九月六日 関東戒厳司令部
戒厳地域拡張
九月四日、勅令第四〇二号を以て戒厳施行地域を千葉、埼玉両県下に拡張せらる。
右に依り、関東戒厳司令官は関係地方長官及び警察官、郵便局長及び電信局長に対し左の諸勤務を施行すべき事を命令し、且つ一般に別項の如き告諭を発せり。
一、関係地方長官並び警察官は時勢に妨害ありと認むる集会若くは新聞紙、雑誌、広告を停止すること。
二、関係地方長官並び警察官は兵器彈薬等、其の他危険に亘る諸物品を時宜に依り之を検査し押収すること。
関係地方長官並び警察官は時宜に依り出入りの船舶及び諸物品を検査すること。
三、関係地方長官並び警察官は各要所に検問所を設け、 通行人の時勢に妨害ありと認るむるものの出入を禁止し、 又は時機に依り水陸の通路を停止すること。
四、関係地方長官並び警察官は昼夜の別なく人民の家屋、建造物、船舶中に立入り検察すること。
五、関係地方長官並び警察官は本令施行地域内に寄宿するものに時機に依り地境外に退去を命ずること。
六、関係郵便局長及び電信局長は時勢に妨害ありと認むる郵便、電信は開緘すること。
但し右諸勤務の施行は罹災者の救護並び地方民心の安静を目的とするを以て、能く時勢の緩急に応じ寛厳宜しきに適するを要す。
告諭(九月六日)
一、今回の震害に就き救護を容易にし、治安を維持する為、東京府及び神奈川県に戒厳を令ぜられたが、此度、更に之を千葉及び埼玉県に拡張せられた。此の拡張は別に新に恐るべき事柄が起つた為ではない。罹災者が次第に此の地方に入り込むに従ひ、色々の虚報流言が行はれ、人身を不安にすることがあるのを取締るのと、必要の場合には軍隊を以て治安を維持し、救護に従事するに便なる為である。地方民は決して流言に惑はさるることなく、何れも地方官公吏、警察官に信頼して、平時の如く落付いて居つて、軍隊の厄介になる様なことをしてはいけない。
二、戒厳を令ぜられても、直接の取締は地方警察官が之に任ずるものであること忘れてはいけない。
東京参謀本部内に於て
関東戒厳司令官 陸軍大将 福田雅太郎
九月六日 関東戒嚴司令部
戒嚴地域擴張
九月四日 勅令第四〇二號ヲ以テ 戒嚴施行地域ヲ千葉、埼玉 両縣下ニ擴張セラル
右ニ依リ 関東戒嚴司令官ハ関係地方長官 及 警察官、郵便局長 及電信局長ニ對シ左ノ諸勤務ヲ施行スへキ事ヲ命令シ 且ツ一般ニ別項ノ如キ告諭ヲ發セリ
一、関係地方長官 並 警察官ハ時勢ニ妨害アリト認ムル集會 若クハ新聞紙、雑誌 廣告ヲ停止スルコト
二、関係地方長官 並 警察官ハ兵器彈薬等 其他 危険ニ亘ル諸物品ヲ時宜ニ依リ之ヲ検査シ押収スルコト
関係地方長官 並 警察官ハ時宜ニ依リ出入リノ船舶 及 諸物品ヲ検査スルコト
三、関係地方長官 並 警察官ハ各要所ニ検問所ヲ設ケ 通行人ノ時勢ニ妨害アリト認ムルモノヽ出入ヲ禁止シ 又ハ時機ニ依リ水陸ノ通路ヲ停止スルコト
四、関係地方長官 並ニ警察官ハ晝夜ノ別ナク人民ノ家屋、建造物、船舶中ニ立入リ検察スルコト
五、関係地方長官 並 警察官ハ本令施行地域内ニ寄宿スルモノニ時機ニ依リ地境外ニ退去ヲ命スルコト
六、関係郵便局長 及 電信局長ハ時勢ニ妨害アリト認ムル郵便、電信ハ開緘スルコト
但シ右諸勤務ノ施行ハ罹災者ノ救護 並 地方民心ノ安靜ヲ目的トスルヲ以テ 能ク時勢ノ緩急ニ應シ寛嚴 宜シキニ適スルヲ要ス
告諭(九月六日)
一、今回ノ震害ニ就キ 救護ヲ容易ニシ 治安ヲ維持スル為 東京府 及 神奈川縣ニ戒嚴ヲ令セラレタガ 此度 更ニ之ヲ千葉 及 埼玉縣ニ擴張セラレタ 此擴張ハ別ニ新ニ恐ルへキ事柄カ起ツタ為デハナイ、罹災者カ次第ニ此地方ニ入リ込ムニ従ヒ 色々ノ虚報流言カ行ハレ 人身ヲ不安ニスルコトカアルノヲ取締ルノト 必要ノ場合ニハ軍隊ヲ以テ治安ヲ維持シ 救護ニ従事スルニ便ナル為デアル 地方民ハ決シテ流言ニ惑ハサルヽコトナク 何レモ地方官公吏、警察官ニ信頼シテ 平時ノ如ク落附イテ居ツテ 軍隊ノ厄介ニナル様ナコトヲシテハイケナイ
二、戒嚴ヲ令セラレテモ 直接ノ取締ハ地方警察官カ之ニ任スルモノテアルコトヲ忘レテハイケナイ
東京参謀本部内ニ於テ 関東戒嚴司令官 陸軍大将 福田雅太郎
JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C08050994200、大正12年 公文備考 変災災害付属 巻1(防衛省防衛研究所)
https://www.jacar.archives.go.jp/das/image/C08050994200 5~6/49