同盟旬報 第1巻 第11号 (No. 11)
(昭和12年・10月上旬号)
836(27) 支那事変
【 帝 国 】
松井最高指揮官声明
上海【10・8】(8日午後5時○○報道部発表)松井陸軍最高指揮官は本日午後5時、左のごとき声明を発表せり。
△声明
本職大命を拝して閫外征虜の重責を負ひ、さきに江南の地に上陸せり。爾來、軍の戦力充実し、降魔の利劍は今や鞘を放れてその神威を発揮せんとす。 軍の使命は、日本政府声明の趣旨に基づき、我が権益ならびに居留民の保護を全うするとともに、南京政府および暴戻支那軍を膺懲し、その赤色勢力を苟合せる拝外抗日政策を一擲せしめ、もつて明朗なる東亜平和の基礎を確立するにあり。作戦地方無辜の民衆に対しては憐愍切なるものあり。すなはち軍は素より一般民衆を敵とせずといへども、いやしくも我に抵抗加害するものは、その軍民のいづれたるを問はず、寸毫も仮借することなかるべし。すでに兵乱の災禍に遇ひ、あるいは生命財産の脅威を受けつつある諸外国官民に対しては、同情真に禁ずる能はざるものあり。列国権益に対しては最善の努力をもつてこれを尊重・保護し、寸毫も犯すところなし。日本軍は克く仁、克く威、海陸一致し、誓つて江南の妖雲を拂掃すべく、和平の暁天を望む日方に邇きにあるは、本職の確信するところなり。昭和12年10月8日
上海方面陸軍最高司令官
陸軍大将 松井 石根
松井最高司令官中国人に告ぐ
上海【10・8】次いで松井大將は「中華民国人士に告ぐ」と題し、左の談話を発表した。
1.最近、北支事変の勃発とともに日支間の感情、頓に激発し、勢ひの赴くところつひに戦線を拡大して、まさに東亜百年の危局を招来せんとしつつあるは、両国のためにまことに遺憾に堪へない。この時に当り、予は中国官民が夙に内外の情勢を静視大観し、東亜の道義に還り再省三省せんことを広く朝野の人士に望む次第である。独善、自己に陶醉して日本の実力を軽視し、あるいは赤化勢力と苟合してその存在を殆うし、さらにまた民族復興運動のため排日・抗日を力説して国論統一、政権強化の具に供するなどのごときは、正に国際道徳の破壊であり東洋平和の攪乱である。諸子が口を開けばいはんとする「打倒日本」が仮に実現し得たりとして、それで中国五民族が幸福に生存し得ると思はるるか。こんな見易い道理をさへ認識し得ないはずはないのであるが、これを口にするを得ない状態に置かれてあるのは、実に嘆かはしく思ふ。予が諸子の反省を望むのは、実にこの点である。かつて民国創立の先哲、孫逸仙氏が中国の復興とともに常に東洋の平和を念願、努力した事実を想起する必要がある。
2.日本が実に庶幾しあるところは日支の提携であつて、これが真に東洋平和を招来する大道なりと確信する。しかしながら中国朝野の思想ないし対日感情が現在のごとくならんか、遺憾ながらその排日・抗日運動を根絶し、今次事変のごとき不祥事発生の根因を芟除するの要がある。軍の目的は茲にあるにほかならぬ。皇軍は容易く動くべきではないが、しかしその一度起たんか徹底的に敵を撃滅し、出師の目的を達成せんとするのが吾人の信条である。軍の目標とするところは、南京政府と抗日軍隊であつて、一般民衆を作戦の対象とする考へは毛頭ない。すなはち従来、南京軍閥政権の扶植に狂奔し来たつた支那官民が、既往の迷夢から覚醒して正常に還るべき機は来たのだ。すなはち真に東洋平和のため我に伍せんとする者に対しては、軍は相携へて喜んで興亜の大業に従ふに吝かでない。しかしながらもしそれ未だ悪夢に迷ひて我に抵抗し、あるいは我が行動を妨害する者あらば、何らの仮借なく断乎これを膺懲するのはやむを得ないところである。無辜の一般大衆中、直接、戦火に遇ひ、あるいは生命・財産の危機に曝されある者に対しては予は深く同情を表するとともに、諸子がこの際何ら流言に惑はされることなく、須く帝国軍隊に信頼してしばらく戦塵の圏外にあらんことを希望する。
3.作戦地方の農民諸衆は、あたかも五穀成就の収穫期に際会しながら、自己安住の地を離れて生業を休止するがごときは、まさに天地の恵沢に応へざるものであつて、予は深く遺憾に思ふところである。また軍はさきに農家に残れる穀類を一部徴用したるところもあるが、当時、住民不在のため直接交渉する相手なく、やむなく今日に及んでゐる。これら徴用品に対する代償は、欣然、 軍において支払ふべきことを欲し、その機会の来たるを待つてゐる次第である。敵意なき民衆に対しては軍は何ら含むところなきは、前縷述の通りであつて、むしろ進んでその安全を保障し生業を保護すべきは、夙夜、予の顧念するところである。戦場後方、我が軍守備地域の良民は須く日本軍に信倚し、父祖英霊の眠る郷邑を思慕して、速やかに農に帰り、安んじてその業に復すべきことを勧告する次第である。
同盟旬報 第一巻 第十一號 (No. 11)
(昭和十二年・十月上旬號)
836(27) 支那事變
【 帝 國 】
松井最高指揮官聲明
上海【一〇・八】(八日午後五時
○○報道部發表)松井陸軍
最高指揮官は本日午後五時
左の如き聲明を發表せり
△聲明
本職大命を拜して閫外征虜の重責を負ひ
曩に江南の地に上陸せり、爾來軍の戰力
漸く充實し降魔の利劍は今や鞘を放れて
その神威を發揮せんとす、軍の使命は日
本政府聲明の趣旨に基づき我が權益並に
居留民の保護を全うすると共に南京政府
及び暴戻支那軍を膺懲しその赤色勢力を
苟合せる拜外抗日政策を一擲せしめ以て
明朗なる東亞平和の基礎を確立するにあ
り、作戰地方無辜の民衆に對しては憐愍
切なるものあり、卽ち軍は素より一般民
衆を敵とせずと雖も苟も我に抵抗加害す
るものはその軍民の何たるを問はず寸毫
も假藉すること無かるべし、旣に兵亂の
災禍に遇ひ或は生命財產の脅威を受けつ
つある諸外國官民に對しては同情眞に禁
ずる能はざるものあり、列國權益に對し
ては最善の努力を以て之を尊重保護し寸
毫も犯す所なし。日本軍は克く仁、克く
威、海陸一致し誓つて江南の妖雲を拂掃
すべく和平の曉天を望むの日方に邇きに
あるは本職の確信する所なり
昭和十二年十月八日
上海方面陸軍最高司令官
陸軍大將 松井 石根
松井最高司令官中國人に告ぐ
上海【一〇・八】次で松井大將は「中華民國
人士に告ぐ」と題し左の談話を發表した
一 最近北支事變の勃發と共に日支間の
感情頓に激發し勢の赴くところ遂に戰
線を擴大して正に東亜百年の危局を招
來せんとしつゝあるは兩國のために寔
に遺憾に堪うない、この時に當り予は
中國官民が夙に内外の情勢を靜視大觀
し東亞の道義に立還り再省三省せんこ
とを廣く朝野の人士に望む次第である
獨善自己に陶醉して日本の實力を輕視
し或は赤化勢力と苟合して其の存在を
殆うし更に又民族復興運動のため排日
抗日を力説して國論統一、政權强化の
具に供する等の如きは正に國際道德の
破壞であり東洋平和の攪亂である、諸
子が口を開けば云はんとする「打倒日
本」が假に實現し得たりとしてそれで
中國五民族が幸福に生存し得ると思は
るるか、こんな見易い道理をさへ認識
し得ない筈はないのであるが之を口に
するを得ない狀態に置かれてあるのは
實に嘆はしく思ふ、予が諸子の反省を
望むのは實に此の點である、曾て民國
創立の先哲孫逸仙氏が中國の復興と共
に常に東洋の平和を念願努力した事實
を想起する必要がある
二 日本が眞に庶幾しある所は日支の提
携であつて之が眞に東洋平和を招來す
る大道なりと確信する、然しながら中
國朝野の思想乃至對日感情が現在の如
くならんか遺憾ながらその排日抗日運
動を根絶し今次事變の如き不祥事發生
の根因を芟除するの要がある、軍の目
的は茲にあるに外ならぬ、皇軍は容易
く動くべきではないが然しその一度起
たんか徹底的に敵を擊滅し出師の目的
を達成せんとするのが吾人の信條であ
る、軍の目標とするところは南京政府
と抗日軍隊であつて一般民衆を作戰の
對象とする考へは毛頭無い、卽ち從來
南京軍閥政權の扶植に狂奔し來つた支
那官民が旣往の迷夢から覺醒して正常
に還るべき機は來たのだ、卽ち眞に東
洋平和の爲我に伍せんとする者に對し
ては軍は相携へて喜んで興亞の大業に
從ふに吝かでない、然し乍ら若しそれ
未だ惡夢に迷ひて我に抵抗し或ひは我
が行動を妨害する者あらば何等の假借
なく斷乎之れを膺懲するのは已むを得
ないところである、無辜の一般大衆中
直接戰火に遇ひ、或は生命財產の危機
に曝されある者に對しては予は深く同
情を表すると共に諸子がこの際何等流
言に惑はされる事なく須らく帝國軍隊
に信頼して暫く戰塵の圏外に在らん事
を希望する
三 作戰地方の農民諸衆は恰も五穀成就
の収穫期に際會し乍ら自己安住の地を
離れて生業を休止するが如きは正に天
地の惠澤に應へざるものであつて余は
深く遺憾に思ふところである、又軍は
曩に農家に殘れる穀類を一部徴用した
ところもあるが當時住民不在の爲直接
交渉する相手なく已むなく今日に及ん
でゐる、之等徴用品に對する代償は欣
然軍に於て支拂ふ可き事を欲しその機
會の來るのを待つてゐる次第である、
敵意なき民衆に對して軍は何等含むと
ころ無きは前縷述の通りであつて寧ろ
進んでその安全を保障し生業を保護す
べきは夙夜 予の顧念するところである
戰場後方我軍守備地域の良民は須く日
本軍に信倚し父祖英靈の眠る鄕邑を思
慕して速に農に歸り安んじてその業に
復すべきことを勸告する次第である
https://www2.i-repository.net/contents/myc/chosakai/A02_0111_011.pdf