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帝国日本の侵掠戦争と植民地支配、人権蹂躙を記憶し、再現を許さないために、ひたすら文書資料を書き取る。姉妹ブログ「歴史を忘れる民族に未来はない!」https://obladioblako.hateblo.jp/ のデータ·ベースを兼ねる。

第 86 回帝国議会 衆議院 本会議 第 10 号より 本土決戦に関する小磯国昭総理大臣の演説 1945. 3. 11

官報号外 昭和二十年三月十一日
◯第八十六回帝国議会 衆議院速記録第十号

 [中略]

 

◯議長 (岡田忠彦君)  是より会議を開きます。御報告致すことがあります。去る二月二十五日の空襲に際し宮内省主馬寮附近及び大宮御所御構内に被弾ありたるに付き、議長は翌二十六日本院を代表して参内 天機並御機嫌を奉伺致し、次いで大宮御所に参入 皇太后陛下の御機嫌を奉伺致しました。
 又昨日の空襲に対しては議長は同日午後早速本院を代表して参内 天機並び御機嫌を奉伺致しました。右慎んで御報告致します。
 〔拍手起る〕
◯議長 (岡田忠彦君)  尚ほ硫黄島に於ける皇軍の奮闘に対し、去る三月一日議長は本院を代表して一億国民の感謝激励の電報を発送しました。其の文は既に広報を以て御通知致した通りであります。

 〔参照〕
 皇土南方の要衝硫黄島守備の大任に在る我忠勇なる陸海軍将兵は厖大なる敵軍の上陸侵攻に当り克く激闘随所に壮烈なる出血作戦を敢行し以て

 

頑敵を震撼せしむ。
 全国民は日夜各位の勇戦に感謝感激せざるなく醜虜殲滅の神機を把へ神武妙算を発揮して飽く迄奮戦あらむことを切に祈る茲に衆議院を代表し慎みて将兵各位の忠勇を讃称し其の労苦を感謝すると共に我等一億亦各位の奮闘に応へ一願となり皇国護持の大任を果さんことを誓ふ。
          衆議院議長 岡田 忠彦
 硫黄島現地最高指揮官殿       

◯議長 (岡田忠彦君)  之に対し最高指揮官栗林中将より謝電を受領致しました。茲に御紹介します。

 今般貴院を代表し御懇篤なる御激励の辞を賜はり誠に感激に堪へず。
 小官硫黄島の国防長官的重要性に鑑み麾下将兵と共に有ゆる困難に打克ち之を真森抜かんことを期しつつあるも今回親しく閣下の御激励の辞に接し更に決意を新にして醜敵撃摧に邁進し以て君国を安んぜんことを期す。
 今や数十の敵艦は本島周辺より昼夜巨弾を飛ばし敵機数百亦空を掩うて終日我に肉薄し戦況は刻々凄愴苛烈怒鳴るも、麾下将兵は益々毅然都市敢闘し只管皇國護持の大任を果さんことを思ひ陣頭に散り行く者も亦七生報国を誓ひて其の意気益々昂じ幸に御安心を乞ふ。
 茲に御激励に対し深厚なる感謝の意を表しつつ麾下将兵の意気と決意を伝達申上ぐ。
    最高指揮官 栗林 中将

 〔拍手起る〕
◯議長 (御方忠彦君)  諸君の議席に付ては必要なる部分に限り変更致しました。

 

 内閣総理大臣陸軍大臣海軍大臣及び内務大臣より発言の通告があります――内閣総理大臣小磯国昭君。

 一 国務大臣の演説に関する件
 国務大臣の演説
  〔国務大臣小磯国昭君登壇〕
◯私は茲に今回帝国政府の仏領インドに対し執りたる措置に関し説明致しますと共に、戦局の推移と之に処する政府の所信とを披瀝致したいと存じます。
 先づ帝国政府の仏領インド支那に対し執りたる措置に付き説明致します。由来インド支那は其の地勢上、東亜の静謐及び帝国の安全に重大なる関係を有することは申すまでもない所でありまして、昭和十五年八月日仏両国間の諒解に基き北部仏印皇軍の進駐が行はれ、次いで昭和十六年七月末に至り、日仏印両国政府は当時の緊迫せる国際情勢を考慮しインド支那の安全が脅威せらるることは、東亜に於ける一般的静謐を害し、又帝国の安全が危険に曝さるる所以たるを認め、茲に日仏両国政府はインド支那共同防衛の為め、軍事上協力をなすことと相成つたのであります。爾来大東亜戦争の勃発、皇軍の南方諸地域に対する進撃等東亜の情勢に大なる変革が起つたのでありましたが、帝国はヴィシー政府との約定を尊重し客年八月仏本国に於きまして、軍事上政治上の情勢が急変致し、仏本国政府が北仏僻遠の地に、又次いでドイツ国内に転移するに至りましたにも拘らず、我が方は依然としてインド支那に於ける仏側官憲及び軍隊と協力し、同地方の共同防衛に當つて参つたことは御承知の通り

 

であります。
 然るに仏印当局は情勢の変転に伴ひまして、次第に其の態度を変更するに至つたのであります。即ちペタン政府は既に消滅せるものとなし、現地の内政問題に付てペタン的色彩を払拭し、ド·ゴールの施策に同調圧力するに努め来りましたことは暫く措くとするも、帝国との関係に付きましては、表面依然として有効的協力を標榜しつつも、裏面に於ては漸次消極的不協力の態度を執るに至り、殊に根本的問題としては、彼らは一刻も早く米英勢力が再び東亜を制圧せんことを祈念し、且つ本国に於ける反枢軸分子と密かに連携を試みて居ることが確実と相成つたことであります。翻つて東亜の戦局を見まするに、敵米英はスデニインド◯◯に対し屢次攻撃を加へ来つて居り、何時同地に対する本格的侵寇の段階に突入するやも図り難き最も緊迫せる情勢に立至つて居ることは、贅言を要せざる所であります。
 帝国と致しましては以上の如き仏印官憲の動向と、軍事情勢の緊迫化に鑑み、現地帝国代表をして屢々仏印官憲に対し、共同防衛の実効を期するに必要なる措置に付き交渉協議せしめたのでありますが、仏印側は何等の誠意を示さず、消極的抵抗を試みるに過ぎなかつたのであります。仍て帝国政府に於きましては事態是れ以上の遷延を許さずと認め、三月九日在仏印松本大使をしてドクー総督に対し最後的反省を求むると共に、インド◯◯共同防衛に対する協力強化に関し所要の具体的措置を要請せしめましたる所、仏印当局は辞を設けて遂に之を拒否したのであります。事茲に至りましては帝国

 

と致しまして目前に迫る敵に対し単独にインド支那を防衛するの已むなきに至り、皇軍は我れに敵対する官憲を排除する為め、軍事上必要なる最小限度の措置を講ずることと相成つたのであります。併しながら帝国図書館致しましては安南国、カンボヂヤ国及びルアンプラバン国等、固有の制度を尊重して行くべきことは勿論でありまして、米英の東亜侵寇に対し其の郷土を防衛せんとするインド支那住民に対しましては、凡ゆる支援を惜しまざるべきは勿論、相共に協力して以て米英等の攻撃に対し、インド支那防衛の完璧を期せんとするものであります。而して帝国と致しましてはインド支那に対し何等領土的企図を包蔵して居らぬことは申すまでもなく、寧ろ差当り以上の如き暫定的の措置を執ると共に、大東亜共同宣言をインド支那に於て具現せんとする固き決意を有するもので在ります (拍手) 斯くの如くしてインド支那に於ける侵略的勢力が排除せられまする上は、インド支那が其の本然の姿に還るべきは当然であり、久しきに亘り弾圧せられ来つた安南其の他の民族的独立の要望が、澎湃として擡頭するに至るべきは自然の勢ひでありまして、帝国と致しましては彼等の要望達成に対し全面的に支援せんとするものであります。尚ほフランスがインド支那の一部として統治し来つた広州湾に付きましても、是亦侵略勢力の排除せられました結果、本然の姿に還し、国民政府に於て自主的に其の行政を回収する場合には、帝国政府として之に同意するの用意を有して居るのであります。前述の経緯に付きましては既に帝国政府の声明とし

 

て発表した次第であります。
 扠て次に現下に於ける戦局でありますが、御承知の如く極めて重大であります。曩には敵機伊勢の神域を穢し、今回または宮城の一角を侵すの不逞を敢てせる等、敵は神人共に許さざるの行為を重ねて居るのでありまして、真に痛憤措く能はざると共に洵に恐懼にに堪へざる次第であります。敵の侵寇は日と共に熾烈を加へ、ルソン島に、硫黄島に凡ゆる損害を顧みず、只管膨大なる物量を恃み猪突猛進して来て居ります。併さながら皇國防衛の大義に生きる皇軍将兵は、目を覆う弾幕をもものともせず、凡ゆる困難なる状況下に毅然として堅壘を固守し、軒昂たる必勝の意気に燃え、力戦敢闘、奮迅の必殺猛攻を続けつつ敵に甚大な損害を与えて居るのであります。私は諸君と共に前線将兵が、斯くも見事に国体護持の精神気魄に徹して居りますことに対し唯々頭を垂れ、心からなる感謝の誠を捧げるものであります(拍手)
 斯くの如くルソン島硫黄島に於ては激烈なる戦闘が継続せられつつあるのでありますが、一方マリアナ諸島の敵は、逐次航空兵力を増強し、為に我が本土に対する敵の空襲は、最近頓に激化して参りました。加之敵機動部隊は我が近海に出没し、艦載機を以てする本土攻撃亦漸く軽視を許さざる状況に立至つて居ります。殊に暴虐飽くなき敵は屢々無辜の同胞を殺生し、民家、学校、病院等を破壊したのでありまして、私は敵の此の暴挙に対し憤激の念を禁じ得ざると共に、罹災者に対しては深甚なる同情を表するものであります。政府と致しましては罹災者の保護救済に関し、是までとても能ふ

 

限りの努力を傾けて居るのでありますが、更に一層是が迅速的確を期せんとするものであります。戦局の前途は固より軽々に予断すべきではありませぬ。併しながら飽くまでも物量の優勢を恃み、奔放の侵攻を続けて来ました敵従来の作戦指導より考へますれば、戦争の短期集結を焦慮する敵は、或は近き将来に於て、直路我が本土を目指して妄進し来るが如き事態の発生をも当然覚悟して置かなければなりませぬ。即ち本土戦場を覚悟せねばならぬのであります。敵は比島、硫黄島に於て経験いたしました我が皇軍将兵の精鋭の前に、懸軍万里塁戦積憊の余勢を以て、果して何を企図せんとするのでありませうか。若し夫れ皇土の戦場化するあらば、敵をして又起つ能はざらしむるの神機は正に此の秋に存するものと信ずるのであります。さればとて私は決して本土上陸を既定事実とするまのではありませぬ。太平洋諸島の上陸作戦に於て、絶対優勢なる兵力を擁しながらも、如何に苦難の途を歩んで来たかは敵米国自らが能く体験した筈で有ります。殊に況んや敵が長途本土侵寇を目指し、如何に兵員物量の輸送に努むとも、本土に於ける我が決戦準備は儼として完整し、断じて敵の窺窬を許さぬのであります。而も敵にして我が近海に来らば海上にて之を撃滅するのみであります。敵上陸を企図せば之を水際に於て海中に叩き落すのみであります。又若し敵にして遂に上陸し来ることあらば、我は鉄槌下の俎上に之を殲滅するのみであります。加之敵を邀ふる戦場は悉く是れ我が郷土たるの地の利と、一面軍と協同して防衛に当るもの、悉く是れ我が一億同胞たるの

 

人の和があります。
 更に況や老となく、幼となく、一億は悉く兵農一本の国是に生き、真に国の総力を挙げ、圧倒的優勢を以て戦争に従事し得るの利益を存分に発揮し得べきのみならず、皇軍伝統の統帥の妙用と我が将兵の皇国護持の闘魂とに顧みますれば、私は来るべき本土周辺の作戦様相を按じ、断じて醜虜をして足を神州に止めしめず、必ず之を殲滅し得ることを確信して疑はぬものであります。併しながら来らざるを恃むことなく、待つあるを恃むは由来兵家の要諦であります。敵が本土に侵寇し来り、我が墳墓の地が暫く戦場と化することがあるとしましても、我に鉄桶の備へあり、否之を作戦用兵の観点よりすれば、斯くして陸海一体、構想に富める作戦を果敢に発揮し得べきこと、正に掌を指すが如きものであり、茲に決戦の神機を握り得るものと確信するのであります。
 政府に於きましても是等非常の事態を想定し、皇軍の作戦に呼応しつつ統帥との完全なる吻合の下に断乎敵を撃滅すべき各般の決戦措置に、周到万全を期して居るのでありまして、従来の行掛り等は総て之を一掃し、国力の総てを挙げて之を勝利の一点に凝集すべく、其の施策は最も迅速に且つ極めて大胆に之を断行する決意を茲に表明するものであります。即ち皇軍の戦力を維持増強すべき軍需聖餐の確保を図り、食料増産の画期的措置を講ずると共に、敵の攻撃が今後如何に熾烈を極むるとも断じて屈することなく、本土決戦、国内戦場化体制確立の為め、凡そ執り得べき凡ゆる施策に邁進する覚悟であります。

 

 この秋に方り一億同胞亦愈々覚悟を新たにし、必勝の信念を固くし、今後如何なる困難に遭遇するとも敢然之に堪ヘ、奮然として蹶起し、職場に、防衛に、輸送に、国民悉く戦列に就き、断じて我が国体と我が国土とを護り抜かんことを要望するものであります。
 抑々大東亜戦争の由つて来る原因は、東亜の安定と世界の平和を顧念し、禍を未然に防がんと努め来りたる帝国の公正なる道義的意図に対し、飽くまでも東亜を永遠に彼等の搾取に委せんとする敵米英の東洋制覇の野望にあることは、宣戦の大詔にも炳として昭かであります。此の真に不倶戴天の敵に対しては如何なる譲歩も、妥協も、何ら其の余地なく、彼を撃滅せざれば帝国の存立はあり得ないのでありまして、征戦の完遂は絶対であります。
 大東亜諸国家、諸民族、亦暴虐なる敵の侵寇に対し、東亜の保衛と興隆の為め、帝国と手を携へて挺身奮闘しつつあるのでありまして、我々は第東亜諸国家、諸民族の此の献身的努力と奮闘とに対し、衷心より敬意を表するものであります。
 而して帝国が大東亜諸国家、諸民族と共に戦ひ取らんとするものは、実に大東亜共同宣言の五元則に表明せられたる道義理念の実践具現に他ならぬのでありまして、是は戦局の変転に拘はらず、帝国の終始一貫して変らざる根本方針なること是亦申すまでもありませぬ。私は大東亜諸国家、諸民族が、戦火の中にも毅然として屈することなく、一致結束、其の総力を挙げて断乎共同の戦争目的完遂に邁進し、東亜をして栄光に満てる自主独立の本然の姿に復

 

興せしむる日の、一日も速かならんことを記念して已まぬのであります。私は大東亜諸国家、諸民族の今後の健闘を切に希望すると共に、帝国としてなし得る限りの支援協力は将来共に之を惜まざる覚悟であります。
 斯くして堅確なる必勝態勢の下、挙国一体戦勝獲得に向つて勇往邁進する所、最後の勝利は断じて我にあること一点の疑ひもありませぬ。敵米英が如何に物量を誇るとも、物量を超えて戦争を勝利に導くものは実に国体護持の精神であり、必勝の気魄であると申さねばなりませぬ。されば私は諸君と共に愈々決戦に対する万般の準備を整へ、数千年伝統の底力を発揮し、誓つて戦争目的を完遂し、以て宸襟を安んじ奉りたいと存じます(拍手)

 

帝国議会会議録検索システム 第 86 回帝国議会 衆議院 本会議 第 10 号 昭和 20 年 3 月 11 日