを軍糧に充当するの目的をもつて徴発を実施し、特別手段により刈り取り·収穫を実施するに在り。
なほ要すれば荒廃せる地方復興の資料に供す。
その2.方針
1.水稲刈り取り·収穫計画の大綱は軍においてこれを定む。
2.刈り取り·収穫作業に必要なる農夫は主として台湾または朝鮮より召致す。
3.軍における実行機関は物質収集部とす。
4.収集方法は徴発により、適時、正当なる賠償を行ふものとす。
5.占領地域内所在の生獣、生野菜等も補給用として収集す。これが賠償については前払による。また時宜により稲刈り取り後、生野菜等の農作準備をなさしむることあり。
その3.実施要領
1.水稲収集計画においては占領地域内水稲刈り取り区域を画定し、各区域には集積精選所を設定するものとす。
2.刈取作業に任ずべき農夫は、軍より陸軍省、拓務省を経て台湾または朝鮮総督府に召致委託の手続きをなすものとす。
これがため水稲刈り取り·収穫作業に適応せる技術者ならびに指導幹部の派遣方をも依頼するものとす。
3.刈り取り·収穫作業は、物質収集部に配属せる召致農夫団によりこれを実施す。
4.物質収集部派遣方を中央部に要請し、派遣軍の編組に入らしむ。
5.徴発実施にあたりては告示をなし、徴発価格およびその支払時期ならびに場所等を示し、明細なる生産記録を備へ、後日、支払に便するものとす。
6.収集作業は刈り取り、精選を含み、概ね3ヶ月を予定す。
その4.実施に伴ふ細部手続き
1.調査ならびに収穫量予想
占領地内収穫量は、平時調査に基づき、作付け反別と反当たり1年平作状況を基礎とし、左記のごとく予想するも、実行において一応踏査の上、実行計画を策定するものとす。
占領地域県名│利用率│収穫予想
上海県│対平年収穫予想1/3│ 60,000石
宝山県│ 全量│340,000石
嘉定県│ 1/4│ 26,000石
計 │ │426,000石
2.所要人員の算定
利用見込みの作付け反別見込み195,000反とし、1反に対する作業力、延べ3人役とせば、延べ585,000人役となり、仮に10月、11月の50日間に刈り取りを実施するものとせば11,700人を要するも 、まづ3千人を予定し、これを召致す。
時宜に応じ俘虜を使用し、また治安回復せば住民を使用す。
3.農夫の管理
(1) 農夫はそれぞれ軍隊組織により班を編制し、各刈り取り区域および精選場所に配置し、所要の技術者ならびに指導員を付し監督す。
(2) 技術者ならびに指導員の給与は雇用人の取り扱ひに準ず。
(3) 農夫は1日、日給1円を基準とし、標準作業高を定め、超過高に応じ割増を行ふことあり。
(4) 農夫の給養は官給とするも、宿営、被服、装備は自弁とす、これがため個人用寝具、食器類、簡易なる炊具など携行するものとす。
(5) 所要の農具および精撰器具は物資収集部において整備[の]上、携行せしむ。各自携行のものにありては軍において補償す。
(6) 往復旅費は官給とし、実費を支給す。
(7) 特に防疫衛生施設手段に注意す。
(8) 自警に関しては兵站において援助す。
4.整理
(1) 軍糧たる精米および藁の生産作業なるをもつて、生産に要する経費は事件費の支弁とす。これがため人夫管理に要する経費は明細書を付し陸軍大臣に申請、認可を受くるを要す。
(3) 上海派遣軍当面の軍需需要としては精米月量3万石、年所要36万石にして、収穫予想額に比すれば鮮少なるも、遠用のものに対する賠償額としては巨額に達するをもつて、現物整理に関しては国際的問題を生ぜしめざるごとく処理するを要す。
決裁指定:【次官委任】 決行指定:【櫛淵】
受領番号:支密第三三三號 起源庁:上海派遣軍
件名:上海占領地域内稻刈取ニ關スル件
大臣:【委】 次官:【梅津】
高級副官:【櫛淵】 主務副官:【小薗江】
主務局長:【印】 主務課長:【印】
主務課員:【園田】
主務局課 番号:軍務課第五五六號
提出:昭和拾貳年拾月廿日
大臣官房 受領:十月二十日
結了:十一月一日
連帶 参謀本部:代【印】 經理局長:【印】
軍事課:【印】 主計課:【印】
衣糧課:【印】
次官ヨリ上海派遣軍参謀長宛電報案(暗)
(陸支密)
上海占領地域内稻刈取ノ為メ特ニ人夫ヲ派遣スルノ件ハ左記理由ニヨリ見合ハスヘキニ[✕就キ✕]<付> 承知アリ度
左 記
一、農繁期ヲ控[✕エ✕]<ヘ> 人夫ノ募集困難ナルノミナラス 今ヨリ着手スルモ一ヶ月後ニアラサレハ上海ニ到着シ得ス 既ニ時機ヲ失セルコト
二、人夫ノ給與、所要器具ノ整備、輸送費、賠償等ヲ考慮スル時ハ收支償ハサル虞アルコト一
三、① 募集可能予想人夫數ヨリ見テ人糧一ヶ月分ヲ得ルニ過キサルコト
② [✕就テハ✕]<尚現地一般物資利用ノ為特ニ要スル人員ノ派遣ニ就テハ別ニ研究スルモ差當リ>現地勞働力ノ不足ハ收容者(俘虜)土民等ヲ使用スルノ他適當ノ方法ヲ講シ[✕以テ現地物資ノ利用ヲ計ラレ度 尚✕]<テ補ハレ度、>此際特ニ国際的問題ヲ惹起セサルコトニ注意アリ度
【白井】 【陸軍省送達/陸支密電五四五】
昭和拾貳年拾月廿日【雨谷】
[付箋]
左記ヲ附加セラレ度(經理局)
左 記
又本件以外ニ現地資源利用ノ為特ニ要スル人員ノ派遣ニ就テハ別ニ考慮ス
【支密第三三三五號其一】
【陸軍省/大臣官房/昭和12.10.19/午前】【吉田】
【陸軍省/軍務課/12.10.19/□1159特】
㊙ 電報訳 十月十八日午後二時二五分発
午後四時〇二分着
陸軍次官 宛 発信者 上海派遣軍参謀長
稲刈取ノ爲上申セル人夫ノ派遣ハ遲延セハ時機ヲ失スルヲ以テ少クモ軍補充用トシテ藁、綿其他農作物、及古材等 有利處理スル爲朝鮮人、台湾人少クモ一千名ニ技術者若干ヲ附し 農具(刈取機、稲扱機、筵縄等)大工道具及起居用具(炊具、寝具、アンペラ)ヲ携行至急派遣方取計ハレ度 収穫セル籾ノ處理ニ關シテハ更ニ研究ス、
【陸軍省受領/陸支密受第三三三五號】
【陸軍省/大臣官房/昭和12.10.18/午前】
【陸軍省/軍務課/12.10.18/□1159特】
上軍経苐六五号
占領地域内ニ於ケル水稻蒐集計画ノ件
昭和十二年十月十日 上海派遣軍参謀長【官印】
陸軍次官殿
占領地域内ニ於ケル水稻ハ今ヤ收穫期ニ在ルモ住民遁走シアリテ徒ニ腐朽セントス 軍ハ直接之ヲ軍糧ニ充當スル目的ヲ以テ物資蒐集部ノ編成派遣ヲ俟チ別紙計画ニヨリ徴發ヲ實施セントスル企圖ヲ有ス 而シテ本計画ノ實行ハ國際的関係モアリテ將來ニ関係スル所多ク 又 多額ノ経費ヲ伴ヒ 正貨ノ流出等ニモ影響スル所 鮮ナカラサル如ク存セラルヽニ付 之カ實行ニ関シテハ何分ノ指令方御取計相成度
尚拓務省関係ニ就テハ然ルヘク連絡煩度申添フ
[付箋]本件写 十月十六日貴課ニ送付シアルニ付 本書ヲ添付シ置カレタシ
軍務課御中 官房
占領地域内ニ於ケル水稻蒐集計画[✕案✕]
其一、目的
占領地域内ニ於ケル現地物資タル水稻ハ今ヤ收穫時期ニ在ルモ住民逃亡シアリテ徒ニ腐朽セントス 軍ハ直接之ヲ軍糧ニ充當スルノ目的ヲ以テ徴發ヲ実施シ特別手段ニヨリ刈取収穫ヲ實施スルニ在リ
尚 要スレハ荒[✕敗✕]<廃>セル地方復興ノ資料ニ供ス
其二、方針
一、水稻刈取収穫計画ノ大綱ハ軍ニ於テ之ヲ定ム
二、刈取収穫作業ニ必要ナル農夫ハ主トシテ台湾<又ハ朝鮮>ヨリ召致ス
三、軍ニ於ケル實行機関ハ物質蒐集部トス
四、蒐集方法ハ徴發ニ依リ適時正當ナル賠償ヲ行フモノトス
五、占領地域内所在ノ生獣生野菜等モ補給用トシテ蒐集ス 之カ賠償ニ就テハ前拂ニ依ル 又 時宜ニ依リ稻刈取後 生野菜等ノ農作準備ヲ為サシムルコトアリ
其三、実施要領
一、水稻蒐集計画ニ於テハ占領地域内水稻刈取区域ヲ画定シ各区域ニハ集積精撰所ヲ設定スルモノトス
二、刈取作業ニ任スへキ農夫ハ軍ヨリ陸軍省 拓務省ヲ経テ台湾<又ハ>朝鮮總督府ニ召致委托ノ手續ヲ為スモノトス
之カ為水稻刈取收穫作業ニ適應セル技術者並指導幹部ノ派遣方ヲモ依頼スルモノトス
三、刈取收穫作業ハ物資蒐集部ニ配屬セル召致農夫團ニヨリ之ヲ實施ス
四、物質蒐集部派遣方ヲ中央部二要請シ派遣軍ノ編組二入ラシム
五、徴發實施ニ方リテハ告示ヲ爲シ徴發價格及其支仏時期竝場所等ヲ示シ明細ナル生産記錄ヲ備ヘ後日支拂ニ便スルモノトス
六、蒐集作業ハ刈取精撰ヲ含ミ槪ネ三ヶ月ヲ予定ス
其四、實施ニ伴フ細部手續
一、調査竝收穫量豫想
占領地内收穫量ハ平時調査ニ基キ作付反別ト反當一年平作状况ヲ基礎トシ左記ノ如ク豫想スルモ 實行ニ於テ一應踏査ノ上 實行計画ヲ策定スルモノトス
占領地域縣名│ 利用率 │ 收穫豫想
上海縣│對平年收穫予想 1/3│ 六〇、〇〇〇石
宝山縣│ 全量│三四〇、〇〇〇石
嘉定縣│ 1/4│ 二六、〇〇〇石
計 │ │四二六、〇〇〇石
二、所要人員ノ算定
利用見込ノ作付反別見込一九五、〇〇〇反トシ一反ニ對スル作業力延三人役トセハ延五八五、〇〇〇人役トナリ 假ニ十月 十一月ノ五十日間ニ刈取ヲ實施スルモノトセハ 一万一千七百人ヲ要先ツ[✕五✕]<三>千人ヲ予定シ之ヲ召致ス
時宜ニ應シ俘虜ヲ使用シ又治安回復セハ住民ヲ使用ス
三、農夫ノ管理
(一) 農夫ハ夫々軍隊組織ニ依リ班ヲ編制シ各刈取区域及精撰場所ニ配置シ所要ノ技術者並指導員ヲ[✕給與✕]<附シ>監督ス
(二) 技術者竝指導員ノ給與ハ雇用人ノ取扱ニ準ス
(三) 農夫ハ一日 日給 一円ヲ基準トシ標準作業高ヲ定メ超過高ニ応シ割増ヲ行フコトアリ
(四) 農夫ノ給養ハ官給トスルモ 宿営 被服、裝備ハ自弁トス 為之 個人用寝具 食器類 簡易ナル炊具等 携行スルモノトス
(五) 所要ノ農具及精撰器具ハ物資蒐集部ニ於テ整備上 携行セシム 各自携行ノモノニアリテハ軍ニ於テ補償ス
(六) 往復旅費ハ官給トシ實費ヲ支給ス
(七) 特ニ防疫衞生施設手段ニ注意ス
(八) 自警ニ関シテハ兵站ニ於テ援助ス
四、整理
(一) 軍糧タル精米 及 藁ノ生産作業ナルヲ以テ生産ニ要スル経費ハ事件費ノ支弁トス 之カ為 人夫管理ニ要スル経費ハ明細書ヲ附シ陸軍大臣ニ申請 認可ヲ受クルヲ要ス
(三) 上海派遣軍當面ノ軍需所要トシテハ精米月量三万石 年所要三十六万石ニシテ 収穫豫想額ニ比スレハ鮮少ナルモ 遠用ノモノニ對スル賠償額トシテハ巨額ニ達スルヲ以テ現物整理ニ関シテハ國際的問題ヲ生セシメサル如ク處理スルヲ要ス