Ob-La-Di Oblako 文庫

帝国日本の侵掠戦争と植民地支配、人権蹂躙を記憶し、再現を許さないために、ひたすら文書資料を書き取る。姉妹ブログ「歴史を忘れる民族に未来はない!」https://obladioblako.hateblo.jp/ のデータ·ベースを兼ねる。

「社会主義者及び不逞鮮人往行し、人心恟々たり」 九月五日 戒厳司令官宛 南警備区司令官第一師団長報告 1937. 9. 5

  九月五日 於第一師団司令部
         南警備区司令官 第一師団長
 戒厳司令官宛

      報告

一、警備地区内一般の情況

 各部隊の努力に基き、各種流言の虚偽にして為めにせんとするものの宣伝に過ぎざるを了解すると共に、逐次静穏に帰し、鮮人に対する圧迫も暫時緩和せられつつあり。然れども局部的には社会主義者の宣伝、鮮人と認るべきものの不逞行動に基き、依然、恐怖心より離脱し得ざるものあり。例へば昨四日夜、深川公園付近に於て鮮人労動者が婦女子を辱めんとしたるの噂に基き、住民の憤慨甚しかりしが如き、又同夜、斥候が田町停車場付近に於て塵箱に放火したるものあるを認め、同夜、巡査が午前二時頃、森永製造所付近に放火せるを認め、辛じて消火し得たるが如き不逞行動に基き人心の安定を得ざるが如き、之なり。
 其の間に処し社会主義者の活動しあるは確実なるものの如し。昨三日夜、「午後十二時、強震あり」「芝公園内に抑留せられし鮮人二十余名脱走し、麻布区内に侵入せり」等の宣伝が北条龍雄(赤坂憲兵分隊にて拘引せり)の挙に出でたる明らかなるのみならず、同一事項の宣伝が麻布区内のみならず渋谷其の他の方面にも行はれたるに鑑みれば、或は社会主義者が計画的に行動しつつあるを疑はしむるものあり。

二、警備

 東京西北地区警備の充分ならざるに鑑み、歩兵警備区域を高円寺、荻窪三軒茶屋の線に推進·拡張せり。

三、市川·船橋方面の以東地区に於ける震害

 震災に対する被害は江戸川以東の地区に於ては軽微にして、船橋·千葉付近に被害の大なるなく、習志野付近の如き、兵営は窓障子の少し破損したるに過ぎざるを見る。

四、横浜方面の情況

 横浜に派遣したる第七中隊は目下、引続き騎兵第十五連隊長の指揮下に警備に任じつつあり。歩兵第五十七連隊及び工兵第十四大隊の一中隊の増加に依りて、横浜市民は大いに安堵し、漸時、秩序回復しつつあり。然れども糧食欠乏の為め行為漸く餓鬼的に流れ、 東神奈川方面には所々掠奪行為あり。
 第七中隊は強大なる巡察を以て警備中なり。尚、横浜倉庫は中隊の努力に依り無事ならしむるを得たり。
 横浜全市は焼土と化し、悲惨言語を絶し、其間、社会主義者及び不逞鮮人往行し、人心恟々たり。
 昨日来、有力なる社会主義者は之を検挙し、一方、鮮人の取締を厳重にしつつあるに依り、目下、漸時秩序を恢復しつつあり。之れが為め鮮人中、虐殺せられたるもの少からず。

六、警備地外との交通

 横浜方面に対しては三軒茶屋─溝ノ口─千年─橋塲─六角橋を経て横浜に向ひ自動車を通ず。
 千葉方面に対しては千住大橋を経て自動車を通ず。
 市川の橋梁は損害なく、行徳の槗梁は破損して自動
車を通ぜず。

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九月五日 於第一師團司令部
    南警備区司令官 第一師團長
戒嚴司令官宛

      報告

一、警備地区内一般ノ情况

各部隊ノ努力ニ基キ 各種流言ノ虚偽ニシテ爲
メニセントスルモノノ宣傳ニ過キサルヲ了解スルト
ニ 逐次 静穏ニ帰シ 鮮人ニ対スル壓迫モ暫時 緩
和セラレツツアリ 然レトモ局部的ニハ社會主義者ノ
宣傳、鮮人ト認ムヘキモノノ不逞行動ニ基キ依然
恐怖心ヨリ離脱シ得サルモノアリ 例ヘハ昨四日夜
深川公園附近ニ於テ鮮人勞動者カ婦女子ヲ
辱メントシタルノ噂ニ基キ 住民ノ憤慨甚シカリ

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シカ如キ 又 同夜 斥候カ田町停車場附近ニ於テ
塵箱ニ放火シタルモノアルヲ認メ 同夜巡査カ午
前二時頃 森永製造所附近ニ放火セルヲ認メ 辛
シテ消火シ得タルカ如キ不逞行動ニ基キ 人心ノ安
定ヲ得サルカ如キ 之ナリ
其ノ間ニ處シ社會主義者ノ活動シアルハ確實ナ
ルモノノ如シ 昨三日夜「午後十二時強震アリ」芝公園
内ニ抑留セラレシ鮮人二十餘名 脱走シ麻布区
ニ侵入セリ等ノ宣傳カ 北條龍雄(赤坂憲兵分隊
ニテ拘引セリ)ノ擧ニ出デタル明ナルノミナラズ 同一事
項ノ宣傳カ麻布区内ノミナラズ渋谷 其ノ他ノ方面ニモ
行ハレタルニ鑑ミレハ 或ハ社會主義者カ計画的ニ行動
シツツアルヲ疑ハシムルモノアリ

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二、警備

東京西北地区警備ノ充分ナラサルニ鑑ミ 歩兵警備
区域ヲ髙円寺、荻窪三軒茶屋ノ線ニ推進擴張セリ

三、市川舩橋方面ノ以東地区ニ於ケル震害

震災ニ対スル被害ハ江戸川以東ノ地区ニ於テハ軽微
ニシテ舩橋千葉附近ニ被害ノ大ナルナク 習志野附近
ノ如キ兵営ハ窓障子ノ少シ破損シタルニ過キサルヲ
見ル

四、横浜方面ノ情况

横濱ニ派遣シタル第七中隊ハ目下 引続キ騎兵第
十五聨隊長ノ指揮下ニ警備ニ任シツツアリ
歩兵第五十七聨隊 及 工兵第十四大隊ノ一中隊ノ増
加ニ依リテ横濱市民ハ大イニ安堵シ漸時 秩序

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恢復シツツアリ 然レトモ糧食欠乏ノ為メ行為 漸ク
餓鬼的ニ流レ 東神奈川方面ニハ所々掠奪行為
アリ
第七中隊ハ强大ナル巡察ヲ以テ警備中ナリ 尚 横
濱倉庫ハ中隊ノ努力二依リ無事ナラシムルヲ得
タリ
横濱全市ハ焼𡈽ト化シ 悲惨 言語ヲ絶シ 其間 社
會主義者 及 不逞鮮人 徃行シ 人心恟々タリ
昨日来 有力ナル社會主義者ハ之ヲ検擧シ 一方 鮮人
ノ取締ヲ嚴重ニシツツアルニ依リ 目下 漸時 秩序ヲ
恢復シツツアリ 之レカ為メ鮮人中 虐殺セラレタルモノ尠
カラス

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六、警備地外トノ交通

横濱方面ニ対シテハ三軒茶屋─溝ノ口─千年─
槗塲─六角槗ヲ径テ横濱ニ向ヒ自動車ヲ通ス
千葉方面ニ対シテハ千住大橋ヲ経テ自動車ヲ通

市川ノ橋梁ハ損害ナク 行德ノ槗梁ハ破損シテ自動
車ヲ通セス

↑JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C08050994100
大正12年 公文備考 変災災害付属 巻1(防衛省防衛研究所)
一般関係(1)
https://www.jacar.archives.go.jp/das/image/C08050994100 p.30-p.36