【秘】
司法省刑事局 秘 第二五号
大正十二年九月七日
司法省刑事局長 林頼三郎
治安維持に関する緊急勅令の適用の件、通牒
標記の件に関し別紙の如く通牒致し候う条、御参考の為、通牒に及び候う也。
司法省刑事局 秘 第二五号
大正十二年九月七日
司法省刑事局長 林頼三郎
治安維持に関する緊急勅令適用の件、依命通牒
本日、勅令第四百三号を以て治安維持に関する罰則発布せられ、即日施行せられ候う事に相成候うに付、別紙の主旨御了知の上、万遺算なき様、御配慮相成り度く候う。
緊急勅令(大正十二年九月七日 公布)
勅令苐四百三號
出版、通信、其の他何等の方法を以てするを問はず、暴行、騒擾、其の他生命、身体又は財産に危害を及ぼすべき犯罪を煽動し、安寧秩序を紊乱するの目的を以て治安を害する事項を流布し、又は人心を惑乱するの目的を以て流言、浮説を為したる者は、十年以下の懲役若くは禁錮、又は三千円以下の罰金に処す。
附則
本令は公布の日より之を施行す。
一 此の際、本令を適用するに付ては、今回の震災に際し人心の不安に陥れるを奇貨とし、更に其の不安を一層甚しからしめ、其の間に非望を逞しうせむとする徒を取締ることを主眼とすべく、一般の良民に対しては、特に其の情状の重大にして看過すべからざるものに限らざるべからず。殊に恐怖又は激昂の余り偶々、外形上、法規に触るるものあるが如き場合に於ては之が適用を避けざるべからず。
二 本令は大体之を三個の場合に分ちて考察することを得べし。其の一は暴行、騒擾、其の他生命、身体、財産に危害を及ぼすべき、犯罪を煽動したる場合、其の二は安寧秩序を紊乱するの目的を以て治安を害する事項を流布したる場合、其の三は人心を惑乱するの目的を以て流言浮説を為したる場合にして、其の何れの場合に於ても出版、通信、演説、貼紙、其の他何等の方法に依るを問はざるなり。
三 第一の場合に於ける暴行又は騒擾は、必ずしも刑法に定めたる暴行罪又は騒擾罪を構成するものたることを要せず。例へば住居其の他の建造物に対する暴力の行使の如きも暴行に該当するものにして、敢て人身に対するものなることを要せず。又、騒擾は必ずしも暴行脅迫に依ることを要せざるのみならず、一地方の静謐を害する程度のものたることを要せざるなり。然れども今回 之を適用するに付ては、主として暴行罪又は騒擾罪に該当する場合に限るべく、然らざる場合には、特に其の必要あるものに止めざるべからず。
四 第二の場合には単に治安妨害の事項を流布するを以て足れりとせず、其の目的、安寧秩序の紊乱に在ることを要件とするものなるを以て、斯る目的を欠く学説又は意見の発表の如きは之に該当ぞるものなるを以て、今回之を適用するに当りては、主として社会主義者其の他 之に類する不逞の徒が治安妨害の事項を流布したる場合に限るを要す。
五 第三の場合は、流言浮説は其の内容の如何を問はず人心を不安に陥らしむるものは之に包含すと雖も、悪意ある場合、即ち人心を惑乱する為、斯くの如き行為を為したる者を罰するの意なるを以テて、流言浮説を軽信して善意に之を他人に告げたる場合の如きは、固より之に該当するものに非ず。
六 第一の場合に於ける煽動、第二の場合に於ける流布、第三の場合に於ける流言浮説の行為は、何れも不定又は多数の者を対象とするものなりと雖も、必ずしも現に不定又は多数の者に対して之を為したることを要せず、特定の一人に対して之を為すも其の目的、不定又は多数の者の意思を動かし、若くは不定又は多数の者に伝播せしむるの意に出づる場合は、之に包含するものとす。
【秘】
司法省刑事局 秘 第二五號
大正十二年九月七日
司法省刑事局長 林賴三郎
治安維持ニ関スル緊急勅令ノ適用ノ件 通牒
標記ノ件ニ関シ別紙ノ如ク通牒致候條 為御參考 及通牒致也
司法省刑事局 秘 第二五號
大正十二年九月七日
司法省刑事局長 林賴三郎
檢事總長
檢事長
檢事正
御中
治安維持ニ関スル緊急勅令ノ適用ノ件 依命通牒
本日 勅令第四百三號ヲ以テ治安維持ニ関スル罰則 發布セラレ 即日 施行セラレ候事ニ相成候ニ付テハ 別紙ノ主旨 御了知ノ上 萬遺算ナキ様 御配慮相成度候
緊急勅令(大正十二年九月七日 公布)
勅令苐四百三號
出版、通信 其ノ他 何等ノ方法ヲ以テスルヲ問ハス 暴行、騒擾 其ノ他 生命、身體 又ハ財産ニ危害ヲ及ホスヘキ犯罪ヲ煽動シ、安寧秩序ヲ紊亂スルノ目的ヲ以テ治安ヲ害スル事項ヲ流布シ 又ハ人心ヲ惑亂スルノ目的ヲ以テ流言、浮説ヲ為シタル者ハ 十年以下ノ懲役若ハ禁錮 又ハ三千圓以下ノ罰金ニ處ス
附則
本令ハ公布ノ日ヨリ之ヲ施行ス
一 此際 本令ヲ適用スルニ付テハ 今回ノ震災ニ際シ人心ノ不安ニ陥レルヲ奇貨トシ 更ニ其ノ不安ヲ一層 甚シカラシメ 其ノ間ニ非望ヲ逞ウセムトスル徒ヲ取締ルコトヲ主眼トスヘク 一般ノ良民ニ對シテハ 特ニ其ノ情状ノ重大ニシテ看過スヘカラサルモノニ限ラサルヘカラス 殊ニ恐怖 又ハ激昂ノ餘 偶々 外形上 法規ニ觸ルヽモノアルカ如キ場合ニ於テハ 之カ適用ヲ避ケサルヘカラス
二 本令ハ大体 之ヲ三個ノ場合ニ分チテ考察スルコトヲ得ヘシ 其ノ一ハ暴行 騒擾 其ノ他 生命 身体 財産ニ危害ヲ及ホスヘキ犯罪ヲ煽動シタル場合 其ノ二ハ安寧秩序ヲ紊乱スルノ目的ヲ以テ治安ヲ害スル事項ヲ流布シタル場合 其ノ三ハ人心ヲ惑乱スルノ目的ヲ以テ流言浮説ヲ為シタル場合ニシテ 其ノ何レノ場合ニ於テモ出版、通信、演説 貼紙 其ノ他 何等ノ方法ニ依ルヲ問ハサルナリ
三 第一ノ場合ニ於ケル暴行 又ハ騒擾ハ 必スシモ刑法ニ定メタル暴行罪 又ハ騒擾罪ヲ構成スルモノタルコトヲ要セス 例ヘハ住居 其ノ他ノ建造物ニ對スル暴力ノ行使ノ如キモ暴行ニ該当スルモノニシテ 敢テ人身ニ對スルモノナルコトヲ要セス 又 騒擾ハ必スシモ暴行脅迫ニ依ルコトヲ要セサルノミナラス 一地方ノ靜謐ヲ害スル程度ノモノタルコトヲ要セサルナリ 然レトモ今囬 之ヲ出来ざるスルニ付テハ 主トシテ暴行罪 又ハ騒擾罪ニ該当スル場合ニ限ルヘク 然ラサル場合ニハ 特ニ其ノ必要アルモノニ止メサルヘカラス
四 第二ノ場合ニハ單ニ治安妨害ノ事項ヲ流布スルヲ以テ足レリトセス 其ノ目的 安寧秩序ノ紊乱ニ在ルコトヲ要件トスルモノナルヲ以テ 斯ル目的ヲ缺ク學説 又ハ意見ノ發表ノ如キハ之ニ該当セサルモノナルヲ以テ 今囬 之ヲ適用スルニ当リテハ 主トシテ社會主義者 其ノ他 之ニ類スル不逞ノ徒カ治安妨害ノ事項ヲ流布シタル場合ニ限ルヲ要ス
五 第三ノ場合ハ 流言浮説ハ其ノ内容ノ如何ヲ問ハス人心ヲ不安ニ陥ラシムルモノハ之ニ包含スト虽 悪意アル場合、即チ人心ヲ惑乱スル為 斯クノ如キ行為ヲ為シタル者ヲ罰スルノ意ナルヲ以テ 流言浮説ヲ軽信シテ善意ニ之ヲ他人ニ告ケタル場合ノ如キハ 固ヨリ之ニ該当スルモノニ非ス
六 第一ノ場合ニ於ケル煽動 第二ノ場合ニ於ケル流布 第三ノ場合ニ於ケル流言浮説ノ行為ハ 何レモ不定 又ハ多数ノ者ヲ對象トスルモノナリト雖 必スシモ現ニ不定 又ハ多数ノ者ニ對シテ之ヲ為シタルコトヲ要セス 特定ノ一人ニ對シテ之ヲ為スモ其ノ目的 不定 又ハ多数ノ者ノ意思ヲ動カシ 若ハ不定 又ハ多数ノ者ニ伝播セシムルノ意ニ出ツル場合ハ之ニ包含スルモノトス
↑治安維持に関する緊急勅令(1923年9月7日 勅令第403号)の適用の件
https://www.jacar.archives.go.jp/das/image/C08050994200 p.17~p.25