昭和12年10月
東亜局第3課
【秘】
[中略]
(ハ)便衣隊の潜入
今次事変勃発以来、支那方面より便衣隊潜入し、流言を放ち治安攪乱を図りたる証跡あり、その事例二、三を挙ぐれば左のごとし。
(1) 国府軍事委員会副委員長、馮玉祥は蒋介石と協議し、北支事変の内容を逆宣伝するととも日本軍事輸送を探査·即報せしめ、対日作戦の万全を期するため、蒋介石直属部隊たる特務隊員40名を密派せりとの報道あり。
(2) 元馬占山部下として昭和7年9月、昂々渓地方を襲劇せる匪首李海青は、その後、支那方面に逃走し居りたるが、今回、南京政府においては、北支における日支関係悪化にともなひ、前記李海青を反満抗日連合軍第1軍師長に特任し、莫大の軍資金を携行せしめ、満洲国内に現存する旧部下を糾合し、もつて満洲国内における治安攪乱を断行せしむべく企図しつつありとの報道あり。
(3) 8月9日、10日の2日間にわたり建昌県東北方、建平県西方、朝陽県西方3県界における地方一帯において、南京政府より派遣せられたるものと思料せらるる6名の便衣満人は、各部落ごとに住民を集合せしめ、「自分らは某方面より公務のため派遣せられたるものなるが、これ以上、日支事変が拡大したるときは、自分らの計画に基づき行動をともにしてほしい。またその節は銃器を貸与し、相当の金銭も支払へる。云々」と遊説して、集合満に対し1名10銭づつ給與し居れりとの報道あり。
(4) 9月12日、承徳駅構内軍需品集積所付近に挙動不審者徘徊し居る旨の密告に接したる警務統制委員会においては、直ちにこれを逮捕したるが、同人は宋哲元の密命による便衣諜報謀略者の一員として、同志10名とともに8月1日入満、苦力を装ひ承徳駅付近における日満両両軍の動態調査、ならびに飛行場付近を徘徊して空軍の状況調査に努むる傍ら、駅構内における軍需品集積所に放火し、後方を攪乱すべく機を窺ひ居りたるもののごとし。
昭和十二年十月
支那事變ト滿洲國
東亞局第三課
【秘】
(ハ)便衣隊ノ濳入
今次事變勃發以來 支那方面ヨリ便衣隊濳入シ 流言ヲ放チ治安攪亂ヲ圖リタル證跡アリ ソノ事例二、三ヲ擧グレバ左ノ如シ
(一) 國府軍事委員會副委員長 馮玉祥ハ蔣介石ト協議シ 北支事變ノ内
容ヲ逆宣傳スルト共ニ日本軍事輸送ヲ探査卽報セシメ 對日作戰ノ萬全ヲ期スル爲 蔣介石直屬部隊タル特務隊員四十名ヲ密派セリトノ報道アリ
(二) 元馬占山部下トシテ昭和七年九月 昂々溪地方ヲ襲擊セル匪首 李海靑ハ 其後支那方面二逃走シ居タルガ 今囘 南京政府ニ於テハ 北支ニ於ケル日支關係悪化ニ伴ヒ 前記李海靑ヲ反滿抗日聯合軍第一軍師長ニ特任シ 莫大ノ軍資金ヲ携行セシメ 滿洲國内ニ現存スル舊部下ヲ糾合シ 以テ滿洲國内ニ於ケル治安攪亂ヲ斷行セシムベク企圖シツツアリトノ報道アリ
(三) 八月九日、十日ノ二日間ニ亘リ建昌縣東北方 建平縣西方 朝陽縣西方 三縣界ニ於ケル地方一帶ニ於テ 南京政府ヨリ派遣セラレタルモノト思料セラルル六名ノ便衣滿人ハ 各部落每ニ住民ヲ集合セシメ 「自分等ハ某方面ヨリ公務ノ爲メ派遣セラレタルモノナルカ 之以上日支事變ガ擴大シタル時ハ自分等ノ計畫ニ基キ行動
ヲ共ニシテ欲シイ 又 其ノ節ハ銃器ヲ貸與シ 相當ノ金銭モ支拂ヘル 云々」ト遊說シテ 集合滿人ニ對シ一名十錢ヅツ給與シ居レリトノ報道アリ
(四) 九月十二日 承德驛構内軍需品集積所附近ニ擧動不審者徘徊シ居ル旨ノ密告ニ接シタル警務統制委員會ニ於テハ 直ニ之ヲ逮捕シタルガ 同人ハ宋哲元ノ密命ニ依ル便衣諜報謀略者ノ一員トシテ 同志十名ト共ニ八月一日入滿 苦力ヲ裝ヒ承德驛附近ニ於ケル日滿兩軍ノ動態調査 竝ニ飛行場附近ヲ徘徊シテ空軍ノ狀況調査ニ努ムル傍ラ驛構内ニ於ケル軍需品集積所ニ放火シ後方ヲ攪亂スベク機ヲ窺ヒ居リタルモノノ如シ
↑戦前期外務省記録 支那事変関係一件 第二十巻
6.支那事変ト満洲国
https://www.jacar.archives.go.jp/das/image/B02030561900